DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 7 ~ 消えた鉄道王 ~ 9
ウエスタン小説、第9話。
アーサー老人の思惑。
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9.
「いくらFやLといえども、彼らだけで現在発生中の難事件を何件もさばく傍ら、何十人もの失踪者の足跡をつぶさに調べ上げることなど、到底不可能だ。
私の助けがあってこそ、傍目には人間業と思えないような、驚くべき速度と精度での調査が可能になると言うわけだ。
その関係は戦時中から変わらぬ、鉄の絆なのだ」
そう言って、アーサー老人は自慢げな笑みを浮かべた。
「だからこそ、今回君たちが私の元を訪れたのは、Fが電話や手紙では伝えられんような用件を伝えに来たのかと思っていたのだが、まさか息子の話だとはな。
そして先程も話した通り、その話はノーだ。勝手にやれと伝えてくれ。ま、伝える必要も無いがね」
「そんな……」
食い下がろうとしたアデルに、アーサー老人はこう続ける。
「私は息子のことを良く知っている。こんなトラブルの時、誰かにあれこれ手や口を出されるよりも、自分の力とアイデアだけで切り抜けようとするタイプだ。そしてあいつには、その方法で成功できるだけの実力と経験も備わっている。
今更この老いぼれが口出しする意義は無いし、きっと君たちが東部へ戻る頃には、ニューヨーク・タイムズがW&Bの業績回復を伝えているだろう。
こと人間観察と状況予測の能力に関しては、私はFを上回る。ましてや私が育てた息子のことだ。断言するが、あいつは今度の逆境を見事跳ね返し、さらなる成果を挙げ、ウォール街を驚嘆せしめて見せるだろう。
現時点において君たちにとっては不満かつ納得行かん結果かも知れんが、ともかく今は東部へ戻りたまえ。それが最善策だ」
「……はあ」
わだかまりつつも、アデルはうなずくしかなかった。
と、アーサー老人は表情を変え、エミルに尋ねる。
「お嬢さん。君たち3人の中で、君が最も優秀そうだと思うから聞くのだが」
「どうぞ」
「本当に今回、スチュアートのことだけでわざわざ、私のところに来たのかね?」
「ええ。アデルと局長からは、その件しか聞いてないわね」
「そうか」
そう返し、アーサー老人はくる、とアデルに向き直る。
「赤毛君。君はFから何か聞かされているかね?」
一瞬、局長との密談を思い出すが、アデルは否定する。
「えっ、いや」「なるほど」
しかしアーサー老人には見抜かれてしまったらしい。
「つまり本当の目的は、人払いか。ふむ」
「何か心当たりが?」
尋ねたエミルに、アーサー老人はあごに手を当てながら、言葉を選ぶような口調で答える。
「心当たりと言えるものは、いくらもある。しかしそのほとんどは、言ってみれば、最早調べ直すような必要も無いものばかりだ。
となればその中から近年、ふたたび調べ直す必要があるものが出てきたか。……と言っても、それが何なのかは聞かねば分からんが。……Lに聞くか」
アーサー老人はそこで席を立ち、部屋を後にしようとした。
「あ、あの?」
立ち上がり、声をかけたアデルに、アーサー老人は背を向けたまま言い放つ。
「君たちはもう帰っていい。用はもう無かろう?」
「あるわよ。用って言うより、報告だけど」
そう返したエミルに、ようやくアーサー老人が振り返る。
「何かね?」
「あたしたちがこっちに来る途中、あなたを探してるヤツらがいたわよ。片方は連邦特務捜査局で、もう片方は賞金稼ぎ。
あなた、何か危ないことしてるんじゃないでしょうね?」
「……ふーむ」
既にドアに手をかけていたアーサー老人は、テーブルに戻ってくる。
「賞金稼ぎと言うと? 名前は分かるかね?」
「デズモンド・キャンバー」
「ふむ、『空回り』のデズか。
捜査局の方は見当が付いている。後でミラーに電話しておく。それで話は終わりだ。
しかしキャンバーなんぞに因縁を付けられるいわれは無い。となればキャンバーが何かしら依頼を受け、私を狙っているのだろう。
他には? キャンバー一人だったのか?」
「いいえ、会社員っぽいの2人と一緒だったわ」
「会社員?」
そう聞いて、アーサー老人は腕を組んでうなった。
「ふーむ……、ふむ」
再度立ち上がり、アーサー老人はうろうろと辺りを歩き回る。
「……恐らく『あいつ』か? ……動きが無いとは思っていたが、……ふーむ、……きっかけはスチュアートの件だろうか、……とすると……」
「あ、あのー」
アデルが声をかけたところで、アーサー老人が振り返った。
「諸君。君たちには甚だ不本意な依頼になるだろうが、それでも危急の用件だ。
私と共に、デズモンド・キャンバーとその会社員2名を襲撃してくれ」
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アーサー老人の思惑。
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「いくらFやLといえども、彼らだけで現在発生中の難事件を何件もさばく傍ら、何十人もの失踪者の足跡をつぶさに調べ上げることなど、到底不可能だ。
私の助けがあってこそ、傍目には人間業と思えないような、驚くべき速度と精度での調査が可能になると言うわけだ。
その関係は戦時中から変わらぬ、鉄の絆なのだ」
そう言って、アーサー老人は自慢げな笑みを浮かべた。
「だからこそ、今回君たちが私の元を訪れたのは、Fが電話や手紙では伝えられんような用件を伝えに来たのかと思っていたのだが、まさか息子の話だとはな。
そして先程も話した通り、その話はノーだ。勝手にやれと伝えてくれ。ま、伝える必要も無いがね」
「そんな……」
食い下がろうとしたアデルに、アーサー老人はこう続ける。
「私は息子のことを良く知っている。こんなトラブルの時、誰かにあれこれ手や口を出されるよりも、自分の力とアイデアだけで切り抜けようとするタイプだ。そしてあいつには、その方法で成功できるだけの実力と経験も備わっている。
今更この老いぼれが口出しする意義は無いし、きっと君たちが東部へ戻る頃には、ニューヨーク・タイムズがW&Bの業績回復を伝えているだろう。
こと人間観察と状況予測の能力に関しては、私はFを上回る。ましてや私が育てた息子のことだ。断言するが、あいつは今度の逆境を見事跳ね返し、さらなる成果を挙げ、ウォール街を驚嘆せしめて見せるだろう。
現時点において君たちにとっては不満かつ納得行かん結果かも知れんが、ともかく今は東部へ戻りたまえ。それが最善策だ」
「……はあ」
わだかまりつつも、アデルはうなずくしかなかった。
と、アーサー老人は表情を変え、エミルに尋ねる。
「お嬢さん。君たち3人の中で、君が最も優秀そうだと思うから聞くのだが」
「どうぞ」
「本当に今回、スチュアートのことだけでわざわざ、私のところに来たのかね?」
「ええ。アデルと局長からは、その件しか聞いてないわね」
「そうか」
そう返し、アーサー老人はくる、とアデルに向き直る。
「赤毛君。君はFから何か聞かされているかね?」
一瞬、局長との密談を思い出すが、アデルは否定する。
「えっ、いや」「なるほど」
しかしアーサー老人には見抜かれてしまったらしい。
「つまり本当の目的は、人払いか。ふむ」
「何か心当たりが?」
尋ねたエミルに、アーサー老人はあごに手を当てながら、言葉を選ぶような口調で答える。
「心当たりと言えるものは、いくらもある。しかしそのほとんどは、言ってみれば、最早調べ直すような必要も無いものばかりだ。
となればその中から近年、ふたたび調べ直す必要があるものが出てきたか。……と言っても、それが何なのかは聞かねば分からんが。……Lに聞くか」
アーサー老人はそこで席を立ち、部屋を後にしようとした。
「あ、あの?」
立ち上がり、声をかけたアデルに、アーサー老人は背を向けたまま言い放つ。
「君たちはもう帰っていい。用はもう無かろう?」
「あるわよ。用って言うより、報告だけど」
そう返したエミルに、ようやくアーサー老人が振り返る。
「何かね?」
「あたしたちがこっちに来る途中、あなたを探してるヤツらがいたわよ。片方は連邦特務捜査局で、もう片方は賞金稼ぎ。
あなた、何か危ないことしてるんじゃないでしょうね?」
「……ふーむ」
既にドアに手をかけていたアーサー老人は、テーブルに戻ってくる。
「賞金稼ぎと言うと? 名前は分かるかね?」
「デズモンド・キャンバー」
「ふむ、『空回り』のデズか。
捜査局の方は見当が付いている。後でミラーに電話しておく。それで話は終わりだ。
しかしキャンバーなんぞに因縁を付けられるいわれは無い。となればキャンバーが何かしら依頼を受け、私を狙っているのだろう。
他には? キャンバー一人だったのか?」
「いいえ、会社員っぽいの2人と一緒だったわ」
「会社員?」
そう聞いて、アーサー老人は腕を組んでうなった。
「ふーむ……、ふむ」
再度立ち上がり、アーサー老人はうろうろと辺りを歩き回る。
「……恐らく『あいつ』か? ……動きが無いとは思っていたが、……ふーむ、……きっかけはスチュアートの件だろうか、……とすると……」
「あ、あのー」
アデルが声をかけたところで、アーサー老人が振り返った。
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