「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第1部
琥珀暁・邂朋伝 2
神様たちの話、第35話。
千年級の会話;その椅子に座ったのは……。
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2.
「バケモノ……!?」
三度驚く顔を見せたゼロに、モールは斜に構えて答える。
「驚くような話じゃないはずだね。君だって散々見てきたろ?」
「ま、まあ、そうだけど。いや、でも」
「聡明なゼロ。君の考えてきたコト、言いたいコトは、同じく聡明なこの私にゃ、ちゃあんとお見通しだね」
ゼロの言葉を遮り、モールはそう言ってのける。
「皆がバケモノって呼んでた、アレ。
あんな歪(いびつ)なイキモノが自然発生したり自然繁殖したり、ましてや何百年にもわたって生存圏を維持したりなんか、できると思うね?」
「……いいや、思わない。あれは生物であって、生物ならざる存在だ」
ゼロの言葉に、モールは嬉しそうに微笑んだ。
「やはりゼロ、君は超絶級の大天才だね。ちゃんと、その点が分かってるね。
そう、アレは結論から言えば『造られた』存在だ。何かしらの目的のためにね」
「目的だって?」
尋ねたゼロに、モールが平然と答える。
「この世界を支配するって御大層な目的があったんだろうね、ソイツには。
そのためにはまず、この世界に国だの街だのって共同体(コミュニティ)があってもらっちゃ困るワケだね。
共同体ってヤツにゃ必ず組織だった思考、系統だった認識、お堅く言えば『文明』やら『文化』ができる。そう言う下地があるトコに、外から無理矢理武力制圧だの洗脳だのをけしかけたところで、100人中1人か2人か、あるいは5人か10人かは、絶対なびかないね。人間ってそーゆーもんだしね。
ソイツにしてみりゃ、100人中100人が自分に心酔・心服し、未来永劫崇め奉って欲しいんだよね」
「だからバケモノに村々を襲わせて、その共同体を形成しないようにしてたってわけか。
そしてそのバケモノを、自分が倒してしまえば……」
「倒したヤツは間違い無く英雄になる。100人中100人が、心服するコトになるね。
そう、今の君のようにね」
「……僕がその座を奪ってしまったと言うわけか」
そう言ったゼロの額を、モールがちょんと突く。
「ま、座っとけってね。そんなクソみたいなコト企てるヤツに、むざむざ渡したいような座じゃないからね。
ゼロ、君こそその座にふさわしい男だね」
「恐縮だなぁ。……まあ、僕が言うのも烏滸(おこ)がましいけど、確かに君の言う通り、そんな企みを――人間の尊厳を土台から奪うようなことをするような奴に、この座を渡したいとは思えない。
だけどその話を聞いて、不安が一つある」
「うんうん、なるほどね。その発案者が、アイデアと活躍の舞台を奪った君に報復するかも、ってコトだろ?」
「ああ。こんな大それた計画を実行するような相手が本気で僕を殺しに来るようなことがあれば、僕が勝てるかどうか甚だ不安だし、交戦時の被害も計り知れない。
せっかく築き上げた『この世界』が破壊されるようなことがあれば……」
不安げな表情を見せるゼロに対し、モールは依然として皮肉げな笑みを浮かべている。
「多分、無いね」
「どうして?」
「やるってんならとっくにやってるだろうからね。
君が双月暦だか何だかって暦を制定して、どれくらい経つね?」
「今年は双月暦6年だ」
「だろ? やるってんなら元年の1月3日くらいに、……じゃないか、双月節3日だっけね、そんくらいで襲撃してくるだろうね」
「ああ、うん。閏週を設定したから」
「ソレさ、本当に君らしい、ロマンチックな設定の仕方だよね、アハハ。
まあいいや、ともかく3日どころか、6年経っても何の音沙汰も無い。ってコトはだ、コレからも恐らく、襲撃なんてのは無いかも知れないよ?
もしかしたらその発案者、うっかり死んじまったのかも知れないね。計画して、バケモノの種を蒔くだけ蒔いといて、うっかり自分がそのバケモノに襲われて……、なーんてコトになってるのかもね」
そううそぶくモールに、ゼロは苦笑を返した。
「だと、いいけど。
……あ、と。話を戻さないか、そろそろ」
「あ、そうそう、忘れてたね」
モールは傍らの狐獣人に、ぺこっと頭を下げた。
「ごめんねー、エリザ。古い友達に会ったもんで、ついつい話が弾んじゃってね」
「いえ、先生がみょんに楽しそうなん見るんも珍しいんで、アタシも見てて楽しいし」
そこでようやく口を開いたその少女に、ゼロも頭を下げた。
「済まなかったね、随分話し込んじゃって。……えーと、エリザちゃんだったっけ?」
「あ、はい」
その少女――エリザも、ゼロにぺこりと頭を下げた。
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千年級の会話;その椅子に座ったのは……。
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「バケモノ……!?」
三度驚く顔を見せたゼロに、モールは斜に構えて答える。
「驚くような話じゃないはずだね。君だって散々見てきたろ?」
「ま、まあ、そうだけど。いや、でも」
「聡明なゼロ。君の考えてきたコト、言いたいコトは、同じく聡明なこの私にゃ、ちゃあんとお見通しだね」
ゼロの言葉を遮り、モールはそう言ってのける。
「皆がバケモノって呼んでた、アレ。
あんな歪(いびつ)なイキモノが自然発生したり自然繁殖したり、ましてや何百年にもわたって生存圏を維持したりなんか、できると思うね?」
「……いいや、思わない。あれは生物であって、生物ならざる存在だ」
ゼロの言葉に、モールは嬉しそうに微笑んだ。
「やはりゼロ、君は超絶級の大天才だね。ちゃんと、その点が分かってるね。
そう、アレは結論から言えば『造られた』存在だ。何かしらの目的のためにね」
「目的だって?」
尋ねたゼロに、モールが平然と答える。
「この世界を支配するって御大層な目的があったんだろうね、ソイツには。
そのためにはまず、この世界に国だの街だのって共同体(コミュニティ)があってもらっちゃ困るワケだね。
共同体ってヤツにゃ必ず組織だった思考、系統だった認識、お堅く言えば『文明』やら『文化』ができる。そう言う下地があるトコに、外から無理矢理武力制圧だの洗脳だのをけしかけたところで、100人中1人か2人か、あるいは5人か10人かは、絶対なびかないね。人間ってそーゆーもんだしね。
ソイツにしてみりゃ、100人中100人が自分に心酔・心服し、未来永劫崇め奉って欲しいんだよね」
「だからバケモノに村々を襲わせて、その共同体を形成しないようにしてたってわけか。
そしてそのバケモノを、自分が倒してしまえば……」
「倒したヤツは間違い無く英雄になる。100人中100人が、心服するコトになるね。
そう、今の君のようにね」
「……僕がその座を奪ってしまったと言うわけか」
そう言ったゼロの額を、モールがちょんと突く。
「ま、座っとけってね。そんなクソみたいなコト企てるヤツに、むざむざ渡したいような座じゃないからね。
ゼロ、君こそその座にふさわしい男だね」
「恐縮だなぁ。……まあ、僕が言うのも烏滸(おこ)がましいけど、確かに君の言う通り、そんな企みを――人間の尊厳を土台から奪うようなことをするような奴に、この座を渡したいとは思えない。
だけどその話を聞いて、不安が一つある」
「うんうん、なるほどね。その発案者が、アイデアと活躍の舞台を奪った君に報復するかも、ってコトだろ?」
「ああ。こんな大それた計画を実行するような相手が本気で僕を殺しに来るようなことがあれば、僕が勝てるかどうか甚だ不安だし、交戦時の被害も計り知れない。
せっかく築き上げた『この世界』が破壊されるようなことがあれば……」
不安げな表情を見せるゼロに対し、モールは依然として皮肉げな笑みを浮かべている。
「多分、無いね」
「どうして?」
「やるってんならとっくにやってるだろうからね。
君が双月暦だか何だかって暦を制定して、どれくらい経つね?」
「今年は双月暦6年だ」
「だろ? やるってんなら元年の1月3日くらいに、……じゃないか、双月節3日だっけね、そんくらいで襲撃してくるだろうね」
「ああ、うん。閏週を設定したから」
「ソレさ、本当に君らしい、ロマンチックな設定の仕方だよね、アハハ。
まあいいや、ともかく3日どころか、6年経っても何の音沙汰も無い。ってコトはだ、コレからも恐らく、襲撃なんてのは無いかも知れないよ?
もしかしたらその発案者、うっかり死んじまったのかも知れないね。計画して、バケモノの種を蒔くだけ蒔いといて、うっかり自分がそのバケモノに襲われて……、なーんてコトになってるのかもね」
そううそぶくモールに、ゼロは苦笑を返した。
「だと、いいけど。
……あ、と。話を戻さないか、そろそろ」
「あ、そうそう、忘れてたね」
モールは傍らの狐獣人に、ぺこっと頭を下げた。
「ごめんねー、エリザ。古い友達に会ったもんで、ついつい話が弾んじゃってね」
「いえ、先生がみょんに楽しそうなん見るんも珍しいんで、アタシも見てて楽しいし」
そこでようやく口を開いたその少女に、ゼロも頭を下げた。
「済まなかったね、随分話し込んじゃって。……えーと、エリザちゃんだったっけ?」
「あ、はい」
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