「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・創史伝 8
神様たちの話、第33話。
新しい世界のはじまり。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
時間はさらに過ぎ、真夜中を迎えようとしていた。
ゼロは起きていた村人たちを集め、夜空を指差した。
「計算と観測が正しければ、今日の正午には赤と白の二つの月が、同時に満月になっていたはずだ。残念ながらあんまりにも疲れすぎて、見逃しちゃったけど」
「あ、俺見てたよ。どっちも確かに真ん丸っぽかった」
「よかった。ありがとう」
「で、タイムズ。今夜が記念すべき日だって言ってたけど、それだけなのか? 他に何かあるって言ってた気がするんだが……?」
「説明、長くなるけどいい?」
「分かりやすさ重視で短く説明して欲しい」
シノンにそう注文され、ゼロは苦い顔になる。
「じゃあ、頑張るよ。……まず、あの二つの月についてなんだけど、おおよそ364日に一度、どっちも満月になる日があるんだ。さっきも言った通り、それが今日。
一方で、日の出が遅くなったり早くなったりしてることはみんな、何となく分かってるだろうけど、それもここ数日が、一番遅くなる頃なんだ。こっちの周期は――まだ半分程度しか観測してないから恐らくだけど――365日くらいのはず。
364日と365日、数字としてはかなり近いよね?」
「そうだね。1日違い」
「だからこの365日くらいを、『1年』として数えようと思うんだ。と言ってもこのままじゃ色々ズレとか出るから、もうちょっと調整する予定だけど。
まあ、ともかく。その1年の始まりにするには、今夜が一番丁度いいんだ。だからみんなにこうして集まってもらって、認識してもらおうと思って」
「分かったような、分からんような」
「まあ、とりあえず今夜はそう言う設定するのに丁度いいって話か」
首を傾げる村人たちに、ゼロも頭をかきつつ続ける。
「ごめんね。もっと時間をくれれば、丁寧に説明するんだけど」
「みんな寝ちゃうよ。ただでさえ昨夜の疲れ、抜けきってないんだし」
シノンに釘を差され、ゼロは残念そうな顔をした。
「う、うん。まあ、そこら辺はまた今度にするよ。……んじゃ、もうそろそろ打ち上げるか。昨夜の労いも兼ねて」
そう言って、ゼロは魔杖を掲げ、呪文を唱えた。
「『ファイアワークス』」
次の瞬間、夜空にぱっと、様々な色の光が散る。
「おおっ」
「きれー……」
夜空いっぱいにきらめく光を目にし、村人たちはどよめく。
「これから毎年、この日をお祝いの日にしようと思うんだ。
だからお祝いの日にふさわしく、こうして花火を上げようかなって。……気に入ってくれたかな?」
恥ずかしそうに尋ねたゼロに、シノンが飛びついて抱きしめる。
「すっごくきれいだよ! すっごく気に入った!」
「良かった、はは」
と――村人たちが苦笑いしていることに気付き、ゼロは面食らった様子を見せる。
「あれ? 気に入らなかった?」
「いや、って言うかさ」
村人の一人が、渋い顔で尋ねてくる。
「そもそも『今夜は特別な日になるから』って言ってただろ、お前」
「あ、うん」
「それさー、少なくとも俺は、お前らが結婚するって話なのかなーとか思ってたんだけど」
「え」
他の村人たちも、うんうんとうなずいている。
「それ、わたしも思ってた」
「そーそー。まさか月の講義聞かされるとか思わんわー」
「って言うか、しろよ。今ここで、結婚」
いつの間にか、そこにいた村人全員で、ゼロとシノンを囲んでいる。
「この数ヶ月、なし崩し的に一緒に暮らしてやがるけど、いい加減はっきりしろって」
「そーだそーだ。俺たちが見届けてやるからさ、ちゃんとコクれよ」
「いい機会だと思うわよ、タイムズ」
「あー……うー……」
ゼロは顔を真っ赤にし、村人たちとシノンの顔とを交互にチラチラ見返し、やがてうなずいた。
「分かった。それも丁度いいよね。いや、そう言う話じゃなくてもさ、昨夜の襲撃をしのいだら、どの道その話はしようって二人で言ってたし、まあ、うん、その、えーと……。
た、単刀直入に言うよ」
ゼロはシノンの手を取り、彼女の目をじっと見つめて、静かに尋ねた。
「シノン。僕と結婚してくれるかな?」
「……ぷっ」
が、シノンは笑い出してしまった。
「あははは……、今更過ぎて何か、おっかしい」
「ちょ、ちょっと」
困った顔をしたゼロに、シノンはクスクス笑いながら抱きつき、キスをした。
「もがっ」
「いーよ。あたしもはっきり言う。あなたの奥さんになるよって」
「……ありがとう」
二人は互いに顔を赤らめつつ、もう一度唇を重ねた。
こうしてこの夜、ゼロは「双月暦」を制定し、そして同時に、シノンを正式な伴侶とした。
琥珀暁・創史伝 終
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時間はさらに過ぎ、真夜中を迎えようとしていた。
ゼロは起きていた村人たちを集め、夜空を指差した。
「計算と観測が正しければ、今日の正午には赤と白の二つの月が、同時に満月になっていたはずだ。残念ながらあんまりにも疲れすぎて、見逃しちゃったけど」
「あ、俺見てたよ。どっちも確かに真ん丸っぽかった」
「よかった。ありがとう」
「で、タイムズ。今夜が記念すべき日だって言ってたけど、それだけなのか? 他に何かあるって言ってた気がするんだが……?」
「説明、長くなるけどいい?」
「分かりやすさ重視で短く説明して欲しい」
シノンにそう注文され、ゼロは苦い顔になる。
「じゃあ、頑張るよ。……まず、あの二つの月についてなんだけど、おおよそ364日に一度、どっちも満月になる日があるんだ。さっきも言った通り、それが今日。
一方で、日の出が遅くなったり早くなったりしてることはみんな、何となく分かってるだろうけど、それもここ数日が、一番遅くなる頃なんだ。こっちの周期は――まだ半分程度しか観測してないから恐らくだけど――365日くらいのはず。
364日と365日、数字としてはかなり近いよね?」
「そうだね。1日違い」
「だからこの365日くらいを、『1年』として数えようと思うんだ。と言ってもこのままじゃ色々ズレとか出るから、もうちょっと調整する予定だけど。
まあ、ともかく。その1年の始まりにするには、今夜が一番丁度いいんだ。だからみんなにこうして集まってもらって、認識してもらおうと思って」
「分かったような、分からんような」
「まあ、とりあえず今夜はそう言う設定するのに丁度いいって話か」
首を傾げる村人たちに、ゼロも頭をかきつつ続ける。
「ごめんね。もっと時間をくれれば、丁寧に説明するんだけど」
「みんな寝ちゃうよ。ただでさえ昨夜の疲れ、抜けきってないんだし」
シノンに釘を差され、ゼロは残念そうな顔をした。
「う、うん。まあ、そこら辺はまた今度にするよ。……んじゃ、もうそろそろ打ち上げるか。昨夜の労いも兼ねて」
そう言って、ゼロは魔杖を掲げ、呪文を唱えた。
「『ファイアワークス』」
次の瞬間、夜空にぱっと、様々な色の光が散る。
「おおっ」
「きれー……」
夜空いっぱいにきらめく光を目にし、村人たちはどよめく。
「これから毎年、この日をお祝いの日にしようと思うんだ。
だからお祝いの日にふさわしく、こうして花火を上げようかなって。……気に入ってくれたかな?」
恥ずかしそうに尋ねたゼロに、シノンが飛びついて抱きしめる。
「すっごくきれいだよ! すっごく気に入った!」
「良かった、はは」
と――村人たちが苦笑いしていることに気付き、ゼロは面食らった様子を見せる。
「あれ? 気に入らなかった?」
「いや、って言うかさ」
村人の一人が、渋い顔で尋ねてくる。
「そもそも『今夜は特別な日になるから』って言ってただろ、お前」
「あ、うん」
「それさー、少なくとも俺は、お前らが結婚するって話なのかなーとか思ってたんだけど」
「え」
他の村人たちも、うんうんとうなずいている。
「それ、わたしも思ってた」
「そーそー。まさか月の講義聞かされるとか思わんわー」
「って言うか、しろよ。今ここで、結婚」
いつの間にか、そこにいた村人全員で、ゼロとシノンを囲んでいる。
「この数ヶ月、なし崩し的に一緒に暮らしてやがるけど、いい加減はっきりしろって」
「そーだそーだ。俺たちが見届けてやるからさ、ちゃんとコクれよ」
「いい機会だと思うわよ、タイムズ」
「あー……うー……」
ゼロは顔を真っ赤にし、村人たちとシノンの顔とを交互にチラチラ見返し、やがてうなずいた。
「分かった。それも丁度いいよね。いや、そう言う話じゃなくてもさ、昨夜の襲撃をしのいだら、どの道その話はしようって二人で言ってたし、まあ、うん、その、えーと……。
た、単刀直入に言うよ」
ゼロはシノンの手を取り、彼女の目をじっと見つめて、静かに尋ねた。
「シノン。僕と結婚してくれるかな?」
「……ぷっ」
が、シノンは笑い出してしまった。
「あははは……、今更過ぎて何か、おっかしい」
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「もがっ」
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