「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第4部
蒼天剣・奸虎録 4
晴奈の話、第203話。
晴奈V.S.日上。
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4.
「……」「……」
晴奈もフーも相手を鋭く睨んだまま、無言で間合いを詰める。
「……先に、行かせてもらうぜッ!」
最初に仕掛けたのはフーだった。地面を低く跳び、一気に間合いを詰めていく。
「甘いッ!」
晴奈は刀を構え、フーの初太刀を受ける。非常に重たい一撃ではあったが、晴奈自身も後ろに跳ぶことで、その威力を消す。
「お、っと! へぇ、不思議な剣術、いや体術か。俺の剣だけじゃなく、力も受け切るとはな」
「力任せでは、この私は倒せぬ」
晴奈とフーは、もう一度間合いを取る。
「来いよ」
「そちらから、来い」
両者は円を描くように、じりじりと動きながら間合いを保つ。
「来いって」
「……」
フーが誘うが、晴奈は応じない。
「チッ……。いいだろ、こっちから行ってやる!」
もう一度、フーが飛び込んでくる。今度は高く跳び、剣を振り下ろしてくる。
(これならさっきみたいに、後ろに跳んでいなすことはできないだろ!?)
「フン」
フーの読みを察知した晴奈は刀を両手で上に掲げ、がっちりと受け止める。当然、フーの力に押し負け、晴奈の体勢は崩れる。だが――。
「甘いと言っているだろう!」「何ッ!?」
晴奈は倒れながら、左脚を挙げてフーの腹に押し付ける。そのまま刀と脚を後方にずらし、フーを投げ飛ばす。いわゆる「巴投げ」の変形である。
「おわあッ!?」
フーは顔面から石畳に落ちる。そのまま回転して立ち上がったが、どうやら鼻が折れたらしく、鼻血がボタボタと噴き出してくる。
「くっそ、戦いづれえな」
フーが転倒している間に晴奈も起き上がり、隙無く刀を構えてフーを牽制する。
「来い、日上!」
フーは鼻を押さえ、ゴキゴキと鳴らして形を直す。
「かぁ、痛てて……。ったく、一筋縄じゃ立ち回れそうにねーな」
そうつぶやくと、フーはブツブツと、何かを唱え始めた。
「じゃ、こいつはどうだ? 焼けッ、『ファイアボール』!」
かざした掌から、火球が飛び出す。ところが1メートルも進まないうちに、火球は四散してしまった。
「……!?」
「悪いけど、魔術は使わせてあげない」
銅像の陰から、小鈴が杖を構えながら現れた。魔術を使っている最中らしく、杖からは魔力を含んだ紫色の光が漏れている。小鈴の横からフォルナが現れ、丁寧に説明する。
「術封じの術、『フォースオフ』ですわ。元から魔力の低い部類に入る虎獣人の方であれば、これでもう、魔術は一切使えないはずですわ。
大人しく降参して剣を渡された方が、誇りが傷つかずに済みますわよ」
フォルナの慇懃無礼な挑発を受け、フーの額にピク、と青筋が走る。
「……チッ、めんどくせえな」
フーは悪態をつき、剣を構え直す。その顔には初めて、焦りの色が浮かんでいた。
「フーはいるか?」
「……あら、アランさん」
テラスに入ってきたアランを見て、ランニャ卿の顔は曇る。
フーのことは大好きなのだが、フーに付きまとうこのフードの男は、どうしても好きになれない。存在自体があまりにも不気味であり、さらに大公である自分に対して明らかに、横柄で尊大な態度を取るからだ。
「ヒノカミ中佐はいらっしゃいませんわ。散歩すると言って、先ほど出て行かれました」
「そうか」
アランはそれだけ言うと、踵を返してテラスから離れていった。
「……ああ、嫌だ嫌だ。あの方がいらっしゃらなかったら、もっと長く、フーと過ごしていられるのに」
「まったく、どこで油を売っているのだ」
アランは宮殿を歩き回り、フーの姿を探す。
「急いで帰らねばならんと言う時に、のんきに女と戯れるとは。いずれ厳しく、矯正しなければならんな」
フーへの不満をこぼしながら、アランは庭園の側に差し掛かった。
「……む?」
金属音が、わずかに聞こえる。続いて何か重いものが、地面にぶつかる音が聞こえる。そして人の叫ぶ声も――。
「ハァ、ハァ」
フーは右肩を押さえ、荒く息をしていた。
「油断したぜ……! まさか『サムライ』なんて人種が、こんなに戦いづらい相手だとは思わなかったな。
それに女と見て、侮った。ここまでやるとは、まったく思ってなかったぜ、クソ……!」
「観念したらどうだ、日上」
晴奈は刀を上段に構え、威圧している。
「バカ言ってんじゃねえよ。勝負はまだ、これからだ!」
フーは肩を押さえながら、片手で剣を握る。
「やめておけ、日上。片手で勝てる相手と思っているのか?」
「自分で言ってりゃ、世話ねえよ。……オラアアアッ!」
フーは果敢に剣を振り上げ晴奈に迫るが、その動きにはキレが無く、精彩を欠いている。最早、晴奈の敵ではなかった。
「はあッ!」
晴奈はフーの突きをひらりと避け、肩の付け根に向かって刀を振り下ろした。
「ぐ、あ、ッ……!」
鎖骨の折れる鈍い音とともにフーの目がぐるんと裏返り、がくりと倒れた。
「安心しろ、峰打ちだ。……さて、剣は返してもらうぞ」
晴奈は倒れたフーの横に転がった「バニッシャー」を取ろうと、ほんの一瞬だけ警戒を緩めた。
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晴奈V.S.日上。
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「……」「……」
晴奈もフーも相手を鋭く睨んだまま、無言で間合いを詰める。
「……先に、行かせてもらうぜッ!」
最初に仕掛けたのはフーだった。地面を低く跳び、一気に間合いを詰めていく。
「甘いッ!」
晴奈は刀を構え、フーの初太刀を受ける。非常に重たい一撃ではあったが、晴奈自身も後ろに跳ぶことで、その威力を消す。
「お、っと! へぇ、不思議な剣術、いや体術か。俺の剣だけじゃなく、力も受け切るとはな」
「力任せでは、この私は倒せぬ」
晴奈とフーは、もう一度間合いを取る。
「来いよ」
「そちらから、来い」
両者は円を描くように、じりじりと動きながら間合いを保つ。
「来いって」
「……」
フーが誘うが、晴奈は応じない。
「チッ……。いいだろ、こっちから行ってやる!」
もう一度、フーが飛び込んでくる。今度は高く跳び、剣を振り下ろしてくる。
(これならさっきみたいに、後ろに跳んでいなすことはできないだろ!?)
「フン」
フーの読みを察知した晴奈は刀を両手で上に掲げ、がっちりと受け止める。当然、フーの力に押し負け、晴奈の体勢は崩れる。だが――。
「甘いと言っているだろう!」「何ッ!?」
晴奈は倒れながら、左脚を挙げてフーの腹に押し付ける。そのまま刀と脚を後方にずらし、フーを投げ飛ばす。いわゆる「巴投げ」の変形である。
「おわあッ!?」
フーは顔面から石畳に落ちる。そのまま回転して立ち上がったが、どうやら鼻が折れたらしく、鼻血がボタボタと噴き出してくる。
「くっそ、戦いづれえな」
フーが転倒している間に晴奈も起き上がり、隙無く刀を構えてフーを牽制する。
「来い、日上!」
フーは鼻を押さえ、ゴキゴキと鳴らして形を直す。
「かぁ、痛てて……。ったく、一筋縄じゃ立ち回れそうにねーな」
そうつぶやくと、フーはブツブツと、何かを唱え始めた。
「じゃ、こいつはどうだ? 焼けッ、『ファイアボール』!」
かざした掌から、火球が飛び出す。ところが1メートルも進まないうちに、火球は四散してしまった。
「……!?」
「悪いけど、魔術は使わせてあげない」
銅像の陰から、小鈴が杖を構えながら現れた。魔術を使っている最中らしく、杖からは魔力を含んだ紫色の光が漏れている。小鈴の横からフォルナが現れ、丁寧に説明する。
「術封じの術、『フォースオフ』ですわ。元から魔力の低い部類に入る虎獣人の方であれば、これでもう、魔術は一切使えないはずですわ。
大人しく降参して剣を渡された方が、誇りが傷つかずに済みますわよ」
フォルナの慇懃無礼な挑発を受け、フーの額にピク、と青筋が走る。
「……チッ、めんどくせえな」
フーは悪態をつき、剣を構え直す。その顔には初めて、焦りの色が浮かんでいた。
「フーはいるか?」
「……あら、アランさん」
テラスに入ってきたアランを見て、ランニャ卿の顔は曇る。
フーのことは大好きなのだが、フーに付きまとうこのフードの男は、どうしても好きになれない。存在自体があまりにも不気味であり、さらに大公である自分に対して明らかに、横柄で尊大な態度を取るからだ。
「ヒノカミ中佐はいらっしゃいませんわ。散歩すると言って、先ほど出て行かれました」
「そうか」
アランはそれだけ言うと、踵を返してテラスから離れていった。
「……ああ、嫌だ嫌だ。あの方がいらっしゃらなかったら、もっと長く、フーと過ごしていられるのに」
「まったく、どこで油を売っているのだ」
アランは宮殿を歩き回り、フーの姿を探す。
「急いで帰らねばならんと言う時に、のんきに女と戯れるとは。いずれ厳しく、矯正しなければならんな」
フーへの不満をこぼしながら、アランは庭園の側に差し掛かった。
「……む?」
金属音が、わずかに聞こえる。続いて何か重いものが、地面にぶつかる音が聞こえる。そして人の叫ぶ声も――。
「ハァ、ハァ」
フーは右肩を押さえ、荒く息をしていた。
「油断したぜ……! まさか『サムライ』なんて人種が、こんなに戦いづらい相手だとは思わなかったな。
それに女と見て、侮った。ここまでやるとは、まったく思ってなかったぜ、クソ……!」
「観念したらどうだ、日上」
晴奈は刀を上段に構え、威圧している。
「バカ言ってんじゃねえよ。勝負はまだ、これからだ!」
フーは肩を押さえながら、片手で剣を握る。
「やめておけ、日上。片手で勝てる相手と思っているのか?」
「自分で言ってりゃ、世話ねえよ。……オラアアアッ!」
フーは果敢に剣を振り上げ晴奈に迫るが、その動きにはキレが無く、精彩を欠いている。最早、晴奈の敵ではなかった。
「はあッ!」
晴奈はフーの突きをひらりと避け、肩の付け根に向かって刀を振り下ろした。
「ぐ、あ、ッ……!」
鎖骨の折れる鈍い音とともにフーの目がぐるんと裏返り、がくりと倒れた。
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