短編・掌編
信じない男たち
信じない男たち
とは言え、だ。
無論、まったく「何物をも信じない」なんてことは、はっきり言って頭がイカレる寸前の哲学者か、完全にイカレたおバカのやることだ。
人間、「よりどころ」は必要だ。何かは信じざるを得ない。何かは信じるもんさ。他人とは言わないまでも、モノとかカネとか、そんくらいはな。
そう言う点において、俺が信じたものは実にシンプルだった。そう、カネさ。
誰にでも分かりやすい理屈だろ? カネなら誰にでも使えるからな。しかも殆どの場合、使う時に身分の説明やら支払い能力の証明なんかいらない。
だから取引はカネで行うことにしてたし、それ以外は基本、撥ねつけることにしてたんだ。
だが、どうしても銀行に振り込むっつって聞かない奴が現れた。
俺が散々駄目だ嫌だカネで寄越せっつっても、頑として首を縦に振らねえ。
何回も何回も交渉した末、結局俺の方が折れた。
で、その取引が罠だったってワケだ。
俺はあっさり捕まり、拘束された。
「君には膨大な数の嫌疑がかかっている。そしてそれに見合う額の、莫大な懸賞金もだ」
取調室で会ったお役人は、俺に分かりやすい話を持ちかけた。
「君には複数の仲間がいるようだが、それを教えてくれれば釈放するし、君の懸賞金と同額を支払おう。如何かね?」
自由が手に入る。そしてカネもだ。実に分かりやすいだろ? 当然、俺は話に乗った。
俺はお役人の監視の元、仲間たちに連絡を取りまくった。「デカい取引がある。手を貸してくれ」っつってな。
俺がカネを信じるように、こいつらも俺を信じている。みんな疑いもせず、二つ返事で引き受けてくれた。
そして「取引」の日は来た。集まってきた仲間は、売り物として大量の武器を持ってきた。
それを買う名目で、俺は集まってきた仲間の前に、カネの詰まったケースを見せる。
実はそのカネは、俺がもらう予定のカネだ。こいつらが捕まった時点で俺は釈放、そのままカネを持って取引場所から出て行くって寸法だ。
いくら偽の取引って言ったって、カネまで偽物じゃ誰だって信じやしないと、俺はお役人にそう説得した。
それは俺の信条でもあるからだ。だからこそお役人は、カネで俺を抱き込んだわけだしな。
それからどうなったって?
それを説明する前に、だ。もう一回、「何を信じるか」って話をしとかなきゃ、話の筋が分からんだろうな。
俺はカネを信じるし、それと同じくらい、仲間は俺を信じてる。
だから仲間は俺の持ちかけた「取引」が、マジで武器を買うための取引だと信じて疑わなかった。
そして、それはまさに俺の狙い通りだったってわけさ。
俺がカネの使い方を心得ているくらいに、あいつらも俺の意図を心得てくれていた。
俺が「よし、商談成立だ!」と叫んだ瞬間、お役人共が拳銃を手にしてぞろぞろ現れた。
それと同時に、仲間は今まさに、俺に売ったばかりの武器を手に取った。
別におかしい話じゃないだろ? 話はシンプルなままさ。
俺が武器を買って、俺の仲間に配ったってだけの話だ。
なんでそんなこと、と言う前に、ちょっとばかり考えて欲しい。
俺はこの世で一番カネを信じちゃいるが、お役人共はそれほどでもないってことを。
同じように、仲間はこの世で一番俺を信じちゃいるが、やはりお役人共はそれほどでもないってことを。
あいつらは俺のことも、カネのことも信じちゃいない。
どうせ取引が成立したと見た途端、俺たちを蜂の巣にする気満々だったろうぜ。
そんな「何物をも信じない」ような奴らのことを信じろって言うのか?
俺と、俺たちの信じるものを信じない奴らなんて、俺たちにとっちゃイカレてるとしか思えない。
そんな奴らを、俺たちが信じるわけが無い。
な、最後までシンプルな話だったろ?
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とは言え、だ。
無論、まったく「何物をも信じない」なんてことは、はっきり言って頭がイカレる寸前の哲学者か、完全にイカレたおバカのやることだ。
人間、「よりどころ」は必要だ。何かは信じざるを得ない。何かは信じるもんさ。他人とは言わないまでも、モノとかカネとか、そんくらいはな。
そう言う点において、俺が信じたものは実にシンプルだった。そう、カネさ。
誰にでも分かりやすい理屈だろ? カネなら誰にでも使えるからな。しかも殆どの場合、使う時に身分の説明やら支払い能力の証明なんかいらない。
だから取引はカネで行うことにしてたし、それ以外は基本、撥ねつけることにしてたんだ。
だが、どうしても銀行に振り込むっつって聞かない奴が現れた。
俺が散々駄目だ嫌だカネで寄越せっつっても、頑として首を縦に振らねえ。
何回も何回も交渉した末、結局俺の方が折れた。
で、その取引が罠だったってワケだ。
俺はあっさり捕まり、拘束された。
「君には膨大な数の嫌疑がかかっている。そしてそれに見合う額の、莫大な懸賞金もだ」
取調室で会ったお役人は、俺に分かりやすい話を持ちかけた。
「君には複数の仲間がいるようだが、それを教えてくれれば釈放するし、君の懸賞金と同額を支払おう。如何かね?」
自由が手に入る。そしてカネもだ。実に分かりやすいだろ? 当然、俺は話に乗った。
俺はお役人の監視の元、仲間たちに連絡を取りまくった。「デカい取引がある。手を貸してくれ」っつってな。
俺がカネを信じるように、こいつらも俺を信じている。みんな疑いもせず、二つ返事で引き受けてくれた。
そして「取引」の日は来た。集まってきた仲間は、売り物として大量の武器を持ってきた。
それを買う名目で、俺は集まってきた仲間の前に、カネの詰まったケースを見せる。
実はそのカネは、俺がもらう予定のカネだ。こいつらが捕まった時点で俺は釈放、そのままカネを持って取引場所から出て行くって寸法だ。
いくら偽の取引って言ったって、カネまで偽物じゃ誰だって信じやしないと、俺はお役人にそう説得した。
それは俺の信条でもあるからだ。だからこそお役人は、カネで俺を抱き込んだわけだしな。
それからどうなったって?
それを説明する前に、だ。もう一回、「何を信じるか」って話をしとかなきゃ、話の筋が分からんだろうな。
俺はカネを信じるし、それと同じくらい、仲間は俺を信じてる。
だから仲間は俺の持ちかけた「取引」が、マジで武器を買うための取引だと信じて疑わなかった。
そして、それはまさに俺の狙い通りだったってわけさ。
俺がカネの使い方を心得ているくらいに、あいつらも俺の意図を心得てくれていた。
俺が「よし、商談成立だ!」と叫んだ瞬間、お役人共が拳銃を手にしてぞろぞろ現れた。
それと同時に、仲間は今まさに、俺に売ったばかりの武器を手に取った。
別におかしい話じゃないだろ? 話はシンプルなままさ。
俺が武器を買って、俺の仲間に配ったってだけの話だ。
なんでそんなこと、と言う前に、ちょっとばかり考えて欲しい。
俺はこの世で一番カネを信じちゃいるが、お役人共はそれほどでもないってことを。
同じように、仲間はこの世で一番俺を信じちゃいるが、やはりお役人共はそれほどでもないってことを。
あいつらは俺のことも、カネのことも信じちゃいない。
どうせ取引が成立したと見た途端、俺たちを蜂の巣にする気満々だったろうぜ。
そんな「何物をも信じない」ような奴らのことを信じろって言うのか?
俺と、俺たちの信じるものを信じない奴らなんて、俺たちにとっちゃイカレてるとしか思えない。
そんな奴らを、俺たちが信じるわけが無い。
な、最後までシンプルな話だったろ?
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今日の旅岡さん

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NoTitle
もしも多数の武器商人を逮捕するのなら、いくら日本のお役人の頭が固いといったって、拳銃なんかで武装せずに暴徒鎮圧用の閃光手榴弾と催涙ガスを使うんじゃないかな、と思ったりしますです。アメリカさんのほうでも目と耳を潰した後でミランダ条項読んで徒手格闘、いうところじゃないですかねえ。
投票すませてきました。いい位置にこれるといいですね~。
投票すませてきました。いい位置にこれるといいですね~。
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NoTitle
その辺りの設定は、あんまり意識してなかったですね。
政府当局側もアウトロー気味の、かなり荒れた国なのかも。
「ミランダ条約? 黙秘権? 何それ美味しいの?」と言うような。
投票ありがとうございます。
今年こそ脚光を浴びたいものです。