「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・南旅伝 6
神様たちの話、第19話。
吹雪の中の接触。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
ゼロの顔から、笑みが消える。
「……どっちから?」
「馬車の向きを正面として、左の方だ。足音もする。雪の上をかなりデカいのが、こっちに向かってきてる」
「どれくらいで接触しそう?」
「多分、そんなにかからん」
「何頭いそう?」
「1頭だけっぽい」
「分かった。もっと出てきそうなら、また教えて」
そう返して、ゼロは懐から金と紫とに光る板を取り出した。
「ちょっと場所替わって。目視できた瞬間に攻撃したい」
「お、おう」
御者台の左側に座っていたフレンと場所を替わり、ゼロは呪文を唱え始めた。
「……***……***……、準備できた。馬を慌てさせないようにしてて」
「ああ」
やがて吹雪の音に混じり、確かに獣のような、グオオオ……、と言ううなり声が近付いて来る。
「……来た!」
ゼロは板を掲げ、叫んだ。
「『ファイアランス』!」
次の瞬間、炎の槍がぼっ、と音を立てて、馬車の左へと飛んで行く。
間を置いて、それまで切れ切れに聞こえていたうなり声が、きゃひんと言う、泣いたようなものに変わる。
「当たったか!?」
「うん。でもまだ近付いて来る。
シノン、起きて!」
「おっ、起きてるよっ!」
膝立ちの姿勢で、シノンが寄ってくる。
「こっちに来て手伝って! 左にバケモノだ!」
「分かった!」
わずかに村に残っていた原料で作られた杖を手に、シノンも戦いに加わる。
「『ファイアボール』!」
先程の、ゼロが放ったものと比べて幾分小さい火球が、同じように吹雪の中へ飛んで行く。
しかし飛んで行って数秒経っても、何の反応も返って来ない。
「……当たってないっぽいね」
「って言うか、聞こえなくなった?」
3人、息を殺して気配を探るが、既にうなり声も、泣くような声も聞こえない。
「……ひとまず、撃退したって感じか」
「みたいだね。ごめん、寝てたのに」
小さく頭を下げたゼロに、シノンはふるふると首を振る。
「ううん、危なそうだから一応、起きてたよ」
「そっか」
そのままシノンの肩を抱き、頭を自分に寄せたゼロを横目で眺めつつ、フレンがこぼす。
「独り者にゃ目の毒なんだがねぇ。オマケに御者台の定員は2人なワケだし」
「あ、ごめん」
離れようとしたシノンに、フレンは手をぱたぱたと振って制止する。
「俺は気疲れしたから休むわ。またどっちか疲れたってなったら、交代するよ」
「はーい」
やがて吹雪も止み、雲間からチラホラと日が差し始めた。
「わあ……、きれい」
その光景を見て、シノンが嬉しそうな声を上げる。
「でもオレンジ色がかってきてる。もう日が暮れそうだ」
「早いね、日が暮れるの」
「冬だからね。まだ短くなるはずだよ」
ゼロの言葉に、シノンは目を丸くする。
「そうなの?」
「バケモノ対策とか色々あったから、最近は細かい観測ができてないけど、もうあと3週間もすれば、冬至――一年の中で一番、昼が短い日が来るはずだ。
でね、考えてたんだけど、その日を一年の始まりにしようかって思ってるんだ」
「始まり?」
「そう。その冬至の日を、暦の始まりにしようと思ってるんだ。
ちゃんとそれを決められて、1年を計れるようになったら、僕たちの村は、いや、世界は大きく変わる。『歴史』を作れるようになるんだ」
「レキシ?」
「人が生きた、証だよ。今は誰がいつ、何やったかなんて、生きてる内の分しか覚えられないし、その間しか認識できない。
でも紙に、何年何月に何があったって書き留めて保存しとけば、きっとずっとずっと未来の人にだって、僕たちがどんな生き方をしたかって言うことは、伝えられる。
僕たちも、僕たちがやったことも、誰かに憶えていてもらえるんだ」
「……」
ぎゅっと、シノンがゼロの袖を握る。
「あたしが生きてきたことも、憶えててもらえるの?」
「勿論さ。僕が死んで、君が死んだその後も、紙に書いておけば、僕たちのことを、ずっとずっと憶えててもらえる」
「……いいね。考えるだけで、楽しい」
シノンは嬉しそうにつぶやき、ゼロに寄りかかった。
「あたしのことも、ゼロのことも。ゲートやフレンや、メラノのことも。
みんな、憶えていてくれますように」
「……ああ。僕も、願うよ。みんなのことを、後のみんなが憶えていてくれることを」
ゼロも自分の頭をシノンの頭に乗せ、そう返した。
琥珀暁・南旅伝 終
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吹雪の中の接触。
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ゼロの顔から、笑みが消える。
「……どっちから?」
「馬車の向きを正面として、左の方だ。足音もする。雪の上をかなりデカいのが、こっちに向かってきてる」
「どれくらいで接触しそう?」
「多分、そんなにかからん」
「何頭いそう?」
「1頭だけっぽい」
「分かった。もっと出てきそうなら、また教えて」
そう返して、ゼロは懐から金と紫とに光る板を取り出した。
「ちょっと場所替わって。目視できた瞬間に攻撃したい」
「お、おう」
御者台の左側に座っていたフレンと場所を替わり、ゼロは呪文を唱え始めた。
「……***……***……、準備できた。馬を慌てさせないようにしてて」
「ああ」
やがて吹雪の音に混じり、確かに獣のような、グオオオ……、と言ううなり声が近付いて来る。
「……来た!」
ゼロは板を掲げ、叫んだ。
「『ファイアランス』!」
次の瞬間、炎の槍がぼっ、と音を立てて、馬車の左へと飛んで行く。
間を置いて、それまで切れ切れに聞こえていたうなり声が、きゃひんと言う、泣いたようなものに変わる。
「当たったか!?」
「うん。でもまだ近付いて来る。
シノン、起きて!」
「おっ、起きてるよっ!」
膝立ちの姿勢で、シノンが寄ってくる。
「こっちに来て手伝って! 左にバケモノだ!」
「分かった!」
わずかに村に残っていた原料で作られた杖を手に、シノンも戦いに加わる。
「『ファイアボール』!」
先程の、ゼロが放ったものと比べて幾分小さい火球が、同じように吹雪の中へ飛んで行く。
しかし飛んで行って数秒経っても、何の反応も返って来ない。
「……当たってないっぽいね」
「って言うか、聞こえなくなった?」
3人、息を殺して気配を探るが、既にうなり声も、泣くような声も聞こえない。
「……ひとまず、撃退したって感じか」
「みたいだね。ごめん、寝てたのに」
小さく頭を下げたゼロに、シノンはふるふると首を振る。
「ううん、危なそうだから一応、起きてたよ」
「そっか」
そのままシノンの肩を抱き、頭を自分に寄せたゼロを横目で眺めつつ、フレンがこぼす。
「独り者にゃ目の毒なんだがねぇ。オマケに御者台の定員は2人なワケだし」
「あ、ごめん」
離れようとしたシノンに、フレンは手をぱたぱたと振って制止する。
「俺は気疲れしたから休むわ。またどっちか疲れたってなったら、交代するよ」
「はーい」
やがて吹雪も止み、雲間からチラホラと日が差し始めた。
「わあ……、きれい」
その光景を見て、シノンが嬉しそうな声を上げる。
「でもオレンジ色がかってきてる。もう日が暮れそうだ」
「早いね、日が暮れるの」
「冬だからね。まだ短くなるはずだよ」
ゼロの言葉に、シノンは目を丸くする。
「そうなの?」
「バケモノ対策とか色々あったから、最近は細かい観測ができてないけど、もうあと3週間もすれば、冬至――一年の中で一番、昼が短い日が来るはずだ。
でね、考えてたんだけど、その日を一年の始まりにしようかって思ってるんだ」
「始まり?」
「そう。その冬至の日を、暦の始まりにしようと思ってるんだ。
ちゃんとそれを決められて、1年を計れるようになったら、僕たちの村は、いや、世界は大きく変わる。『歴史』を作れるようになるんだ」
「レキシ?」
「人が生きた、証だよ。今は誰がいつ、何やったかなんて、生きてる内の分しか覚えられないし、その間しか認識できない。
でも紙に、何年何月に何があったって書き留めて保存しとけば、きっとずっとずっと未来の人にだって、僕たちがどんな生き方をしたかって言うことは、伝えられる。
僕たちも、僕たちがやったことも、誰かに憶えていてもらえるんだ」
「……」
ぎゅっと、シノンがゼロの袖を握る。
「あたしが生きてきたことも、憶えててもらえるの?」
「勿論さ。僕が死んで、君が死んだその後も、紙に書いておけば、僕たちのことを、ずっとずっと憶えててもらえる」
「……いいね。考えるだけで、楽しい」
シノンは嬉しそうにつぶやき、ゼロに寄りかかった。
「あたしのことも、ゼロのことも。ゲートやフレンや、メラノのことも。
みんな、憶えていてくれますように」
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