「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・魔授伝 3
神様たちの話、第11話。
最初の生徒。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
場所を木陰に移し、ゼロは懐から何かを取り出した。
「なにそれ? ピカピカしてる」
尋ねたシノンに、ゼロが言葉を選ぶように、ゆっくりと答える。
「これは友達からもらった、『黄金の目録』って言う、……えーと、何て言ったらいいかな、ほら、授業で僕が皆に使わせてる紙があるよね」
「うん」
「あれがものすごく一杯束ねられたやつ、って思ってもらえば」
「ふーん」
「……っと、これこれ。基礎中の基礎、一番簡単な魔術。いい? 見ててね」
そう言って、ゼロは右手の人差し指を立てる。
と、その指先にぽっ、と火が灯った。
「おわっ」
それを見て、シノンは驚いた声を上げる。
「これ、火?」
「そう。魔力を熱エネルギーに、……あー、と、まあ、火を起こせる術だね。見たまんまだ。
魔術は呪文と魔法陣で組み上げる、一つの『装置』みたいなもんなんだ。流れとしては、呪文や魔法陣を使うことで、何を媒体にして、どれくらい魔力を使って出力するか決定する、って感じになるかな。
今、僕が見せたこの『ポイントファイア』は、僕自身の魔力を原動力とし、僕の指先を媒体として、こうして火として出力させた。その手順を、今から説明するね」
「う、うん」
ゼロの話が理解しきれなかったらしく、シノンの顔に不安そうな色が浮かぶ。
しかし丁寧に魔術の使い方を繰り返し説明され、太陽が二人の頭上に来る頃には、シノンの指先にも火を灯すことができるようになった。
「……不思議。熱くない」
「また今度詳しく説明するけど、呪文には大抵、自分に跳ね返ってこないように保護する構文が加えられてる。熱く感じないのは、そのせいなんだ」
「ふーん……」
自分の指先に灯った火を見つめながら、シノンはこう尋ねた。
「これ、もっと大きくできる?」
「できるよ。さっきの構文の、魔力使用量の辺りをいじれば」
「どれくらい大きくできるの?」
「いくらでも。でも、さっきの構文そのままだと、自分の魔力をガンガン使うことになっちゃうから、そんなに大きくはできない。
もっと大きなものにするには、別の魔力源がいる」
「ゼロが持ってる、そのピカピカした本とか?」
火を灯していない方の手で「目録」を指差され、ゼロはうなずく。
「うん。でも君には使えないかな」
「なんで?」
「1つ、これは僕の友達が僕のために作ってくれたモノだから。僕以外には使えないように設定されてる。
そしてもう1つの理由は」
ゼロは諭すような口調で、こう続けた。
「君は魔術師としてはひよっこ中のひよっこ、まだ卵の中から出て間もない雛だからさ。
いくら便利だからって、子供に刃物や棍棒を持たせたりなんかしないだろ?」
「……そだね」
シノンは素直にうなずくが、こう続ける。
「他にその、魔力源になるものってある?」
「色々。純度の高い石英とか、錫と金とか銀とかを合わせた合金とか。それも近いうち、探さなきゃね」
「どうして?」
「君が思ってることの、延長の話」
「え?」
驚いた顔をしたシノンに、ゼロはいたずらっぽく笑いかけた。
「分かるよ。そんな顔で『もっと強い術はあるの?』って聞いてきたら、そりゃもう丸分かりだ。
君もあのバケモノたちに対抗したい、倒したいと思ってる」
「……うん」
いつの間にか空は曇りだし、ぽつ、ぽつと雨が降り始めていた。
「ありゃ、降ってきちゃったな。しばらくここで、じっとしてようか」
「うん」
「良かったらその間、君の話を聞かせてほしいな」
「……うん。分かった」
大きな木の下にゼロがしゃがみ込み、シノンは彼の懐に入るように、彼の前に背を向けて座り込む。
「おいおい、猫じゃないんだから……」「あのね」
シノンはゼロをさえぎって、自分の過去を、静かに話し始めた。
「あなたがやっつけたバケモノと同じかどうか、分からないけど。
あたしのお母さんとお父さんと、もしかしたら弟か妹も――バケモノに、食べられたの」
@au_ringさんをフォロー
最初の生徒。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
場所を木陰に移し、ゼロは懐から何かを取り出した。
「なにそれ? ピカピカしてる」
尋ねたシノンに、ゼロが言葉を選ぶように、ゆっくりと答える。
「これは友達からもらった、『黄金の目録』って言う、……えーと、何て言ったらいいかな、ほら、授業で僕が皆に使わせてる紙があるよね」
「うん」
「あれがものすごく一杯束ねられたやつ、って思ってもらえば」
「ふーん」
「……っと、これこれ。基礎中の基礎、一番簡単な魔術。いい? 見ててね」
そう言って、ゼロは右手の人差し指を立てる。
と、その指先にぽっ、と火が灯った。
「おわっ」
それを見て、シノンは驚いた声を上げる。
「これ、火?」
「そう。魔力を熱エネルギーに、……あー、と、まあ、火を起こせる術だね。見たまんまだ。
魔術は呪文と魔法陣で組み上げる、一つの『装置』みたいなもんなんだ。流れとしては、呪文や魔法陣を使うことで、何を媒体にして、どれくらい魔力を使って出力するか決定する、って感じになるかな。
今、僕が見せたこの『ポイントファイア』は、僕自身の魔力を原動力とし、僕の指先を媒体として、こうして火として出力させた。その手順を、今から説明するね」
「う、うん」
ゼロの話が理解しきれなかったらしく、シノンの顔に不安そうな色が浮かぶ。
しかし丁寧に魔術の使い方を繰り返し説明され、太陽が二人の頭上に来る頃には、シノンの指先にも火を灯すことができるようになった。
「……不思議。熱くない」
「また今度詳しく説明するけど、呪文には大抵、自分に跳ね返ってこないように保護する構文が加えられてる。熱く感じないのは、そのせいなんだ」
「ふーん……」
自分の指先に灯った火を見つめながら、シノンはこう尋ねた。
「これ、もっと大きくできる?」
「できるよ。さっきの構文の、魔力使用量の辺りをいじれば」
「どれくらい大きくできるの?」
「いくらでも。でも、さっきの構文そのままだと、自分の魔力をガンガン使うことになっちゃうから、そんなに大きくはできない。
もっと大きなものにするには、別の魔力源がいる」
「ゼロが持ってる、そのピカピカした本とか?」
火を灯していない方の手で「目録」を指差され、ゼロはうなずく。
「うん。でも君には使えないかな」
「なんで?」
「1つ、これは僕の友達が僕のために作ってくれたモノだから。僕以外には使えないように設定されてる。
そしてもう1つの理由は」
ゼロは諭すような口調で、こう続けた。
「君は魔術師としてはひよっこ中のひよっこ、まだ卵の中から出て間もない雛だからさ。
いくら便利だからって、子供に刃物や棍棒を持たせたりなんかしないだろ?」
「……そだね」
シノンは素直にうなずくが、こう続ける。
「他にその、魔力源になるものってある?」
「色々。純度の高い石英とか、錫と金とか銀とかを合わせた合金とか。それも近いうち、探さなきゃね」
「どうして?」
「君が思ってることの、延長の話」
「え?」
驚いた顔をしたシノンに、ゼロはいたずらっぽく笑いかけた。
「分かるよ。そんな顔で『もっと強い術はあるの?』って聞いてきたら、そりゃもう丸分かりだ。
君もあのバケモノたちに対抗したい、倒したいと思ってる」
「……うん」
いつの間にか空は曇りだし、ぽつ、ぽつと雨が降り始めていた。
「ありゃ、降ってきちゃったな。しばらくここで、じっとしてようか」
「うん」
「良かったらその間、君の話を聞かせてほしいな」
「……うん。分かった」
大きな木の下にゼロがしゃがみ込み、シノンは彼の懐に入るように、彼の前に背を向けて座り込む。
「おいおい、猫じゃないんだから……」「あのね」
シノンはゼロをさえぎって、自分の過去を、静かに話し始めた。
「あなたがやっつけたバケモノと同じかどうか、分からないけど。
あたしのお母さんとお父さんと、もしかしたら弟か妹も――バケモノに、食べられたの」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~