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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 7 ~ 消えた鉄道王 ~ 10

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    ウエスタン小説、第10話。
    迎撃。

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    10.
     アーサー老人からの突然の要請に、アデルは面食らう。
    「な、何ですって?」
    「その件は早々に対処しなければ、極めて甚大な被害を被る問題なのだ。
     このまま看過していれば君たちにとっても、いや、パディントン探偵局にとってもこの私、即ち西部界隈へと広がる情報網の一つを失うことになる」
    「そんなに?」
     尋ねたエミルに、アーサー老人は深々とうなずいて返す。
    「君の服装と物腰からすれば、キャンバーの実力を知っているのだろう。確かにキャンバー一人なぞ、大した相手ではない。それは分かっている。
     私が懸念するのは、そのキャンバーに依頼した人物についてだ」
    「心当たりが?」
    「ある。だが今は何も言えん。君たちにそれを明かすのは、極めて危険なことだからだ。
     ともかく今は何も言わず、私に付いてきてくれ。それが無理だと言うのならば、君たちはこのまま、……そうだな、C州にでも行って1週間ばかりバカンスしていてくれ。
     私の足跡や本拠などは、FとL以外には絶対に知らせたくないのだ」
    「どうする、エミル?」
     アデルが尋ねると同時に、エミルがうなずいた。
    「いいわよ、ボールドロイドさん。その代わり2つ、あたしのお願いも聞いてくれるかしら?」
    「スチュアートの件か?」
     そう返したアーサー老人に、エミルは首を横に振る。
    「あなたの話じゃ放っておいていいんでしょ? そうじゃなくて……」
     エミルはにこっと微笑み、アーサー老人に耳打ちする。
    「……ふむ……ふーむ……なるほど……ははっ」
     アーサー老人は噴き出し、うんうんとうなずいた。
    「よかろう。その程度のことであれば、後程手紙で伝えよう」
    「ありがとね」
    「では諸君、すぐ出発だ」
     そう言ってアーサー老人は、壁にかかっていたスプリングフィールドを手に取った。



     翌日の夕方、U州とN州の州境。
    「ぜーっ、ぜーっ……」
    「ひぃ、ひぃ、はぁ、はぁ……」
     顔を真っ青にし、荒い息を立てながら、男たちは賞金稼ぎ、デズの後を付いて行く。
    「ま、まだ、着かないんです、かぁ」
     一人が尋ねたが、デズは声を荒げて怒鳴り返す。
    「うるっせぇ! 黙って歩いてろッ!」
    「で、でも、もう2時間も歩き通し、で」
    「文句ならあの鉄クズに言えッ! あいつがまともに動いてたんならよぉ、俺だってお前らだってこんなだだっぴろい荒野をなぁ、トボトボ歩かずに済んだんだよッ!」
    「……はぁ」
     ふたたび男たちは、黙々と歩き出した。
     と――。
    「……ん?」
     三人の前方から、4頭の馬がやって来る。
    「……あれは!」
     男が目を丸くし、立ち止まる。
    「きゃ、キャンバーさん! あの人です! あの人がボールドロイドSr.です!」
    「な、何ッ!?」
     デズも立ち止まり、続いて叫ぶ。
    「おい、てめえ! マジでボールドロイドか!?」
    「いかにも」
     先頭にいたアーサー老人が応じ、小銃を構える。
    「聞かせてもらおうか、キャンバー君。依頼内容や依頼者のことなど、洗いざらいな」
    「バカか。言えるわけねえだろ」
     デズがそう返した瞬間、彼のほおをびしっ、と音を立てて、何かが通り抜ける。
    「うっ……」
    「言わねば次は当てる。それでも構わないなら、存分に強情を貫きたまえ」
     そう返しつつ、アーサー老人は小銃に弾を込め直す。
    「だが良く考えた方がいい。かすっただけでその痛みだ。銃弾が体に突き刺されば、痛いなんてもんじゃ無い。
     私も先の戦争で少なからず痛い目に遭ってきたから分かるのだが、弾が体を通り抜けると、それはそれは猛烈に痛いものだ。いや、半オンスばかり手足の肉をえぐった程度だとしても、悲鳴を上げ、まともに立てなくなるほどの痛みが襲ってくる。
    『頭や心臓に当たらなければ生きていられる』などと知った風なことを抜かす輩がいるが、残念ながら手足に当たっただけでも致命傷となる可能性は、決して少なくない。当たった瞬間の痛みたるや、それだけで人によっては死に直結するほどの衝撃をもたらし得るからだ。
     事実、私は戦争で手や足を撃たれ、そのままショック死した人間を、1ダースは見てきている。そして君がそれらショック死した兵士たちよりも心臓の強い人間だと断言するに足る論拠、判断材料を、私は持っていない。
     君はその24、いや、25年の人生で運良く、弾が体のどこにも当たらずに済んできたようだが、今回ばかりは運が悪いかも知れない」
    「……」
     アーサー老人の話を聞くにつれて、デズの顔色がどんどん青くなっていく。
     アーサー老人は小銃を構え直し、デズに尋ねた。
    「さて、どうするかね? 素直に話してくれるか、それとも、弾丸をその身に受けると言う不運を、一度くらい味わってみるかね?」
     しばらくの沈黙の後、デズは顔を真っ青にしつつ、両手を挙げた。
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