「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・狐童伝 1
神様たちの話、第38話。
大魔法使いの登場。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
その巨大な山々の北から先で闊歩していたように、その山の南でも、「バケモノ」が人を襲っていた。
「ひっ、ひっ、ひいっ……」
腰に提げた袋からぽろぽろと、眩く光る砂をこぼしながら、男は山道を転がるように走っている。
「アカンてアカンてアカンて……ッ!」
男は叫び、喚き散らしながら全力疾走していた。そうしなければ、死ぬのは明らかだったからだ。
男の背後には、異形の獣が迫っていた。一見、狼にも見えるその姿は、良く確認すればあちこちに、奇形じみた特徴が見られる。口に収まりきらぬ牙、明らかに脚先より長い爪、そして他の動物にはまず見られない、6つの爛々と光る、真っ赤な目――それは正に、「バケモノ」と呼ぶにふさわしい、恐るべき獣だった。
「助けてえええ! だっ、誰かあああ……ッ!」
そう叫んでも何の助けも来ないことは、明らかであるように思えた。
その時だった。
「ほい」
ボン、と音を立て、六つ目の狼の片脚が爆発、四散する。
「……お、……え、……な、何?」
来ないはずの助けをうっすら期待しつつ逃げ回っていた男も、そんな光景が実際に繰り広げられるとは想像しておらず、思わず足を止める。
「あんた、助けてって言ったじゃないね」
「え? ……え? 誰?」
声のした方を向くと、そこには三角形でつばの広い帽子を深く被った、猫獣人らしき男の姿があった。
「い、今の、アンタがやったん?」
「ああ。……あーっと、まだ動くなってね」
猫獣人は杖を掲げ、残った脚をガクガクと震わせて立ち上がろうとする六目狼の前に立ちはだかる。
「きっちり燃やしといてやろうかね。『フレイムドラゴン』!」
ぼ、ぼっ、と音を立て、人の頭ほどもある火球が5つ、六目狼の頭と胸を刺し貫く。
「ゴバ、……ッ」
六目狼は残った口から大量の血を吐き、どしゃっと水気を含んだ音を立てて、その場に崩れた。
「……な、何なん? アンタ、何者や?」
死の危険が去ったことはどうにか理解したものの、男は別の恐怖を、その三角帽子の「猫」に抱いていた。
「何者って? まあ、んー、何て言えばいいかねー、……じゃあ、大魔法使いとでも」
「大、……まほ、……う?」
猫獣人の言っている言葉が――意味が、ではなく、単語そのものが――分からず、男は呆然としながら聞き返す。
「あー、何でもいいね。説明、めんどいしね。
ともかくさ、助けてもらったヤツに対してさ、何か言うコト無いね?」
「……あ」
男はそれを受けて、どうにか平静を取り戻した。
「ありがとうございます、……えーと」
「ん?」
「あの、お名前は」
「あ、私の? んじゃ、モールで」
「モール……、モールさん、ですか」
名前を繰り返した男に、モールは口をとがらせる。
「人の名前聞いたんだから、あんたの方も名乗ってほしいんだけどね」
「え、わし? ……あ、そうですな、ええ。わしはヨブと申します。ヨブ・アーティエゴです」
「ん。よろしくね、ヨブ」
そう言ってモールは、ヨブと名乗った狐耳の男に笑いかけた。
そのまま二人で下山しつつ、モールはヨブから色々と話を交わしていた。
「へー、砂金ねぇ」
「そうなんですわ。さっき会うたとこからもうちょい上の方に洞窟みたいなんがあるんですけども、そん中に川がちょろっと流れとりましてな」
「地下水脈か。そん中で採れるってコト?」
「ええ。割りと適当にざばっと掬(すく)うても、結構キラキラっと採れるんですわ」
そう言ってヨブは腰に提げていた袋を開き、モールに中身を見せる。
「確かにキラキラしてるね。で?」
「で、……ちゅうと?」
「キラキラしたの取れましたー、わーい、……で終わりじゃないよね?」
「そら、まあ。後は鉛を混ぜて溶かして、より大粒の金を取り出します。
ほんで、それを指輪とかピアスとかに飾り付けするのんを生業にしとります」
「宝飾屋ってワケか。……にしちゃ、飾りっ気無い格好してるね」
モールにそう評され、ヨブは反論する。
「いやいや、砂金採りするのんに小洒落た格好してどないしますねん」
「ああ、そりゃそうだね。じゃ、自宅じゃソレなりにカッコ付けてるワケだね」
「そら、もう」
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その巨大な山々の北から先で闊歩していたように、その山の南でも、「バケモノ」が人を襲っていた。
「ひっ、ひっ、ひいっ……」
腰に提げた袋からぽろぽろと、眩く光る砂をこぼしながら、男は山道を転がるように走っている。
「アカンてアカンてアカンて……ッ!」
男は叫び、喚き散らしながら全力疾走していた。そうしなければ、死ぬのは明らかだったからだ。
男の背後には、異形の獣が迫っていた。一見、狼にも見えるその姿は、良く確認すればあちこちに、奇形じみた特徴が見られる。口に収まりきらぬ牙、明らかに脚先より長い爪、そして他の動物にはまず見られない、6つの爛々と光る、真っ赤な目――それは正に、「バケモノ」と呼ぶにふさわしい、恐るべき獣だった。
「助けてえええ! だっ、誰かあああ……ッ!」
そう叫んでも何の助けも来ないことは、明らかであるように思えた。
その時だった。
「ほい」
ボン、と音を立て、六つ目の狼の片脚が爆発、四散する。
「……お、……え、……な、何?」
来ないはずの助けをうっすら期待しつつ逃げ回っていた男も、そんな光景が実際に繰り広げられるとは想像しておらず、思わず足を止める。
「あんた、助けてって言ったじゃないね」
「え? ……え? 誰?」
声のした方を向くと、そこには三角形でつばの広い帽子を深く被った、猫獣人らしき男の姿があった。
「い、今の、アンタがやったん?」
「ああ。……あーっと、まだ動くなってね」
猫獣人は杖を掲げ、残った脚をガクガクと震わせて立ち上がろうとする六目狼の前に立ちはだかる。
「きっちり燃やしといてやろうかね。『フレイムドラゴン』!」
ぼ、ぼっ、と音を立て、人の頭ほどもある火球が5つ、六目狼の頭と胸を刺し貫く。
「ゴバ、……ッ」
六目狼は残った口から大量の血を吐き、どしゃっと水気を含んだ音を立てて、その場に崩れた。
「……な、何なん? アンタ、何者や?」
死の危険が去ったことはどうにか理解したものの、男は別の恐怖を、その三角帽子の「猫」に抱いていた。
「何者って? まあ、んー、何て言えばいいかねー、……じゃあ、大魔法使いとでも」
「大、……まほ、……う?」
猫獣人の言っている言葉が――意味が、ではなく、単語そのものが――分からず、男は呆然としながら聞き返す。
「あー、何でもいいね。説明、めんどいしね。
ともかくさ、助けてもらったヤツに対してさ、何か言うコト無いね?」
「……あ」
男はそれを受けて、どうにか平静を取り戻した。
「ありがとうございます、……えーと」
「ん?」
「あの、お名前は」
「あ、私の? んじゃ、モールで」
「モール……、モールさん、ですか」
名前を繰り返した男に、モールは口をとがらせる。
「人の名前聞いたんだから、あんたの方も名乗ってほしいんだけどね」
「え、わし? ……あ、そうですな、ええ。わしはヨブと申します。ヨブ・アーティエゴです」
「ん。よろしくね、ヨブ」
そう言ってモールは、ヨブと名乗った狐耳の男に笑いかけた。
そのまま二人で下山しつつ、モールはヨブから色々と話を交わしていた。
「へー、砂金ねぇ」
「そうなんですわ。さっき会うたとこからもうちょい上の方に洞窟みたいなんがあるんですけども、そん中に川がちょろっと流れとりましてな」
「地下水脈か。そん中で採れるってコト?」
「ええ。割りと適当にざばっと掬(すく)うても、結構キラキラっと採れるんですわ」
そう言ってヨブは腰に提げていた袋を開き、モールに中身を見せる。
「確かにキラキラしてるね。で?」
「で、……ちゅうと?」
「キラキラしたの取れましたー、わーい、……で終わりじゃないよね?」
「そら、まあ。後は鉛を混ぜて溶かして、より大粒の金を取り出します。
ほんで、それを指輪とかピアスとかに飾り付けするのんを生業にしとります」
「宝飾屋ってワケか。……にしちゃ、飾りっ気無い格好してるね」
モールにそう評され、ヨブは反論する。
「いやいや、砂金採りするのんに小洒落た格好してどないしますねん」
「ああ、そりゃそうだね。じゃ、自宅じゃソレなりにカッコ付けてるワケだね」
「そら、もう」
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9ヶ月ぶりの双月千年世界シリーズです。
大変お待たせしました。
完全に第1部のことを忘れてしまった……、と言う方のために、
こちらにあらすじを用意しています。
「そう言えばこんな話だったなぁ」と思い返していただければ幸いです。
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大変お待たせしました。
完全に第1部のことを忘れてしまった……、と言う方のために、
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