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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 6 ~ オールド・サザン・ドリーム ~ 10

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    ウエスタン小説、第10話。
    煩悶アデル。

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    10.
    (こんな先輩、初めて見るぜ)
     半月前に出た初任給で早速買った懐中時計で時間を確かめつつ、ロバートはベッドの上で、一言も発さずとぐろを巻いているアデルを眺めていた。
    「先輩、ちょっと寝たらどうっスか? 夕飯まであと3時間ありますし」「……」
     何度か声をかけたが、アデルの耳には入っていないらしく、彼はじっと壁の方を見つめたままである。
    (いや、壁って言うか、多分その向こう――姉御たちが今ナニしてんのかなーって考えてるんだろうなー、これ)
     たまりかねたロバートは、アデルの肩をトントンと叩く。
    「先輩、そんなに気になるんなら、聞き耳立ててみたらどうっスか?」
    「あ?」
     振り返ったアデルの顔には、汗が噴き出していた。恐らく暑さのせいだけではなく、隣が気になって仕方無いのだろう。
    「このまんま後3時間、壁を見つめてるつもりっスか? んなことしてるより、潔くコップ使って様子伺った方が、よっぽどスッキリすると思いますけど」
    「……」
     一瞬、アデルがにらんだが、すぐに壁へと目線を戻し、もう一度ロバートに向き直った。
    「取ってくれ」
    「あ、はい」
     ロバートは素直に、水差しに被さっていたコップを一つ取り、アデルに手渡した。それを受け取るなり、アデルはベッドの上を膝立ちで進み、壁にコップを押し当てて張り付く。
     が――3秒もしないうち、壁からドン、と音が響くとともに、アデルは耳を抑えてベッドの上をのたうち回った。
    「ど、どしたんスか!?」
    「……っ……うぅ……あー……ちっくしょー……エミルの奴」
     まだ耳を抑えたまま、アデルは苦い顔をロバートに向けた。
    「向こうから壁叩いてきやがった。鼓膜が破れるかと思ったぜ、くそ」
    「お見通し、ってわけっスか。流石は姉御っスね」
     どうにか割れずに済んだコップを床から拾い、アデルは水差しからコップへと水を注ぎつつ、ぶつぶつとつぶやいている。
    「だがまあ、これでともかく、エミルとあいつが変なことしてるって可能性は無くなったわけだ。多分俺がコップを壁に押し当てた音を、エミルは聞きつけたんだろう。でなきゃあんなタイミング良く、ポイント良く壁叩いたりできないしな。音が聞けたってことは、何か騒々しいことをやってる最中じゃないってことだし。既に部屋に入ってから30分は経過してるし、それまで特に何かそれっぽいことをしてる様子が無いってことは多分、あと3時間、恐らくこのままだって言う可能性は高いと見て問題無いはず、……いやしかし、俺がこう考えることをエミルが考えないとは考えにくいし、となると俺が諦めて不貞寝するこのタイミングを見計らって、『ねえサムの坊や、もっとレジャーを楽しんでみない』なんて口説き始めるかも知れないし……」
     縁ギリギリまで注いだ水に口を付けようともせず、ぶつぶつ唱えたままのアデルに、ロバートは単刀直入に尋ねた。
    「先輩、姉御のことが好きなんスね?」
    「しかし可能性としては、……ぅひぇ?」
     素っ頓狂な声を上げたアデルを見て、ロバートは噴き出した。
    「俺のことをバカだ、単純だってけなすわりには、先輩も十分おバカでド単純じゃないっスか」
    「て、てめっ」
     顔を真っ赤にするアデルに、ロバートはニヤニヤと笑って返す。
    「案外純情なんスね、先輩」
    「……純情で悪いかよ」
    「全然。むしろ先輩らしいっス」
    「バカにしてんのか?」
    「いやいや、尊敬してるんスよ」
    「どこに尊敬できる要素があんだよ」
    「だって、探偵なんて結局、人の粗探しでメシ食ってるようなもんじゃないスか。そんなこと長く続けてたら、絶対どこかスレてきて、嫌な奴になってきますって。
     でも先輩、全然そーゆーとこ無いなって。そりゃまあ、時々きっついこと言ってくるっスけど、丁寧にモノを教えてくれるし、ちょくちょく飲みに連れてってくれるし、何だかんだ言って正直者だし。
     だから俺、先輩のことは人間として尊敬してるんス、マジで」
    「お前なぁ」
     アデルは水を一息に飲み干し、ロバートに背を向けつつ、こう続ける。
    「人を見る目が甘すぎるぜ。俺だってスレたとこの一つや二つあるっての。
     あんまりさ、人を妄想で脚色したり、期待しすぎたりすんなよ。それ裏切られたら、ただ自爆するだけだからな」
    「へへへ、覚えときます」
    「……ふん」
     アデルがごろんとベッドに寝転んだところで、ドアがノックされた。
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