「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・狐童伝 3
神様たちの話、第40話。
二人の邂逅。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
と、玄関の戸が開く気配がする。
「おう、おかえり」
玄関に向かってヨブが声をかけ、幼い子供の声が2つ、重なって返って来る。
「ただいまー」
「ん? 君、子供いたの?」
「ええ。さっきも言いましたやん、奥さんおったって」
「ああ、そっか、そうだっけね」
程無く、狐獣人の子供が2人、居間に入ってきた。
「……お客さん?」
きょとんとした顔で尋ねた女の子に、モールは手を振る。
「ああ、お邪魔してるね」
「は、はじめまして」
女の子の陰に隠れつつ、その子の弟らしき男の子が挨拶する。
「はーい、はじめまして」
そう返したモールを見て、ヨブが苦笑する。
「モールさん?」
「なんだよ」
「子供、お好きなんです?」
「なんで?」
「顔、めっちゃニヤけてますで」
「……」
恥ずかしかったのか、モールは三角帽子を深めに被り、ぷいっと顔を背けてしまった。
しかし子供たちは意に介していないらしく、モールが顔を背けた方向へぐるっと回り込む。
「モールさんて言うのん?」
「ん、ああ。モールだ。よろしくね」
「よろしゅう、モールさん」
女の子はにこっと笑い、こう返した。
「アタシはエリザ。後ろのんが弟のニコルです」
「ああ、うん。どうもね、エリザにニコル」
顔を隠していてもモールが赤面しているのを察したらしく、ヨブはこの間、くっくっと声を漏らし、笑いをこらえていた。
ヨブがにらんだ通り、やはりモールは、子供に対して非常に好意的であるらしかった。
「ほーら、今度はちょうちょだ」
会って30分もしないうちに、モールはすっかりヨブの子供たちと仲良くなっていた。
モールが魔杖の先にぽん、と光を浮かべ、それを鳥や兎、猫など様々な形に変えて天井高く飛ばすのを、子供たちは目をキラキラと輝かせて眺めている。
「なぁ、なぁ、モールさん! 次は? 次は?」
「ふっふ、お次はー……」
言いかけて、モールは「おっと」とつぶやいた。
「もう日が暮れる時間か。そろそろお暇しなきゃね」
「えー」「もっと見せてーな」
去ろうとするモールを、子供たちが引き止める。
そしてヨブも、子供たちに続いた。
「モールさん、今日はウチに泊まらはりませんか? ちゅうか、そのつもりで用意しとったんですけども」
「え? ……あー、君がいいってんなら、お言葉に甘えちゃおうかね」
モールの返事を受け、ヨブは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ええ、是非。もうそろそろご飯の用意もできますんで、もうちょっと待っとって下さい」
「あいあい。んじゃエリザ、お次は何が見たいね?」
「えーと、えーと……」
エリザは口ごもり、手をパタパタさせている。どうやら見たいものが、言葉でうまく表現できないらしい。
「なんだろ? 動物かね?」
「うん、あのー、おっきいやつで、しっぽがあって、あしが長くて、かおも長くて、……何て言うたらええんやろ、えーと」
そう言って――エリザはくい、とモールの魔杖をつかみ、引っ張った。
「こんなん」
直後、笑っていたモールが目を見開き、絶句する。
自分の魔杖の先から、光る馬がひょい、と飛び出し、天井に向かって走り去ったからだ。
「……え?」
「あ、コレ。コレやねん」
「ちょ、……君? 今、どうやったね?」
モールは血相を変えて、エリザに尋ねる。
が、エリザはきょとんとした顔で、何の裏も悪気も無さそうな口調でこう返した。
「どうって、今モールさんがやらはったみたいな感じで、でけるかなー思て」
「でけるかなー、……じゃないね。確かに呪文は口で唱えてはいたけども、ソレを全部覚えたっての? しかもアレンジまでして」
「うん」
「じょ、冗談じゃないね!」
モールは唖然とした様子を見せ、エリザの頭をぺちっと叩く。
「あいたっ?」
「んなコト、チョイチョイっとできるもんじゃないね!
呪文の構文からして、この世界の言葉じゃないんだよ!? しかも『こっち』の言葉で応用利かすなんて、とんだ離れ業だね! あまつさえ、魔術はマフ持ちじゃなきゃ、……いや、こんなコト君らに言ったって何が何やらだろうけどもね、……ああ、いや、いいや。
エリザ、ご飯前に何なんだけどね」
モールは慌てた素振りでエリザの手を引き、屋外へ連れ出した。
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3.
と、玄関の戸が開く気配がする。
「おう、おかえり」
玄関に向かってヨブが声をかけ、幼い子供の声が2つ、重なって返って来る。
「ただいまー」
「ん? 君、子供いたの?」
「ええ。さっきも言いましたやん、奥さんおったって」
「ああ、そっか、そうだっけね」
程無く、狐獣人の子供が2人、居間に入ってきた。
「……お客さん?」
きょとんとした顔で尋ねた女の子に、モールは手を振る。
「ああ、お邪魔してるね」
「は、はじめまして」
女の子の陰に隠れつつ、その子の弟らしき男の子が挨拶する。
「はーい、はじめまして」
そう返したモールを見て、ヨブが苦笑する。
「モールさん?」
「なんだよ」
「子供、お好きなんです?」
「なんで?」
「顔、めっちゃニヤけてますで」
「……」
恥ずかしかったのか、モールは三角帽子を深めに被り、ぷいっと顔を背けてしまった。
しかし子供たちは意に介していないらしく、モールが顔を背けた方向へぐるっと回り込む。
「モールさんて言うのん?」
「ん、ああ。モールだ。よろしくね」
「よろしゅう、モールさん」
女の子はにこっと笑い、こう返した。
「アタシはエリザ。後ろのんが弟のニコルです」
「ああ、うん。どうもね、エリザにニコル」
顔を隠していてもモールが赤面しているのを察したらしく、ヨブはこの間、くっくっと声を漏らし、笑いをこらえていた。
ヨブがにらんだ通り、やはりモールは、子供に対して非常に好意的であるらしかった。
「ほーら、今度はちょうちょだ」
会って30分もしないうちに、モールはすっかりヨブの子供たちと仲良くなっていた。
モールが魔杖の先にぽん、と光を浮かべ、それを鳥や兎、猫など様々な形に変えて天井高く飛ばすのを、子供たちは目をキラキラと輝かせて眺めている。
「なぁ、なぁ、モールさん! 次は? 次は?」
「ふっふ、お次はー……」
言いかけて、モールは「おっと」とつぶやいた。
「もう日が暮れる時間か。そろそろお暇しなきゃね」
「えー」「もっと見せてーな」
去ろうとするモールを、子供たちが引き止める。
そしてヨブも、子供たちに続いた。
「モールさん、今日はウチに泊まらはりませんか? ちゅうか、そのつもりで用意しとったんですけども」
「え? ……あー、君がいいってんなら、お言葉に甘えちゃおうかね」
モールの返事を受け、ヨブは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ええ、是非。もうそろそろご飯の用意もできますんで、もうちょっと待っとって下さい」
「あいあい。んじゃエリザ、お次は何が見たいね?」
「えーと、えーと……」
エリザは口ごもり、手をパタパタさせている。どうやら見たいものが、言葉でうまく表現できないらしい。
「なんだろ? 動物かね?」
「うん、あのー、おっきいやつで、しっぽがあって、あしが長くて、かおも長くて、……何て言うたらええんやろ、えーと」
そう言って――エリザはくい、とモールの魔杖をつかみ、引っ張った。
「こんなん」
直後、笑っていたモールが目を見開き、絶句する。
自分の魔杖の先から、光る馬がひょい、と飛び出し、天井に向かって走り去ったからだ。
「……え?」
「あ、コレ。コレやねん」
「ちょ、……君? 今、どうやったね?」
モールは血相を変えて、エリザに尋ねる。
が、エリザはきょとんとした顔で、何の裏も悪気も無さそうな口調でこう返した。
「どうって、今モールさんがやらはったみたいな感じで、でけるかなー思て」
「でけるかなー、……じゃないね。確かに呪文は口で唱えてはいたけども、ソレを全部覚えたっての? しかもアレンジまでして」
「うん」
「じょ、冗談じゃないね!」
モールは唖然とした様子を見せ、エリザの頭をぺちっと叩く。
「あいたっ?」
「んなコト、チョイチョイっとできるもんじゃないね!
呪文の構文からして、この世界の言葉じゃないんだよ!? しかも『こっち』の言葉で応用利かすなんて、とんだ離れ業だね! あまつさえ、魔術はマフ持ちじゃなきゃ、……いや、こんなコト君らに言ったって何が何やらだろうけどもね、……ああ、いや、いいや。
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