「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・魔授伝 4
神様たちの話、第12話。
人、なのか?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「元々、お母さんたちは東の村に住んでたらしいんだけど、元々そこが、バケモノに襲われて半壊したらしいの。
それで、あたしの弟か妹が生まれるかもって話があったし、このままいたらまた襲われるかもってことで、家族で真ん中の村に越してきたんだって。
でもその途中で、バケモノに襲われて……」
そこまで話したところで、シノンは自分の膝に顔を埋める。
「そっか。……それで、君とおばあちゃんだけが助かった、と」
「うん。……いやなこと、言う人もいた。あたしのこと、『両親を食わせて自分だけ助かった卑怯者』って」
「ひどいことを言うなぁ」
「でも、本当のことだもん。あたしは、お母さんたちが襲われてる間に逃げたから、生き延びたんだし」
顔を埋めたままのシノンの頭を、ゼロは優しく撫でる。
「本当だとしてもさ。そんなこと言う奴は人間が腐ってるってもんだよ。それに、その時はそうするしか無かったんだろう。
ねえ、辛いことを聞くかも知れないけど、そう言う話って、昔からずっとあったのかな」
「分かんない」
「ま、そりゃそうか。襲われて死んだ人間が『襲われた』って言って回ることなんかできないし。
となると、……やっぱり、気になるところだな」
「なにが?」
顔を挙げずに、シノンが尋ねる。
「襲われ過ぎな気がする。それも、明らかに人が多い地域を襲ってる節がある。
まるで人が増え過ぎないように、誰かが謀ってるような……」
言いかけて、ゼロは首を横に振った。
「……まさか、だな。いくらなんでも、バケモノがそんな意志を持ってるとは思えない。
ただ、でも、……この手の話を、『授業』を受けてたみんなから聞いてるんだ。村の半分くらいの人が来てる中から、そのみんなに、だ」
「珍しい話じゃないもん。
隣の家のテオさんは西の村にいたけど、バケモノから逃げてこの村に来たって言ってたし、向かいの家のメイだってそう。友達もみんな、親や兄弟、友達の誰かを失って、逃げて、この村に来てる。
みんな、親しい人を襲われて、自分が襲われかけて、……そして明日にでも襲われて、食われるのよ」
「……させるもんか」
ゼロの、いつも通り明るい口調の、しかし力強い言葉に、シノンはようやく顔を上げる。
「ゼロ?」
「僕たちはバケモノにとって丁度いい食べ物なんかじゃない。僕たちは知恵と自我と希望を持った、れっきとした人間なんだ。
僕がいる以上、もうバケモノから逃げ回る生活なんて、誰にもさせやしないさ」
「……」
雨音が止み、雲間から太陽の光が切れ切れに届き始める。
シノンはくる、と向きを変え、ゼロと向き合う形になった。
「シノン?」
「ゼロ」
と、シノンはゼロに顔を近付け――静かに、口付けした。
「え、ちょ、……もごっ」
顔を真っ赤にしたゼロからすっと離れ、シノンは彼の耳元でつぶやく。
「ゼロ。あたし、あなたのこと、……あなたのこと、不思議な人だって思ってる。
ううん、あなたは『人』なのかな? もっと、すごい、人を超えた何か。そんな気がする。ねえ、そう言うの、何て呼んだらいいの?
人よりもっとすごい、人を超えたもののことを」
「……あんまりそんな風に呼ばれたいとは、思わないけど」
そう前置きして、ゼロはこう返した。
「僕のいたところじゃ、そう言うのは『神様』って呼んでたよ」
「じゃあ、神様」
シノンはもう一度、ゼロに口付けした。
「お願い。あたしたちを、助けて」
2時間後、ゼロとシノンは丘を下っていた。
「……」「……」
二人とも何も言わず、手をつないで、黙々と歩を進めている。
「あれ?」
と、村人が二人に気付き、手を振る。
「おーい、ゼロじゃないか。それとシノンも。
どうした二人とも? そんなぼんやりした顔して」
「ぅえ? あっ、あー、どうも、リコさん」
「あっ、えっと、ども」
「……んー?」
声をかけてきた村人は、そこで半ばけげんな、しかしどこか納得したような顔をする。
「まあ、なんだ。寒くなってきてるから、風邪には気を付けろよ、二人とも。ひゃひゃひゃ……」
「ああ、うん。気を付ける」
「は、はーいっ」
そのまますれ違ったところで、ゼロがぽつりとつぶやいた。
「……どう思われたかなぁ」
「多分、あなたが思ってる通りじゃない?」
「だよなぁ……」
恥ずかしそうに頭をポリポリとかくゼロに、シノンは耳元でささやく。
「ねえ、ゼロ。明日から、あたしの家で住まない?」
「うひぇ?」
素っ頓狂な返事をしたゼロに、シノンは噴き出した。
@au_ringさんをフォロー
人、なのか?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「元々、お母さんたちは東の村に住んでたらしいんだけど、元々そこが、バケモノに襲われて半壊したらしいの。
それで、あたしの弟か妹が生まれるかもって話があったし、このままいたらまた襲われるかもってことで、家族で真ん中の村に越してきたんだって。
でもその途中で、バケモノに襲われて……」
そこまで話したところで、シノンは自分の膝に顔を埋める。
「そっか。……それで、君とおばあちゃんだけが助かった、と」
「うん。……いやなこと、言う人もいた。あたしのこと、『両親を食わせて自分だけ助かった卑怯者』って」
「ひどいことを言うなぁ」
「でも、本当のことだもん。あたしは、お母さんたちが襲われてる間に逃げたから、生き延びたんだし」
顔を埋めたままのシノンの頭を、ゼロは優しく撫でる。
「本当だとしてもさ。そんなこと言う奴は人間が腐ってるってもんだよ。それに、その時はそうするしか無かったんだろう。
ねえ、辛いことを聞くかも知れないけど、そう言う話って、昔からずっとあったのかな」
「分かんない」
「ま、そりゃそうか。襲われて死んだ人間が『襲われた』って言って回ることなんかできないし。
となると、……やっぱり、気になるところだな」
「なにが?」
顔を挙げずに、シノンが尋ねる。
「襲われ過ぎな気がする。それも、明らかに人が多い地域を襲ってる節がある。
まるで人が増え過ぎないように、誰かが謀ってるような……」
言いかけて、ゼロは首を横に振った。
「……まさか、だな。いくらなんでも、バケモノがそんな意志を持ってるとは思えない。
ただ、でも、……この手の話を、『授業』を受けてたみんなから聞いてるんだ。村の半分くらいの人が来てる中から、そのみんなに、だ」
「珍しい話じゃないもん。
隣の家のテオさんは西の村にいたけど、バケモノから逃げてこの村に来たって言ってたし、向かいの家のメイだってそう。友達もみんな、親や兄弟、友達の誰かを失って、逃げて、この村に来てる。
みんな、親しい人を襲われて、自分が襲われかけて、……そして明日にでも襲われて、食われるのよ」
「……させるもんか」
ゼロの、いつも通り明るい口調の、しかし力強い言葉に、シノンはようやく顔を上げる。
「ゼロ?」
「僕たちはバケモノにとって丁度いい食べ物なんかじゃない。僕たちは知恵と自我と希望を持った、れっきとした人間なんだ。
僕がいる以上、もうバケモノから逃げ回る生活なんて、誰にもさせやしないさ」
「……」
雨音が止み、雲間から太陽の光が切れ切れに届き始める。
シノンはくる、と向きを変え、ゼロと向き合う形になった。
「シノン?」
「ゼロ」
と、シノンはゼロに顔を近付け――静かに、口付けした。
「え、ちょ、……もごっ」
顔を真っ赤にしたゼロからすっと離れ、シノンは彼の耳元でつぶやく。
「ゼロ。あたし、あなたのこと、……あなたのこと、不思議な人だって思ってる。
ううん、あなたは『人』なのかな? もっと、すごい、人を超えた何か。そんな気がする。ねえ、そう言うの、何て呼んだらいいの?
人よりもっとすごい、人を超えたもののことを」
「……あんまりそんな風に呼ばれたいとは、思わないけど」
そう前置きして、ゼロはこう返した。
「僕のいたところじゃ、そう言うのは『神様』って呼んでたよ」
「じゃあ、神様」
シノンはもう一度、ゼロに口付けした。
「お願い。あたしたちを、助けて」
2時間後、ゼロとシノンは丘を下っていた。
「……」「……」
二人とも何も言わず、手をつないで、黙々と歩を進めている。
「あれ?」
と、村人が二人に気付き、手を振る。
「おーい、ゼロじゃないか。それとシノンも。
どうした二人とも? そんなぼんやりした顔して」
「ぅえ? あっ、あー、どうも、リコさん」
「あっ、えっと、ども」
「……んー?」
声をかけてきた村人は、そこで半ばけげんな、しかしどこか納得したような顔をする。
「まあ、なんだ。寒くなってきてるから、風邪には気を付けろよ、二人とも。ひゃひゃひゃ……」
「ああ、うん。気を付ける」
「は、はーいっ」
そのまますれ違ったところで、ゼロがぽつりとつぶやいた。
「……どう思われたかなぁ」
「多分、あなたが思ってる通りじゃない?」
「だよなぁ……」
恥ずかしそうに頭をポリポリとかくゼロに、シノンは耳元でささやく。
「ねえ、ゼロ。明日から、あたしの家で住まない?」
「うひぇ?」
素っ頓狂な返事をしたゼロに、シノンは噴き出した。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~