「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・創史伝 1
神様たちの話、第26話。
ゼロの仮説。
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1.
ほぼ1ヶ月ぶりに戻ったゼロたちの馬車を見て、クロスセントラルの村人たちはどよめいていた。
「ゼロが帰って来た!」
「タイムズ、生きてたのか!」
「みんな無事なのか!?」
村人たちに総出で出迎えられるが、ゼロは憔悴した顔で淡々と応じている。
「原料は手に入れた。30人分くらいはある。すぐ製造に取り掛かろう。
全員無事には帰れなかった。残念だけどメラノが死んだ。途中で、バケモノに襲われたんだ。
あと、南の村の生き残りを2人連れて帰って来た。まだ小さい子たちだから、優しくしてあげてほしい。
皆の方はどうだった? バケモノは出なかった?」
尋ねたゼロに、村人は表情をこわばらせる。
「出たんだね?」
「あ、ああ。村に出たわけじゃないが、結構近くで出くわした。向こうは気付いてなかったみたいだから、何とか逃げられたけど」
「いつ?」
「3日前だ。西の方に」
「それ以外には?」
「北でも見た。4日前に」
「じ、実は俺も見た。5日前に、東で」
「……」
一連の目撃報告を聞き、ゼロも顔色が変わる。
「時系列で見れば、東、北、西とぐるぐる回ってるのか。でも南には出なかった?」
「ああ」
「聞いたこと無いな」
「僕たちも南から帰って来たけど、出くわさなかった。妙だね」
ゼロの言葉に、村人たちはさらに表情を堅くする。
「妙って、何が?」
「まるで偵察してるみたいだ」
「てい、……え?」
「僕たちをじーっと、遠巻きに見つめてきてるみたいな、そんな気持ちの悪さがある。
連日のように目撃されてたのに、この3日ぱたっと見なくなっちゃったって言うのが、すごく不気味だ。
もうあんまり、時間に余裕が無いのかも知れない。みんな、大急ぎで準備に取り掛かってくれ」
真剣なゼロの眼差しと声色に、村人たちはゴクリと息を呑み、大慌てで馬車から原料を運び始めた。
と、共に運び出そうと動きかけたゲートとフレンの肩をゼロがとん、とんと叩き、横にいたシノンの手を引く。
「ゲート、フレン、シノン。ちょっと、話しておきたいことがある」
「何だよ、改まって?」
「……いや、話したいって言うよりも、どちらかと言えば自分の頭の中を整理するために、話を聞いて欲しいって感じかな。
ともかく、4人で話せるところに行こう」
場所をゼロとシノンの家に移し、ゼロは――穏やかで優しげな、しかしどこか盤石の自信をほのかに見せる、いつもの彼らしくない素振りで――ぽつぽつと話し始めた。
「みんなはバケモノのことを、獣(けだもの)の延長線上のものと思っているかも知れない。いや、誰だってそう思うだろう。僕だってこの目で見るまでは、そう言うものだって思ってた。
だから僕のこの仮説は、はっきりと、『そんなわけない』って笑い飛ばしてくれて構わない」
「何が言いたいんだ?」
首を傾げるゲートに応じず、ゼロは話を続ける。
「僕は感じているんだ。バケモノに何か、単なる獣以上の意志が宿っていることを。
いや、意志と言うよりも、それはむしろ行動規範(プロトコル)と言うべきものだろうか」
「こうどうきはん?」
きょとんとするシノンに、ゼロは優しく説明する。
「『こう言うことが起これば、何があろうとも必ずこう動くべし』って言う、ものすごく厳格な命令って意味かな。
そう、まさにそれなんだ。バケモノたちは執拗に、ヒトを襲い続けている。まるで誰かからそう命じられているかのように」
ゼロの意見に対し、フレンは肩をすくめて返す。
「考えすぎだろ。襲ってきてんのもハラが減ってるからとか、そーゆーヤツだろ」
「それなら妙な点がある。南の村跡で、僕たちは食糧をかき集めただろ?」
「ああ。……あ?」
うなずいたフレンが、そこで首を傾げる。
「そう、そこなんだ。もしバケモノが空腹で、手当たり次第に食い荒らしたって言うなら、何故食糧はそのまま残されてたんだろうか? 食い荒らされた跡すら――人間以外には――見当たらなかったし。
君と初めて会った時にしても、近くをうろついてた羊には目もくれずに、君や僕らを襲ってきた。明らかに僕たちより羊の方が、食いでがあるように見えるのにね」
「……確かにな」
「それにもう一つ、変なことがある。
旅の往路で、僕たちはバケモノとすれ違った。あれは今思い返してみると、南の村から逃げてきた人たちを追ってたんだろう。
だけどフレンの言う通り、空腹を理由として襲いかかっていたと言うのなら、僕たちが見付けたヨランたちのお父さんや、一緒にいた村の人が五体無事に遺ってたってことも妙だ。かじったような跡すら無かったよね?」
「そう……だな」
フレンに続き、ゲートも神妙な顔になる。
「今までの遭遇談をまとめると、バケモノは『生きてる人間』しか襲っていないんだ。そこに僕は、獣としての本能以上の『何か』を感じずにはいられない。
あいつらはまるで、僕たち人間だけを狙って攻撃してきてるようにしか思えないんだ」
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ゼロの仮説。
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ほぼ1ヶ月ぶりに戻ったゼロたちの馬車を見て、クロスセントラルの村人たちはどよめいていた。
「ゼロが帰って来た!」
「タイムズ、生きてたのか!」
「みんな無事なのか!?」
村人たちに総出で出迎えられるが、ゼロは憔悴した顔で淡々と応じている。
「原料は手に入れた。30人分くらいはある。すぐ製造に取り掛かろう。
全員無事には帰れなかった。残念だけどメラノが死んだ。途中で、バケモノに襲われたんだ。
あと、南の村の生き残りを2人連れて帰って来た。まだ小さい子たちだから、優しくしてあげてほしい。
皆の方はどうだった? バケモノは出なかった?」
尋ねたゼロに、村人は表情をこわばらせる。
「出たんだね?」
「あ、ああ。村に出たわけじゃないが、結構近くで出くわした。向こうは気付いてなかったみたいだから、何とか逃げられたけど」
「いつ?」
「3日前だ。西の方に」
「それ以外には?」
「北でも見た。4日前に」
「じ、実は俺も見た。5日前に、東で」
「……」
一連の目撃報告を聞き、ゼロも顔色が変わる。
「時系列で見れば、東、北、西とぐるぐる回ってるのか。でも南には出なかった?」
「ああ」
「聞いたこと無いな」
「僕たちも南から帰って来たけど、出くわさなかった。妙だね」
ゼロの言葉に、村人たちはさらに表情を堅くする。
「妙って、何が?」
「まるで偵察してるみたいだ」
「てい、……え?」
「僕たちをじーっと、遠巻きに見つめてきてるみたいな、そんな気持ちの悪さがある。
連日のように目撃されてたのに、この3日ぱたっと見なくなっちゃったって言うのが、すごく不気味だ。
もうあんまり、時間に余裕が無いのかも知れない。みんな、大急ぎで準備に取り掛かってくれ」
真剣なゼロの眼差しと声色に、村人たちはゴクリと息を呑み、大慌てで馬車から原料を運び始めた。
と、共に運び出そうと動きかけたゲートとフレンの肩をゼロがとん、とんと叩き、横にいたシノンの手を引く。
「ゲート、フレン、シノン。ちょっと、話しておきたいことがある」
「何だよ、改まって?」
「……いや、話したいって言うよりも、どちらかと言えば自分の頭の中を整理するために、話を聞いて欲しいって感じかな。
ともかく、4人で話せるところに行こう」
場所をゼロとシノンの家に移し、ゼロは――穏やかで優しげな、しかしどこか盤石の自信をほのかに見せる、いつもの彼らしくない素振りで――ぽつぽつと話し始めた。
「みんなはバケモノのことを、獣(けだもの)の延長線上のものと思っているかも知れない。いや、誰だってそう思うだろう。僕だってこの目で見るまでは、そう言うものだって思ってた。
だから僕のこの仮説は、はっきりと、『そんなわけない』って笑い飛ばしてくれて構わない」
「何が言いたいんだ?」
首を傾げるゲートに応じず、ゼロは話を続ける。
「僕は感じているんだ。バケモノに何か、単なる獣以上の意志が宿っていることを。
いや、意志と言うよりも、それはむしろ行動規範(プロトコル)と言うべきものだろうか」
「こうどうきはん?」
きょとんとするシノンに、ゼロは優しく説明する。
「『こう言うことが起これば、何があろうとも必ずこう動くべし』って言う、ものすごく厳格な命令って意味かな。
そう、まさにそれなんだ。バケモノたちは執拗に、ヒトを襲い続けている。まるで誰かからそう命じられているかのように」
ゼロの意見に対し、フレンは肩をすくめて返す。
「考えすぎだろ。襲ってきてんのもハラが減ってるからとか、そーゆーヤツだろ」
「それなら妙な点がある。南の村跡で、僕たちは食糧をかき集めただろ?」
「ああ。……あ?」
うなずいたフレンが、そこで首を傾げる。
「そう、そこなんだ。もしバケモノが空腹で、手当たり次第に食い荒らしたって言うなら、何故食糧はそのまま残されてたんだろうか? 食い荒らされた跡すら――人間以外には――見当たらなかったし。
君と初めて会った時にしても、近くをうろついてた羊には目もくれずに、君や僕らを襲ってきた。明らかに僕たちより羊の方が、食いでがあるように見えるのにね」
「……確かにな」
「それにもう一つ、変なことがある。
旅の往路で、僕たちはバケモノとすれ違った。あれは今思い返してみると、南の村から逃げてきた人たちを追ってたんだろう。
だけどフレンの言う通り、空腹を理由として襲いかかっていたと言うのなら、僕たちが見付けたヨランたちのお父さんや、一緒にいた村の人が五体無事に遺ってたってことも妙だ。かじったような跡すら無かったよね?」
「そう……だな」
フレンに続き、ゲートも神妙な顔になる。
「今までの遭遇談をまとめると、バケモノは『生きてる人間』しか襲っていないんだ。そこに僕は、獣としての本能以上の『何か』を感じずにはいられない。
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