DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 7 ~ 消えた鉄道王 ~ 1
ウエスタン小説、第7弾。
「王」と呼ばれた男。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
周知の事実であるが、アメリカ合衆国には「国王」がいない。
これは建国当初より、合衆国が「自由と平等」の精神を重んじた結果である。即ち国王などと言う「絶対君主」、唯一無二の存在が人民の中に、また、国家の中にある限り、その存在から人民が「自由」になることは叶わず、「平等」もまた、訪れ得ないからである。
なお、実際にアメリカ独立戦争後、初代大統領ワシントンを国王に立てようと言う動きが民衆の間で沸き起こったこともあるが、ワシントン本人が「自由と平等」の観点から、これを固辞している。
結局、建国以来一度も国王が誕生しないまま、現在に至っている。
とは言え、合衆国の中で並々ならぬ業績と富を手にし、「王」と称された者たちは数多く存在する。
古くは鉄鋼王カーネギー、石油王ロックフェラー、自動車王フォード、近年では不動産王トランプやIT王ゲイツ、投資王バフェットをはじめとして、合衆国の産業界はこの200余年で、数多くの王を輩出している。
勿論、西部開拓史における産業発展の代名詞、鉄道業界においても、数多くの王が現れた。最も有名なのはニューヨーク・セントラル鉄道など数多くの鉄道会社を有していた、ヴァンダービルト。その他にもモルガン、グールドなど、19世紀アメリカ産業界の中核、大動脈となっていた鉄道に関わり、巨額の財を成した者は少なくない。
そしてこの男もまた、鉄道王と称されるべき一人だった。
「本気かね、アーサー?」
対面に座る友の言葉に、彼は食事の手を止め、まじまじと相手を見つめた。
「本気だとも、メルヴィン。私は今年限りで引退する。後のことは息子に託そうと思っている」
「考え直せないのか? 君に去られてしまえば、わしはますます、会社からただの金庫番扱いされてしまう。
いや、それ以前にだ。優れた経営手腕を持ち、わしの良き理解者であった君を失うのは、会社にとっても、わしにとっても大きな痛手だ」
「ありがとう。そう言ってくれるのはとても嬉しいし、最大級の賛辞だと思っている。
しかし私の出番はもう終わったのだ。この前の買収作戦が失敗して以降、私の地盤はぐらついている。早晩、株主や投資家たちが責め立てに来るだろう。
そうなればきっと、君にも迷惑が及ぶ」
「わしは、そんなことは構わん。経営権を手放せと言うのならば、そうしてやる。そんなことはわしにとって、痛手でもなんでもない。
本当に、身を切られるほどの痛手は、君を失うことだ。君がわしの元を去ることは、100万ドルを失うことよりも、はるかに大きな損失だよ」
メルヴィンの説得に、アーサーは肩をすくめるばかりだった。
「そうまで言ってくれるのは、今では恐らく君だけだよ、メルヴィン。私としてもできる限りは、君の期待に応えられればとは思っているのだ。
しかしだな、メルヴィン」
アーサーは顔を両手で覆い、椅子にもたれかかる。
「私は、もう疲れたのだ。だから頼む、メルヴィン。休ませてくれ」
「……アーサー……」
憔悴しきった様子を見せるアーサーに、メルヴィンは彼の説得を諦めた。
それから数日後――西部有数の鉄道会社、ワットウッド&ボールドロイド西部開拓鉄道は、最高経営責任者であったアーサー・ボールドロイド氏の辞任を発表した。
また、この日以降、同社の共同経営者であったメルヴィン・ワットウッド氏も西部の屋敷にこもるようになり、事実上、経営権を手放した。
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「王」と呼ばれた男。
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周知の事実であるが、アメリカ合衆国には「国王」がいない。
これは建国当初より、合衆国が「自由と平等」の精神を重んじた結果である。即ち国王などと言う「絶対君主」、唯一無二の存在が人民の中に、また、国家の中にある限り、その存在から人民が「自由」になることは叶わず、「平等」もまた、訪れ得ないからである。
なお、実際にアメリカ独立戦争後、初代大統領ワシントンを国王に立てようと言う動きが民衆の間で沸き起こったこともあるが、ワシントン本人が「自由と平等」の観点から、これを固辞している。
結局、建国以来一度も国王が誕生しないまま、現在に至っている。
とは言え、合衆国の中で並々ならぬ業績と富を手にし、「王」と称された者たちは数多く存在する。
古くは鉄鋼王カーネギー、石油王ロックフェラー、自動車王フォード、近年では不動産王トランプやIT王ゲイツ、投資王バフェットをはじめとして、合衆国の産業界はこの200余年で、数多くの王を輩出している。
勿論、西部開拓史における産業発展の代名詞、鉄道業界においても、数多くの王が現れた。最も有名なのはニューヨーク・セントラル鉄道など数多くの鉄道会社を有していた、ヴァンダービルト。その他にもモルガン、グールドなど、19世紀アメリカ産業界の中核、大動脈となっていた鉄道に関わり、巨額の財を成した者は少なくない。
そしてこの男もまた、鉄道王と称されるべき一人だった。
「本気かね、アーサー?」
対面に座る友の言葉に、彼は食事の手を止め、まじまじと相手を見つめた。
「本気だとも、メルヴィン。私は今年限りで引退する。後のことは息子に託そうと思っている」
「考え直せないのか? 君に去られてしまえば、わしはますます、会社からただの金庫番扱いされてしまう。
いや、それ以前にだ。優れた経営手腕を持ち、わしの良き理解者であった君を失うのは、会社にとっても、わしにとっても大きな痛手だ」
「ありがとう。そう言ってくれるのはとても嬉しいし、最大級の賛辞だと思っている。
しかし私の出番はもう終わったのだ。この前の買収作戦が失敗して以降、私の地盤はぐらついている。早晩、株主や投資家たちが責め立てに来るだろう。
そうなればきっと、君にも迷惑が及ぶ」
「わしは、そんなことは構わん。経営権を手放せと言うのならば、そうしてやる。そんなことはわしにとって、痛手でもなんでもない。
本当に、身を切られるほどの痛手は、君を失うことだ。君がわしの元を去ることは、100万ドルを失うことよりも、はるかに大きな損失だよ」
メルヴィンの説得に、アーサーは肩をすくめるばかりだった。
「そうまで言ってくれるのは、今では恐らく君だけだよ、メルヴィン。私としてもできる限りは、君の期待に応えられればとは思っているのだ。
しかしだな、メルヴィン」
アーサーは顔を両手で覆い、椅子にもたれかかる。
「私は、もう疲れたのだ。だから頼む、メルヴィン。休ませてくれ」
「……アーサー……」
憔悴しきった様子を見せるアーサーに、メルヴィンは彼の説得を諦めた。
それから数日後――西部有数の鉄道会社、ワットウッド&ボールドロイド西部開拓鉄道は、最高経営責任者であったアーサー・ボールドロイド氏の辞任を発表した。
また、この日以降、同社の共同経営者であったメルヴィン・ワットウッド氏も西部の屋敷にこもるようになり、事実上、経営権を手放した。
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そしてなんといっても特筆すべきは「怪獣王」と呼ばれたゴジラであり
φ(。。☆ボカ\(^^;)
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