DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 6 ~ オールド・サザン・ドリーム ~ 12
ウエスタン小説、第12話。
カウボーイだった男の哀愁。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
12.
アデルたちがフランコビルに着いてから、5日後。
いかにも神経の細そうな、蒼い顔をした中年の男が、大きなスーツケースを両手にそれぞれ1つずつ提げて、駅から現れた。
「……」
神経質じみた仕草で辺りを確かめつつ、男は駅を離れ、そのまま南へと歩いて行く。
1時間ほどかけ、男は「ダンカン牧場」と看板がかけられた、小さな家の前に着いた。
「ふう、ふう……、失礼、ボビー・ダンカンさんはいらっしゃるか?」
トントンとドアをノックし、少ししてその向こうから、陽気そうな男の声が返って来た。
「ちょっと待ってくれー、すぐ開ける」
その言葉通りドアが開き、中から赤ら顔の、やはり陽気そうに見える男が現れた。
「ん? ……おお、テディ! テディじゃねえか!」
「ん、ん……、ゴホン、ゴホン」
テディと呼ばれた男は辺りを見回しつつ、空咳をする。
「その、……あまり、大声を出さないでくれ、ボブ」
「あ……? どうしたんだ、テディ? 前にも増して顔が真っ青だぞ」
「血色の良い君がうらやましいよ。……いや、その、……君は最近、新聞を読んだか?」
「新聞?」
テディに尋ねられ、ボブはげらげらと笑って返した。
「おいおい、俺が文字嫌いなの、忘れちまったのか? あんなもん、暖炉の火を点けるのにしか使ったこと無えや」
「覚えている。だから君のところに来たんだ。『最近の』私の事情を、きっと君は知らないでいてくれているだろうと思って」
「あん?」
きょとんとしているボブに、テディはもう一度辺りを見回してから、こう続けた。
「中に入っていいか? 外では話せないんだ」
「おう、むさ苦しくて上院議員殿にゃ似合わんところだが、それでもいいなら」
「助かる」
家の中に通されるなり、テディは持っていたかばんをテーブルの上に置き、片方を開けた。
「おいおい、大げさなかばんだなぁ。一体何が入って……」
笑いかけたボブの顔が、凍ったように固まる。
開かれたかばんの中には300人のリンカーンが、ぎゅうぎゅう詰めになって眠っていたからだ。
「お、お、おっ、おい、テディ、な、なんだ、それっ」
「見ての通り100ドル紙幣が300枚、つまり3万ドルだ。もう一つのかばんにも、同じくらい詰め込んでいる。
ボブ、詳しいことは一切聞かないと、約束してくれないか?」
「おっ、おう。い、いいぜ」
ガタガタと震えつつも、ボブは首を縦に振った。
「本当に助かる。ありがとう、ボブ。
馬を1頭買いたいんだが、いくらになる?」
「馬だって? 競馬にでも出すのか?」
「いや、私が乗るんだ」
「お前が?」
ボブは首にかけていたバンダナで額の汗をごしごしと拭いつつ、呆れた目を向ける。
「お前が馬に乗ってたのなんて戦争前の、まだハナたれのガキだった頃の話じゃねえか。一体どうし、……あー、いや、聞かん。聞かんぞ」
「ありがとう。できれば脚が長持ちする馬がいいんだが……」
「あるぜ。値段は400ドルってところだ」
「そうか。かなりの距離を歩かせるから、食糧も用意して欲しいんだ。人と馬、両方の」
そう頼んできたテディに、ボブは神妙な顔を返した。
「テディ。お前まさか、メキシコにでも高飛びするのか? そのカネ、ヤバいヤツなのか?」
「……」
何も答えず、押し黙ったテディを見て、ボブは深くうなずいた。
「……いや、聞くなって話だったよな。答えなくていい。
分かった、1週間分でいいか?」
「ああ、助かる。調達にどれくらいかかる?」
「2時間もありゃ十分だ。総額、しめて……」
言いかけたボブに、テディはかばんの中のドル紙幣を乱雑につかみ、そのまま渡そうとした。
「2000ドルはあるだろう。これで頼む」
「お、多すぎるって! 500くらいで……」「いや」
テディは金を無理矢理、ボブに押し付ける。
「迷惑料も込みだ。恐らくこの後、面倒臭い連中が大勢押しかけて、君に根掘り葉掘り聞いてくるだろうから」
「……」
まだ渋るような表情を浮かべていたが、ボブはテディから金を受け取った。
そして2時間後、確かにボブは、馬と食糧とを調達してきてくれた。
「本当にありがとう、ボブ。それじゃ、元気で」
「おう。お前も、元気でな」
「ああ。……じゃあ」
テディはひらりと馬に乗り、そのままダンカン牧場を後にした。
「……」
牧場からさらに南下し、周囲が見渡す限りの荒野となったところで、テディは懐から煙草を取り出した。
(……何年ぶり、いや、何十年ぶりだろうか。
こうして何も無い、誰もいないところでただ一人、静かに煙草を吸うのは)
ライターで火を点け、口にくわえ、ゆっくりと吸い込む。
「ふう……」
テディは吐き出した紫煙が風に飛ばされるのをぼんやりと眺め――その向こうに、馬に乗った人影が4つ、近付いて来ていることに気付いた。

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カウボーイだった男の哀愁。
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12.
アデルたちがフランコビルに着いてから、5日後。
いかにも神経の細そうな、蒼い顔をした中年の男が、大きなスーツケースを両手にそれぞれ1つずつ提げて、駅から現れた。
「……」
神経質じみた仕草で辺りを確かめつつ、男は駅を離れ、そのまま南へと歩いて行く。
1時間ほどかけ、男は「ダンカン牧場」と看板がかけられた、小さな家の前に着いた。
「ふう、ふう……、失礼、ボビー・ダンカンさんはいらっしゃるか?」
トントンとドアをノックし、少ししてその向こうから、陽気そうな男の声が返って来た。
「ちょっと待ってくれー、すぐ開ける」
その言葉通りドアが開き、中から赤ら顔の、やはり陽気そうに見える男が現れた。
「ん? ……おお、テディ! テディじゃねえか!」
「ん、ん……、ゴホン、ゴホン」
テディと呼ばれた男は辺りを見回しつつ、空咳をする。
「その、……あまり、大声を出さないでくれ、ボブ」
「あ……? どうしたんだ、テディ? 前にも増して顔が真っ青だぞ」
「血色の良い君がうらやましいよ。……いや、その、……君は最近、新聞を読んだか?」
「新聞?」
テディに尋ねられ、ボブはげらげらと笑って返した。
「おいおい、俺が文字嫌いなの、忘れちまったのか? あんなもん、暖炉の火を点けるのにしか使ったこと無えや」
「覚えている。だから君のところに来たんだ。『最近の』私の事情を、きっと君は知らないでいてくれているだろうと思って」
「あん?」
きょとんとしているボブに、テディはもう一度辺りを見回してから、こう続けた。
「中に入っていいか? 外では話せないんだ」
「おう、むさ苦しくて上院議員殿にゃ似合わんところだが、それでもいいなら」
「助かる」
家の中に通されるなり、テディは持っていたかばんをテーブルの上に置き、片方を開けた。
「おいおい、大げさなかばんだなぁ。一体何が入って……」
笑いかけたボブの顔が、凍ったように固まる。
開かれたかばんの中には300人のリンカーンが、ぎゅうぎゅう詰めになって眠っていたからだ。
「お、お、おっ、おい、テディ、な、なんだ、それっ」
「見ての通り100ドル紙幣が300枚、つまり3万ドルだ。もう一つのかばんにも、同じくらい詰め込んでいる。
ボブ、詳しいことは一切聞かないと、約束してくれないか?」
「おっ、おう。い、いいぜ」
ガタガタと震えつつも、ボブは首を縦に振った。
「本当に助かる。ありがとう、ボブ。
馬を1頭買いたいんだが、いくらになる?」
「馬だって? 競馬にでも出すのか?」
「いや、私が乗るんだ」
「お前が?」
ボブは首にかけていたバンダナで額の汗をごしごしと拭いつつ、呆れた目を向ける。
「お前が馬に乗ってたのなんて戦争前の、まだハナたれのガキだった頃の話じゃねえか。一体どうし、……あー、いや、聞かん。聞かんぞ」
「ありがとう。できれば脚が長持ちする馬がいいんだが……」
「あるぜ。値段は400ドルってところだ」
「そうか。かなりの距離を歩かせるから、食糧も用意して欲しいんだ。人と馬、両方の」
そう頼んできたテディに、ボブは神妙な顔を返した。
「テディ。お前まさか、メキシコにでも高飛びするのか? そのカネ、ヤバいヤツなのか?」
「……」
何も答えず、押し黙ったテディを見て、ボブは深くうなずいた。
「……いや、聞くなって話だったよな。答えなくていい。
分かった、1週間分でいいか?」
「ああ、助かる。調達にどれくらいかかる?」
「2時間もありゃ十分だ。総額、しめて……」
言いかけたボブに、テディはかばんの中のドル紙幣を乱雑につかみ、そのまま渡そうとした。
「2000ドルはあるだろう。これで頼む」
「お、多すぎるって! 500くらいで……」「いや」
テディは金を無理矢理、ボブに押し付ける。
「迷惑料も込みだ。恐らくこの後、面倒臭い連中が大勢押しかけて、君に根掘り葉掘り聞いてくるだろうから」
「……」
まだ渋るような表情を浮かべていたが、ボブはテディから金を受け取った。
そして2時間後、確かにボブは、馬と食糧とを調達してきてくれた。
「本当にありがとう、ボブ。それじゃ、元気で」
「おう。お前も、元気でな」
「ああ。……じゃあ」
テディはひらりと馬に乗り、そのままダンカン牧場を後にした。
「……」
牧場からさらに南下し、周囲が見渡す限りの荒野となったところで、テディは懐から煙草を取り出した。
(……何年ぶり、いや、何十年ぶりだろうか。
こうして何も無い、誰もいないところでただ一人、静かに煙草を吸うのは)
ライターで火を点け、口にくわえ、ゆっくりと吸い込む。
「ふう……」
テディは吐き出した紫煙が風に飛ばされるのをぼんやりと眺め――その向こうに、馬に乗った人影が4つ、近付いて来ていることに気付いた。

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注釈。
2016年現在、100ドル札紙幣に描かれている人物はアメリカ独立に貢献した政治家、ベンジャミン・フランクリンですが、
19世紀後半頃の100ドル札には第16代アメリカ大統領、エイブラハム・リンカーンが描かれていたことがあります。
ちなみに100ドル札に初めてフランクリンが描かれたのは、1914年。
以降100年以上もの間ずっと、米ドル紙幣の顔となっています。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
注釈。
2016年現在、100ドル札紙幣に描かれている人物はアメリカ独立に貢献した政治家、ベンジャミン・フランクリンですが、
19世紀後半頃の100ドル札には第16代アメリカ大統領、エイブラハム・リンカーンが描かれていたことがあります。
ちなみに100ドル札に初めてフランクリンが描かれたのは、1914年。
以降100年以上もの間ずっと、米ドル紙幣の顔となっています。
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もくじ
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短編・掌編

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雑記

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クルマのドット絵

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携帯待受

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カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
当時だったら、「金貨証券」のほうがらしいんじゃないか、と思いました。同じ3万ドルでも、1000ドルの金貨証券だったら30枚ですから携帯に便利ですし。
まあ、考えてみればそんなもの持っていることがわかったら命がいくつあっても足りないですから、100ドル札300枚をトランクに入れたほうが合理的ですねやっぱり(^^;)
ところで件のゲームはルール難しかったですか。ショートシナリオだったら1時間あれば終わるように作ったつもりでしたが、ルールブックが意味不明だったらそれこそなんとお詫びしてよいか……。
まあ、考えてみればそんなもの持っていることがわかったら命がいくつあっても足りないですから、100ドル札300枚をトランクに入れたほうが合理的ですねやっぱり(^^;)
ところで件のゲームはルール難しかったですか。ショートシナリオだったら1時間あれば終わるように作ったつもりでしたが、ルールブックが意味不明だったらそれこそなんとお詫びしてよいか……。
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NoTitle
どっちが集めやすいか、と言う問題も……。
申し訳ありませんが、現在、別作業に集中しており、
ゲームの方はまだ把握しきれていません。
次の日曜くらいまでには何とか感想をお返しできるよう、努力します。