DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 7 ~ 消えた鉄道王 ~ 12
ウエスタン小説、第12話。
騙し合い。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
12.
「……」
アーサー老人は一言も発することなく、その場に倒れた。
「ぼ、ボールドロイドさん!?」
アデルが大声で叫び、馬を降りて彼の側に寄る。
「おっと、動くなよ」
と、デズと同様に囲まれていたはずの男たちが、いつの間にかその輪を抜け、アデルたちに拳銃を向けている。
「あんまり無駄な犠牲は出したくないんだ。そのまんま、大人しくしててくれるか?」
「お前ら……、何者だ!?」
声を荒げて尋ねたアデルに、男の一人が肩をすくめる。
「言う必要は無い。俺たちとしてはこのまま何の痕跡も残さず、さっさと逃げたいんだ。
だからあんたたちも荒野の決闘しようなんて思わずに、じっとしててくれ」
「見逃すってことかしら?」
そう返したエミルに、男は大仰にうなずいて見せた。
「ああ、そうだ。馬を俺たちに渡して、そのまま1マイルほど歩き去ってくれれば、俺たちもわざわざあんたたちを撃ったりしない。約束するよ」
「嘘おっしゃい」
男の話を、エミルは鼻で笑う。
「痕跡を残したくないって人間が、あたしたちを黙って帰すわけないじゃない」
「……ふっ」
男たちはニヤリと笑い、揃って拳銃を構えた。
が――次の瞬間、2度の銃声と共に、揃って膝を付く。
「う……ぐ……」
脚を抑え、倒れ込んだところで、アーサー老人が硝煙をくゆらせる小銃を杖にして、むくりと起き上がる。
「人間の性と言うべきか」
アーサー老人は小銃を構え、倒れた男たちに話しかける。
「人間、無防備なところがあればあるほど、いや、無防備なところを見せれば見せるほど、そこを狙おうとするものだ。
背を向け、頭を帽子や手で覆うと、10人中10人がどう言うわけか、背中を撃とうとする。
コートの裏に、鉄板を仕込んでいたとしてもだ」
2人の鼻先に小銃の銃口を向け、アーサー老人が命じようとする。
「探偵諸君、いつまでもぼんやりしていないで……」「これでしょ?」
と、そこでエミルがアーサー老人の横に立ち、縄をぷらぷらと振って見せる。
「うむ。手早く頼む」
アーサー老人は満足げにうなずいた。
男たちを縄で縛り、揃って馬に載せたところで、アーサー老人がカンテラを二人の顔に近付ける。
「ミヌー君。彼らに見覚えはあるかね?」
「無いわね。……なんであたしに聞くの?」
「赤毛君は明らかに東部暮らしが長く、よほど有名でなければ西部者の情報など、逐一控えてはいないだろう。
若僧君は探偵業に就いてまだ、半年も経っていまい。持つ情報は赤毛君よりも、もっと少ないと見て然るべきだ。
反面、君は西部暮らしが相当長いと見える。恐らくは7年か、8年と言ったところだろう。そもそも名前を聞いた覚えがある。辣腕(らつわん)の賞金稼ぎとしてな。
確か、エミル・『フェアリー』・ミヌーだったかな?」
「ええ」
「まさか君ほどの手練が、Fの下にいたとはな。……ああ、それよりもこいつらの検分だ。
さっきの言葉遣い――と言うか訛りだな――それと銃の扱いの熟練具合、場馴れした様子からしても、この2人が西部で暮らして相当長いと言うことは、まず間違いあるまい。
他に何か、身分が分かるものはあるか……?」
そうつぶやきながら、アーサー老人は男たちの服を調べる。
と、男の懐からぽろ、と何かが落ちる。
「うん? ……ネックレスか。何かのシンボルだな」
もう一人からもネックレスを見付け、アーサー老人はあごに手を当てつつ、考察する。
「三角形と言うことはフリーメイソンか、イルミナティか、……いや、どちらでも無さそうだ。
鎖が付いている方向からして、これは逆三角形か。そして目も、人のものではないようだ。瞳が細い。
まるで、猫のような……」
ネックレスを眺めていたアーサー老人が、くる、とエミルの方に向き直る。
「どうした、ミヌー君? 顔色が悪いが」
アーサー老人の言う通り、エミルは真っ青な顔で、そのネックレスを凝視していた。
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「……」
アーサー老人は一言も発することなく、その場に倒れた。
「ぼ、ボールドロイドさん!?」
アデルが大声で叫び、馬を降りて彼の側に寄る。
「おっと、動くなよ」
と、デズと同様に囲まれていたはずの男たちが、いつの間にかその輪を抜け、アデルたちに拳銃を向けている。
「あんまり無駄な犠牲は出したくないんだ。そのまんま、大人しくしててくれるか?」
「お前ら……、何者だ!?」
声を荒げて尋ねたアデルに、男の一人が肩をすくめる。
「言う必要は無い。俺たちとしてはこのまま何の痕跡も残さず、さっさと逃げたいんだ。
だからあんたたちも荒野の決闘しようなんて思わずに、じっとしててくれ」
「見逃すってことかしら?」
そう返したエミルに、男は大仰にうなずいて見せた。
「ああ、そうだ。馬を俺たちに渡して、そのまま1マイルほど歩き去ってくれれば、俺たちもわざわざあんたたちを撃ったりしない。約束するよ」
「嘘おっしゃい」
男の話を、エミルは鼻で笑う。
「痕跡を残したくないって人間が、あたしたちを黙って帰すわけないじゃない」
「……ふっ」
男たちはニヤリと笑い、揃って拳銃を構えた。
が――次の瞬間、2度の銃声と共に、揃って膝を付く。
「う……ぐ……」
脚を抑え、倒れ込んだところで、アーサー老人が硝煙をくゆらせる小銃を杖にして、むくりと起き上がる。
「人間の性と言うべきか」
アーサー老人は小銃を構え、倒れた男たちに話しかける。
「人間、無防備なところがあればあるほど、いや、無防備なところを見せれば見せるほど、そこを狙おうとするものだ。
背を向け、頭を帽子や手で覆うと、10人中10人がどう言うわけか、背中を撃とうとする。
コートの裏に、鉄板を仕込んでいたとしてもだ」
2人の鼻先に小銃の銃口を向け、アーサー老人が命じようとする。
「探偵諸君、いつまでもぼんやりしていないで……」「これでしょ?」
と、そこでエミルがアーサー老人の横に立ち、縄をぷらぷらと振って見せる。
「うむ。手早く頼む」
アーサー老人は満足げにうなずいた。
男たちを縄で縛り、揃って馬に載せたところで、アーサー老人がカンテラを二人の顔に近付ける。
「ミヌー君。彼らに見覚えはあるかね?」
「無いわね。……なんであたしに聞くの?」
「赤毛君は明らかに東部暮らしが長く、よほど有名でなければ西部者の情報など、逐一控えてはいないだろう。
若僧君は探偵業に就いてまだ、半年も経っていまい。持つ情報は赤毛君よりも、もっと少ないと見て然るべきだ。
反面、君は西部暮らしが相当長いと見える。恐らくは7年か、8年と言ったところだろう。そもそも名前を聞いた覚えがある。辣腕(らつわん)の賞金稼ぎとしてな。
確か、エミル・『フェアリー』・ミヌーだったかな?」
「ええ」
「まさか君ほどの手練が、Fの下にいたとはな。……ああ、それよりもこいつらの検分だ。
さっきの言葉遣い――と言うか訛りだな――それと銃の扱いの熟練具合、場馴れした様子からしても、この2人が西部で暮らして相当長いと言うことは、まず間違いあるまい。
他に何か、身分が分かるものはあるか……?」
そうつぶやきながら、アーサー老人は男たちの服を調べる。
と、男の懐からぽろ、と何かが落ちる。
「うん? ……ネックレスか。何かのシンボルだな」
もう一人からもネックレスを見付け、アーサー老人はあごに手を当てつつ、考察する。
「三角形と言うことはフリーメイソンか、イルミナティか、……いや、どちらでも無さそうだ。
鎖が付いている方向からして、これは逆三角形か。そして目も、人のものではないようだ。瞳が細い。
まるで、猫のような……」
ネックレスを眺めていたアーサー老人が、くる、とエミルの方に向き直る。
「どうした、ミヌー君? 顔色が悪いが」
アーサー老人の言う通り、エミルは真っ青な顔で、そのネックレスを凝視していた。
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