DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 7 ~ 消えた鉄道王 ~ 3
ウエスタン小説、第3話。
19世紀末の買収騒動。
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3.
「W&B鉄道 アトランティック海運買収計画を断念 経営破綻のおそれありとの意見も
西部開拓の一翼を担う鉄道会社、ワットウッド&ボールドロイド西部開拓鉄道が今年はじめより進めてきたアトランティック海運の買収計画について、同社最高経営責任者であるボールドロイド氏は昨日12日、正式に同計画を中止することを発表した。
ボールドロイド氏は計画断念の理由を『アトランティック海運の実際の収益率が当初算定されていたものより低く、買収資金の回収が当面見込めないため』としているが、関係者筋によれば、『買収資金の確保が難しくなったことから、同計画の断念に至ったのではないか』とのこと。
また、同社は前四半期において最高経営責任者交代以来最大の減益を計上しており、『同社の経営状態は著しく悪化していると見て間違い無い』、『将来的に経営が破綻するおそれもあるのではないか』との意見も出ている」
「この記事はどこまでが真実なのでしょうか?」
尋ねた局長に、ロドニーは顔を若干青ざめさせつつ、首を横に、力無く振った。
「詳しいことは俺には分からん。経営のケの字も知らんし、スチュアートさんがそんな内々のこと、部外者の俺に話すわけも無いからな。
だけどスチュアートさんがヤバいことになってるってのは側で見てりゃ分かるし、困ってるってんなら、助けになってやりたいんだ。
だから頼む! 俺の依頼を受けてくれないか!?」
がばっと頭を下げて頼み込んだロドニーに、アデルは局長の顔を伺った。
「どうします……、局長?」
「議論の必要は無かろう。経緯や必要性はどうあれ、人探しを依頼されて断る探偵はいるまい?」
そう返し、局長はまだ頭を下げたままのロドニーの肩に手を置いた。
「リーランドさん。もう一度言いますが、我々は探偵です。依頼があれば基本的にお受けするのが、我々の流儀です。
無論、お代はそれなりに頂きますが」
「か、カネなら勿論出す! いくらだ!?」
顔を挙げたロドニーに、局長はにっこりと温かみのある笑顔を浮かべながら、こう返した。
「まず基本料金が50ドル。そして成功報酬が150ドル。あとは探偵1人につき、1日1ドルの活動費をいただければ」
「いくらかかってもいい。いくらでも出してやるよ。
その代わり、絶対見つけ出してくれ。頼んだぜ」
ロドニーが探偵局を後にするのを窓から眺めながら、局長はアデルに切り出した。
「アデル。今回の依頼、君が担当してくれるかね?」
「ええ、まあ。知り合いですし」
「うむ、それなら話が早い。
では明日より早速、U州に向かってくれ」
「へ?」
ポンと命じられ、アデルはきょとんとする。
「何故U州に?」
「そこにA……、いや、件のアーサー・ボールドロイドがいるからだ」
「は?」
局長が何を言っているのか理解できず、アデルは面食らう。
「ちょ、ちょっと待って下さい。まだ俺、調査も何も」
「ああ、調査は終わっているよ。失踪の一ヶ月後くらいにね」
局長の言葉に、アデルは口をぱくぱくとさせることしかできない。
「『どうして居場所が分かっているのに、依頼主に何も言わなかった』と言いたげな顔だな。
居場所を言ってしまったら、我々のやることが無くなってしまうだろう? せっかく調査料諸々が入ると言うのに、むざむざタダで情報を渡してしまうことはあるまい」
「で、でも」
「私は探偵だが、その前に我がパディントン探偵局の局長、つまり会社の社長だ。
儲け話をみすみす逃すような社長が、どこにいると言うのかね?」
「……局長、アンタ本っ当にズルいなぁ」
アデルは額を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
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19世紀末の買収騒動。
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「W&B鉄道 アトランティック海運買収計画を断念 経営破綻のおそれありとの意見も
西部開拓の一翼を担う鉄道会社、ワットウッド&ボールドロイド西部開拓鉄道が今年はじめより進めてきたアトランティック海運の買収計画について、同社最高経営責任者であるボールドロイド氏は昨日12日、正式に同計画を中止することを発表した。
ボールドロイド氏は計画断念の理由を『アトランティック海運の実際の収益率が当初算定されていたものより低く、買収資金の回収が当面見込めないため』としているが、関係者筋によれば、『買収資金の確保が難しくなったことから、同計画の断念に至ったのではないか』とのこと。
また、同社は前四半期において最高経営責任者交代以来最大の減益を計上しており、『同社の経営状態は著しく悪化していると見て間違い無い』、『将来的に経営が破綻するおそれもあるのではないか』との意見も出ている」
「この記事はどこまでが真実なのでしょうか?」
尋ねた局長に、ロドニーは顔を若干青ざめさせつつ、首を横に、力無く振った。
「詳しいことは俺には分からん。経営のケの字も知らんし、スチュアートさんがそんな内々のこと、部外者の俺に話すわけも無いからな。
だけどスチュアートさんがヤバいことになってるってのは側で見てりゃ分かるし、困ってるってんなら、助けになってやりたいんだ。
だから頼む! 俺の依頼を受けてくれないか!?」
がばっと頭を下げて頼み込んだロドニーに、アデルは局長の顔を伺った。
「どうします……、局長?」
「議論の必要は無かろう。経緯や必要性はどうあれ、人探しを依頼されて断る探偵はいるまい?」
そう返し、局長はまだ頭を下げたままのロドニーの肩に手を置いた。
「リーランドさん。もう一度言いますが、我々は探偵です。依頼があれば基本的にお受けするのが、我々の流儀です。
無論、お代はそれなりに頂きますが」
「か、カネなら勿論出す! いくらだ!?」
顔を挙げたロドニーに、局長はにっこりと温かみのある笑顔を浮かべながら、こう返した。
「まず基本料金が50ドル。そして成功報酬が150ドル。あとは探偵1人につき、1日1ドルの活動費をいただければ」
「いくらかかってもいい。いくらでも出してやるよ。
その代わり、絶対見つけ出してくれ。頼んだぜ」
ロドニーが探偵局を後にするのを窓から眺めながら、局長はアデルに切り出した。
「アデル。今回の依頼、君が担当してくれるかね?」
「ええ、まあ。知り合いですし」
「うむ、それなら話が早い。
では明日より早速、U州に向かってくれ」
「へ?」
ポンと命じられ、アデルはきょとんとする。
「何故U州に?」
「そこにA……、いや、件のアーサー・ボールドロイドがいるからだ」
「は?」
局長が何を言っているのか理解できず、アデルは面食らう。
「ちょ、ちょっと待って下さい。まだ俺、調査も何も」
「ああ、調査は終わっているよ。失踪の一ヶ月後くらいにね」
局長の言葉に、アデルは口をぱくぱくとさせることしかできない。
「『どうして居場所が分かっているのに、依頼主に何も言わなかった』と言いたげな顔だな。
居場所を言ってしまったら、我々のやることが無くなってしまうだろう? せっかく調査料諸々が入ると言うのに、むざむざタダで情報を渡してしまうことはあるまい」
「で、でも」
「私は探偵だが、その前に我がパディントン探偵局の局長、つまり会社の社長だ。
儲け話をみすみす逃すような社長が、どこにいると言うのかね?」
「……局長、アンタ本っ当にズルいなぁ」
アデルは額を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
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NoTitle
そう言えば特に言及してませんでしたね、イニシャル。
現実世界を舞台にしてるので、あまり実在の地名を出すのも何かしらまずいかな、と。
ちなみにパディントン探偵局はN州にある設定です。
現実世界を舞台にしてるので、あまり実在の地名を出すのも何かしらまずいかな、と。
ちなみにパディントン探偵局はN州にある設定です。
NoTitle
>U州
上古の中国の九州の一つに数えられている。具体的な区域については、『爾雅』、『呂氏春秋』では「燕である」としており、『周礼』では「東北」としている
#幽州
φ(゜゜☆ボカ(○=(--;)
いよいよ始まりましたね。期待しています。A列車で行こう!
上古の中国の九州の一つに数えられている。具体的な区域については、『爾雅』、『呂氏春秋』では「燕である」としており、『周礼』では「東北」としている
#幽州
φ(゜゜☆ボカ(○=(--;)
いよいよ始まりましたね。期待しています。A列車で行こう!
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