「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・手本録 1
晴奈の話、19話目。
不機嫌な師匠。
1.
「柊雪乃と言う女性はとてもよくできた人だ」、と晴奈はいつも思っている。
エルフに良く見られる儚げで華奢な容姿と、気さくで面倒見が良く、温かい雰囲気を併せ持っている。
そして何より一流の女剣士であり、その強さは彼女の二つと無い魅力である。
「美しく」、「優しく」、そして「かっこ良くて」「強い」――晴奈にとって師匠、柊雪乃は何よりも、どんな人物よりも手本にしたいと心から思える、まさに「こんな人になりたい」と願ってやまない理想像なのだ。
だから――師匠のこんな大儀そうな顔を見ているのは、晴奈としても非常に心苦しいものだった。
「はぁ……」
ため息はもう、何十回ついたか分からない。師弟合わせれば百に届くかと言う数にはなっている。
「遅い、ですね」
「そうね」
素っ気無い返事に、晴奈はそれ以上言葉をつなげられない。手持ち無沙汰になり、しょうがなく自分の尻尾をいじりつつ、相手が来るのを待つ。
「……クスッ」
そうしていると、柊が小さく笑った。
「晴奈。あなた良く、尻尾をいじっているわね」
「え? あ、はい。そうですね」
半ば無意識の行動だったので、晴奈は少し気恥ずかしくなり、尻尾から手を離す。
「尻尾の細長い獣人って、『猫』か『虎』くらいだけど、みんな良く、そうやって手入れしているみたいね。『狼』とか『狐』になると、櫛まで使って綺麗に梳かしていたりするし」
「まあ、自分の体の一部ですから」
「ね、……ちょっと、触っていい?」
柊は不意に、晴奈の尻尾を指差す。
「はい、大丈夫です」
晴奈も柊に尻尾を向け、触らせた。
「……ふさふさね。でもちょっと、さらさらした感じもあるかしら」
柊は尻尾をもそもそと撫で、楽しげな声を漏らす。触っても良いと言ったとはいえ、撫でられるのは少し、くすぐったくて恥ずかしい。
「あ、あのー」
「ん? ああ、ゴメン。晴奈が触ってるの見ていたら、わたしも触ってみたくなっちゃって」
謝りつつも、尻尾から手は離さない。
「はー……。まだ来ないのかなぁ」
「師匠、一つ聞いてもよろしいですか?」
「ん?」
ここでようやく、柊は尻尾から手を離した。
「相手の熊獣人と言うのは、どのような男なのですか?」
「ん、……うーん。まあ、その、……ねぇ」
柊は、今度は自分の髪をいじりながら、ゆっくりと説明した。
「一言で言うと『面倒くさい奴』、ね。
まず、自分が無条件に偉いと思ってるもんだから、勝ったら威張り散らす。負けたら言い訳する。その上、人の話や都合を聞かない。相手が自分に合わせて当然、と考えている尊大な男よ」
「むう」
話に聞くだけでも、面倒な相手と言うのが良く分かる。
「さらに嫌なのが、話が通じないと言うこと」
「通じない? 異国の者だからですか?」
「いえ、そうじゃなくて――いえ、少しはあるかも知れないけれど――他人の話を、理解しようとしないのよ。
何を言っても、『自分には関係無い話』『相手が勝手な理屈を言ってるだけ』と決め付けて流す。そうして彼の口から出てくるのは――自分がいかに偉いか、と言う自慢話だけ」
「それは、……また、何と言うか、……面倒ですね」
顔をしかめる晴奈に、柊は困ったように笑って返した。
「だから、できれば会いたくないんだけど」
「……来たよう、ですね」
ドスドスと重い足音が、戸の向こう側からようやく聞こえてきた。
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不機嫌な師匠。
1.
「柊雪乃と言う女性はとてもよくできた人だ」、と晴奈はいつも思っている。
エルフに良く見られる儚げで華奢な容姿と、気さくで面倒見が良く、温かい雰囲気を併せ持っている。
そして何より一流の女剣士であり、その強さは彼女の二つと無い魅力である。
「美しく」、「優しく」、そして「かっこ良くて」「強い」――晴奈にとって師匠、柊雪乃は何よりも、どんな人物よりも手本にしたいと心から思える、まさに「こんな人になりたい」と願ってやまない理想像なのだ。
だから――師匠のこんな大儀そうな顔を見ているのは、晴奈としても非常に心苦しいものだった。
「はぁ……」
ため息はもう、何十回ついたか分からない。師弟合わせれば百に届くかと言う数にはなっている。
「遅い、ですね」
「そうね」
素っ気無い返事に、晴奈はそれ以上言葉をつなげられない。手持ち無沙汰になり、しょうがなく自分の尻尾をいじりつつ、相手が来るのを待つ。
「……クスッ」
そうしていると、柊が小さく笑った。
「晴奈。あなた良く、尻尾をいじっているわね」
「え? あ、はい。そうですね」
半ば無意識の行動だったので、晴奈は少し気恥ずかしくなり、尻尾から手を離す。
「尻尾の細長い獣人って、『猫』か『虎』くらいだけど、みんな良く、そうやって手入れしているみたいね。『狼』とか『狐』になると、櫛まで使って綺麗に梳かしていたりするし」
「まあ、自分の体の一部ですから」
「ね、……ちょっと、触っていい?」
柊は不意に、晴奈の尻尾を指差す。
「はい、大丈夫です」
晴奈も柊に尻尾を向け、触らせた。
「……ふさふさね。でもちょっと、さらさらした感じもあるかしら」
柊は尻尾をもそもそと撫で、楽しげな声を漏らす。触っても良いと言ったとはいえ、撫でられるのは少し、くすぐったくて恥ずかしい。
「あ、あのー」
「ん? ああ、ゴメン。晴奈が触ってるの見ていたら、わたしも触ってみたくなっちゃって」
謝りつつも、尻尾から手は離さない。
「はー……。まだ来ないのかなぁ」
「師匠、一つ聞いてもよろしいですか?」
「ん?」
ここでようやく、柊は尻尾から手を離した。
「相手の熊獣人と言うのは、どのような男なのですか?」
「ん、……うーん。まあ、その、……ねぇ」
柊は、今度は自分の髪をいじりながら、ゆっくりと説明した。
「一言で言うと『面倒くさい奴』、ね。
まず、自分が無条件に偉いと思ってるもんだから、勝ったら威張り散らす。負けたら言い訳する。その上、人の話や都合を聞かない。相手が自分に合わせて当然、と考えている尊大な男よ」
「むう」
話に聞くだけでも、面倒な相手と言うのが良く分かる。
「さらに嫌なのが、話が通じないと言うこと」
「通じない? 異国の者だからですか?」
「いえ、そうじゃなくて――いえ、少しはあるかも知れないけれど――他人の話を、理解しようとしないのよ。
何を言っても、『自分には関係無い話』『相手が勝手な理屈を言ってるだけ』と決め付けて流す。そうして彼の口から出てくるのは――自分がいかに偉いか、と言う自慢話だけ」
「それは、……また、何と言うか、……面倒ですね」
顔をしかめる晴奈に、柊は困ったように笑って返した。
「だから、できれば会いたくないんだけど」
「……来たよう、ですね」
ドスドスと重い足音が、戸の向こう側からようやく聞こえてきた。



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~ Comment ~
どもども、LandMさん。
いつもご愛読ありがとうございます。
耳と尻尾は彼らのチャームポイントですもんね(*´∀`)b
http://auringstore.blog.shinobi.jp/Entry/61/
以前、「現代にけものっ娘がいたら」と言うコンセプトで、SSを書いたことがあります。
きっとこんな生活をするんだろうな、とw
いつもご愛読ありがとうございます。
耳と尻尾は彼らのチャームポイントですもんね(*´∀`)b
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以前、「現代にけものっ娘がいたら」と言うコンセプトで、SSを書いたことがあります。
きっとこんな生活をするんだろうな、とw
やっぱり獣人たるもの尻尾の手入れは当然ですね。
どうもLandMです。
やっぱり尻尾がある種族はそれをネタにせずにはいられないですね。私もそれを書かずにはいられないので、気持ちがすごく良く分かります。やっぱり、手入れは必要ですね。尻尾は。
やっぱり尻尾がある種族はそれをネタにせずにはいられないですね。私もそれを書かずにはいられないので、気持ちがすごく良く分かります。やっぱり、手入れは必要ですね。尻尾は。
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NoTitle
触り心地いいんだろうね
でも、こういう獣の毛って高値で売られてたりしないんで?
貴重な獣の毛とか
触られると獣の本能で気持ち良さげな表情になるのね