DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 6 ~ オールド・サザン・ドリーム ~ 2
ウエスタン小説、第2話。
おたから。
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2.
「『猛火牛(レイジングブル)』、だろ?」
アデルがニヤニヤしながら放ったその言葉に、エミルはけげんな表情を浮かべた。
「なにそれ?」
「あれ? 間違えたかな……」
エミルの反応を受けて、アデルは途端に自信を失う。
「それがトリスタン・アルジャンの通り名だっつって、情報屋のグレースからそう聞いたんだけどなぁ」
「ふーん、そうなの?」
前回、イクトミからその名を聞かされた時のそれとあまりに違う、そっけないエミルの反応に、アデルはまた面食らった。
「そうなのって、……俺はてっきり、もうちょっと何か、過敏な反応してくるんじゃないかなーって思ったりなんかしてたわけなんだけど」
「死んだはずの奴が生きてるって知らされたらそりゃ、びっくりするわよ。でも生きてるって分かった今、何聞いたって驚きもしないわね。
で? 動揺したあたしに畳み掛けて、前歴を聞き出してやろうとでも思ったのかしら、探偵さん?」
「あ、いや、そう言うわけじゃなくてだな、何て言うか」
取り繕おうとするアデルに対し、エミルは冷ややかに言い放つ。
「ごまかしは結構。そして答えはノーよ。
今は何を聞かれたって、『前々職』については一切答えたくないの」
エミルの頑なな態度に、アデルはようやく諦める。
「まあ、じゃあそっちの話はもういいや。また今度にする。
いや、なんでこんな話切り出して来たかって言うとだな、そのグレースって奴、情報屋なだけあってさ、色々と話を持って来てくれるんだよ。
近所の美味しいコーヒー屋だとか、来週どこの店でバーゲンするかだとか、そう言う細かいことから、次期大統領選の両党それぞれの有力候補だとか、旧大陸のどこかの王様が死にそうだとか、ピンからキリまで揃えてるんだ」
「それが?」
「ま、流石に全部が全部本物、信憑性があるってわけじゃないが、半分くらいは信用できる情報だってことだ。
んで、その中で一つ、耳寄りな情報をもらったんだ」
長ったらしい前置きを終え、アデルはメモをエミルに差し出した。
「何?」
「南北戦争の開戦前に、T州とその周辺を地盤にしてたある政治家が、その戦争が始まるかもってことで、貯めてた政治資金やら資産やらを、どこかに隠したんだ。なんでも今の価値に換算して、総額50万ドルだとか、100万ドルだとか。
ま、これだけならよくあるおとぎ話、アホみたいなトレジャーハンターがホイホイ飛びつきそうな、胡散臭い都市伝説でしかない。
ところがそれを裏付ける資料が、『とある場所』に保管されてるらしいんだ。もしかすればその資料には、隠し場所なんかのヒントがあるかも知れない」
「とある場所?」
おうむ返しに尋ねたエミルに、アデルは辺りをきょろ、と伺ってから、小声でエミルの耳にささやいた。
「コロンビア特別区、司法省の……」「は?」
エミルはくるりとアデルに向き直り、それを遮る。
「つまり連邦特務捜査局の資料室にある、ってこと?」
「そう言うことだ」
「あんた、そこに入れると思ってるの?」
エミルはアデルから受け取ったメモを、アデルの額にぺちんと叩きつけた。
「ただでさえ向こうはあたしたちを商売敵、面倒臭い輩だと思ってるのに、自分たちの本拠地のど真ん中にまで平然と入れてくれるって?
そんなの、透明人間にでもならない限り不可能よ。間違い無く門前払いされるでしょうし、最悪、政府施設への不法侵入罪をでっち上げられて、パディントン探偵局ごと潰されるわよ」
「分かってるって。俺だっていきなり、『よう、おつかれさん』なんてフレンドリーに入ろうとは思っちゃいないさ」
メモを額からはがしつつ、アデルは肩をすくめる。
「そこで今回、俺が任された件が絡んでくるわけだ」
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おたから。
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「『猛火牛(レイジングブル)』、だろ?」
アデルがニヤニヤしながら放ったその言葉に、エミルはけげんな表情を浮かべた。
「なにそれ?」
「あれ? 間違えたかな……」
エミルの反応を受けて、アデルは途端に自信を失う。
「それがトリスタン・アルジャンの通り名だっつって、情報屋のグレースからそう聞いたんだけどなぁ」
「ふーん、そうなの?」
前回、イクトミからその名を聞かされた時のそれとあまりに違う、そっけないエミルの反応に、アデルはまた面食らった。
「そうなのって、……俺はてっきり、もうちょっと何か、過敏な反応してくるんじゃないかなーって思ったりなんかしてたわけなんだけど」
「死んだはずの奴が生きてるって知らされたらそりゃ、びっくりするわよ。でも生きてるって分かった今、何聞いたって驚きもしないわね。
で? 動揺したあたしに畳み掛けて、前歴を聞き出してやろうとでも思ったのかしら、探偵さん?」
「あ、いや、そう言うわけじゃなくてだな、何て言うか」
取り繕おうとするアデルに対し、エミルは冷ややかに言い放つ。
「ごまかしは結構。そして答えはノーよ。
今は何を聞かれたって、『前々職』については一切答えたくないの」
エミルの頑なな態度に、アデルはようやく諦める。
「まあ、じゃあそっちの話はもういいや。また今度にする。
いや、なんでこんな話切り出して来たかって言うとだな、そのグレースって奴、情報屋なだけあってさ、色々と話を持って来てくれるんだよ。
近所の美味しいコーヒー屋だとか、来週どこの店でバーゲンするかだとか、そう言う細かいことから、次期大統領選の両党それぞれの有力候補だとか、旧大陸のどこかの王様が死にそうだとか、ピンからキリまで揃えてるんだ」
「それが?」
「ま、流石に全部が全部本物、信憑性があるってわけじゃないが、半分くらいは信用できる情報だってことだ。
んで、その中で一つ、耳寄りな情報をもらったんだ」
長ったらしい前置きを終え、アデルはメモをエミルに差し出した。
「何?」
「南北戦争の開戦前に、T州とその周辺を地盤にしてたある政治家が、その戦争が始まるかもってことで、貯めてた政治資金やら資産やらを、どこかに隠したんだ。なんでも今の価値に換算して、総額50万ドルだとか、100万ドルだとか。
ま、これだけならよくあるおとぎ話、アホみたいなトレジャーハンターがホイホイ飛びつきそうな、胡散臭い都市伝説でしかない。
ところがそれを裏付ける資料が、『とある場所』に保管されてるらしいんだ。もしかすればその資料には、隠し場所なんかのヒントがあるかも知れない」
「とある場所?」
おうむ返しに尋ねたエミルに、アデルは辺りをきょろ、と伺ってから、小声でエミルの耳にささやいた。
「コロンビア特別区、司法省の……」「は?」
エミルはくるりとアデルに向き直り、それを遮る。
「つまり連邦特務捜査局の資料室にある、ってこと?」
「そう言うことだ」
「あんた、そこに入れると思ってるの?」
エミルはアデルから受け取ったメモを、アデルの額にぺちんと叩きつけた。
「ただでさえ向こうはあたしたちを商売敵、面倒臭い輩だと思ってるのに、自分たちの本拠地のど真ん中にまで平然と入れてくれるって?
そんなの、透明人間にでもならない限り不可能よ。間違い無く門前払いされるでしょうし、最悪、政府施設への不法侵入罪をでっち上げられて、パディントン探偵局ごと潰されるわよ」
「分かってるって。俺だっていきなり、『よう、おつかれさん』なんてフレンドリーに入ろうとは思っちゃいないさ」
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「そこで今回、俺が任された件が絡んでくるわけだ」
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