DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 6 ~ オールド・サザン・ドリーム ~ 14
ウエスタン小説、第14話。
内戦前夜の空白。
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14.
スティルマン議員をワシントンへ護送する前に、アデルたちはサンクリストへ寄り道していた。
「このままじゃ気になって仕方無いし、F資金についての手がかりだけでもつかんでおきたいんだ。
協力してもらうぜ、議員先生。……ただし、このことは内緒にしてくれ」
「それは司法取引かね?」
憮然とした顔で尋ねたスティルマン議員に、アデルはニヤ、と笑う。
「俺にその権限は無いが、便宜は図るよう頼む。……こいつが」
そう言って、アデルはサムの肩をポン、と叩いた。
「えっ!? ……そ、そんな無茶な!」
「頼むよ、サム。ほら、事情聴取の時にでもさ、『カネの一部を教会に寄進して懺悔してた』とか、『ショーウインドウ覗き込んでた子供にプレゼント買ってやった』とかさ、適当にハートフルな美談付け加えりゃさ、心象も良くなるだろ?」
「ぼ、僕にウソをつけと? いっ、嫌ですよ!」
流石のサムも、こんな荒唐無稽な頼み事は受け付けられないらしく、頑なな態度を執っている。
「ウソじゃなきゃいいんでしょ?」
と、エミルがスティルマン議員のかばんから何百ドルか取り出し、駅に備え付けられてある募金箱に、ぐしゃぐしゃと突っ込んだ。
「ちょ、エミル!? ……お前もお前で滅茶苦茶だな」
「どうせ持って帰ったって、お役人が何だかんだ理屈をつけて、国庫に放り込むだけでしょ? それならこっちの方がまだ、有効活用ってもんよ。
それにもう、捜査の方は終わってるんだから、さっさとやることやって帰りたいし。ここでうだうだ言い争いなんかして、時間を潰したくないのよ、あたしは。
さ、行きましょ」
エミルに促され、一行はスティルマン邸へと向かった。
スティルマン議員が逃走資金確保のために立ち寄った際に使用人をすべて解雇したため、屋敷内に人の姿は無い。
無人となった屋敷に入り、スティルマン議員がうんざりとした顔で尋ねる。
「それで、何を調べようと言うのかね?」
「議員先生、この屋敷はあんたの伯父も住んでたことがあるんだよな?」
「うむ。と言っても61年以降、彼が政治家になってからは一度も帰ってきたことは無いがね」
「なってからは、か。じゃあその直前までは、ここにいたわけだ。
サム、確かショーンの方のスティルマン氏は、57年からフィッシャー氏と関係があったって言ってたよな?」
「あ、はい」
「なら、その間に付けた日記なんかがあるかも知れん。それを探そう」
一行はショーン氏の使っていた部屋へ入り、机や本棚を念入りに調べる。程無くして、1857年から1861年に書かれた日記を3冊、見付け出した。
ところが――。
「……それらしいことは何にも書いてないな。フィッシャー氏とどこに行ったとか、弟から借金の相談を受けたとか、そんなことばっかりだ」
「言ったろう? そんな話は聞いたことが無いと」
落胆するアデルに、スティルマン議員が呆れた目を向ける。
「最初から、そんなものはどこにも無かったのだ。大方、当時権勢を振るっていたフィッシャー氏に嫉妬していた連中が流したデマなのだろう。
大体、F資金などと言う与太話を真に受けて人を追い回し、こんなろくでもない家探しにまで及ぶなど、分別ある紳士がすべきことでは無いだろう。ああ、嘆かわしい」
「くそ……」
追っていた相手になじられ、アデルは憮然とする。
と――日記を読んでいたエミルが、声をかけてくる。
「アデル。ちょっと見てちょうだい」
「なんだよ?」
「ほら、このページ。1860年の12月終わりから61年の2月はじめまで、いきなり日にちが飛んでる」
「ん? その辺りって確か……」
「南部地域が合衆国から脱退し、連合国を宣言した辺りですね」
「だよな」
サムの注釈を受けつつ、アデルは日記を手に取る。
「フィッシャー氏はT州有数の権力者だったし、この頃も恐らく、忙しくしてただろう。『弟子』のショーン氏も随伴してただろうし、同じく忙しかったはずだ。……となればまあ、日記が満足に書けなかったんだろうとは、考えられなくも無い。
だがその後、唐突に日記が再開され、そのまま何事も無かったかのように続けられている。まるでこの2ヶ月の空白をごまかしているような……」
「考えすぎだ!」
呆れ返るスティルマン議員をよそに、アデルはもう一度、机に目を向ける。
「この日記は、机の中にあったんだっけか」
「ええ、真ん中の引き出しよ」
「ふむ」
アデルは引き出しを抜き取って引っくり返し、底面を軽く叩いてみる。
「やっぱり二重底か。ここを……こうして……こうすれば……よし、開いた」
中から出てきたもう一冊の日記を手に取り、アデルはページをめくった。
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内戦前夜の空白。
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スティルマン議員をワシントンへ護送する前に、アデルたちはサンクリストへ寄り道していた。
「このままじゃ気になって仕方無いし、F資金についての手がかりだけでもつかんでおきたいんだ。
協力してもらうぜ、議員先生。……ただし、このことは内緒にしてくれ」
「それは司法取引かね?」
憮然とした顔で尋ねたスティルマン議員に、アデルはニヤ、と笑う。
「俺にその権限は無いが、便宜は図るよう頼む。……こいつが」
そう言って、アデルはサムの肩をポン、と叩いた。
「えっ!? ……そ、そんな無茶な!」
「頼むよ、サム。ほら、事情聴取の時にでもさ、『カネの一部を教会に寄進して懺悔してた』とか、『ショーウインドウ覗き込んでた子供にプレゼント買ってやった』とかさ、適当にハートフルな美談付け加えりゃさ、心象も良くなるだろ?」
「ぼ、僕にウソをつけと? いっ、嫌ですよ!」
流石のサムも、こんな荒唐無稽な頼み事は受け付けられないらしく、頑なな態度を執っている。
「ウソじゃなきゃいいんでしょ?」
と、エミルがスティルマン議員のかばんから何百ドルか取り出し、駅に備え付けられてある募金箱に、ぐしゃぐしゃと突っ込んだ。
「ちょ、エミル!? ……お前もお前で滅茶苦茶だな」
「どうせ持って帰ったって、お役人が何だかんだ理屈をつけて、国庫に放り込むだけでしょ? それならこっちの方がまだ、有効活用ってもんよ。
それにもう、捜査の方は終わってるんだから、さっさとやることやって帰りたいし。ここでうだうだ言い争いなんかして、時間を潰したくないのよ、あたしは。
さ、行きましょ」
エミルに促され、一行はスティルマン邸へと向かった。
スティルマン議員が逃走資金確保のために立ち寄った際に使用人をすべて解雇したため、屋敷内に人の姿は無い。
無人となった屋敷に入り、スティルマン議員がうんざりとした顔で尋ねる。
「それで、何を調べようと言うのかね?」
「議員先生、この屋敷はあんたの伯父も住んでたことがあるんだよな?」
「うむ。と言っても61年以降、彼が政治家になってからは一度も帰ってきたことは無いがね」
「なってからは、か。じゃあその直前までは、ここにいたわけだ。
サム、確かショーンの方のスティルマン氏は、57年からフィッシャー氏と関係があったって言ってたよな?」
「あ、はい」
「なら、その間に付けた日記なんかがあるかも知れん。それを探そう」
一行はショーン氏の使っていた部屋へ入り、机や本棚を念入りに調べる。程無くして、1857年から1861年に書かれた日記を3冊、見付け出した。
ところが――。
「……それらしいことは何にも書いてないな。フィッシャー氏とどこに行ったとか、弟から借金の相談を受けたとか、そんなことばっかりだ」
「言ったろう? そんな話は聞いたことが無いと」
落胆するアデルに、スティルマン議員が呆れた目を向ける。
「最初から、そんなものはどこにも無かったのだ。大方、当時権勢を振るっていたフィッシャー氏に嫉妬していた連中が流したデマなのだろう。
大体、F資金などと言う与太話を真に受けて人を追い回し、こんなろくでもない家探しにまで及ぶなど、分別ある紳士がすべきことでは無いだろう。ああ、嘆かわしい」
「くそ……」
追っていた相手になじられ、アデルは憮然とする。
と――日記を読んでいたエミルが、声をかけてくる。
「アデル。ちょっと見てちょうだい」
「なんだよ?」
「ほら、このページ。1860年の12月終わりから61年の2月はじめまで、いきなり日にちが飛んでる」
「ん? その辺りって確か……」
「南部地域が合衆国から脱退し、連合国を宣言した辺りですね」
「だよな」
サムの注釈を受けつつ、アデルは日記を手に取る。
「フィッシャー氏はT州有数の権力者だったし、この頃も恐らく、忙しくしてただろう。『弟子』のショーン氏も随伴してただろうし、同じく忙しかったはずだ。……となればまあ、日記が満足に書けなかったんだろうとは、考えられなくも無い。
だがその後、唐突に日記が再開され、そのまま何事も無かったかのように続けられている。まるでこの2ヶ月の空白をごまかしているような……」
「考えすぎだ!」
呆れ返るスティルマン議員をよそに、アデルはもう一度、机に目を向ける。
「この日記は、机の中にあったんだっけか」
「ええ、真ん中の引き出しよ」
「ふむ」
アデルは引き出しを抜き取って引っくり返し、底面を軽く叩いてみる。
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