「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・創史伝 6
神様たちの話、第31話。
「歴史」の第1ページ。
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6.
その一晩中を、井戸を改造した避難壕の中で過ごしていた村人たちは、朝の気配を感じて恐る恐る、外に出始めていた。
「バケモノは……?」
「さあ?」
きょろきょろと辺りを見回し、やがて村人の一人が、西の方が明るくなっていることに気付く。
「もう太陽、出てるね」
「は?」
その村人の言葉に、もう一人が呆れた声を漏らす。
「お前、どこ見てんだ? 日の出は東からだろ。まだ出てねーよ」
「え? ……あ。
じゃあ、あれ、……何?」
シノンが放った術が直撃し、「ライオン」の上半身は爆散、蒸発していた。
「……や、った?」
ぺたんと座り込んだシノンと対照的に、いつの間にかゼロが立ち上がり、彼女の頭を優しく撫でていた。
「やったよ。満点の出来だ。発動のタイミングもばっちり、制御も完璧。威力も申し分無しだし、標的だけを正確に破壊した。
もう僕から教えることは、無さそうだね」
「……えへへ」
シノンは顔を真っ赤にし――かけ、ぷるぷると頭を横に振った。
「じゃなーい!」
「え?」
「そーゆー態度、奥さんに取る!?」
「あ、……あー、いや、ごめん。
うん、その、なんだ、……えーと」
ゼロはしゃがみ込み、シノンの肩を抱いた。
「ありがとう。助かった。君がいてくれて、本当にうれしい」
「……及第点にしたげる」
と、ゼロたちのところに、他の村人たちが集まってくる。
「おーい、タイムズ! 大丈夫かー?」
「うわ、赤ひげになってんぞ、お前」
周りからの言葉に、ゼロは自分の鼻とひげを確かめる。
「……あー、本当だ。ちょっとやり過ぎたな。
ちょっと、これは、休ま……ないと……な……」
途端に、ゼロがばたりと倒れる。
「ゼロ!?」
が――倒れたゼロは、安らかな顔で寝息を立てていた。
「……寝てる?」
「みたい」
「仕方ねーな。運んでやるか」
ゲートがゼロの体に手を回し、担ぎ上げる。
「もう他にバケモノはいないみたいだし、そのまんま寝かせてやろう」
「……そだね」
村人たちが辺りを見回しても、それらしいものはどこにも見当たらない。
残ったやぐらからも、無事を報せる緑の光球が7つ昇っていることを確認し、ゲートが声を上げた。
「誰かやぐらと避難壕のヤツらに、もう終わったって伝えてくれ。それと、メシにしようって」
「あ、おう」
「準備するわ」
三々五々、村人たちが散った後には、シノンとゲート、そしてゲートに背負われたゼロが残った。
「んじゃ、ま。とりあえず、お前ん家に運ぶぞ」
「あ、うん」
シノンの家に向かううちに、彼らの前に琥珀色の光が差す。
「お、……日の出だな」
「一晩ずーっと戦ってたんだね、あたしたち」
「……うん、……おつかれさま」
と、ゲートの背後でむにゃむにゃと、ゼロがつぶやく。
「おつかれさま、ゼロ」
「……今日はもう寝るけど、明日、……って言うか今晩は天文学的に大事な日だから……日暮れまでには……起こしてほしいな……」
「分かった。『こよみ』の始まり、だよね?」
「うん……それ……むにゃ……」
また、ゼロの寝息が聞こえてくる。
「……やれやれ。忙しいヤツ」
「だねー」
ゲートとシノンは顔を見合わせ、互いに苦笑した。
こうしてクロスセントラル初の、いや、この世界初の「戦争」は、人類の勝利で幕を下ろした。
死傷者は10名以上に及んだものの、その4倍以上もの村民が無事、生きて朝日を目にすることができた。
後にこの戦いは、ゼロ自身によって「紀元前日の戦い」と名付けられ、世界の歴史の1ページ目に記される出来事として、後世の誰もが知る物語の一つとなった。
ゼロは――いや、人類はこの日初めて、「歴史」を築いたのである。
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「歴史」の第1ページ。
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6.
その一晩中を、井戸を改造した避難壕の中で過ごしていた村人たちは、朝の気配を感じて恐る恐る、外に出始めていた。
「バケモノは……?」
「さあ?」
きょろきょろと辺りを見回し、やがて村人の一人が、西の方が明るくなっていることに気付く。
「もう太陽、出てるね」
「は?」
その村人の言葉に、もう一人が呆れた声を漏らす。
「お前、どこ見てんだ? 日の出は東からだろ。まだ出てねーよ」
「え? ……あ。
じゃあ、あれ、……何?」
シノンが放った術が直撃し、「ライオン」の上半身は爆散、蒸発していた。
「……や、った?」
ぺたんと座り込んだシノンと対照的に、いつの間にかゼロが立ち上がり、彼女の頭を優しく撫でていた。
「やったよ。満点の出来だ。発動のタイミングもばっちり、制御も完璧。威力も申し分無しだし、標的だけを正確に破壊した。
もう僕から教えることは、無さそうだね」
「……えへへ」
シノンは顔を真っ赤にし――かけ、ぷるぷると頭を横に振った。
「じゃなーい!」
「え?」
「そーゆー態度、奥さんに取る!?」
「あ、……あー、いや、ごめん。
うん、その、なんだ、……えーと」
ゼロはしゃがみ込み、シノンの肩を抱いた。
「ありがとう。助かった。君がいてくれて、本当にうれしい」
「……及第点にしたげる」
と、ゼロたちのところに、他の村人たちが集まってくる。
「おーい、タイムズ! 大丈夫かー?」
「うわ、赤ひげになってんぞ、お前」
周りからの言葉に、ゼロは自分の鼻とひげを確かめる。
「……あー、本当だ。ちょっとやり過ぎたな。
ちょっと、これは、休ま……ないと……な……」
途端に、ゼロがばたりと倒れる。
「ゼロ!?」
が――倒れたゼロは、安らかな顔で寝息を立てていた。
「……寝てる?」
「みたい」
「仕方ねーな。運んでやるか」
ゲートがゼロの体に手を回し、担ぎ上げる。
「もう他にバケモノはいないみたいだし、そのまんま寝かせてやろう」
「……そだね」
村人たちが辺りを見回しても、それらしいものはどこにも見当たらない。
残ったやぐらからも、無事を報せる緑の光球が7つ昇っていることを確認し、ゲートが声を上げた。
「誰かやぐらと避難壕のヤツらに、もう終わったって伝えてくれ。それと、メシにしようって」
「あ、おう」
「準備するわ」
三々五々、村人たちが散った後には、シノンとゲート、そしてゲートに背負われたゼロが残った。
「んじゃ、ま。とりあえず、お前ん家に運ぶぞ」
「あ、うん」
シノンの家に向かううちに、彼らの前に琥珀色の光が差す。
「お、……日の出だな」
「一晩ずーっと戦ってたんだね、あたしたち」
「……うん、……おつかれさま」
と、ゲートの背後でむにゃむにゃと、ゼロがつぶやく。
「おつかれさま、ゼロ」
「……今日はもう寝るけど、明日、……って言うか今晩は天文学的に大事な日だから……日暮れまでには……起こしてほしいな……」
「分かった。『こよみ』の始まり、だよね?」
「うん……それ……むにゃ……」
また、ゼロの寝息が聞こえてくる。
「……やれやれ。忙しいヤツ」
「だねー」
ゲートとシノンは顔を見合わせ、互いに苦笑した。
こうしてクロスセントラル初の、いや、この世界初の「戦争」は、人類の勝利で幕を下ろした。
死傷者は10名以上に及んだものの、その4倍以上もの村民が無事、生きて朝日を目にすることができた。
後にこの戦いは、ゼロ自身によって「紀元前日の戦い」と名付けられ、世界の歴史の1ページ目に記される出来事として、後世の誰もが知る物語の一つとなった。
ゼロは――いや、人類はこの日初めて、「歴史」を築いたのである。
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