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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 6 ~ オールド・サザン・ドリーム ~ 8

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    ウエスタン小説、第8話。
    二手、三手先を読む。

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    8.
    「え……?」
     思ってもいなかったエミルの返答に、アデルは面食らう。
    「いや、変な話じゃないだろ? 時間差があるから……」「そこじゃ無いわよ、問題は」
     エミルは肩をすくめつつ、こう返した。
    「あんた、火が点いたダイナマイトが目の前に落ちてるのを見付けても、その場でじっと突っ立ってるの?」
    「どう言う意味だよ?」
    「危ないと思ったらすぐ逃げるだろ、って話よ。
     事件発覚が公になるかならないかのタイミングで、まんまとワシントンから逃げおおせた奴が相手よ? そんな相手が本拠地のド真ん中で、『捕まるかも』って危険を冒しておいて、追手の心配をしてないわけが無いじゃない。
     あたしたちがのこのこ本拠地に乗り込んだら、全力で逃げ出すに決まってるわ。相手にとってはるかに地の利がある町から、ね」
    「なるほど……。言われりゃ確かに、その危険は無視できないか。そこで逃げるか隠れるかされれば、見付け出すことは難しくなるだろうな。
     だが本拠地で追わなけりゃ、どこで追うんだ?」
    「これよ」
     エミルは地図を広げ、2つの町を指し示した。
    「ここが議員さんの本拠地である、サンクリスト。
     ここから70マイルほど南にもう一つ、フランコビルって言う町があるの。隣駅でもあり、その路線の終着駅でもある町よ。
     そしてさらに南へ進んでいけば国境、その先はメキシコってわけ」
    「高飛びするには手頃なルートだな。となると馬が必要か、……あー、なるほど」
    「そうですね。そちらを抑える方が、より確実だと思います」
     うなずいているアデルとサムに対し、ロバートはぽかんとしている。
    「どう言うことっスか? その、フランコビルって町で待ち構えるってことっスか?」
    「ああ、そうだ。この町から南の国境まではかなりの距離があるし、馬の手入れや食糧なんかの補給は入念にしなきゃならない。でなきゃ国境を越える前に、地獄の門をくぐる羽目になるからな。
     そしてこの町の近隣百数十マイルにはサンクリスト以外の、他の町は無い。言い換えれば、この町以外に補給ができるところは皆無ってことだ」
    「つまりここで待ち構えてれば……」
     ロバートの言葉に、アデルは大仰にうなずいた。
    「そう、議員先生の方からやって来るはずだ。
     後はきちっと拘束し、しれっとF資金について聞き出す。ミッション終了ってわけだ」

     行動指針がまとまった後は、特に何かを検討するようなことも無く、それぞれが到着までの時間を潰していた。
    「ようやく次の町が見えてきたなー」
    「そうね」
    「今日はどの辺りまで行けるかな」
    「さあ?」
    「お、湖だ。なんだっけ、エリー湖だったか?」
    「そうじゃない?」
     ずっと外の景色を眺めているエミルに、アデルは色々話しかけてみるが、生返事しか返って来ない。
     まともな会話をあきらめたアデルは、今度はサムに話しかける。
    「なあ、サム」
    「え、あっ、はい?」
     手帳に目を通していたサムが、ぎょっとした顔をする。
    「なんだよ、声かけただけだろ」
    「あ、すみません。えーと、何でしょう?」
    「お前さん、いくつって言ってたっけ?」
    「22です」
    「ロバートのいっこ下か。大学も出てるんだよな?」
    「あ、はい。去年、H大のロースクールを」
    「……は?」
     サムの学歴を聞いて、アデルは面食らう。
    「22歳って言ったよな?」
    「はい」
    「去年、ロースクール卒業? H大の?」
    「ええ」
    「すげえな、飛び級してんじゃねえか。
     お前さん、実はものすげえ奴なんだな」
    「いや、そんなことは、全然。人と話すの、苦手ですし」
    「謙遜すんなっつの。なんだよ、超エリートだなぁ。とてもチンピラ上がりの隣に座ってる奴とは思えん」
    「ちょっ……、ひどいっスね先輩」
     サムと比較され、ロバートが口をへの字に曲げた。
    「そーゆー先輩はどうなんスか? どうせやんごとなき大学を主席で卒業とかでしょ?」
    「局長じゃあるまいし。俺はふつーの、名前も聞いたこと無いような大学の出身だよ」
     そう返したアデルに、サムが食いつく。
    「パディントン局長の母校って、どちらなんですか? あの方、イギリス訛りがありますし、やっぱりそちらの……?」
    「らしいぜ。若い頃はイギリス人だったって聞いてるしな」
    「……納得っスねぇ」
     アデルの話にロバートもサムも、うんうんとうなずいていた。
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