「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・南旅伝 2
神様たちの話、第15話。
寒くて温かい旅路。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
すべての準備が整い、ゼロたちは早速、南に向けて出発した。
「さむ……」
ガウンを重ね着しているにもかかわらず、シノンが両腕をこすって寒がっている。
「確かに寒みいな。ここ数年で一番の寒さかも知れん」
御者台に座るゲートも、白い息をもくもくと吐いている。
「防寒着ならいくらでもある。もっと欲しかったら言ってくれ」
フレン自身ももこもこと重ね着しながら、自分のところで作ったマフラーや帽子を袋から取り出す。
「手袋あるか?」
尋ねたメラノに、フレンがごそごそと袋に手を入れながら応じる。
「あるぜ。耳当てはどうする?」
「欲しい。尾袋は?」
「大きめのが欲しい」
「あるある。アンタみたいなフサフサめの尻尾でも十分入るぜ、メラノの旦那」
「おう、助かる」
と、二人のやり取りをぼんやり眺めていたゼロが、ぼそっとつぶやいた。
「尾袋って言うのもあるのか……」
「何言ってんの? そりゃあるって」
それを聞いていたシノンが、けげんな表情になる。
「無かったら『猫』とか『狼』とかの人、凍えちゃうよ」
「それもそうだ。いやさ、前に僕がいたところには、あーゆー感じの耳や尻尾を持ってる人がいなかったって話、したよね」
「そう言ってたね」
「だから、あーゆーのも見たこと無くって」「ゼロ」
ゼロの話をさえぎり、シノンが口をとがらせる。
「もしかして、まだ村に馴染んでないの?」
「えっ?」
「ゼロの話の半分、前にいたとこの話なんだけど」
「そうだっけ」
「そーだよ。それともさ、村が好きじゃないの?」
そう尋ねたシノンの頭を撫でながら、ゼロはこう返す。
「もし村のことが好きじゃなかったら、こうして寒い中、バケモノがいるってところにわざわざ行こうなんて思わないよ」
「……だよね。でも、やっぱり村の話、少ない気がする」
「んなことねーって」
話の輪に、ゲートが入ってくる。
「最近のこいつ、俺と会う度に村の話ばっかしてんだぞ。リンのばーちゃんが畑を耕すのを手伝ったとか、ロニーが逃がした馬を一緒に追いかけたとか、よくもまあそんなに色々、人助けしてるもんだよなって思うよ。
ま、実を言うと村の話って言うより、お前の話の方が多めなんだけどな」
「ちょ」
顔を赤くするゼロに構わず、ゲートはゼロから聞いたシノンの話を、彼女に聞かせる。
「料理、苦手って聞いたけど本当か?」
「え、そんなこと言ってた?」
「フレンからもらった肉、焦がしたって」
それを聞いて、シノンはゼロの耳をつねる。
「ちょっと、ゼロ! 言わないでよ、もお!」
「ごめんごめん」
「あと聞いたのは、同じくフレンからもらった毛糸で編み物したけど、手触りがゴワゴワ、チクチクしてて痛かったって」
「それも言ったの!? やめてよぉ」
「おいおい、俺から贈ったヤツ、全部ダメにしてんじゃねーだろーな?」
フレンも渋い顔をして、話に加わる。
「もしかして、こないだのヤツもか?」
「あ、いやね、その話はあくまで、『一緒に住み始めた頃は』って前置きしたんだよ」
ゼロは苦笑しつつ、弁解する。
「今はとっても美味しい料理を出してくれるし、今被ってる帽子だって、シノンが作ってくれたものなんだ。ほら、ふかふかだろ?」
「ああ、そうだったのか。道理で見覚え無いと思った。上手いじゃん」
「えへへっ」
フレンにほめられ、シノンは嬉しそうにはにかむ。
「今夜のご飯も頑張っちゃうよ。楽しみにしててねっ」
「いいねぇ、若奥様の手料理か」
ニヤニヤしながらそう返したメラノに、ゼロは顔を赤くしてうつむき、一方でシノンも、恥ずかしそうに笑った。
「……えへへー」
「ってかな、話を戻すとだ」
と、ゲートが続ける。
「俺もそこそこ、ゼロとは親しくしてるつもりだけど、こいつの故郷の話は数えるくらいしか聞いてないんだ。
それを聞けるってことは、やっぱお前に、自分のことを知ってほしいと思ってるんだよ」
「そっか、……そうだよね」
「相思相愛だねぇ、お二人さん」
フレンに茶化され、ゼロとシノンは、今度は揃って顔を赤くした。
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寒くて温かい旅路。
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すべての準備が整い、ゼロたちは早速、南に向けて出発した。
「さむ……」
ガウンを重ね着しているにもかかわらず、シノンが両腕をこすって寒がっている。
「確かに寒みいな。ここ数年で一番の寒さかも知れん」
御者台に座るゲートも、白い息をもくもくと吐いている。
「防寒着ならいくらでもある。もっと欲しかったら言ってくれ」
フレン自身ももこもこと重ね着しながら、自分のところで作ったマフラーや帽子を袋から取り出す。
「手袋あるか?」
尋ねたメラノに、フレンがごそごそと袋に手を入れながら応じる。
「あるぜ。耳当てはどうする?」
「欲しい。尾袋は?」
「大きめのが欲しい」
「あるある。アンタみたいなフサフサめの尻尾でも十分入るぜ、メラノの旦那」
「おう、助かる」
と、二人のやり取りをぼんやり眺めていたゼロが、ぼそっとつぶやいた。
「尾袋って言うのもあるのか……」
「何言ってんの? そりゃあるって」
それを聞いていたシノンが、けげんな表情になる。
「無かったら『猫』とか『狼』とかの人、凍えちゃうよ」
「それもそうだ。いやさ、前に僕がいたところには、あーゆー感じの耳や尻尾を持ってる人がいなかったって話、したよね」
「そう言ってたね」
「だから、あーゆーのも見たこと無くって」「ゼロ」
ゼロの話をさえぎり、シノンが口をとがらせる。
「もしかして、まだ村に馴染んでないの?」
「えっ?」
「ゼロの話の半分、前にいたとこの話なんだけど」
「そうだっけ」
「そーだよ。それともさ、村が好きじゃないの?」
そう尋ねたシノンの頭を撫でながら、ゼロはこう返す。
「もし村のことが好きじゃなかったら、こうして寒い中、バケモノがいるってところにわざわざ行こうなんて思わないよ」
「……だよね。でも、やっぱり村の話、少ない気がする」
「んなことねーって」
話の輪に、ゲートが入ってくる。
「最近のこいつ、俺と会う度に村の話ばっかしてんだぞ。リンのばーちゃんが畑を耕すのを手伝ったとか、ロニーが逃がした馬を一緒に追いかけたとか、よくもまあそんなに色々、人助けしてるもんだよなって思うよ。
ま、実を言うと村の話って言うより、お前の話の方が多めなんだけどな」
「ちょ」
顔を赤くするゼロに構わず、ゲートはゼロから聞いたシノンの話を、彼女に聞かせる。
「料理、苦手って聞いたけど本当か?」
「え、そんなこと言ってた?」
「フレンからもらった肉、焦がしたって」
それを聞いて、シノンはゼロの耳をつねる。
「ちょっと、ゼロ! 言わないでよ、もお!」
「ごめんごめん」
「あと聞いたのは、同じくフレンからもらった毛糸で編み物したけど、手触りがゴワゴワ、チクチクしてて痛かったって」
「それも言ったの!? やめてよぉ」
「おいおい、俺から贈ったヤツ、全部ダメにしてんじゃねーだろーな?」
フレンも渋い顔をして、話に加わる。
「もしかして、こないだのヤツもか?」
「あ、いやね、その話はあくまで、『一緒に住み始めた頃は』って前置きしたんだよ」
ゼロは苦笑しつつ、弁解する。
「今はとっても美味しい料理を出してくれるし、今被ってる帽子だって、シノンが作ってくれたものなんだ。ほら、ふかふかだろ?」
「ああ、そうだったのか。道理で見覚え無いと思った。上手いじゃん」
「えへへっ」
フレンにほめられ、シノンは嬉しそうにはにかむ。
「今夜のご飯も頑張っちゃうよ。楽しみにしててねっ」
「いいねぇ、若奥様の手料理か」
ニヤニヤしながらそう返したメラノに、ゼロは顔を赤くしてうつむき、一方でシノンも、恥ずかしそうに笑った。
「……えへへー」
「ってかな、話を戻すとだ」
と、ゲートが続ける。
「俺もそこそこ、ゼロとは親しくしてるつもりだけど、こいつの故郷の話は数えるくらいしか聞いてないんだ。
それを聞けるってことは、やっぱお前に、自分のことを知ってほしいと思ってるんだよ」
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