「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・南旅伝 5
神様たちの話、第18話。
予定の遅れ。
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5.
南の村からクロスセントラルに来た人々の話と、馬の速力とをゼロが総合・計算した結果、南の鉱床までは片道で10日程度だと算出していたが、想定外の要素――厳しい冬の寒さのため、雪や凍った道に幾度と無く阻まれていた。
そのため到着予定日を過ぎた今も、ゼロたちは鉱床はおろか、その手前の南の村にすら未だたどり着けず、吹雪の中をひた走っていた。
「念のために、食糧を多めに持ってきてて正解だった。……それでもこれ以上時間をかけたら、帰れなくなっちゃうけど」
「怖いこと言うなよ。このまま全員飢え死に、凍え死になんて、冗談にもなりゃしない」
御者台に着いていたゼロの言葉に、横に並んで座っていたフレンが苦笑する。
「俺が死んだら、かわいい羊たちは全部路頭に迷っちまうぜ」
「そりゃ羊たちが可哀想だ。何としてでも帰らなきゃ。……そう言えばフレン」
「ん?」
「奥さんとかいる?」
「いや、独り者だ。残念ながらモテないもんでね」
「へえ? 渋いおじさんと思ってたけど」
「思われてたんなら、俺にとっちゃ不本意だな」
フレンはふーっとため息をつき、憮然とした目を向ける。
「俺はまだ、おじさんってほどじゃない。コレでも若いんだぜ、俺」
「あれ、フレンって今、いくつ?」
「いくつって?」
「年齢、……って言っても、そうか。暦(こよみ)――今が何年ってことも、定めてないんだもんな。
帰ったらそれも決めないとなぁ」
「色々やるコトだらけだな。……何もかもが変わっていくな」
不意にそんなことを言い出したフレンに、ゼロはきょとんとする。
「って言うと?」
「お前が来る前まで、やるコトなんてそんなに無かった。
俺は羊を飼って、ゲートは畑に行って、シノンは山菜取って、メラノは狩りに行って。いっぱい取れたら交換できないか、市場に持ち寄って。
ずっと、ずーっと、何日も、何十日も、何百日も、その繰り返しだった。それ以上の変化も無く、ずーっと。
それを打ち破るのは、バケモノだけ。バケモノが突然襲ってきて、全部食い荒らして、そこから逃げて、そしたらまた別の村で、同じような日々の繰り返し。
俺もいつかは羊と一緒にバケモノに食われておしまい。そうなる前に奥さんもらって子供作って、……って思ってたんだが、何かお前が来てから、それどころじゃ無くなったって言うか、他のことばっか考えてて、そんなヒマ無いって言うか」
「ごめんね。今だって、こんな南の方まで連れて来ちゃって」
謝るゼロに、フレンはニヤッと笑って返す。
「構わんよ。同じコトを言うようだが、同じ日々の繰り返しから、アンタは解放してくれたんだ。危険や困難はあれど、今までに無い経験ばっかりしてる。
こんな楽しいコトは、コレまで一度も無かった。感謝してもし足りないよ」
「そう言ってくれれば、ほっとする。僕自身もこの寒々しい旅に参ってきそうだったんだ、実は」
「だと思ったぜ。この10日、奥さんと二人っきりになれないってのは辛いだろうしな」
「いや……、まあ、それも無くは無いけど」
ゼロはくる、と振り返り、馬車の中で毛布にくるまって眠るシノンをチラっと見て、前に向き直る。
「蒸し返すようだけど、予定がずれ込んできてるせいで、食糧が心細くなってきてる。帰りも同じくらいかかるとなれば、馬が危ないかも知れない。
冗談やからかいじゃなく、命の危険がじわじわ迫ってきてる。その上、ゲートも何度かこぼしてたけど、いつバケモノが狙ってくるかって危険も、依然として続いてる。
これで不安にならなかったら、頭がおかしいよ」
「違いないな、ははは……」
一笑いして一転、フレンの顔が曇る。
「……あと、何日かかる?」
「計算では2日。どれだけ難航しても、流石に明日には村に到着する。そこからもう1日で、鉱床に行けるはずさ」
「帰りはどうする? 村で食糧がもらえりゃいいが」
「多めに原料を掘って、村で交換してもらおう。バケモノのせいで掘りに行き辛くなってるだろうから、きっと喜んでくれるよ」
「なるほどな。流石……」
と、フレンが話を止め、猫耳をぴくぴくと動かす。
「どうしたの?」
「なあ、自分のコトだからピンとは来ないんだが――猫獣人ってのは、他のヤツが気付かんような物音や匂いやら、そう言うのにいち早く気付けるらしいんだ。
ゼロ、お前今の、グオーってのは、……聞こえなかったか?」
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予定の遅れ。
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南の村からクロスセントラルに来た人々の話と、馬の速力とをゼロが総合・計算した結果、南の鉱床までは片道で10日程度だと算出していたが、想定外の要素――厳しい冬の寒さのため、雪や凍った道に幾度と無く阻まれていた。
そのため到着予定日を過ぎた今も、ゼロたちは鉱床はおろか、その手前の南の村にすら未だたどり着けず、吹雪の中をひた走っていた。
「念のために、食糧を多めに持ってきてて正解だった。……それでもこれ以上時間をかけたら、帰れなくなっちゃうけど」
「怖いこと言うなよ。このまま全員飢え死に、凍え死になんて、冗談にもなりゃしない」
御者台に着いていたゼロの言葉に、横に並んで座っていたフレンが苦笑する。
「俺が死んだら、かわいい羊たちは全部路頭に迷っちまうぜ」
「そりゃ羊たちが可哀想だ。何としてでも帰らなきゃ。……そう言えばフレン」
「ん?」
「奥さんとかいる?」
「いや、独り者だ。残念ながらモテないもんでね」
「へえ? 渋いおじさんと思ってたけど」
「思われてたんなら、俺にとっちゃ不本意だな」
フレンはふーっとため息をつき、憮然とした目を向ける。
「俺はまだ、おじさんってほどじゃない。コレでも若いんだぜ、俺」
「あれ、フレンって今、いくつ?」
「いくつって?」
「年齢、……って言っても、そうか。暦(こよみ)――今が何年ってことも、定めてないんだもんな。
帰ったらそれも決めないとなぁ」
「色々やるコトだらけだな。……何もかもが変わっていくな」
不意にそんなことを言い出したフレンに、ゼロはきょとんとする。
「って言うと?」
「お前が来る前まで、やるコトなんてそんなに無かった。
俺は羊を飼って、ゲートは畑に行って、シノンは山菜取って、メラノは狩りに行って。いっぱい取れたら交換できないか、市場に持ち寄って。
ずっと、ずーっと、何日も、何十日も、何百日も、その繰り返しだった。それ以上の変化も無く、ずーっと。
それを打ち破るのは、バケモノだけ。バケモノが突然襲ってきて、全部食い荒らして、そこから逃げて、そしたらまた別の村で、同じような日々の繰り返し。
俺もいつかは羊と一緒にバケモノに食われておしまい。そうなる前に奥さんもらって子供作って、……って思ってたんだが、何かお前が来てから、それどころじゃ無くなったって言うか、他のことばっか考えてて、そんなヒマ無いって言うか」
「ごめんね。今だって、こんな南の方まで連れて来ちゃって」
謝るゼロに、フレンはニヤッと笑って返す。
「構わんよ。同じコトを言うようだが、同じ日々の繰り返しから、アンタは解放してくれたんだ。危険や困難はあれど、今までに無い経験ばっかりしてる。
こんな楽しいコトは、コレまで一度も無かった。感謝してもし足りないよ」
「そう言ってくれれば、ほっとする。僕自身もこの寒々しい旅に参ってきそうだったんだ、実は」
「だと思ったぜ。この10日、奥さんと二人っきりになれないってのは辛いだろうしな」
「いや……、まあ、それも無くは無いけど」
ゼロはくる、と振り返り、馬車の中で毛布にくるまって眠るシノンをチラっと見て、前に向き直る。
「蒸し返すようだけど、予定がずれ込んできてるせいで、食糧が心細くなってきてる。帰りも同じくらいかかるとなれば、馬が危ないかも知れない。
冗談やからかいじゃなく、命の危険がじわじわ迫ってきてる。その上、ゲートも何度かこぼしてたけど、いつバケモノが狙ってくるかって危険も、依然として続いてる。
これで不安にならなかったら、頭がおかしいよ」
「違いないな、ははは……」
一笑いして一転、フレンの顔が曇る。
「……あと、何日かかる?」
「計算では2日。どれだけ難航しても、流石に明日には村に到着する。そこからもう1日で、鉱床に行けるはずさ」
「帰りはどうする? 村で食糧がもらえりゃいいが」
「多めに原料を掘って、村で交換してもらおう。バケモノのせいで掘りに行き辛くなってるだろうから、きっと喜んでくれるよ」
「なるほどな。流石……」
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ゼロ、お前今の、グオーってのは、……聞こえなかったか?」
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2017.12.11 修正
2017.12.11 修正



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