DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 7 ~ 消えた鉄道王 ~ 15
ウエスタン小説、第15話。
彼女の、旧い名は。
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15.
エミルが淹れたコーヒーを手にしつつ、局長は今回の事情を説明し始めた。
「まず理由の1つ目は、君たちがリーランド氏に実情を打ち明ける可能性があったからだ。以前の『宝探し』でも、エミル嬢は博愛主義を披露してくれていたからね。
無論、一般的にはそれは悪いことじゃあない。むしろ、賞賛されるべき精神だ。だが打ち明けたとして、リーランド氏はどうするだろうか?」
「間違い無く、セントホープに向かうでしょうね」
エミルの回答に、局長は「うむ」とうなずく。
「その通りだ。そしてそれは、2つ目の理由と合わせて、非常に危険な行為なのだ」
それを受けて、今度はアデルが答える。
「つまり俺たちやロドニーを監視してるヤツがいて、そしてソイツは躊躇(ちゅうちょ)なく殺人すら犯すヤツである、と。
そんなヤツが俺たちの近辺にいることを、局長は気付いてたんですね」
「そう言うことだ。
現れた時期としては、リゴーニ地下工場事件の後くらいになる。狡猾な相手らしく、君にはまったく気取らせなかったようだが、その点において第三者となっていた私にはむしろ、その存在が透けて見えるようだったよ。
このまま放置していては、君たちの身の危険や、情報漏洩どころの騒ぎじゃあない。確実に、我が探偵局にとって大きなマイナスを呼び込む存在だ。だから今回、君たちを東部から離れさせたことで、そいつの油断を誘ったのだ」
「と言うことは……」
尋ねたエミルに、局長は肩をすくめて返す。
「尾行者自体は見付けたし、それなりの制裁も加えた。だがその背後にいるであろう人間には、残念ながら手が届かず、だ。
とは言え今回のことで、相手も警戒したはずだ。事実、今日は君たちの周囲に怪しい人間はいなかったと、リロイから聞いている」
「じゃあ、当面は尾行や盗み聞きなんかの心配はいらなさそうね。
それで、3つ目は?」
「それはだね……」
急かすエミルを、局長はじっと、静かな表情で見つめている。
「……なに?」
「エミル。前もって言っておくが、Aは決して、常に私より上手(うわて)じゃあないと言うことだ」
「どう言う……」
言いかけたエミルは、途中で何故か、アデルを見る。
「……そう言うこと?」
「まあ、似たようなものだ」
「へ?」
きょとんとするアデルを横目にしながら、エミルは額に手を当て、呆れた仕草を見せる。
「カマをかけたのね、ボールドロイドさんに? あたしが内緒にしてって言ったこと、全部知ってるってわけね」
「うむ。だが言っただろう、今日はオープンに話すと。私がそうするのに、君がクローズなままじゃあ、話がし辛くて仕方が無い。
だから今回は、私が聞いたことについては、君は素直に答えて欲しい。繰り返すようだが、その代わりに君が聞いたことについては、私も素直に答えるつもりだ。
構わんかね、エミル?」
「……オーケー。今日だけは、そうするわ」
エミルがぐったりと椅子にもたれかかったところで、局長は話を再開した。
「さて、ネイサン。それからビアンキ君。彼女の名前についてだが、『エミル・ミヌー』の他にもう一つ、古くからの名前を持っていることについて、知っていたかね?」
「いや……?」
揃って首を傾げる2人にうんうんとうなずいて見せながら、局長はこう続ける。
「エミル・トリーシャ・シャタリーヌ。それが、彼女が16歳まで使っていた名前だ」
「シャタリーヌ? それって……」
尋ねかけたアデルに、局長は再度、うなずいて返す。
「そう、S・S・スティルマンの隠された日記帳で、君が見たことのある名前だ。
これは私やAの調査を元にした、仮定の話だが――そのシャタリーヌは、恐らくエミル嬢の父親だ。と言っても、彼女にも確証は無いだろうがね」
「ええ、でもあたしも、何となくそうだろうとは思ってたわ。日記に書かれていた、『人をぬらぬらと舐め回すような目』って表現が、まるで父そっくりだったから」
「まさにそう言う男だったらしい。と言っても、私も直に会ったことは無いが」
そう言って、局長は手帳を懐から出した。
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彼女の、旧い名は。
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15.
エミルが淹れたコーヒーを手にしつつ、局長は今回の事情を説明し始めた。
「まず理由の1つ目は、君たちがリーランド氏に実情を打ち明ける可能性があったからだ。以前の『宝探し』でも、エミル嬢は博愛主義を披露してくれていたからね。
無論、一般的にはそれは悪いことじゃあない。むしろ、賞賛されるべき精神だ。だが打ち明けたとして、リーランド氏はどうするだろうか?」
「間違い無く、セントホープに向かうでしょうね」
エミルの回答に、局長は「うむ」とうなずく。
「その通りだ。そしてそれは、2つ目の理由と合わせて、非常に危険な行為なのだ」
それを受けて、今度はアデルが答える。
「つまり俺たちやロドニーを監視してるヤツがいて、そしてソイツは躊躇(ちゅうちょ)なく殺人すら犯すヤツである、と。
そんなヤツが俺たちの近辺にいることを、局長は気付いてたんですね」
「そう言うことだ。
現れた時期としては、リゴーニ地下工場事件の後くらいになる。狡猾な相手らしく、君にはまったく気取らせなかったようだが、その点において第三者となっていた私にはむしろ、その存在が透けて見えるようだったよ。
このまま放置していては、君たちの身の危険や、情報漏洩どころの騒ぎじゃあない。確実に、我が探偵局にとって大きなマイナスを呼び込む存在だ。だから今回、君たちを東部から離れさせたことで、そいつの油断を誘ったのだ」
「と言うことは……」
尋ねたエミルに、局長は肩をすくめて返す。
「尾行者自体は見付けたし、それなりの制裁も加えた。だがその背後にいるであろう人間には、残念ながら手が届かず、だ。
とは言え今回のことで、相手も警戒したはずだ。事実、今日は君たちの周囲に怪しい人間はいなかったと、リロイから聞いている」
「じゃあ、当面は尾行や盗み聞きなんかの心配はいらなさそうね。
それで、3つ目は?」
「それはだね……」
急かすエミルを、局長はじっと、静かな表情で見つめている。
「……なに?」
「エミル。前もって言っておくが、Aは決して、常に私より上手(うわて)じゃあないと言うことだ」
「どう言う……」
言いかけたエミルは、途中で何故か、アデルを見る。
「……そう言うこと?」
「まあ、似たようなものだ」
「へ?」
きょとんとするアデルを横目にしながら、エミルは額に手を当て、呆れた仕草を見せる。
「カマをかけたのね、ボールドロイドさんに? あたしが内緒にしてって言ったこと、全部知ってるってわけね」
「うむ。だが言っただろう、今日はオープンに話すと。私がそうするのに、君がクローズなままじゃあ、話がし辛くて仕方が無い。
だから今回は、私が聞いたことについては、君は素直に答えて欲しい。繰り返すようだが、その代わりに君が聞いたことについては、私も素直に答えるつもりだ。
構わんかね、エミル?」
「……オーケー。今日だけは、そうするわ」
エミルがぐったりと椅子にもたれかかったところで、局長は話を再開した。
「さて、ネイサン。それからビアンキ君。彼女の名前についてだが、『エミル・ミヌー』の他にもう一つ、古くからの名前を持っていることについて、知っていたかね?」
「いや……?」
揃って首を傾げる2人にうんうんとうなずいて見せながら、局長はこう続ける。
「エミル・トリーシャ・シャタリーヌ。それが、彼女が16歳まで使っていた名前だ」
「シャタリーヌ? それって……」
尋ねかけたアデルに、局長は再度、うなずいて返す。
「そう、S・S・スティルマンの隠された日記帳で、君が見たことのある名前だ。
これは私やAの調査を元にした、仮定の話だが――そのシャタリーヌは、恐らくエミル嬢の父親だ。と言っても、彼女にも確証は無いだろうがね」
「ええ、でもあたしも、何となくそうだろうとは思ってたわ。日記に書かれていた、『人をぬらぬらと舐め回すような目』って表現が、まるで父そっくりだったから」
「まさにそう言う男だったらしい。と言っても、私も直に会ったことは無いが」
そう言って、局長は手帳を懐から出した。
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