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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    鴉の籠 3

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    昨日の続き。
    もう一匹の悪魔。



    書いてて思ったこと。
    「『おばちゃん』書くの面白いなぁ」

    昔おばちゃんだらけのところで働いていたせいか、
    どうもおばちゃん然としたキャラがよく登場します。
    ワッツさん書いてた時も、脳内CVが森○子さんでした。
    看病の合間にお味噌汁出してきそうで困る。

    とか言いつつも、次の話で出てくるキーパーソンもおばちゃん。
    脳内CVは標準語で話す中村○緒さんでした。
    おばちゃんだらけのスピンオフ。




    3.
     大火が南海に沈んだと言うニュースは、すぐに世界中に伝わった。
     ある者は「世界が平和になった」と歓喜し、またある者は「あの人との契約が反故になった」と嘆き、またある者は「神は死んだ」と絶望した。

    「とのことですけど」
    「そうか」
     中央大陸中部、通称「央中」。その南端にある山の中にそびえる宮殿の一室で、黒い毛並みに僧服を着込んだ、初老の狼獣人の婦人が心配そうに、ベッドで臥せている大火を看ていた。
    「まあ、見ての通りだ。死んではいない。俺を誰だと思っている?」
    「ふふ……。やっぱり、タイカ様はタイカ様ですね」
    「何だ、それは」
    「タイカ様なら、殺したって死んだりなさいませんよ。例え悪魔や神ではなく、普通の人間であったとしても」
    「……分からん。珍妙な物の例え方だ」
     この狼獣人の名は、ワッツ・ウィルソン。大火を唯一神と崇める黒炎教団の教主である。
    「でも、どうしますか? 生きてたこと、公表した方がよろしいのでは? 同志の皆さんも安心しますし」
    「それについてだが……」
     大火は上半身を起こし、腕を組んで考え込む。
    「今、下手に公表すると、あの女が俺のところに来るのは間違いない。
     そうなればこの辺り一帯は、間違いなく廃墟になる。南海での戦いも、周囲の島々に相当な被害を及ぼしたらしいからな」
    「それは困りますね。うちが潰れてしまいます」
     ワッツはクスクス笑いながら、いくつか尋ねてくる。
    「それじゃ、内緒にしておきますね」
    「ああ」
    「しばらく、こちらにいらっしゃるのですか?」
    「そうしよう。久々にお前の顔も見たかったからな」
    「嬉しいことを仰ってくださいますねぇ」
     ワッツは嬉しそうに尻尾を揺らし、部屋を離れた。戸口でくるりと振り返り、明るく声をかける。
    「あ、そうそう。よろしかったら、子供や孫たちにも声をかけてくださいね。あなたのことは単なる客人と言ってありますけれども、やっぱり神様ですから」
    「分かった」
    「もしかしたら、次の教主がその中にいるかも知れませんし」
    「ふむ」
    「一番は初孫のウィル。素直でいい子ですよ」
    「分かった。後で会っておこう」
    「それからですね……」「もういい。休ませてくれ」「あ、はいはい」
     ワッツは苦笑しつつ、部屋の戸を閉めた。



     一方こちらは「砂と海の世界」、南海地域のとある街角。
    「……と言うわけで、悪魔は南海の底に沈んだのである! 悪魔を討ったこのトライン導師こそ、新たな世の御子である!」
     物々しい兵士たちの後ろで、ゼルーが穏やかな顔で笑っている。
     彼女が興した新興宗教は大火を倒して以後、急速に信用・信頼され始めていた。何しろ「悪魔を倒した教祖」がいるのである。現在彼女の教団は、南海のほぼ半分まで勢力を拡大していた。おまけに南海の王族までもその勢力下に置き、彼女は大量の信者と兵隊、そして資金を手に入れていた。
    「では、皆さん」
     兵士が一通り話し終えたところで、ゼルーが場を締めくくった。
    「もしわたくしの教団に興味があれば、一度いらしてくださいませ」
     軽く頭を下げ、ゼルーは兵士を引き連れて街の広場から立ち去った。
     感心した顔の市民たちに背を向けながら、ゼルーはほくそ笑んでいた。
    (うふふふふ……。これでまた、信者が増えるねぇ)

     自宅に戻ったゼルーは、きょろきょろと辺りを見回した。
    「アリ! こっちへ来な」
     呼んでしばらくしてから、深い赤のフードをかぶった男が現れた。
    「どうした」
    「今日もまた、信者が増えたよ。しかも、ベール王国の大臣が直々に頼み込んできてねぇ、……うふふっ、ふふ」
    「上出来だな」
     フードの男、アリの話し方に、ゼルーは目を吊り上げる。
    「……アリ、アンタは確か、『アタシに忠誠を尽くす』って言ってなかったかい?」
    「ああ、確かに」
    「言ったわよね? でも今、アンタはアタシに対して『上出来だな』って言わなかったかい?」
    「言ったが、それがどうした?」
     アリは何を怒っているのか分からない、と言う素振りで聞き返す。
    「……まあ、いいさ。とにかく今は、順調に進んでるからね」
    「そのようだな。それにもう、焦ることはあるまい。タイカを消した今、『御子』のお前に敵などいないのだから」
    「だねぇ。その点はアンタに感謝しなくちゃ――この絶大な『力』をくれたのは、アンタだもんねぇ」



    「『御子』と呼ばれる者を知っているか?」
     体調も戻り、ワッツを伴って黒炎教団内をぶらついていた大火は、唐突に話を切り出した。
    「え?」
    「この言葉の元々の語源は、北方神話からなのだが」
     大火は立ち止まり、詳しい説明をする。
    「『世界が乱れる時現れ、悪を討ち滅ぼし世界を平和に導く』、……とか北方の古文書には書いてあるが、俺に言われてもらえばこんなものはおとぎ話だ。よくある話だろう、『勇者が現れて魔王を倒す』とか、『英雄が現れてドラゴンを滅ぼす』とか、その類の話だ」
    「はあ……」
     ワッツは何が言いたいのか分からない、と言う顔で大火を仰ぎ見る。
    「ところがだ、そのおとぎ話を現実のものにしてしまおうと言う大馬鹿者がいるのだ」
    「お御子さんをこの世界に出現させようとしてる人がいる、と言うことですか?」
    「その通り。俺と同じように数百年を生き、その莫大な時間を御子降臨と言う三文芝居のためだけに費やす男がいるのだ。
     その者の名は『アル』、時代によってアルクとかアルコンとか、様々な名を使って忍び生きている。こいつとは1世紀半前からの腐れ縁でな、倒しても倒しても、いつの間にか蘇っては俺を殺そうと企てているのだ」
    「タイカ様を、世界に仇なす者と見ているからでしょうか?」
    「それも理由の一つだが、もっと分かりやすい理由がある」
     大火はふたたび歩き出しながら、説明を続ける。
    「アルは普通の人間を超人に仕立て上げる悪魔の業を持っている。その超人を御子と呼ばせ、神格化させた末に世界の王にしようと企てているのだが、そいつの力を分かりやすい形で万人に知らしめるには、当代最強と言われるモノを倒せばいい」
    「なるほど。確かにタイカ様を倒せば、有名になるでしょうね。
     ……ああ、それじゃこの前、トライン導師がタイカ様を狙ったのって」
    「そう言うことだ。トラインと言う女は、十中八九アルに力を授かった御子だろう。俺としたことが、そこらの雑兵と見て侮った」
    「やっぱり、お御子さんはお強いんですか?」
    「ああ。これまでに2度、戦ったことがある。2度とも非常に苦戦した。幾度もの雷で体を焼き、素手で腕を引きちぎってくるような輩だ。化物じみていると言っても過言ではない」
     大火の話に、ワッツは眉をひそめる。
    「……ひどい話ですね」
    「まあ、俺を倒すと言うのだからそこまでしなければ無理だろう」
    「生きていると分かれば多分、こっちに来てしまいますよね。……すごく、心配です」
     ワッツは頬に手をあて、憂鬱そうな顔を見せる。大火は短くうなずき、対策を話した。
    「だろうな。今回も相当の被害を出したと言うし、正攻法で戦うのは骨が折れる」
    「それじゃ、何か手を?」
    「そうするつもりだ。こちらから何か、罠を仕掛けておく。御子だ、超人だとは言え、虚を突けば倒すことは十分に可能だろうからな。
     ……ではその策を検討するので、ここで失礼させてもらう」
     大火はそこでワッツと別れ、どこかへと消えた。
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