DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 7 ~ 消えた鉄道王 ~ 7
ウエスタン小説、第7話。
生きていた鉄道王。
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7.
列車内での追手も難なくあしらい、アデルたち一行は、数日後には目的地であるU州の町、セントホープに到着した。
「で、そのボールドロイド氏ってのは、どこにいるんスか?」
駅前をきょろきょろと見回しながら尋ねてきたロバートに、アデルが通りの先を指差しながら答える。
「ここから西へ半マイルくらい行ったところに、『AB牧場』って呼ばれてるトコがある。そこにいるって話だ」
「じゃ、早速行きましょ」
3人は通りを西へと進みながら、この後のことを相談する。
「ボールドロイド氏に会ったら、どうするんスか?」
「まず訪ねた事情の説明だな。それからロドニーに連絡だ。
俺たちに依頼された内容はあくまで『アーサー・ボールドロイド氏の捜索』であって、説得じゃないからな」
「逃げたらどうするんスか?」
「だから息子のことを話すんだよ。いくらなんでも、息子が大変な目に遭ってるってのに、知らん顔するような親はいないだろ?」
「いるわよ」
エミルが冷めた目を向けつつ、話に割って入る。
「人間、誰も彼もが子供向けのおとぎ話みたいに、善良で慈悲深いわけじゃないのよ。子供を見捨てる親だっていっぱいいるわ。
むしろ子供のゴタゴタなんか聞いたら、『絶対会いたくない』って突っぱねるかも知れないわ。ロバートの言う通り、逃げるかもね」
「でしょ? 俺もそう思うんスけどねー」
二人に挟まれ、アデルは苦い顔を返す。
「うーん……、言われたらありそうな気がしてきたぜ。じゃあ、訪ねた理由を何か、適当に作るか」
「それがいいわね」
牧場に着くまでの間、3人はあれこれと、訪ねた理由を繕っていた。
牧場を目にした途端、ロバートが声を上げる。
「……でけー」
彼の言う通り、AB牧場は端の柵がかすんで見えるほど広く、家畜もあちこちで、小山のような固まりを作っている。
その繁盛ぶりに、アデルとエミルもぽつりとつぶやく。
「相当儲けてるみたいだな。流石、大鉄道会社を一代で築き上げただけのことはある」
「『駿馬は老いても駄馬にならず(A good horse becomes never a Jade)』ね。牧場だけに」
と、3人の前に、馬に乗った白髪の、60代はじめ頃と言った風体の老人が近付いて来る。

「何か御用かね、探偵諸君?」
「……え?」
一言も言葉を交わさないうちに素性を見破られ、アデルは面食らった。
「い、いや、俺たちは、その」「御託は結構」
弁解しようとしたアデルをぴしゃりとさえぎり、老人はとうとうと語り始めた。
「赤毛の軽薄そうな君と、隣の愚鈍そうな君。どちらも、西部の流れ者にしては身なりが良すぎる。明らかに、西部よりも経済的かつ社会的に、はるかに先進している東部地域において、最低でも月給51~2ドルは収入を得られるような職業に就いている人間の服装だ。
そして赤毛君、2回、いや、3回か。双眼鏡でこちらのことを観察していたな? 何故そんなことをするのか? 牛泥棒の下見か? とすれば服装が矛盾する。牛泥棒をしなければならんような懐事情ではあるまい。東部の道楽者が単なる物味遊山で訪れたにしても、わざわざ双眼鏡を使ってまで、牛なんぞを観察するわけが無い。となれば残る可能性はこの私を探りに来た者、即ち探偵と言うことになる。
他にも洞察と推理の材料は数多くあったが、ともかく君たちが探偵であることは、明日の天気よりも明瞭なことだった。
とは言え――そちらのお嬢さんは見事に、西部放浪者風の雰囲気が板に付いていた。残念ながらそっちの2名が足を引っ張った形だな。君だけであれば、私もだまされたかも分からん」
「お褒めに預かり光栄だわ、ボールドロイドさん」
そう返したエミルに、アデルはまた驚く。
「なんだって? このじいさんが?」
エミルが答えるより先に、老人がまた口を開く。
「ご名答だ、お嬢さん。私がアーサー・ボールドロイド、その人だ。
それで、要件は何かね? 見当は付いているが」
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生きていた鉄道王。
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7.
列車内での追手も難なくあしらい、アデルたち一行は、数日後には目的地であるU州の町、セントホープに到着した。
「で、そのボールドロイド氏ってのは、どこにいるんスか?」
駅前をきょろきょろと見回しながら尋ねてきたロバートに、アデルが通りの先を指差しながら答える。
「ここから西へ半マイルくらい行ったところに、『AB牧場』って呼ばれてるトコがある。そこにいるって話だ」
「じゃ、早速行きましょ」
3人は通りを西へと進みながら、この後のことを相談する。
「ボールドロイド氏に会ったら、どうするんスか?」
「まず訪ねた事情の説明だな。それからロドニーに連絡だ。
俺たちに依頼された内容はあくまで『アーサー・ボールドロイド氏の捜索』であって、説得じゃないからな」
「逃げたらどうするんスか?」
「だから息子のことを話すんだよ。いくらなんでも、息子が大変な目に遭ってるってのに、知らん顔するような親はいないだろ?」
「いるわよ」
エミルが冷めた目を向けつつ、話に割って入る。
「人間、誰も彼もが子供向けのおとぎ話みたいに、善良で慈悲深いわけじゃないのよ。子供を見捨てる親だっていっぱいいるわ。
むしろ子供のゴタゴタなんか聞いたら、『絶対会いたくない』って突っぱねるかも知れないわ。ロバートの言う通り、逃げるかもね」
「でしょ? 俺もそう思うんスけどねー」
二人に挟まれ、アデルは苦い顔を返す。
「うーん……、言われたらありそうな気がしてきたぜ。じゃあ、訪ねた理由を何か、適当に作るか」
「それがいいわね」
牧場に着くまでの間、3人はあれこれと、訪ねた理由を繕っていた。
牧場を目にした途端、ロバートが声を上げる。
「……でけー」
彼の言う通り、AB牧場は端の柵がかすんで見えるほど広く、家畜もあちこちで、小山のような固まりを作っている。
その繁盛ぶりに、アデルとエミルもぽつりとつぶやく。
「相当儲けてるみたいだな。流石、大鉄道会社を一代で築き上げただけのことはある」
「『駿馬は老いても駄馬にならず(A good horse becomes never a Jade)』ね。牧場だけに」
と、3人の前に、馬に乗った白髪の、60代はじめ頃と言った風体の老人が近付いて来る。

「何か御用かね、探偵諸君?」
「……え?」
一言も言葉を交わさないうちに素性を見破られ、アデルは面食らった。
「い、いや、俺たちは、その」「御託は結構」
弁解しようとしたアデルをぴしゃりとさえぎり、老人はとうとうと語り始めた。
「赤毛の軽薄そうな君と、隣の愚鈍そうな君。どちらも、西部の流れ者にしては身なりが良すぎる。明らかに、西部よりも経済的かつ社会的に、はるかに先進している東部地域において、最低でも月給51~2ドルは収入を得られるような職業に就いている人間の服装だ。
そして赤毛君、2回、いや、3回か。双眼鏡でこちらのことを観察していたな? 何故そんなことをするのか? 牛泥棒の下見か? とすれば服装が矛盾する。牛泥棒をしなければならんような懐事情ではあるまい。東部の道楽者が単なる物味遊山で訪れたにしても、わざわざ双眼鏡を使ってまで、牛なんぞを観察するわけが無い。となれば残る可能性はこの私を探りに来た者、即ち探偵と言うことになる。
他にも洞察と推理の材料は数多くあったが、ともかく君たちが探偵であることは、明日の天気よりも明瞭なことだった。
とは言え――そちらのお嬢さんは見事に、西部放浪者風の雰囲気が板に付いていた。残念ながらそっちの2名が足を引っ張った形だな。君だけであれば、私もだまされたかも分からん」
「お褒めに預かり光栄だわ、ボールドロイドさん」
そう返したエミルに、アデルはまた驚く。
「なんだって? このじいさんが?」
エミルが答えるより先に、老人がまた口を開く。
「ご名答だ、お嬢さん。私がアーサー・ボールドロイド、その人だ。
それで、要件は何かね? 見当は付いているが」
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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