「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・襲跡伝 1
神様たちの話、第20話。
惨劇の名残。
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1.
ゼロの予測通り、バケモノと接触しかけた翌日には、南の村に到着することができた。
だが――。
「こ、……こりゃあ」
「ひでえな……!」
村には人の気配も、まともな建物も、何一つ残ってはいなかった。
家と思しき残骸には血の跡がべっとりと付いており、その周りを囲むように、巨大な獣の足跡が円を描いている。
「襲われた、……か」
「血も乾いてるし、足跡もカチカチだ。襲われてから2日か3日以上経ってるみたいだね」
唖然とする一同に対し、ゼロは冷静を装った口ぶりで、状況を分析している。
「でも村の人は全員やられたってわけじゃ無さそうだよ。
服とか毛布とかが残ってない家がチラホラある。バケモノたちがそんなの食べるわけ無いしね。
それにほら、バケモノの足跡に混じって、靴っぽい足跡もあっちこっちに付いてる。大半が東の方に向かってるから、何人かはきっと生き残ってるさ。それに、えーと」「ゼロ」
まくし立てるようにしゃべり続けていたゼロに、シノンが抱きついた。
「分かってるよ。あなた、すごく戸惑ってるし、それにとっても悲しんでるってことも」
「え? ど、どう言う意味かな」
震えた声でそう返したゼロに、シノンは涙混じりの声で返す。
「あなたが悪いんじゃない。あたしたちは全速力でこの村に来たんだもん。それでも間に合わなかったんだから、どうしようもなかったんだよ」
「……し、シノン。いや、……僕は、……その、僕は、……ぐっ」
ゼロはまだ何か言おうとしたが、やがてシノンの頭に被せるように顔をうつむかせ、そのまま黙り込んだ。
ゼロたち一行にとっては幸いなことに、バケモノの姿も村跡には無かった。
「とりあえず、ゼロのことはシノンに任せとこう」
「ああ。俺たちじゃ何言ったって、耳に入りゃしないだろうからな」
ゲートとフレンは食糧や使える資材が無いか、辺りを確かめることにした。
「メラノの旦那は?」
「見回ってもらってる。もしバケモノがまた来たりなんかしたら、今のヘトヘトな俺たちでどうにかできるか分からんし。ゼロはまだ立ち直ってないだろうしな」
「言えてるな」
瓦礫を転々と回り、どうにか無事に残されていた野菜や果物を袋2つ分ほどかき集めたところで、メラノが戻って来た。
「とりあえず辺りにバケモノらしいのは見当たらねえ。多分大丈夫だ」
「ありがとよ、旦那。んじゃゼロの気分が良くなったら、結界張ってもらおう」
「おう。……っと、来た来た」
3人で固まっているところに、ゼロとシノンも入ってくる。
「ごめんね、みんな。もう大丈夫」
ゼロは、口ではそんな風に言ってはいるものの、未だ顔色は悪い。
「それが大丈夫って面かよ。お前のヒゲといい勝負ってくらい真っ白じゃねえか」
単純な気質らしく、メラノがずけずけと指摘した。
「ともかく、先にメシ食おうや。それに全員疲れ切ってるし、少しでも休めるうちに休まなきゃ、全員共倒れになっちまうぜ」
「……そうだね。うん、君の言う通りだ」
フレンとメラノが集めた食糧を調理する間、ゲートとシノンは、未だ蒼い顔をしているゼロに声をかける。
「ゼロ。辛いってのは見て分かるが、それでもお前がしっかりしてくれなきゃ、この旅を無事に終わらせられない。
まず、今後の予定を考えようぜ」
「ああ、うん。とりあえず――僕が最初考えてた予定通りには行かなかったけど――食糧は補充できた。あれだけあれば、当初の予定プラス2日か、3日は持つだろう。
だから今日はここで一泊して、明日の朝早くから鉱床に向かって、2日かけて原料を確保しようと思う。で、集められたらまっすぐ北に戻ろう。それならギリギリ、食糧は持つはずだ」
「まっすぐ?」
尋ねたシノンに、ゼロは「あ、いや」と小さく答える。その一瞬の間から、ゲートは彼が何を思っていたのかを察した。
「ゼロ、南の村の生き残りがいるかどうか、確かめたいんだろ?」
「……ああ。余裕があるなら、探して保護したい。それは確かに僕の希望だ。
だけどそんなことをすれば、ほぼ確実に僕たちは、クロスセントラルに到着する前に食糧が尽きて、飢え死にしちゃうだろうから」
「だけど俺はな、ゼロ」
ゼロの意見に対し、ゲートはこう返した。
「お前が人を見捨てて平然としてるようなヤツじゃないってことを、十分知ってる。
ここで確認せずに帰ったら、お前多分、一生気になって気になって仕方無くなるんじゃないか?」
「……僕もきっとそう思うよ」
力なくうなずいたゼロの手を、シノンが握りしめる。
「じゃあ行こう? あたしだって、もしそれで助かる人がいるなら、絶対行くよ」
「でも、食糧が足りなくなる危険が……」「そう言うことなら」
反論しかけたゼロのところに、フレンがやって来る。
「みんなが鉱床に行ったとこで、俺が周りに何か食べ物が無いか、探してみるぜ。
もし鉱床の方の人手が足らんってことなら、その時はそっちを手伝うが、5人もいて全員かかりっきりってこともそうそう無いだろうし」
「うーん……」
フレンの提案に、ゼロは考え込む様子を見せ、やがてうなずいた。
「そうだね。往路で迷いかけたことを考えれば、復路でも同じことが起こる可能性は高い。それを考えれば、食糧は現状でも十分か怪しい。
それを補うことを考えれば、どっちみち食糧は探さないといけないしね。頼んだよ、フレン」
「ああ、任せてくれ。……あ、そうそう。メシできたぜ」
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惨劇の名残。
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ゼロの予測通り、バケモノと接触しかけた翌日には、南の村に到着することができた。
だが――。
「こ、……こりゃあ」
「ひでえな……!」
村には人の気配も、まともな建物も、何一つ残ってはいなかった。
家と思しき残骸には血の跡がべっとりと付いており、その周りを囲むように、巨大な獣の足跡が円を描いている。
「襲われた、……か」
「血も乾いてるし、足跡もカチカチだ。襲われてから2日か3日以上経ってるみたいだね」
唖然とする一同に対し、ゼロは冷静を装った口ぶりで、状況を分析している。
「でも村の人は全員やられたってわけじゃ無さそうだよ。
服とか毛布とかが残ってない家がチラホラある。バケモノたちがそんなの食べるわけ無いしね。
それにほら、バケモノの足跡に混じって、靴っぽい足跡もあっちこっちに付いてる。大半が東の方に向かってるから、何人かはきっと生き残ってるさ。それに、えーと」「ゼロ」
まくし立てるようにしゃべり続けていたゼロに、シノンが抱きついた。
「分かってるよ。あなた、すごく戸惑ってるし、それにとっても悲しんでるってことも」
「え? ど、どう言う意味かな」
震えた声でそう返したゼロに、シノンは涙混じりの声で返す。
「あなたが悪いんじゃない。あたしたちは全速力でこの村に来たんだもん。それでも間に合わなかったんだから、どうしようもなかったんだよ」
「……し、シノン。いや、……僕は、……その、僕は、……ぐっ」
ゼロはまだ何か言おうとしたが、やがてシノンの頭に被せるように顔をうつむかせ、そのまま黙り込んだ。
ゼロたち一行にとっては幸いなことに、バケモノの姿も村跡には無かった。
「とりあえず、ゼロのことはシノンに任せとこう」
「ああ。俺たちじゃ何言ったって、耳に入りゃしないだろうからな」
ゲートとフレンは食糧や使える資材が無いか、辺りを確かめることにした。
「メラノの旦那は?」
「見回ってもらってる。もしバケモノがまた来たりなんかしたら、今のヘトヘトな俺たちでどうにかできるか分からんし。ゼロはまだ立ち直ってないだろうしな」
「言えてるな」
瓦礫を転々と回り、どうにか無事に残されていた野菜や果物を袋2つ分ほどかき集めたところで、メラノが戻って来た。
「とりあえず辺りにバケモノらしいのは見当たらねえ。多分大丈夫だ」
「ありがとよ、旦那。んじゃゼロの気分が良くなったら、結界張ってもらおう」
「おう。……っと、来た来た」
3人で固まっているところに、ゼロとシノンも入ってくる。
「ごめんね、みんな。もう大丈夫」
ゼロは、口ではそんな風に言ってはいるものの、未だ顔色は悪い。
「それが大丈夫って面かよ。お前のヒゲといい勝負ってくらい真っ白じゃねえか」
単純な気質らしく、メラノがずけずけと指摘した。
「ともかく、先にメシ食おうや。それに全員疲れ切ってるし、少しでも休めるうちに休まなきゃ、全員共倒れになっちまうぜ」
「……そうだね。うん、君の言う通りだ」
フレンとメラノが集めた食糧を調理する間、ゲートとシノンは、未だ蒼い顔をしているゼロに声をかける。
「ゼロ。辛いってのは見て分かるが、それでもお前がしっかりしてくれなきゃ、この旅を無事に終わらせられない。
まず、今後の予定を考えようぜ」
「ああ、うん。とりあえず――僕が最初考えてた予定通りには行かなかったけど――食糧は補充できた。あれだけあれば、当初の予定プラス2日か、3日は持つだろう。
だから今日はここで一泊して、明日の朝早くから鉱床に向かって、2日かけて原料を確保しようと思う。で、集められたらまっすぐ北に戻ろう。それならギリギリ、食糧は持つはずだ」
「まっすぐ?」
尋ねたシノンに、ゼロは「あ、いや」と小さく答える。その一瞬の間から、ゲートは彼が何を思っていたのかを察した。
「ゼロ、南の村の生き残りがいるかどうか、確かめたいんだろ?」
「……ああ。余裕があるなら、探して保護したい。それは確かに僕の希望だ。
だけどそんなことをすれば、ほぼ確実に僕たちは、クロスセントラルに到着する前に食糧が尽きて、飢え死にしちゃうだろうから」
「だけど俺はな、ゼロ」
ゼロの意見に対し、ゲートはこう返した。
「お前が人を見捨てて平然としてるようなヤツじゃないってことを、十分知ってる。
ここで確認せずに帰ったら、お前多分、一生気になって気になって仕方無くなるんじゃないか?」
「……僕もきっとそう思うよ」
力なくうなずいたゼロの手を、シノンが握りしめる。
「じゃあ行こう? あたしだって、もしそれで助かる人がいるなら、絶対行くよ」
「でも、食糧が足りなくなる危険が……」「そう言うことなら」
反論しかけたゼロのところに、フレンがやって来る。
「みんなが鉱床に行ったとこで、俺が周りに何か食べ物が無いか、探してみるぜ。
もし鉱床の方の人手が足らんってことなら、その時はそっちを手伝うが、5人もいて全員かかりっきりってこともそうそう無いだろうし」
「うーん……」
フレンの提案に、ゼロは考え込む様子を見せ、やがてうなずいた。
「そうだね。往路で迷いかけたことを考えれば、復路でも同じことが起こる可能性は高い。それを考えれば、食糧は現状でも十分か怪しい。
それを補うことを考えれば、どっちみち食糧は探さないといけないしね。頼んだよ、フレン」
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