「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・創史伝 4
神様たちの話、第29話。
夜明け前の約束。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
夜を徹して行われた防衛戦にも、ようやく終わりが見えてきた。
あちこちに浮かんでいた赤の光球が一つ、また一つと消え、やがて東の空が白くなり始めた頃には、すべて消失していた。
「状況を報告してくれ! バケモノはまだ、どこかに見える!?」
西のやぐらの下で尋ねたゼロに対し、見張りを務める村人がぶんぶんと首を横に振って答える。
「見えない! こっちにはもういないぞ!」
「ありがとう、でもまだ警戒を解かないでくれ! 太陽が昇ってきたら、また光球で報告して!」
「分かった!」
上から横へと視線を変えたところで、ゼロの目に疲れ切ったシノンの姿が映る。
「大丈夫、シノン?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。でもなんか、どっと疲れが来たなーって」
「そうだね、僕も気を抜いたら倒れて爆睡しちゃいそうだ。でも、もう一頑張りしないと。少なくとも、夜明けまでは辛抱しよう」
「夜明け……。あと、どれくらい?」
尋ねたシノンに、ゼロは東の空を眺めながら答える。
「1時間も無いと思う」
「そこまで行ったら、終わり?」
「そうしたい。夜明けと同時に緑の光球を8つ確認できたら、皆を集めて終わりにしよう」
「うん、分かった。……ふあ、あ」
うなずくと同時に、シノンから大きな欠伸が漏れる。
「疲れた?」
尋ねたゼロに、シノンはぶんぶんと首を横に振る。
「大丈夫、大丈夫。まだ行けるよ」
「無理しないで、……って言いたいけど、もうちょっと頑張ってくれると嬉しい」
「うん、分かってる。……ん、と」
シノンがわずかに顔をしかめ、右ほおに手を当てる。
「いたい……」
「え、ケガしたの?」
「ううん、こないだの傷。首振るとまだ、ぴりぴり来るの」
「そっか。……ごめんね、うまいこと治せなくて」
ゼロは申し訳無さそうな顔で、シノンのほおに手をやる。
「治療術は苦手じゃない、……はずなんだけど。まだこんなに、痕が残ってる」
「治してくれた時、動揺してたからじゃない? 魔術は精神状態で効果が大きく変わるって、あなたが自分で言ってたし」
「それはある。確かに君が血だらけになってて、ひどくうろたえた覚えがある」
「……ふふっ」
シノンはゼロの腕にしがみつき、ニヤニヤ笑う。
「あたしにはそれだけで嬉しい。あなたがあたしのことで、そんなにも戸惑ってくれるんだもん」
「いや、でも、そのままにしておくわけには」
「いーの。あたしのことなんかより、他にもっと、あなたにはやることあるでしょ?」
「そんなこと言ったって」
言いかけたゼロの口に人差し指を当て、シノンはこう切り出す。
「ね、ゼロ。今更なんだけど」
「うん?」
シノンは上目遣いにゼロを見上げ、尋ねる。
「あたしのこと、どう思ってる?」
「どうって?」
「周りはさ、もうあたしのこと、あなたの奥さんだって言ってくれたりするけど、あなたはどうなのかなって」
「そ、そりゃ、まあ、その」
ゼロは顔を真っ赤にし、ぼそぼそとした声で返す。
「思って、ない、なんてことは、無い」
「じゃあ」
シノンはゼロから離れ、続いてこう尋ねた。
「この戦いが終わって、あなたが『こよみ』を作ったらさ、ちゃんとあたしのこと、奥さんにしてくれる?」
「……」
ゼロは依然として顔を真っ赤にしたまま、静かに、しかし大きくうなずいた。
その時だった。
「……っ」「な、……に?」
村中に響き渡るようなとてつもない獣の叫び声が、ゼロたちの耳を揺らす。
「今のは、……なに?」
「とんでもないのが、まだ残ってるみたいだ。……でも多分、あれで最後って気もする」
ゼロは表情を変え、毅然とした態度で全員に命じた。
「みんな、本当に、本当に今、疲れて疲れて疲れ切ってるかも知れないけど、でも、出せるだけの元気を今、出し切ってほしい。
あの叫び声の主を、何としてでも撃破、駆逐するんだ!」
「おうッ!」
村人たちは奮い立ち、魔杖を掲げて鬨の声を上げ、そのまま駆け出した。
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夜明け前の約束。
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夜を徹して行われた防衛戦にも、ようやく終わりが見えてきた。
あちこちに浮かんでいた赤の光球が一つ、また一つと消え、やがて東の空が白くなり始めた頃には、すべて消失していた。
「状況を報告してくれ! バケモノはまだ、どこかに見える!?」
西のやぐらの下で尋ねたゼロに対し、見張りを務める村人がぶんぶんと首を横に振って答える。
「見えない! こっちにはもういないぞ!」
「ありがとう、でもまだ警戒を解かないでくれ! 太陽が昇ってきたら、また光球で報告して!」
「分かった!」
上から横へと視線を変えたところで、ゼロの目に疲れ切ったシノンの姿が映る。
「大丈夫、シノン?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。でもなんか、どっと疲れが来たなーって」
「そうだね、僕も気を抜いたら倒れて爆睡しちゃいそうだ。でも、もう一頑張りしないと。少なくとも、夜明けまでは辛抱しよう」
「夜明け……。あと、どれくらい?」
尋ねたシノンに、ゼロは東の空を眺めながら答える。
「1時間も無いと思う」
「そこまで行ったら、終わり?」
「そうしたい。夜明けと同時に緑の光球を8つ確認できたら、皆を集めて終わりにしよう」
「うん、分かった。……ふあ、あ」
うなずくと同時に、シノンから大きな欠伸が漏れる。
「疲れた?」
尋ねたゼロに、シノンはぶんぶんと首を横に振る。
「大丈夫、大丈夫。まだ行けるよ」
「無理しないで、……って言いたいけど、もうちょっと頑張ってくれると嬉しい」
「うん、分かってる。……ん、と」
シノンがわずかに顔をしかめ、右ほおに手を当てる。
「いたい……」
「え、ケガしたの?」
「ううん、こないだの傷。首振るとまだ、ぴりぴり来るの」
「そっか。……ごめんね、うまいこと治せなくて」
ゼロは申し訳無さそうな顔で、シノンのほおに手をやる。
「治療術は苦手じゃない、……はずなんだけど。まだこんなに、痕が残ってる」
「治してくれた時、動揺してたからじゃない? 魔術は精神状態で効果が大きく変わるって、あなたが自分で言ってたし」
「それはある。確かに君が血だらけになってて、ひどくうろたえた覚えがある」
「……ふふっ」
シノンはゼロの腕にしがみつき、ニヤニヤ笑う。
「あたしにはそれだけで嬉しい。あなたがあたしのことで、そんなにも戸惑ってくれるんだもん」
「いや、でも、そのままにしておくわけには」
「いーの。あたしのことなんかより、他にもっと、あなたにはやることあるでしょ?」
「そんなこと言ったって」
言いかけたゼロの口に人差し指を当て、シノンはこう切り出す。
「ね、ゼロ。今更なんだけど」
「うん?」
シノンは上目遣いにゼロを見上げ、尋ねる。
「あたしのこと、どう思ってる?」
「どうって?」
「周りはさ、もうあたしのこと、あなたの奥さんだって言ってくれたりするけど、あなたはどうなのかなって」
「そ、そりゃ、まあ、その」
ゼロは顔を真っ赤にし、ぼそぼそとした声で返す。
「思って、ない、なんてことは、無い」
「じゃあ」
シノンはゼロから離れ、続いてこう尋ねた。
「この戦いが終わって、あなたが『こよみ』を作ったらさ、ちゃんとあたしのこと、奥さんにしてくれる?」
「……」
ゼロは依然として顔を真っ赤にしたまま、静かに、しかし大きくうなずいた。
その時だった。
「……っ」「な、……に?」
村中に響き渡るようなとてつもない獣の叫び声が、ゼロたちの耳を揺らす。
「今のは、……なに?」
「とんでもないのが、まだ残ってるみたいだ。……でも多分、あれで最後って気もする」
ゼロは表情を変え、毅然とした態度で全員に命じた。
「みんな、本当に、本当に今、疲れて疲れて疲れ切ってるかも知れないけど、でも、出せるだけの元気を今、出し切ってほしい。
あの叫び声の主を、何としてでも撃破、駆逐するんだ!」
「おうッ!」
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