「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・遭魔伝 4
神様たちの話、第8話。
対策と教育。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
フレンと、彼からもらった羊毛と共にゲートの家に戻るなり、ゼロは台所に向かう。
「あ、できてるできてる」
ゼロは楽しそうに、昼間煮詰めていたものを木枠からぺら、ぺらと取り出す。
「これが紙?」
「そう。うまく行ったから、多めに作れるよう準備しないとね。
あ、そうそう。筆も作らないと。手伝ってもらってもいいかな?」
「アンタの頼みだし、断るつもりは無いが」
そう前置きし、フレンは腹に手を当てる。
「腹減った。先にメシ食いたい」
「同感」
ゲートにもそう告げられ、ゼロも同様に、腹に手を当てる。
「そう言えば、僕もお腹空いてた。じゃ、先にご飯食べようか」
フレンが持ってきた羊肉のおかげで、その日の夕食は豪華なものになった。
「はぐはぐ……、いやー、こんだけ肉食ったのは久々だなぁ」
「ゼロにゃ命を助けてもらったんだ、こんくらいしなきゃ吊り合わないぜ」
「別にいいのに……。
っと、そうだった。今のうちに、対策を考えておこうか」
ゼロは肉を刺していた串を使い、テーブルに図を描く。
「僕の認識だと、ここと周りの街ってこんな位置関係なんだけど、合ってるかな」
「って言われても、良く分からん」
「この交差点の真ん中がここ、クロスセントラル。で、僕から見て右の方に行くと、イーストフィールド。こんな感じだよね」
「あー、なるほど。ああ、大体そんな感じだ」
「で、イーストフィールドで20日以上前に化物を見かけたって話だったよね」
尋ねられ、フレンはこくこくとうなずく。
「ああ、そうだ」
「そこから西にずーっと行って、6日前にこの近くでも見かけた、と」
「ああ」
「こことイーストフィールドって、どれくらい離れてるの?」
「徒歩だと5日か6日かかる」
「ふむふむ、……単純計算したら人間より大分遅いなぁ。まあ、一直線に来るってわけじゃないか。
でも、まあ、それなら対策する時間はたっぷりあるかな」
「対策?」
まだ串にかぶりついていたゲートに尋ねられ、ゼロはにこっと笑って返した。
「あんなのが大勢来たら、魔術抜きじゃとても勝ち目は無い。少しでも使える人を増やしておかなきゃ」
翌日、ゼロはゲートを手伝わせ、筆と紙を大量に造り始めた。
「なあ、ゼロ」
「ん?」
しかしゲートは納得がいかず、ゼロにこう尋ねる。
「なんで俺まで手伝わなきゃ行けないんだよ」
「人手が足りないから」
「そんなに作るつもりなのか?」
「できる限りね」
「でもさ、お前こないだ、『魔術は素質がある奴しか使えない』みたいなこと言ってなかったか?」
「うん、言ったよ」
ゼロは鍋をかまどから上げつつ、こう返す。
「だからできるだけ多くの人に試してもらわないと。見た目や性格だけじゃ、その人が使える人なのかどうかって分かんないし」
「ああ、なるほどな。……俺はどうなのかなぁ」
「うーん」
ざるに鍋の中身を移しながら、ゼロはぼそ、とつぶやいた。
「ホウオウなら見ただけで分かるんだけど、僕にはそんなことできないからなぁ」
「ほう、……何だって?」
「僕の友達の名前。見ただけでその人の魔力がどのくらいあるのか分かる、すごい奴だよ。
実は攻撃魔術の大半は、ホウオウから教えてもらったんだ。多分だけど、あいつと勝負したら8割方、僕が負けるだろうな」
「そんなに強いのか? じゃあさ、そいつに助っ人に来てもらえば……」
「あー、無理無理」
鍋の中身が空になったところで、ゼロはまた鍋に水を入れる。
「あいつ、今すごく大変なことをしてるところだから。そりゃ、僕だって助けてほしいけど」
「大変なことって?」
「一言で言うと、世界を支えてるところなんだ」
「は?」
「いや、なんでも。……じゃあ僕の生徒第一号になってみる、ゲート?」
ゼロは嬉しそうな笑みを浮かべながら、ゲートに筆と紙、そして木炭の粉と膠(にかわ)で作った墨を手渡す。
「ええと、まず、何から言おうかなぁ」
鍋が煮詰まるまでの間、ゲートはゼロから魔術の講義を聞くことになった。
「あー、と」
が、始まる直前にゲートが手を挙げる。
「ん、何?」
「これ、どうすりゃいいんだ?」
「僕が言った内容を書けばいいじゃないか」
「書くって、……んん、まあ、うん」
ゲートが逡巡したのを見て、ゼロははっとした表情を浮かべる。
「えーと、……今更だけど、僕、この辺りの文字って知らないんだよなぁ」
「もじ? ……って?」
「……そっか、そこからか」
ゼロは自分でも筆を取り、紙にいくつか絵のようなものを書きつける。
「じゃあ、まず、第一。文字を教える。魔術はその後」
「おう」
こうしてゼロの最初の授業は、人に文字と数字を教えることから始まった。
琥珀暁・遭魔伝 終
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フレンと、彼からもらった羊毛と共にゲートの家に戻るなり、ゼロは台所に向かう。
「あ、できてるできてる」
ゼロは楽しそうに、昼間煮詰めていたものを木枠からぺら、ぺらと取り出す。
「これが紙?」
「そう。うまく行ったから、多めに作れるよう準備しないとね。
あ、そうそう。筆も作らないと。手伝ってもらってもいいかな?」
「アンタの頼みだし、断るつもりは無いが」
そう前置きし、フレンは腹に手を当てる。
「腹減った。先にメシ食いたい」
「同感」
ゲートにもそう告げられ、ゼロも同様に、腹に手を当てる。
「そう言えば、僕もお腹空いてた。じゃ、先にご飯食べようか」
フレンが持ってきた羊肉のおかげで、その日の夕食は豪華なものになった。
「はぐはぐ……、いやー、こんだけ肉食ったのは久々だなぁ」
「ゼロにゃ命を助けてもらったんだ、こんくらいしなきゃ吊り合わないぜ」
「別にいいのに……。
っと、そうだった。今のうちに、対策を考えておこうか」
ゼロは肉を刺していた串を使い、テーブルに図を描く。
「僕の認識だと、ここと周りの街ってこんな位置関係なんだけど、合ってるかな」
「って言われても、良く分からん」
「この交差点の真ん中がここ、クロスセントラル。で、僕から見て右の方に行くと、イーストフィールド。こんな感じだよね」
「あー、なるほど。ああ、大体そんな感じだ」
「で、イーストフィールドで20日以上前に化物を見かけたって話だったよね」
尋ねられ、フレンはこくこくとうなずく。
「ああ、そうだ」
「そこから西にずーっと行って、6日前にこの近くでも見かけた、と」
「ああ」
「こことイーストフィールドって、どれくらい離れてるの?」
「徒歩だと5日か6日かかる」
「ふむふむ、……単純計算したら人間より大分遅いなぁ。まあ、一直線に来るってわけじゃないか。
でも、まあ、それなら対策する時間はたっぷりあるかな」
「対策?」
まだ串にかぶりついていたゲートに尋ねられ、ゼロはにこっと笑って返した。
「あんなのが大勢来たら、魔術抜きじゃとても勝ち目は無い。少しでも使える人を増やしておかなきゃ」
翌日、ゼロはゲートを手伝わせ、筆と紙を大量に造り始めた。
「なあ、ゼロ」
「ん?」
しかしゲートは納得がいかず、ゼロにこう尋ねる。
「なんで俺まで手伝わなきゃ行けないんだよ」
「人手が足りないから」
「そんなに作るつもりなのか?」
「できる限りね」
「でもさ、お前こないだ、『魔術は素質がある奴しか使えない』みたいなこと言ってなかったか?」
「うん、言ったよ」
ゼロは鍋をかまどから上げつつ、こう返す。
「だからできるだけ多くの人に試してもらわないと。見た目や性格だけじゃ、その人が使える人なのかどうかって分かんないし」
「ああ、なるほどな。……俺はどうなのかなぁ」
「うーん」
ざるに鍋の中身を移しながら、ゼロはぼそ、とつぶやいた。
「ホウオウなら見ただけで分かるんだけど、僕にはそんなことできないからなぁ」
「ほう、……何だって?」
「僕の友達の名前。見ただけでその人の魔力がどのくらいあるのか分かる、すごい奴だよ。
実は攻撃魔術の大半は、ホウオウから教えてもらったんだ。多分だけど、あいつと勝負したら8割方、僕が負けるだろうな」
「そんなに強いのか? じゃあさ、そいつに助っ人に来てもらえば……」
「あー、無理無理」
鍋の中身が空になったところで、ゼロはまた鍋に水を入れる。
「あいつ、今すごく大変なことをしてるところだから。そりゃ、僕だって助けてほしいけど」
「大変なことって?」
「一言で言うと、世界を支えてるところなんだ」
「は?」
「いや、なんでも。……じゃあ僕の生徒第一号になってみる、ゲート?」
ゼロは嬉しそうな笑みを浮かべながら、ゲートに筆と紙、そして木炭の粉と膠(にかわ)で作った墨を手渡す。
「ええと、まず、何から言おうかなぁ」
鍋が煮詰まるまでの間、ゲートはゼロから魔術の講義を聞くことになった。
「あー、と」
が、始まる直前にゲートが手を挙げる。
「ん、何?」
「これ、どうすりゃいいんだ?」
「僕が言った内容を書けばいいじゃないか」
「書くって、……んん、まあ、うん」
ゲートが逡巡したのを見て、ゼロははっとした表情を浮かべる。
「えーと、……今更だけど、僕、この辺りの文字って知らないんだよなぁ」
「もじ? ……って?」
「……そっか、そこからか」
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