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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第1部

    琥珀暁・襲跡伝 5

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    神様たちの話、第24話。
    「もしかしたら」。

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    5.
     前述の通り、ゼロは当初、原料を確保し次第クロスセントラルへと直帰する予定を立てていたが、南の村の生き残りを探すため、2日かけて近隣を捜索することになった。
    「ゼロよ、お前さんこないだ、もっと寒くなるなんてコトを言ってたが、いつくらいの話なんだ?」
     そう尋ねられ、ゼロは懐に入れていた紙をぺらぺらとめくりながら答える。
    「厳密には寒くなるって言うより、昼が短くなるって話なんだけど、まだ後10日くらい先かな。クロスセントラルに戻る頃がちょうど、一番短くなると思う。
     まあ、日照時間が短くなるんだから、実質的には寒くなるってことは間違い無いんだけど」
    「やっぱ寒くなんのかよ。んじゃ防寒具、編み直すかなぁ。尾袋使うの、もう俺だけだし」
    「……そうだね」
     しゅんとした顔になるゼロに、フレンは肩をすくめて返す。
    「あー、しょげんなって、ゼロ。重ねて言うけどさ、アイツは自分で突っ込んだんだからよ、お前が間に合う間に合わないの話じゃなかったんだって」
    「うん、まあ、……分かってるつもりだよ」
    「まあ、そんでさ。もうひとつ気になるのは、もっと寒くなるってのに、生き残りなんかいるのかなって、さ」
    「それは、……考えてないわけじゃない」
     ゼロは表情を堅くし、フレンから目をそらす。
    「確かに徒労かも知れない。見付けてみたら手遅れだ、なんてことは十分に有り得ることだ。
     でももしかしたら、万が一、そう言う可能性も捨てきれない。僕たちが行くことで助けられる命があるかも知れない。
     それに、……話を蒸し返すようだけど、……僕はやっぱりこれ以上、人が死ぬのは見たくないんだよ」
    「そりゃ、俺もだよ。ま、変なコト言っちまったけども、俺もアンタと同じ気持ちだ、同じ意見だってコトを強調したかったんだ。
     見付けられるといいな、生き残り」
    「……うん」
    「で、ゼロ」
     フレンはどこまでも続く雪原を見回し、こう尋ねた。
    「当てはあるのか? まさか勘だのみだったり、バケモノの鳴き声を頼りにしたり、なんてバカなコトは言わないよな?」
    「ああ、勿論さ。ちゃんと考えてある。
     南の村跡を探って、村の人たちがどこへ向かったか、足跡とかである程度の見当は付けてる。その方向から、目立ちそうな木とか川とか、村の人が目印にしそうなものを追って行く感じで進もうと思ってる。
     だからフレン、まずは川まで進んでみよう」
    「おう、分かった」

     ゼロの指示通り、馬車はまず、南の村跡の近くにあった川まで進み、そこから川に沿って北東へと進んだ。
    「もし見付からなくても、この方向ならクロスセントラルに近付けるからね。無駄骨を折るようなことにはならないさ」
    「なるほどな」
     その日は吹雪も無く、一行は遠くまで見渡すことができた。
     しかし地面は一面雪で覆われており、人の足跡などは見当たらない。
    「あるのは、鹿やトナカイなんかの足跡ばかり、……か」
    「ダメ元なんだからよ、気ぃ詰めんなって」
     なだめるゲートに、ゼロは珍しく、苛立った目を向けた。
    「ゲート、どうしてそんなことばかり言うんだ?」
    「ん、……あ、いや、気にすんなよってことで」
    「見つかってほしくないのか?」
    「いや、そうじゃねえよ。そりゃ誰か生き残りがいたら、そっちの方が嬉しいさ。……だけど、……正直に聞くけどさ、お前は見付かると思ってんのか?」
     尋ね返したゲートに、ゼロは表情を曇らせる。
    「僕は元来、楽天家な方だ。大抵の物事は自分の気の持ちようで『いいことだった』と思えるはずだ、……って思って生きてきた。
     だけど世の中は、世界はそうじゃなかったってことは、今は良く分かってる。どう捉えたって悪いことにしかならないって物事も、この世には確かにあるんだ。
     今取り掛かってることは、結果的にその一つになるのかも知れない――このまま、いもしない生き残りを闇雲に探し回って、僕たちは凍死するか、あるいはバケモノに襲われるかも知れない。そう言う考えは、確かに何度も僕の頭の中をよぎってる」
    「……」
     ゼロはゲートから顔を背け、ぼそぼそとした声でこう続けた。
    「だけど、……やっぱり、僕はどこか楽天家のままなんだろう。もう一方の『もしかしたら』を、僕は捨て切れないんだ。
     もしかしたらまだ生き残りがいて、助けを待っているんじゃないかって」
    「そうかもな」
     ゲートはぽんぽんとゼロの肩を叩き、こう返した。
    「俺だってフレンだってシノンだって、そっちの『もしかしたら』を期待してるクチだよ。だからこうやって、帰りを遅らせてんじゃねーか」
    「……うん」
     ようやくゼロが振り返り、ゲートに向かってうなずきかけた。
     と――その顔が、驚愕したものに変わった。
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