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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第1部

    琥珀暁・創史伝 5

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    神様たちの話、第30話。
    最後の巨敵。

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    5.
     咆哮が上がった方へと急ぐうち、ゼロの隊に他の村人たちが次々合流していく。
    「ゼロ、今の聞こえたか?」
     合流してきたゲートの問いに、ゼロは走りながらうなずく。
    「ああ、……かなり大きな叫び声だったみたいだね。あっちこっちから人が集まってきてるし」
    「だな。光球を確認しちゃいないが、……っ!」
     言いかけたゲートの顔がこわばる。ゼロの顔にも同様に、緊張が走っていた。
    「……かなりまずい」
    「ああ。やべえかも」
     二人の予想は当たっていた。
     やぐらは既に横倒しになっており、見張りたちは血まみれで転がっている。
    「あ……うあ……」
    「ひい……ひっ……」
     しかしまだ、辛うじて息はある。
    「クレイとバクは二人を助けて! 残りはあいつに集中攻撃の準備だッ!」
     ゼロの命令に、見張りを助けに行った2人以外は魔杖を構え、距離を取る。
     その全員の目に、やぐらの半分ほどの巨躯の、「獰猛」をそのまま形にしたような、誰も見たことの無い、異形の怪物が映っていた。
     いや――一人だけ、「それ」を形容できた者がいた。
    「まるで……獅子(ライオン)みたいだ」
     ゼロがぽつりと放ったその一言に、ただシノンだけが反応した。
    「ら……い……おん?」
    「あとで……、説明する。とにかく、今はあいつを倒すことに集中して!」
    「う、……うん!」
     ゼロたちが迎撃準備を整えている間に、「ライオン」もはっきりと、ゼロたちを標的として認識したらしい。
    「グウウウ……グオオアアアアアッ!」
    「群れ」の中心にいるゼロに向かって、大気がびりびりと震えるほどの叫び声を上げた。

    「ライオン」はゼロを見据え、一直線に飛び掛かってくる。
    「『マジックシールド』!」
     しかしそう来ることを見越していたらしく、ゼロは魔術の盾を「ライオン」との距離、50メートルほどのところで展開した。
     その直後、がつん、と硬い物同士がぶつかり合う音が響き、「ライオン」は額から血しぶきを上げる。
    「うおぉ!?」
    「やったか!?」
     魔杖を構えて待機していたゲートとフレンが驚きと、期待の混じった声を上げる。
     だが「ライオン」は痛みを感じる素振りも見せなければ、泣き声も上げていない。そのまま後退し、ふたたび突進して、ゼロの「盾」に体当たりを繰り返す。
    「マジかよ……!」
    「頭潰れんぞ!? ……い、いや、それより」
    「ゼロの『盾』が、割れる……!」
     五度、六度と頭突きを繰り返したところで、「盾」にひびが走る。
    「こ……れは……きつい……っ!」
     魔術が力技で押し返され、さしものゼロもダメージを受けているらしい。ぼたっ、と彼の鼻から血がこぼれ、白いひげを赤く染める。
    「攻撃するか、ゼロ!?」
    「やらなきゃお前が潰されちまうぞ!」
     焦る周囲に対し、ゼロは落ち着き払った声で応じる。
    「大丈夫、まだ貯めてて!
     可能な限りの、最大限のパワーで撃ち込まなきゃ、こいつは絶対倒せない! 僕が時間を稼ぐから、みんなチャージに集中するんだ!」
    「わ、分かった!」「おう!」
     ゼロに命じられるがまま、村人たちは自身の魔術に魔力を込め続ける。
     その間に――どうやってそんなことができるのか、横にいたシノンにすら分からない、そんな方法で――ゼロは「盾」以外にもう一つ、魔術を発動した。
    「『ジャガーノート』!」
     バチバチと気味の悪い音を立てて、「ライオン」の周囲に黄色がかった、白い火花が散る。
    「グオ……オ……」
     ここで初めて「ライオン」の喉奥から、苦しそうな声が漏れた。
    「まだまだあッ!」
     さらにゼロは魔術を重ねる。
    「『フレイムドラゴン』! 『フォックスアロー』! 『テルミット』!」
    「む、無茶だよゼロ!? そんなに術、使ったら……!」
     立て続けに放ったゼロの魔術により、「ライオン」の全身が炎に包まれる。
    「……グウ……ギャアア……」
    「ライオン」の絞り出すような鳴き声が、悲鳴じみたものに変わっていく。
     しかし一方で、ゼロの方も限界に達したらしく――。
    「……っ、……ここまで、……かっ」
     ゼロが膝から崩れ落ちる。「盾」も粉々に砕け散り、火花や炎も消失する。
    「ゼロ!?」
    「……」
     ゼロは倒れ伏したまま、答えない。
     一方、「ライオン」も相当のダメージを受けたらしく、その場から微動だにしない。
    「ど……どうする……?」
    「俺たち……撃つべきなのか……?」
    「ゼロ……ゼロ!」
     一様にうろたえつつも、村人たちはゼロに命じられたまま、魔力の蓄積を続ける。
     やがて「ライオン」の方も、よたよたとながらも、ゼロの方へと歩み始めた。

     突如、ゼロが顔を挙げ、大声で叫ぶ。
    「チャージ完了だ! 一斉放射アアアッ!」
    「……っ!」
     村人たちは動揺しつつも、ゼロの言葉に従った。
    「は、……はいっ!」
     その場にいた、魔杖を手にした村人23名が一斉に魔杖を掲げ、魔術を放つ。
    「『ファイアランス』!」
    「ライオン」の前方二十三方向から、炎の槍が発射される。
     先んじてゼロが傷付けていた「ライオン」の毛皮、皮膚、爪や牙を、煌々と赤く輝くその槍は次々刺し、削り、貫き、千切って行く。
    「グアッ、グ、ギャアアアッ……」
     ふたたび炎に包まれ、「ライオン」は絶叫する。
    「シノン」
     まだ横になったまま、ゼロがシノンの裾を引く。
    「とどめは、君が刺せ」
    「……分かった」
     シノンは魔杖を構え直し、ゼロから教わった最も威力の高く、そして最も難しい術を発動させた。
    「『エクスプロード』!」
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