「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・創史伝 3
神様たちの話、第28話。
無明の夜戦。
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3.
ゼロたちは全速力で南東から東へ向かおうとしたが、彼らもその道中で次々と、バケモノたちに出くわしていた。
「ま、まただ! またあのでけー牛だーっ!」
「来るな! 寄るんじゃねえーッ!」
付随していた村人たちがバラバラに火球を撃ち込むが、巨牛はビクともしない。
「一斉に撃つんだ! 揃えてくれ! 僕がまず撃つ!」
どうにか皆をなだめ、態勢を整えさせつつ、ゼロが攻撃する。
「『フォックスアロー』!」
ゼロの構える魔杖から紫色の光線が9つ放たれ、巨牛の体を貫く。
「今だッ!」
ゼロの号令に合わせ、火球が先程と同様、巨牛の頭を燃やす。
「……よし! 倒せた!」
「また来てる、ゼロ! 今度は狼みたいなの!」
一体倒してもすぐ、新手が押し寄せてくる。
「きりが無え! どんだけ倒せばいいんだ……!?」
「ゼロがいるってのにこんなに苦戦してんじゃ、他のとこはもう……!」
悲観的な意見を、ゼロが一喝した。
「諦めるな! 確かに僕だけじゃ苦戦してるけど、でもみんながとどめを刺してるじゃないか! だったら、僕抜きだって戦えるってことだ! そうだろ!?」
「そ、……そっか、そうだよな」
「ああ、みんな頑張ってるさ! きっと生きてる! それにまだやぐらも倒れてないし、僕たちは村の外で全部、バケモノを倒してきてる! まだ村は無事だ!
このまま押し返すんだ! 一匹たりとも、村に近付けるな!」
「おうッ!」
ゼロは何度も村人たちを鼓舞し、焚き付け、戦意を維持させる。
だが――。
「……ひでえ」
「もしかして、……これ、マノかよ」
「あっちのは、メイ、……の体、か」
「こんなこと……!」
村の南東から東、そして北東へと進んだところで、ゼロたちは戦闘要員だった村人の死骸をいくつも発見する。
「もう5、6人は死んでるぞ、これ……」
「やっぱり、……やっぱり、ダメなのか……!?」
「なあ、タイムズ、どうなんだ……? 俺たちは、生き残れるのか……?」
シノンも含め、村人たちは顔を青ざめさせ、または土気色に染めながら、ゼロを見つめる。
ゼロもまた、今にも泣きそうに顔を歪めながら、こう返した。
「生き残らなくちゃならない。ここで僕たちも死んだら、何も残らないじゃないか」
「……でも……でも……!」
これまでずっと、ゼロに付いてきたシノンも、既にボタボタと涙を流している。
と――半ば棒立ちになっていた彼らの前に、またもバケモノが現れた。
「また出てきた……!」
「もう俺たち、10体は倒してるってのに、まだ出てくるのか……!?」
「いつまで続くんだ……もういやだ……」
村人たちの戦意は、目に見えてしぼんでいく。
ゼロはもう一度鼓舞しようとしたらしく、口を開きかける。だが、迷ったような表情を見せ、そこから何もしゃべろうとしない。
「……ゼロ?」
シノンが泣きながら、ゼロにしがみつく。
「どうしたの? 撃ってよ、ゼロ!」
「……」
「……ゼロ……」
やがてシノンも、何も言えなくなる。
この時ゼロの目に、この半年間で初めて絶望的な色が浮かんでいたのを見たからだ。
その時だった。
「ボーッと突っ立ってんじゃねえぞ、ゼロ!」
ぼっ、と音を立て、火球がバケモノの体を、左右両方から貫く。
火球が来た方向にきょろきょろと首を向け、シノンが叫ぶ。
「フレン! それにゲートも!」
バケモノの両側から、ゲートとフレンの隊が現れた。
「こんなとこでへばっててどーすんだよ? まだどっかにいるかも知れねーだろーが」
「あ、……ああ、うん、そうだね」
ゲートに叱咤され、ゼロはかくかくとうなずく。
続いて、フレンも怒鳴る。
「ギリギリだけどもな、俺たちはまだ生きてる! ここで俺たちが踏ん張らなきゃ、みんなが生き残れねえんだよ!
考えてもみろよ、お前ら何匹倒した? 俺んトコは7匹だぞ」
ゲートが続く。
「俺んとこは6匹だ。それだけで13匹も倒したってことになる。ゼロ、お前んとこはどうなんだ? 5匹くらいはやってんのか?」
「10匹やっつけたよ」
「すげーじゃねーか。やっぱお前はすげーよ」
ニヤニヤしながら、ゲートがゼロの肩を叩く。
「となりゃもう、23匹になる。まだ大勢いると思うか?」
「……確かに、あの大きさのバケモノがまだ、20体も30体も残ってるとは考え辛い。そうだね、もしかしたらもう、峠を越してるのかも知れない」
「だろ?」
ゼロたちの会話に、他の村人たちも表情がほころび始める。
「そっか、この3隊でそんだけ倒してるなら、他んとこだって結構やってるよな」
「って言うかまだ、村で生き残ってる奴の数より多いってことは無いよな……?」
「じゃあもうちょっと頑張ったらやれる、……かも、ってこと?」
ゼロ自身も気力が戻って来たらしく、いつもの穏やかな笑顔を浮かべていた。
「みんな。……正直言うと、僕も参ってた。倒しても倒してもきりが無いって、打ちのめされそうになってた。
でもゲートとフレンの言う通りだ。20体以上も倒してて、まだこの2倍も3倍も残ってるなんて思えない。ましてや無限に湧いてくるって言うなら、とっくの昔に村は滅ぼされてるはずだしね。
あと何体いるのか、確かに分からない。でも油断せず、緊張を途切れさせず、ひたすら倒し続ければきっと、終わりは来る。明けない夜は無いようにね」
ゼロの言葉に、その場にいた皆が大きくうなずいた。
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無明の夜戦。
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ゼロたちは全速力で南東から東へ向かおうとしたが、彼らもその道中で次々と、バケモノたちに出くわしていた。
「ま、まただ! またあのでけー牛だーっ!」
「来るな! 寄るんじゃねえーッ!」
付随していた村人たちがバラバラに火球を撃ち込むが、巨牛はビクともしない。
「一斉に撃つんだ! 揃えてくれ! 僕がまず撃つ!」
どうにか皆をなだめ、態勢を整えさせつつ、ゼロが攻撃する。
「『フォックスアロー』!」
ゼロの構える魔杖から紫色の光線が9つ放たれ、巨牛の体を貫く。
「今だッ!」
ゼロの号令に合わせ、火球が先程と同様、巨牛の頭を燃やす。
「……よし! 倒せた!」
「また来てる、ゼロ! 今度は狼みたいなの!」
一体倒してもすぐ、新手が押し寄せてくる。
「きりが無え! どんだけ倒せばいいんだ……!?」
「ゼロがいるってのにこんなに苦戦してんじゃ、他のとこはもう……!」
悲観的な意見を、ゼロが一喝した。
「諦めるな! 確かに僕だけじゃ苦戦してるけど、でもみんながとどめを刺してるじゃないか! だったら、僕抜きだって戦えるってことだ! そうだろ!?」
「そ、……そっか、そうだよな」
「ああ、みんな頑張ってるさ! きっと生きてる! それにまだやぐらも倒れてないし、僕たちは村の外で全部、バケモノを倒してきてる! まだ村は無事だ!
このまま押し返すんだ! 一匹たりとも、村に近付けるな!」
「おうッ!」
ゼロは何度も村人たちを鼓舞し、焚き付け、戦意を維持させる。
だが――。
「……ひでえ」
「もしかして、……これ、マノかよ」
「あっちのは、メイ、……の体、か」
「こんなこと……!」
村の南東から東、そして北東へと進んだところで、ゼロたちは戦闘要員だった村人の死骸をいくつも発見する。
「もう5、6人は死んでるぞ、これ……」
「やっぱり、……やっぱり、ダメなのか……!?」
「なあ、タイムズ、どうなんだ……? 俺たちは、生き残れるのか……?」
シノンも含め、村人たちは顔を青ざめさせ、または土気色に染めながら、ゼロを見つめる。
ゼロもまた、今にも泣きそうに顔を歪めながら、こう返した。
「生き残らなくちゃならない。ここで僕たちも死んだら、何も残らないじゃないか」
「……でも……でも……!」
これまでずっと、ゼロに付いてきたシノンも、既にボタボタと涙を流している。
と――半ば棒立ちになっていた彼らの前に、またもバケモノが現れた。
「また出てきた……!」
「もう俺たち、10体は倒してるってのに、まだ出てくるのか……!?」
「いつまで続くんだ……もういやだ……」
村人たちの戦意は、目に見えてしぼんでいく。
ゼロはもう一度鼓舞しようとしたらしく、口を開きかける。だが、迷ったような表情を見せ、そこから何もしゃべろうとしない。
「……ゼロ?」
シノンが泣きながら、ゼロにしがみつく。
「どうしたの? 撃ってよ、ゼロ!」
「……」
「……ゼロ……」
やがてシノンも、何も言えなくなる。
この時ゼロの目に、この半年間で初めて絶望的な色が浮かんでいたのを見たからだ。
その時だった。
「ボーッと突っ立ってんじゃねえぞ、ゼロ!」
ぼっ、と音を立て、火球がバケモノの体を、左右両方から貫く。
火球が来た方向にきょろきょろと首を向け、シノンが叫ぶ。
「フレン! それにゲートも!」
バケモノの両側から、ゲートとフレンの隊が現れた。
「こんなとこでへばっててどーすんだよ? まだどっかにいるかも知れねーだろーが」
「あ、……ああ、うん、そうだね」
ゲートに叱咤され、ゼロはかくかくとうなずく。
続いて、フレンも怒鳴る。
「ギリギリだけどもな、俺たちはまだ生きてる! ここで俺たちが踏ん張らなきゃ、みんなが生き残れねえんだよ!
考えてもみろよ、お前ら何匹倒した? 俺んトコは7匹だぞ」
ゲートが続く。
「俺んとこは6匹だ。それだけで13匹も倒したってことになる。ゼロ、お前んとこはどうなんだ? 5匹くらいはやってんのか?」
「10匹やっつけたよ」
「すげーじゃねーか。やっぱお前はすげーよ」
ニヤニヤしながら、ゲートがゼロの肩を叩く。
「となりゃもう、23匹になる。まだ大勢いると思うか?」
「……確かに、あの大きさのバケモノがまだ、20体も30体も残ってるとは考え辛い。そうだね、もしかしたらもう、峠を越してるのかも知れない」
「だろ?」
ゼロたちの会話に、他の村人たちも表情がほころび始める。
「そっか、この3隊でそんだけ倒してるなら、他んとこだって結構やってるよな」
「って言うかまだ、村で生き残ってる奴の数より多いってことは無いよな……?」
「じゃあもうちょっと頑張ったらやれる、……かも、ってこと?」
ゼロ自身も気力が戻って来たらしく、いつもの穏やかな笑顔を浮かべていた。
「みんな。……正直言うと、僕も参ってた。倒しても倒してもきりが無いって、打ちのめされそうになってた。
でもゲートとフレンの言う通りだ。20体以上も倒してて、まだこの2倍も3倍も残ってるなんて思えない。ましてや無限に湧いてくるって言うなら、とっくの昔に村は滅ぼされてるはずだしね。
あと何体いるのか、確かに分からない。でも油断せず、緊張を途切れさせず、ひたすら倒し続ければきっと、終わりは来る。明けない夜は無いようにね」
ゼロの言葉に、その場にいた皆が大きくうなずいた。
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