「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・南旅伝 4
神様たちの話、第17話。
夜の番。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
ゼロの予測通りにすぐに日は沈み、辺りは間も無く、闇と凍てつく寒さに覆われた。
しかしゼロの魔術のおかげで、今ゼロたちがいる場所は温かく、ほんのりと明るい。
「はぐはぐ……、言うだけあるな、シノン」
「ああ、普通に美味い」
フレンとメラノからほめられ、シノンは嬉しそうに笑う。
「ありがとっ」
「だけどゼロ」
と、ゲートが不安そうに辺りを見回す。
「夜はどうするんだ? この辺りはぱーっと開けてるから、もしバケモノどもが近くまで来たら、ここにいるのが丸分かりだぞ」
「交代で見張りをしよう。もし何か異状があったら、僕を起こしてくれ」
「分かった」
「5人いるから、夜は常に3人眠って、2人起きて見張りで。その間の時間を計れるように、こう言うのも作ってる」
そう言って、ゼロは木とガラスでできた、ひょうたん状の筒を箱から取り出した。
「中に水と油が入ってて、引っくり返すと当然、油は上に、水は下に動く。水が全部落ち切るまで、2時間かかるように作ってある。つまりこの道具で2時間計れる。
これを一回引っくり返すごとに、1人ずつ交代しよう。で、順番はどうしようか?」
ゼロがそう尋ねたところで、フレンが毛糸を懐から取り出す。
「くじならすぐ作れるぜ」
「じゃ、それで行こう」
5人はくじを引き、最初にゼロとメラノが見張りをすることが決まった。
「これからの旅路を考えれば、できる限り疲れを溜め込みたくない。大分早いけど、シノンとゲートとフレンはもう寝てて」
「分かった」
シノンたちが眠ったところで、メラノがゼロに声をかけてきた。
「なあ、ゼロ」
「ん?」
「変なこと聞くようだが」
そう前置きされ、ゼロはぎょっとした顔をする。
「変なこと聞かないでよ」
「あ、いや、単にだ。シノンと仲いいよなって話なんだ」
「ああ、うん、まあね」
恥ずかしそうに答えたゼロに、メラノは続けてこう尋ねた。
「前にはいなかったのか?」
「って言うと?」
「彼女とか、奥さんとか」
「いや、シノンが初めて。前いたところでは、僕は勉強と研究と趣味にしか打ち込んで無かったから」
「趣味?」
メラノに尋ね返され、ゼロは上を指差した。
「天文学」
「て……ん……、なんだって?」
「星とか、月や太陽の動きを見るのが好きなんだ」
「ほー……? そんなもん見て、何が楽しいのか分からんなぁ、俺には」
「あはは、良く言われる」
あっけらかんとしているゼロに、メラノも相好を崩した。
「お前のことを変な奴だって言うのと、いやすごい奴だ、神様だって言うのとがいるが、やっぱり俺には、あんたは変な奴にしか思えん。
いや、勿論あんたが色々やってくれてるおかげで、村の暮らしが良くなってる、良くなりそうだってことは分かってるし、感謝もしてる。
ただ、それを差し引いてもやっぱり変だ」
「そんなに?」
肩をすくめるゼロに対し、メラノは腕を組み、深々とうなずいて返す。
「ああ。何よりも俺が変だって思うところはだ。そのヒゲ面だな」
そう言われて、ゼロは自分のあごに手をやる。
「やっぱりちょっとくらい整えた方がいいかな」
「って言うか剃れよ。似合わん」
「そっかなぁ。シノンはかっこいいって言ってくれたんだけど」
「あいつにしてみりゃ、お前の何でもかんでもがかっこいいんだろ。ベタぼれだしな。
だけどシノンもすっかり変わったぜ。お前が来る前までは、あんなに明るい奴じゃ無かったんだがな」
「え?」
意外そうな顔をしたゼロを見て、メラノはくっくっと笑う。
「まさかって顔すんなよ。お前もあいつが村に来た経緯は知ってんだろ?」
「……ああ、まあ。聞いたよ」
「来てすぐ、周りから散々言われたから、相当参ってたんだろう。始終うつむいててよ、家から出て来ない日すらあったんだぜ?
何なら他の奴にも聞いてみたらどうだ?」
「……いや、いいよ。過去の話はあんまり」
「そっか。……っと」
話している間に水時計の中の水がすべて下に落ち、2時間経ったことを示した。
「次はフレンだったな」
「うん、呼んでくるよ。それじゃおやすみ、メラノ」
ゼロはぺらぺらとメラノに手を振り、馬車の中に入った。
フレンが来るまでの、一人になったそのわずかな間に、メラノはぼそ、とつぶやいていた。
「ヨメさんの悪い話してもけろっとしてやがる。本っ当に怒らねーな」
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夜の番。
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ゼロの予測通りにすぐに日は沈み、辺りは間も無く、闇と凍てつく寒さに覆われた。
しかしゼロの魔術のおかげで、今ゼロたちがいる場所は温かく、ほんのりと明るい。
「はぐはぐ……、言うだけあるな、シノン」
「ああ、普通に美味い」
フレンとメラノからほめられ、シノンは嬉しそうに笑う。
「ありがとっ」
「だけどゼロ」
と、ゲートが不安そうに辺りを見回す。
「夜はどうするんだ? この辺りはぱーっと開けてるから、もしバケモノどもが近くまで来たら、ここにいるのが丸分かりだぞ」
「交代で見張りをしよう。もし何か異状があったら、僕を起こしてくれ」
「分かった」
「5人いるから、夜は常に3人眠って、2人起きて見張りで。その間の時間を計れるように、こう言うのも作ってる」
そう言って、ゼロは木とガラスでできた、ひょうたん状の筒を箱から取り出した。
「中に水と油が入ってて、引っくり返すと当然、油は上に、水は下に動く。水が全部落ち切るまで、2時間かかるように作ってある。つまりこの道具で2時間計れる。
これを一回引っくり返すごとに、1人ずつ交代しよう。で、順番はどうしようか?」
ゼロがそう尋ねたところで、フレンが毛糸を懐から取り出す。
「くじならすぐ作れるぜ」
「じゃ、それで行こう」
5人はくじを引き、最初にゼロとメラノが見張りをすることが決まった。
「これからの旅路を考えれば、できる限り疲れを溜め込みたくない。大分早いけど、シノンとゲートとフレンはもう寝てて」
「分かった」
シノンたちが眠ったところで、メラノがゼロに声をかけてきた。
「なあ、ゼロ」
「ん?」
「変なこと聞くようだが」
そう前置きされ、ゼロはぎょっとした顔をする。
「変なこと聞かないでよ」
「あ、いや、単にだ。シノンと仲いいよなって話なんだ」
「ああ、うん、まあね」
恥ずかしそうに答えたゼロに、メラノは続けてこう尋ねた。
「前にはいなかったのか?」
「って言うと?」
「彼女とか、奥さんとか」
「いや、シノンが初めて。前いたところでは、僕は勉強と研究と趣味にしか打ち込んで無かったから」
「趣味?」
メラノに尋ね返され、ゼロは上を指差した。
「天文学」
「て……ん……、なんだって?」
「星とか、月や太陽の動きを見るのが好きなんだ」
「ほー……? そんなもん見て、何が楽しいのか分からんなぁ、俺には」
「あはは、良く言われる」
あっけらかんとしているゼロに、メラノも相好を崩した。
「お前のことを変な奴だって言うのと、いやすごい奴だ、神様だって言うのとがいるが、やっぱり俺には、あんたは変な奴にしか思えん。
いや、勿論あんたが色々やってくれてるおかげで、村の暮らしが良くなってる、良くなりそうだってことは分かってるし、感謝もしてる。
ただ、それを差し引いてもやっぱり変だ」
「そんなに?」
肩をすくめるゼロに対し、メラノは腕を組み、深々とうなずいて返す。
「ああ。何よりも俺が変だって思うところはだ。そのヒゲ面だな」
そう言われて、ゼロは自分のあごに手をやる。
「やっぱりちょっとくらい整えた方がいいかな」
「って言うか剃れよ。似合わん」
「そっかなぁ。シノンはかっこいいって言ってくれたんだけど」
「あいつにしてみりゃ、お前の何でもかんでもがかっこいいんだろ。ベタぼれだしな。
だけどシノンもすっかり変わったぜ。お前が来る前までは、あんなに明るい奴じゃ無かったんだがな」
「え?」
意外そうな顔をしたゼロを見て、メラノはくっくっと笑う。
「まさかって顔すんなよ。お前もあいつが村に来た経緯は知ってんだろ?」
「……ああ、まあ。聞いたよ」
「来てすぐ、周りから散々言われたから、相当参ってたんだろう。始終うつむいててよ、家から出て来ない日すらあったんだぜ?
何なら他の奴にも聞いてみたらどうだ?」
「……いや、いいよ。過去の話はあんまり」
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