「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・襲跡伝 6
神様たちの話、第25話。
いのり。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「ゲート!」
驚いた顔のゼロに、ゲートも面食らう。
「な、何だよ?」
「後ろ! あれ見て!」
「後ろ?」
言われるままに振り返り、川岸にぽこ、ぽこと小さな塊があることに気付く。
「あれ、って……、え、まさか?」
「行こう!」
「お、おうっ!」
ゲートは慌てて手綱を引き、馬車を急転回させる。
その塊のすぐ近くまで来たところで、ゼロが馬車から飛び降りた。
「……やっぱり!」
ゼロがばさばさと表面の雪を振り払い、その塊が人であったことを、ゲートも確認した。
「生きてる、……のか?」
「いや、……残念だけど死んでる。ひどくやつれてる。多分南の村からここまで、ずっと歩いてきたんだろう。
外傷は無いから、恐らく凍死だと……」
ゼロの説明が、途中で止まる。
「どうした?」
「……ゲート! 手伝ってくれ!」
「え? 何を?」
「下だ! 下に誰かいるんだ!」
「……は?」
ゼロに言われるがまま、ゲートは慌てて、二人で遺体を横にずらす。
遺体の下には穴が掘られており、そこに顔を真っ青にした短耳の子供が2人、うずくまっているのを確認した。
「こっちも死んでる、……のか?」
「バカなこと言うな! 死にかけてるけど、まだだ! まだ生きてる!」
ゼロは早口にそう返し、懐から金と紫に光る板を取り出して、呪文を唱え始めた。
「助けてやる! 死ぬんじゃないぞ! 『リザレクション』!」
魔術が発動された瞬間、辺りは温かな光に包まれる。
「なん……だ? 何か……浴びてるだけで……心地良い……ような……」
思わず、ゲートはそうつぶやく。
そしてその感想は、子供たちにも同様であったらしい。みるみるうちに顔色が良くなり、同時にぱちっと目を開けた。
「……おじいさん、だれ?」
「おじさんじゃない?」
二人に揃って尋ねられたところで、ゼロはボタボタと涙を流し始めた。
「良かった……助けられた……!」
念のため、ゼロたちはこの周辺に倒れていた人々の様子も改めたが、やはり生き残っていたのはこの子供たち、2人だけだった。
「はい、お芋のスープ。すぐ冷めると思うけど、気を付けて飲んでね」
シノンが作ったスープをごくごくと飲み干し、二人は同時にため息をついた。
「はあ……」「おいしい」
「ねえ、あなたたち、名前は?」
おかわりを注ぎながら尋ねたシノンに、二人は揃って名前を名乗る。
「わたしはヨラン」
「ザリンです」
「よろしく、ヨラン、ザリン。あなたたち、南の村の子だよね?」
続けて尋ねたが、ヨランたちは揃って首をかしげる。
「わかんない」
「おとうさんが『あぶない』っていって、ここまでつれてこられたもん」
「そっか」
同じようにスープを受け取りながら、今度はゼロが尋ねる。
「どうしてお父さんは、君たちを村から連れ出したのかな?」
「なんか、がおーっていう、おっきないぬさんがいた」
「おおかみだよ。おとうさん、すごくこわいかおであたしたちをひっぱってった」
続いて、フレンが尋ねる。
「お前ら、姉妹か?」
「うん」
「ヨランがおねーちゃん」
最後にもう一度、ゼロが質問した。
「君たちを穴に入れたのは、お父さん?」
「うん」
「さむいからここにはいりなさいって」
「確かに、ああすれば子供たちだけでも助かる可能性は高まる。……でも、相当な決断だったろうな。
自分の命を犠牲にしてでも、……か」
ゼロはシノンにスープの器を返し、袖をめくり始めた。
「どしたの?」
尋ねたシノンに、ゼロはこう答えた。
「お墓を作る。この子たちを身を挺して守った人に、敬意を払わなきゃ」
「あたしも手伝うよ」
「ありがとう。助かる」
ゼロたちは川から離れたところにいくつもの穴を掘り、そこへ亡くなった人々を埋葬した。
「墓石も立てて、……これでよし。後は、祈ろう」
「いのる?」
「お墓の説明した時に言っただろ? 『あの世で安らかに過ごせることを願う』って。その儀式さ」
シノンにそう返し、ゼロは墓石の前に屈み、両掌を組んだ。
「……」
と、シノンもその横にしゃがみ、同じように両掌を組む。
「こんな感じ?」
「うん、そんな感じ。後は心の中で、この人たちの冥福を願うんだ。『どうか生き残った人たちのことは心配せず、安らかに眠っていて下さい』って」
「分かった」
シノンはうなずき、ゼロと共に、静かに祈る。
そして二人に続いて、ヨランとザリンも座り込み、両掌を合わせた。
「おやすみなさい」
「げんきでね」
その様子を眺めながら、ゲートとフレンも苦笑しつつ加わった。
「元気でってのは何か違うよな……」
「だなぁ」
そのまま6人で、黙々と祈りを捧げ続けた。
琥珀暁・襲跡伝 終
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いのり。
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6.
「ゲート!」
驚いた顔のゼロに、ゲートも面食らう。
「な、何だよ?」
「後ろ! あれ見て!」
「後ろ?」
言われるままに振り返り、川岸にぽこ、ぽこと小さな塊があることに気付く。
「あれ、って……、え、まさか?」
「行こう!」
「お、おうっ!」
ゲートは慌てて手綱を引き、馬車を急転回させる。
その塊のすぐ近くまで来たところで、ゼロが馬車から飛び降りた。
「……やっぱり!」
ゼロがばさばさと表面の雪を振り払い、その塊が人であったことを、ゲートも確認した。
「生きてる、……のか?」
「いや、……残念だけど死んでる。ひどくやつれてる。多分南の村からここまで、ずっと歩いてきたんだろう。
外傷は無いから、恐らく凍死だと……」
ゼロの説明が、途中で止まる。
「どうした?」
「……ゲート! 手伝ってくれ!」
「え? 何を?」
「下だ! 下に誰かいるんだ!」
「……は?」
ゼロに言われるがまま、ゲートは慌てて、二人で遺体を横にずらす。
遺体の下には穴が掘られており、そこに顔を真っ青にした短耳の子供が2人、うずくまっているのを確認した。
「こっちも死んでる、……のか?」
「バカなこと言うな! 死にかけてるけど、まだだ! まだ生きてる!」
ゼロは早口にそう返し、懐から金と紫に光る板を取り出して、呪文を唱え始めた。
「助けてやる! 死ぬんじゃないぞ! 『リザレクション』!」
魔術が発動された瞬間、辺りは温かな光に包まれる。
「なん……だ? 何か……浴びてるだけで……心地良い……ような……」
思わず、ゲートはそうつぶやく。
そしてその感想は、子供たちにも同様であったらしい。みるみるうちに顔色が良くなり、同時にぱちっと目を開けた。
「……おじいさん、だれ?」
「おじさんじゃない?」
二人に揃って尋ねられたところで、ゼロはボタボタと涙を流し始めた。
「良かった……助けられた……!」
念のため、ゼロたちはこの周辺に倒れていた人々の様子も改めたが、やはり生き残っていたのはこの子供たち、2人だけだった。
「はい、お芋のスープ。すぐ冷めると思うけど、気を付けて飲んでね」
シノンが作ったスープをごくごくと飲み干し、二人は同時にため息をついた。
「はあ……」「おいしい」
「ねえ、あなたたち、名前は?」
おかわりを注ぎながら尋ねたシノンに、二人は揃って名前を名乗る。
「わたしはヨラン」
「ザリンです」
「よろしく、ヨラン、ザリン。あなたたち、南の村の子だよね?」
続けて尋ねたが、ヨランたちは揃って首をかしげる。
「わかんない」
「おとうさんが『あぶない』っていって、ここまでつれてこられたもん」
「そっか」
同じようにスープを受け取りながら、今度はゼロが尋ねる。
「どうしてお父さんは、君たちを村から連れ出したのかな?」
「なんか、がおーっていう、おっきないぬさんがいた」
「おおかみだよ。おとうさん、すごくこわいかおであたしたちをひっぱってった」
続いて、フレンが尋ねる。
「お前ら、姉妹か?」
「うん」
「ヨランがおねーちゃん」
最後にもう一度、ゼロが質問した。
「君たちを穴に入れたのは、お父さん?」
「うん」
「さむいからここにはいりなさいって」
「確かに、ああすれば子供たちだけでも助かる可能性は高まる。……でも、相当な決断だったろうな。
自分の命を犠牲にしてでも、……か」
ゼロはシノンにスープの器を返し、袖をめくり始めた。
「どしたの?」
尋ねたシノンに、ゼロはこう答えた。
「お墓を作る。この子たちを身を挺して守った人に、敬意を払わなきゃ」
「あたしも手伝うよ」
「ありがとう。助かる」
ゼロたちは川から離れたところにいくつもの穴を掘り、そこへ亡くなった人々を埋葬した。
「墓石も立てて、……これでよし。後は、祈ろう」
「いのる?」
「お墓の説明した時に言っただろ? 『あの世で安らかに過ごせることを願う』って。その儀式さ」
シノンにそう返し、ゼロは墓石の前に屈み、両掌を組んだ。
「……」
と、シノンもその横にしゃがみ、同じように両掌を組む。
「こんな感じ?」
「うん、そんな感じ。後は心の中で、この人たちの冥福を願うんだ。『どうか生き残った人たちのことは心配せず、安らかに眠っていて下さい』って」
「分かった」
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そして二人に続いて、ヨランとザリンも座り込み、両掌を合わせた。
「おやすみなさい」
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