「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・南旅伝 3
神様たちの話、第16話。
「知る」を知る。
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3.
馬車を進めるうち、辺りが段々と暗くなってきたため、ゼロたち一行は馬車を途上に停め、野宿することにした。
「おい、ゼロ。このままここで一晩過ごすのか? 寒くてたまらんぜ」
ゲートは口ではそう言っているものの、表情にはある程度、「また何かすごいこと見せてくれるよな?」と期待している色が浮かんでいる。
そしてゼロも、それに応じた。
「大丈夫、大丈夫。準備するからちょっと待ってて」
そう言って、ゼロは持ってきた青銅のスコップで、辺りに円を描く。
「その間にご飯の準備もお願い」
「はーいっ」
シノンがにこにこと笑いながら、馬車の中から道具を取り出す。
「俺は馬を見とくよ」
ゲートも馬車に戻り、馬たちにえさをやり始める。フレンとメラノもかまどを作るため、周りの石や枝を集めに行った。
その間にシノンが箱を抱えて馬車から戻り、ゼロに声をかける。
「ここ、置いていい?」
「いいよ。円の中なら大丈夫」
「それも魔術?」
尋ねたシノンに、ゼロはスコップを肩に担ぎながらこう返した。
「そう。どんな術か、分かるかな? こないだ教えたところだけど」
「んーと」
シノンは箱を地面に置き、ゼロが引いた円と線、文字を観察する。
「これはー、……火の術?」
「そう」
「効果範囲は、この円の内側」
「うん」
「効果は、燃やすとか火が出るとかじゃなくて、空気をあっためる?」
「正解。時間も設定してるけど、どのくらいか分かる?」
「えーっと、半日と、それと8時間?」
「足して、足して」
苦笑するゼロにそう言われて、シノンは指折り数えて答える。
「20時間」
「ばっちり。それくらいなら朝まで持つ」
「でもゼロ、ここに時計無いよ? 明日の朝まで大丈夫って、どうして分かるの?」
「多少曇ってるけど、日が落ちるのは後30分ってところだ。村での最近の日没時間は、おおよそ14時を20分くらい過ぎた辺りだった。まだ村を離れてそんなに経ってないし、日没の時間は同じくらいだろう。
と言うことは――結構おおまかな計算になるけど――今の時刻は14時ちょっと前くらい。保温時間が20時間なら、明日の10時まで大丈夫ってことになる」
ゼロの説明を聞き、シノンはぱちぱちと、楽しそうに拍手する。
「そっかー。やっぱりすごいね、ゼロは」
「そんなにすごくないさ。使ったのは魔術の基礎だし、後は観測と、簡単な算数の結果ってだけ」
「それができるのが、すごいんだよ」
シノンは唇をとがらせ、こう続けた。
「あなたが簡単だって言ってること、5ヶ月前には誰にもできないことだったんだよ。時間を計ることも、一日の昼と夜がどれくらい続くのかって知識も、魔術のことも。
それを教えてくれたのは、全部、あなた」
「……うん、そうだったね」
スコップを地面に差し、ゼロは肩をすくめる。
「僕が、全部。何もかも」
「そう、全部。あなたのおかげで、あたしたちは賢くなれた。あたしたちは、『知れた』」
シノンはゼロに近付き、ぎゅっと抱きついた。
「あなたはそう呼ばれたくないって何度も言ってるけど、やっぱりあたしたちには、あなたが神様だよ。
あなたはこの先もきっと、あたしたちをもっと賢くしてくれる。あたしたちはもっと、色んなことを知られるようになる。……よね?」
耳元で尋ねられ、ゼロはシノンを抱きしめ返して答えた。
「勿論だよ」
「何がだ?」
と、いつの間にか背後に立っていたゲートが、ニヤニヤしながら声をかけてきた。
「わあっ!?」「きゃっ!?」
「なんだよ、今更愛の告白でもしてたのか?」
「いや、そう言うのじゃなくて、……ああ、まあいいや」
ゼロはシノンに抱きつかれたまま、ゲートに顔を向けた。
「もうそろそろフレンとメラノが戻ってくる頃だし、座る場所作ろっか」
「おう。……で?」
そう尋ねたゲートに、ゼロたちはきょとんとする。
「なに?」
「二人とも、いつ離れるんだ? まさか抱き合ったまま料理も食事もするのか?」
「……あはは」「……えへへ」
二人は照れ笑いを浮かべながら、急いで離れた。
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3.
馬車を進めるうち、辺りが段々と暗くなってきたため、ゼロたち一行は馬車を途上に停め、野宿することにした。
「おい、ゼロ。このままここで一晩過ごすのか? 寒くてたまらんぜ」
ゲートは口ではそう言っているものの、表情にはある程度、「また何かすごいこと見せてくれるよな?」と期待している色が浮かんでいる。
そしてゼロも、それに応じた。
「大丈夫、大丈夫。準備するからちょっと待ってて」
そう言って、ゼロは持ってきた青銅のスコップで、辺りに円を描く。
「その間にご飯の準備もお願い」
「はーいっ」
シノンがにこにこと笑いながら、馬車の中から道具を取り出す。
「俺は馬を見とくよ」
ゲートも馬車に戻り、馬たちにえさをやり始める。フレンとメラノもかまどを作るため、周りの石や枝を集めに行った。
その間にシノンが箱を抱えて馬車から戻り、ゼロに声をかける。
「ここ、置いていい?」
「いいよ。円の中なら大丈夫」
「それも魔術?」
尋ねたシノンに、ゼロはスコップを肩に担ぎながらこう返した。
「そう。どんな術か、分かるかな? こないだ教えたところだけど」
「んーと」
シノンは箱を地面に置き、ゼロが引いた円と線、文字を観察する。
「これはー、……火の術?」
「そう」
「効果範囲は、この円の内側」
「うん」
「効果は、燃やすとか火が出るとかじゃなくて、空気をあっためる?」
「正解。時間も設定してるけど、どのくらいか分かる?」
「えーっと、半日と、それと8時間?」
「足して、足して」
苦笑するゼロにそう言われて、シノンは指折り数えて答える。
「20時間」
「ばっちり。それくらいなら朝まで持つ」
「でもゼロ、ここに時計無いよ? 明日の朝まで大丈夫って、どうして分かるの?」
「多少曇ってるけど、日が落ちるのは後30分ってところだ。村での最近の日没時間は、おおよそ14時を20分くらい過ぎた辺りだった。まだ村を離れてそんなに経ってないし、日没の時間は同じくらいだろう。
と言うことは――結構おおまかな計算になるけど――今の時刻は14時ちょっと前くらい。保温時間が20時間なら、明日の10時まで大丈夫ってことになる」
ゼロの説明を聞き、シノンはぱちぱちと、楽しそうに拍手する。
「そっかー。やっぱりすごいね、ゼロは」
「そんなにすごくないさ。使ったのは魔術の基礎だし、後は観測と、簡単な算数の結果ってだけ」
「それができるのが、すごいんだよ」
シノンは唇をとがらせ、こう続けた。
「あなたが簡単だって言ってること、5ヶ月前には誰にもできないことだったんだよ。時間を計ることも、一日の昼と夜がどれくらい続くのかって知識も、魔術のことも。
それを教えてくれたのは、全部、あなた」
「……うん、そうだったね」
スコップを地面に差し、ゼロは肩をすくめる。
「僕が、全部。何もかも」
「そう、全部。あなたのおかげで、あたしたちは賢くなれた。あたしたちは、『知れた』」
シノンはゼロに近付き、ぎゅっと抱きついた。
「あなたはそう呼ばれたくないって何度も言ってるけど、やっぱりあたしたちには、あなたが神様だよ。
あなたはこの先もきっと、あたしたちをもっと賢くしてくれる。あたしたちはもっと、色んなことを知られるようになる。……よね?」
耳元で尋ねられ、ゼロはシノンを抱きしめ返して答えた。
「勿論だよ」
「何がだ?」
と、いつの間にか背後に立っていたゲートが、ニヤニヤしながら声をかけてきた。
「わあっ!?」「きゃっ!?」
「なんだよ、今更愛の告白でもしてたのか?」
「いや、そう言うのじゃなくて、……ああ、まあいいや」
ゼロはシノンに抱きつかれたまま、ゲートに顔を向けた。
「もうそろそろフレンとメラノが戻ってくる頃だし、座る場所作ろっか」
「おう。……で?」
そう尋ねたゲートに、ゼロたちはきょとんとする。
「なに?」
「二人とも、いつ離れるんだ? まさか抱き合ったまま料理も食事もするのか?」
「……あはは」「……えへへ」
二人は照れ笑いを浮かべながら、急いで離れた。
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注釈。
その方面に詳しい方からは矛盾や不足点などを指摘されるかも知れませんが、
双月世界は基本的に北に行けば行くほど寒く、南に行けば行くほど暑い世界です。
「赤道」や「北半球」「南半球」と言う概念もありません。
注釈。
その方面に詳しい方からは矛盾や不足点などを指摘されるかも知れませんが、
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「赤道」や「北半球」「南半球」と言う概念もありません。



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双月千年世界 1;蒼天剣

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