黄輪雑貨本店 新館


    「琥珀暁」
    琥珀暁 第1部

    琥珀暁・襲跡伝 4

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    神様たちの話、第23話。
    喪失。

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    4.
     双頭狼の胸の辺りから背中にかけて大穴が空き、その巨体が蒸発していくとほぼ同時に、ゼロの掲げていた魔杖が水晶ごと燃え出した。
    「おわっ、あっちち、……あー、やっぱり過負荷になっちゃったか。あいつの術、威力高いんだけどオーバーロードしやすいんだよなぁ。安定性が無さすぎって言うか、あいつの性格が出てるって言うか」
     ゼロは魔杖をぽい、と捨て、手をバタバタと振って、焦げかけた手袋を冷ます。
    「落ち着いてきたら構文を書き直さなきゃ、危なっかしくて使えないよ。
     ……っと、シノン。大丈夫?」
     ゼロがくる、と振り返り、シノンと目が合った途端、シノンは泣き出してしまった。
    「ぜっ、……ゼロぉぉ」
    「うん、出血も止まってるみたいだね。あんまり深い傷じゃ無さそうだ」
    「きっ、きず、っ、て」
     嗚咽を上げながら尋ねたシノンのほおを、ゼロが布で優しく拭く。
    「言いにくいんだけどね、びっくりしないで聞いて欲しい。
     シノン、さっきのヤツに引っかかれたみたいだよ。右のほおに、爪痕が着いちゃってるんだ」
    「……えっ」
     言われて、シノンは自分のほおに手を当てる。
    「……あ」
     確かにびりっとした、突き刺さるような痛みがある。手のひらにも、べっとりと血が付いていた。
    「ごめんね。僕がもう少し早く、君が戻って来ないことに気が付いていれば、……メラノやフレンはともかく、君を傷付けさせることはさせなかったのに」
    「……ううん、助けて、くれたもん。ありがと。
     それで、……その、……メラノと、フレンは?」
    「これも、……言いにくいことなんだけど、その、一言だけ言うとね、……絶対、振り返っちゃダメだよ」
    「……っ」
     シノンは自分の足元を見て、自分のものでは無さそうな大量の血の跡が、雪道に残っていることを確認する。
     そのまま、その血の跡を目でたどろうとしたが、ゼロが彼女の目に手を当て、こう続けた。
    「見ちゃダメだってば」
    「……わか、った」
     背後の惨状を察し、シノンは目を覆われたままうなずいた。

     と――。
    「勝手に、殺すな……」
     うめくような声が、前方から聞こえてくる。
    「フレン?」
    「おう……」
     恐る恐る尋ねたシノンに、フレンの声が応える。
     ゼロが手を離したところで、顔を真っ青にしたフレンが、ガタガタと震えながら歩いてくるのが見えた。
    「生きてたの?」
    「ああ。いきなり背後から襲われたんだが、俺はどうにか山肌を滑り落ちて逃げた。
     メラノの旦那が叫んでる声がしたから、多分戦ってたんだと思うが、……あの様子じゃ、太刀打ち出来なかったみたいだな」
    「……」
     ゼロは答えず、シノンの肩をぎゅっと抱きしめた。



     メラノを失うと言う大きな痛手はあったものの、残った4人で2日間採掘と食料確保に努め、どうにか木箱2つ分の原料と袋4つ分の食糧を確保することができた。
    「じゃあ、出発するぜ」
    「うん」
     フレンが馬に鞭をやり、馬車を動かす。
    「最初の予定を変更して、近くに生き残りはいないか探す。それで良かったな?」
    「ああ」
     ゲートの確認に、ゼロは小さくうなずく。
    「……ごめんね」
     そうつぶやいたゼロに、シノンが尋ねる。
    「どうしたの?」
    「メラノに。助けてあげられなかったし、ちゃんとお墓も作れなかった」
    「おはか?」
    「亡くなった人が、あの世で安らかに過ごせることを願うためのものだよ」
    「あのよ?」
    「……ごめん、シノン。説明するには、ちょっと疲れたよ」
    「うん、また今度、聞かせて」
    「ああ」
     話しているうちに馬車は鉱床から遠く離れ、ふたたび真っ白な平原の中へと踏み込んでいった。

    「……」
     馬車の中の空気は重い。
     これまで明るく振舞っていたゼロが一言も発さず、ずっとうつむいたままでいるからだ。
    「……あのよ、ゼロ」
     耐えかねたらしく、ゲートが口を開く。
    「なに?」
     応じたゼロの声は、普段とは打って変わって沈んでいる。
    「お前の気持ちは分かる。……とは、言えない。きっとお前は、俺やらフレンやら、シノンが思っているよりずっと、強い決意でみんなを守ろう、みんなを助けようと思ってるだろうしな。
     だけど、そりゃ無茶ってもんじゃないのか?」
    「……」
     ゼロは答えず、真っ赤に腫れた目だけを向ける。
    「いや、お前には無理だとか、そんなことを言うつもりじゃない。お前はすげーヤツだ。俺たちの想像をはるかに超える、ものすげーヤツだってことは分かってるつもりだ。
     でも――俺なんかがこんなこと言ったって意味無いだろうが――何にだって限界はあるもんなんじゃないか?」
    「……」
    「いや、つまりさ、俺が何を言いたいかって言うとだな」「みんなでやろ、ってことだよ」
     しどろもどろになり始めたゲートをさえぎり、シノンが話を継いだ。
    「ゼロ、何でもかんでも一人で抱え込みすぎだもん。ゼロのすごさはあたしもゲートも知ってるけど、ゼロが繊細な人だってことも、同じくらい知ってるよ。
     だからさ、一人でああしよう、こうしようって突っ走らないで。あたしにできることはあたしに任せて。ゲートにできることはゲートに任せたらいいんだし」
    「……」
     ゼロはシノンにもゲートにも目を合わせず、小さくうなずいた。
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