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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第4部

    蒼天剣・奸虎録 6

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    晴奈の話、第205話。
    鈴っ子。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     晴奈は呆気に取られながらも、自分たちがまだ無事でいることを不思議に思っていた。
    「何故、アランは攻撃してこない?」
    「んっ? してるよっ、思いっきり。ホラっ」
     レイリンが指差した方向に、アランがいる。懸命に腕を振っているが、途中で何かに阻まれているらしい。
    「アタシが『マジックシールド』で防いでるから、後もう少しは大丈夫っ。でもねーっ」
     レイリンは困った顔で、晴奈に向き直る。
    「コレ使ってる間は、他のコトできないのっ。だから晴奈、ちょっと協力してっ?」
    「え?」
    「『お師匠』に教えてもらった『とっておき』使うからっ、10秒だけあいつの攻撃を防いで欲しいのっ。お師匠と違って、アタシはすっごく集中しなきゃいけないからっ」
    「はあ……? ともかく、防げばいいのだな? 分かった、協力する」
     晴奈はヨロヨロと立ち上がり、刀を握る。
    (くそ、頭を割られたせいか吐き気がする。頭痛もひどい……! おまけに刀もひん曲がってしまっている。
     戦況は最悪、だが……)
     晴奈は残った気力を振り絞り、仁王立ちになる。
    「来い、アラン! もう一度、相手してやろう!」
     目の前の壁を叩いていたアランは、そこで動きを止めた。
    「なぜ私の名を……? まあいい、死にたいのなら死なせてやる」
     アランは後ろに飛びのき、腰を低く落とした。
     と同時に、「マジックシールド」が薄れ、消滅する。そしてレイリンが懸命に、何かを唱えているのが聞こえてきた。
     どうやら相当高度な術を使うらしく、今まで聞いたことのあるどんな呪文よりも長く、そして恐ろしく早口で唱えているので、何を言っているのかまったく聞き取れない。
    「10秒、か。もっていてくれ、私の体」
     晴奈はレイリンの前に立ち、刀を構えた。
    「死ね」
     アランが踏み込んでくる。ガキンと言う金属音とともに、右の掌底が飛んできた。
    「ぐぅ、……ッ!」
     猛烈に重たい掌が、晴奈の刀に食い込む。刀がぎちぎちと奇怪な音を立てて、さらに曲がる。先ほどフーと戦った時とは違い、ここでかわせばレイリンが危険にさらされる。
    「このッ!」
     晴奈はアランを蹴って、後ろに引かせようと試みる。だがいくら蹴っても、アランは痛くもかゆくも無いらしく、一歩も引こうとしない。
    「無駄なあがきだ」
     今度は左の掌底が飛んでくる。もう一度受け止めるが、刀だけではなく、晴奈の腕からも軋む音が響く。
    「ぐあ、あうッ」
     絞り出すような声が、晴奈ののどから漏れる。
    「これはどうだ」
     また、右掌底。
    「ぎッ」
     晴奈の右腕が、嫌な音を立てて折れる。
    「うあ、あッ」
     止めようとしても、悲鳴がのどの奥から勝手に漏れてくる。
    「が、……げぼッ」
     悲鳴はようやく止まるが、それは血を吐いたからだ。
    「……ッ」
     十数回殴りつけられ、もう、血も悲鳴も出てこない。晴奈のひざが、がくんと落ちた。
    「晴奈っ! 戻ってきてっ!」
     ようやく、レイリンの準備が整った。だがすでに脚に力が入らず、晴奈は動くことができない。
    「さあ、そろそろ逝け」
     アランが右手を振り上げる。晴奈は身動きできないまま、じっとその手を見ていた。
    (悪魔め……! 誰だ、黒炎殿が悪魔だなどと言った奴は!
     こいつこそが、正真正銘の悪魔だ! この無慈悲! この残虐!
     こいつを悪魔と言わずして、何を悪魔と称すのだ……!)
     晴奈は死を覚悟した。

     アランの拳が振り下ろされる直前、晴奈の首が一瞬絞まった。
    「ぐえ」
     どうやら、誰かが後ろから襟を引っ張ったようだ。そのおかげでアランの拳がそれ、地面にめり込む。
    「ぬ……、く、この」
     地面にめり込んだ拳が抜けず、アランはもう一方の手で引っ張り始めた。
    「ひっ、ひいっ、えぐっ」
     フォルナが泣きながら、晴奈の襟をつかんでいる。
    「フォルナ!」
    「えぐっ、セイナ、戻ってらして、ぐすっ」
     フォルナに引きずられ、晴奈は何とかレイリンの側に近付いていく。
    「晴奈、戻って、来なさいよ……!」
     小鈴の声もする。
    「小鈴、殿……!」
     ゲホゲホと言う水気の混じった咳の後に、小鈴の含みを持った笑い声が続く。
    「ん、ふふ、ふ。何を、今さら、殿付け、してんのよ。さっき、呼び捨てに、したくせに」
     小鈴も満身創痍ながら、気力を振り絞って晴奈を引っ張り、助けてくれた。
    「待て」
     アランがようやく地面から拳を抜き、また襲い掛かってくる。
    「アンタは、邪魔、しないでよ……! 『グレイブファング』!」
     息も絶え絶えに、小鈴が呪文を唱える。石畳が変形し、槍状になってアランの首に突き刺さった。
    「グゥ……ッ! キクカ、コンナモノッ!」
     だが、普通の人間ならば致命傷のこの攻撃も、アランには通じない。首に突き刺さった槍を引き抜き、アランはなおも迫ってくる。その声はまさに悪魔のような、金属質の響きを持って晴奈たちの鼓膜を揺さぶった。
    「レイリン! お願い!」
    「1、2の3で、飛ぶからねっ!」
     レイリンの言葉に、アランが驚いた様子で叫ぶ。
    「マテ、ナニヲスルツモリダ!」
    「1、2のさ――」
     アランが飛び込み、レイリンを殴り倒そうと拳を振り上げる。
    「ニガサンゾ!」
     瀕死の晴奈は、ここで最後の力を振り絞った。
    「させるかッ!」
     曲がった刀をアランに投げつける。死を覚悟した晴奈のその一撃は、アランの胸に食い込んだ。
    「グアアッ!?」
    「――ん!」
     晴奈たち四人の、周りの景色が消えた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    油断大敵、というやつですね。
    フーは晴奈を侮ったために負け、晴奈も気が緩んだ隙を突かれ。
    どんなに実力があっても、そこに慢心や油断があれば、それだけ呆気なくやられてしまうのかも。

    TOP絵見ました(*´∀`)
    楽しみにしてます。

    NoTitle 

    意外に。
    相当なつわものでも、呆気なく死ぬのがありますよね。
    まあ、織田信長とかが一番顕著なんでしょうけど。
    あれだけ一世を風靡していても、どこかで油断があるとそこを突かれて殺される…というのが、まあ世の常であるんでしょうね。現実とでも言うべきか。
    闘い続けていれば、いつかそういう死に方をするもんですね。
    …ということを感じました。
    どうも、LandMでした。
    あ、次回作は3月初めからスタートするのでまたよろしくお願いします。

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