「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・魔授伝 2
神様たちの話、第10話。
天文学と時間。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「まあ、元々ある程度は準備してたんだよね」
そう前置きしつつ、ゼロはシノンを連れて近所の丘に向かっていた。
「僕がこの村に来た時くらいから、星の動きとか月の動きとか、できるだけ観測してたんだ」
「カンソク?」
「どんな風に動いてたか、詳しく眺めてたってこと。
それでね、星の動きと言うか、公転軌道は少しずつ、日によってずれていくんだ。一番分かりやすいのは、月だね」
「ん、……うーん?」
「今日と明日で、月が空に浮かんでる位置がちょっとだけずれてるってことさ。
で、このずれもある一定の周期がある。ある程度時間が経てば、元の位置に戻ってくるんだ」
「へー、そなの?」
明らかに要領を得なさそうな様子のシノンに、ゼロは昼の空に浮かぶ赤い月を指差した。
「例えばあっちの月は、およそ28日で元の位置に戻る。もういっこの白い方は、およそ26日で戻ってくるんだ。
で、まず考えたのが、赤い月の方を『1ヶ月』と言う単位として定めようかなって」
「いっかげつ?」
「そう、月が一周してくる期間。月ひとつ単位ってこと。まあ、後々もうちょっと細かく観測して、一ヶ月を何日にするか考えることにするけどね」
「ふーん……」
話が難しくなってきたためか、シノンはつまらなそうに返事をする。
それに構わず、ゼロは話を続ける。
「で、太陽の軌道も日が経つにつれて、少しずつずれてきてるんだ。
僕が村に来て100日近く経ってるんだけど、軌道全体がずっと南寄りになってきてて、それにつれて日照時間、つまり一日のうちで明るい時間帯も短くなってきてる。
それでね、ちょっと計算してみたら、面白いことになりそうなんだ」
「なになに?」
面白い、と聞いてシノンの顔がほころぶ。
しかし次の説明を聞くうちに、またつまらなそうな顔になる。
「月が両方とも満月になる頃に、太陽の位置も一番南に来そうなんだ。面白い偶然だろ?」
「……そーだね」
「でね、こうしようかなって思ってることがあるんだけど」「ねーえ、ゼロぉ」
飽き飽きと言いたげな顔をして、シノンが話をさえぎった。
「まだその話、続くの? つまんないよー」
「……そっか、ごめん」
ゼロは肩をすくめ、話題を変えた。
「そうだ、前から聞こうと思ってたんだけど」
「なーに?」
「シノンって、一人で暮らしてるの?」
「うん」
「お父さんとかお母さんは?」
「いないよ」
「そうなの?」
と、シノンは表情を曇らせる。
「ずっと昔に死んじゃった。おばーちゃんがまだ生きてた頃に教えてくれたんだけど、バケモノに食われちゃったんだって」
「あ、……ごめん、本当」
「いいよ」
気まずい空気になり、ゼロはそれ以上、自分から何も言わなくなってしまった。
丘の上に着き、ようやくゼロが口を開いた。
「えーとね、何しようかって言うとね」
「うん」
朝と打って変わって憂鬱そうな表情を浮かべているシノンに、ゼロは恐る恐ると言った様子で説明し始めた。
「ここから村が見渡せるよね」
「見渡せるね」
「で、太陽が僕たちの後ろにある。と言うことは僕たちの前側、つまり村の方に向かって影が伸びるわけだ」
「そうだね」
「そこで、ここに長い棒か何かがあれば、村に影が差す。その位置で、時間を決めようかって」
「ふーん」
明らかにつまらなさそうに返事するシノンに、ゼロの歯切れも悪くなる。
「あー、と、……まあ、ここまで一緒に来てくれたからさ、お礼するよ」
「お礼? なになに?」
尋ねてきたシノンに、ゼロはこんな提案をした。
「そろそろ魔術をみんなに教えようと思ってたんだけど、一番先に、君に教えてあげる。僕の授業で一番成績がいいのは、君だし。もしかしたらすんなり使えるかも知れない」
「マジュツって、ゼロが水を引っ張り上げたり、人を放り投げたりしてたヤツのことだよね? あれちょっと、やってみたかったんだー」
「期待に添えると良いんだけどね。……っと、この辺りが丁度いいかな」
村全体を見下ろせる位置で立ち止まり、ゼロは辺りをきょろきょろと見回す。
「手頃なのは、……んー、無さそうだな」
「そだね」
「じゃ、作るか。シノン、僕の後ろにいて」
「はーい」
シノンが自分の背後に回ったところで、ゼロはぶつぶつと唱え始めた。
「……『グレイブピラー』!」
途端に地面がごそっと盛り上がり、ゼロの背丈の3、4倍ほどの石柱がゼロたちの前方、村の方に向かって伸びていく。
「お~、すっごーい」
「はは、どうも。……よし、いい感じ」
村の方にできた影を眺め、ゼロは満足気にうなずいた。
「ここで数日観測したら村の皆と相談して、あの影がどこら辺に差したら何時だ、って決めることにしよう。
さて、シノン。約束通り、魔術を教えてあげるよ」
@au_ringさんをフォロー
天文学と時間。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「まあ、元々ある程度は準備してたんだよね」
そう前置きしつつ、ゼロはシノンを連れて近所の丘に向かっていた。
「僕がこの村に来た時くらいから、星の動きとか月の動きとか、できるだけ観測してたんだ」
「カンソク?」
「どんな風に動いてたか、詳しく眺めてたってこと。
それでね、星の動きと言うか、公転軌道は少しずつ、日によってずれていくんだ。一番分かりやすいのは、月だね」
「ん、……うーん?」
「今日と明日で、月が空に浮かんでる位置がちょっとだけずれてるってことさ。
で、このずれもある一定の周期がある。ある程度時間が経てば、元の位置に戻ってくるんだ」
「へー、そなの?」
明らかに要領を得なさそうな様子のシノンに、ゼロは昼の空に浮かぶ赤い月を指差した。
「例えばあっちの月は、およそ28日で元の位置に戻る。もういっこの白い方は、およそ26日で戻ってくるんだ。
で、まず考えたのが、赤い月の方を『1ヶ月』と言う単位として定めようかなって」
「いっかげつ?」
「そう、月が一周してくる期間。月ひとつ単位ってこと。まあ、後々もうちょっと細かく観測して、一ヶ月を何日にするか考えることにするけどね」
「ふーん……」
話が難しくなってきたためか、シノンはつまらなそうに返事をする。
それに構わず、ゼロは話を続ける。
「で、太陽の軌道も日が経つにつれて、少しずつずれてきてるんだ。
僕が村に来て100日近く経ってるんだけど、軌道全体がずっと南寄りになってきてて、それにつれて日照時間、つまり一日のうちで明るい時間帯も短くなってきてる。
それでね、ちょっと計算してみたら、面白いことになりそうなんだ」
「なになに?」
面白い、と聞いてシノンの顔がほころぶ。
しかし次の説明を聞くうちに、またつまらなそうな顔になる。
「月が両方とも満月になる頃に、太陽の位置も一番南に来そうなんだ。面白い偶然だろ?」
「……そーだね」
「でね、こうしようかなって思ってることがあるんだけど」「ねーえ、ゼロぉ」
飽き飽きと言いたげな顔をして、シノンが話をさえぎった。
「まだその話、続くの? つまんないよー」
「……そっか、ごめん」
ゼロは肩をすくめ、話題を変えた。
「そうだ、前から聞こうと思ってたんだけど」
「なーに?」
「シノンって、一人で暮らしてるの?」
「うん」
「お父さんとかお母さんは?」
「いないよ」
「そうなの?」
と、シノンは表情を曇らせる。
「ずっと昔に死んじゃった。おばーちゃんがまだ生きてた頃に教えてくれたんだけど、バケモノに食われちゃったんだって」
「あ、……ごめん、本当」
「いいよ」
気まずい空気になり、ゼロはそれ以上、自分から何も言わなくなってしまった。
丘の上に着き、ようやくゼロが口を開いた。
「えーとね、何しようかって言うとね」
「うん」
朝と打って変わって憂鬱そうな表情を浮かべているシノンに、ゼロは恐る恐ると言った様子で説明し始めた。
「ここから村が見渡せるよね」
「見渡せるね」
「で、太陽が僕たちの後ろにある。と言うことは僕たちの前側、つまり村の方に向かって影が伸びるわけだ」
「そうだね」
「そこで、ここに長い棒か何かがあれば、村に影が差す。その位置で、時間を決めようかって」
「ふーん」
明らかにつまらなさそうに返事するシノンに、ゼロの歯切れも悪くなる。
「あー、と、……まあ、ここまで一緒に来てくれたからさ、お礼するよ」
「お礼? なになに?」
尋ねてきたシノンに、ゼロはこんな提案をした。
「そろそろ魔術をみんなに教えようと思ってたんだけど、一番先に、君に教えてあげる。僕の授業で一番成績がいいのは、君だし。もしかしたらすんなり使えるかも知れない」
「マジュツって、ゼロが水を引っ張り上げたり、人を放り投げたりしてたヤツのことだよね? あれちょっと、やってみたかったんだー」
「期待に添えると良いんだけどね。……っと、この辺りが丁度いいかな」
村全体を見下ろせる位置で立ち止まり、ゼロは辺りをきょろきょろと見回す。
「手頃なのは、……んー、無さそうだな」
「そだね」
「じゃ、作るか。シノン、僕の後ろにいて」
「はーい」
シノンが自分の背後に回ったところで、ゼロはぶつぶつと唱え始めた。
「……『グレイブピラー』!」
途端に地面がごそっと盛り上がり、ゼロの背丈の3、4倍ほどの石柱がゼロたちの前方、村の方に向かって伸びていく。
「お~、すっごーい」
「はは、どうも。……よし、いい感じ」
村の方にできた影を眺め、ゼロは満足気にうなずいた。
「ここで数日観測したら村の皆と相談して、あの影がどこら辺に差したら何時だ、って決めることにしよう。
さて、シノン。約束通り、魔術を教えてあげるよ」
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.07.15 修正
2016.07.15 修正



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
ご指摘ありがとうございます。
修正します。