「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・狐童伝 6
神様たちの話、第43話。
強情。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
村に戻ったところで、苦い顔をしたヨブが出迎えた。
「何のつもりですか、モールさん」
「私が誘拐したって思ってんなら、ソレは不正解だね。エリザが勝手に付いてきたのさ。だから連れ戻したってワケだね」
モールからそう説明されるが、ヨブは依然として、表情を崩さない。
「……まあ、そうやろなっちゅう気もしてましたわ。ともかく、家に戻りましょ」
そう言って踵を返しかけたところで、エリザが言い放った。
「帰らへんよ」
「は?」
ヨブが振り返ると同時に、モールがエリザの頭をぺちんと叩いた。
「アホっ」
「いったー……、もう、ええかげんにしてーな。ホンマにアホになるやんか」
「もうとっくにアホだっつーの。なんべん言えば分かるね!?」
「……大体察しました」
と、ヨブは呆れた顔を見せる。
「エリザ、お前が行きたい行きたい言うて、モールさんとこに付いて行ったっちゅうことで間違い無いな?」
「うん」
「やっぱりか」
そう言うなり、ヨブはエリザの側に寄って、ばしっと彼女に平手打ちした。
「いたあっ……!?」
「わがまま言うんも大概にせえ! モールさんがどんだけ困っとるか、分からへんのか!」
「……分かってへんのはお父やんやろ」
真っ赤になったほおに手も当てず、エリザは言い返す。
「アタシはモールさんに付いてって、ベンキョーしたいねん。
このまんま村にいとっても多分、お父やんのアトついで、お父やんみたいに村中から『どんくさいヤツ』って後ろ指さされるだけやん」
「んなっ……」
ヨブの顔に怒りの色が差すが、エリザは止まらない。
「アタシはそんなん、だれにも言わせへん。『エリザはすごいヤツやで』って言わせたるんや」
「……~っ」
ヨブは顔を真っ赤にし、ついにこう言い捨てて、背を向けてしまった。
「そんなら勝手にせえ! もうお前なんか知らん!」
「……」
そのまま歩き去っていくヨブを眺めつつ、モールがエリザの手を引く。
「ホントにおバカか、君。ちゃんと謝れって」
対するエリザは、キッとモールをにらみ返す。
「アタシがあやまるコトなんか何もない。周りから言われとるコト、そのまんま言うただけや」
「んなコト言ってるうちは、絶対連れてかないよ」
「せやったら勝手に付いてく」
「なら蹴っ飛ばす」
「ならけり返す」
「……」「……」
そのまま、二人でにらみ合い――。
「……この強情娘め」
モールは杖の先で、エリザの頭をがつんと殴った。
「あだっ……!」
「最後通牒だ。私に付いてって殴られまくるか、お父さんのトコに謝りに行くか、今選べ」
エリザの頭から、血がポタポタ流れている。
「じゃあね」
モールも踵を返し、そのまま村の外まで歩き去った。
村の外に出て、モールは振り返る。
「……とことんまでアホか、君は?」
そこには血と涙を流しながら付いて来る、エリザの姿があった。
「アホでもっ、なんでも、……グスっ、行くって決めたんや、……ひっく、死んでも付いてくで、……ひっく、モールさん」
「ああそうかい、分かったよ」
そう言ってモールは、魔杖を振り上げた。
「……っ」
それを見てエリザは頭を抱え、しゃがみ込む。
が――モールは魔杖の先をとん、とエリザの頭に置き、呪文を唱える。
「『キュア』」
「……え?」
「治療術の初歩だね。実演は今の一度きり。呪文は今日だけ教えてやる。後は自分で練習しろ。明日までにできなきゃ今度こそ帰れ。
分かったね?」
「……」
エリザはぽかんとした顔で立ち上がり、綺麗に傷が消えた自分の頭を撫で、それからうなずいた。
「……うん。分かった」
ここから「大魔法使い」モールと少女エリザの旅が――即ち、歴史上最初の大英雄と称される、彼女の物語が始まる。
琥珀暁・狐童伝 終
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強情。
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6.
村に戻ったところで、苦い顔をしたヨブが出迎えた。
「何のつもりですか、モールさん」
「私が誘拐したって思ってんなら、ソレは不正解だね。エリザが勝手に付いてきたのさ。だから連れ戻したってワケだね」
モールからそう説明されるが、ヨブは依然として、表情を崩さない。
「……まあ、そうやろなっちゅう気もしてましたわ。ともかく、家に戻りましょ」
そう言って踵を返しかけたところで、エリザが言い放った。
「帰らへんよ」
「は?」
ヨブが振り返ると同時に、モールがエリザの頭をぺちんと叩いた。
「アホっ」
「いったー……、もう、ええかげんにしてーな。ホンマにアホになるやんか」
「もうとっくにアホだっつーの。なんべん言えば分かるね!?」
「……大体察しました」
と、ヨブは呆れた顔を見せる。
「エリザ、お前が行きたい行きたい言うて、モールさんとこに付いて行ったっちゅうことで間違い無いな?」
「うん」
「やっぱりか」
そう言うなり、ヨブはエリザの側に寄って、ばしっと彼女に平手打ちした。
「いたあっ……!?」
「わがまま言うんも大概にせえ! モールさんがどんだけ困っとるか、分からへんのか!」
「……分かってへんのはお父やんやろ」
真っ赤になったほおに手も当てず、エリザは言い返す。
「アタシはモールさんに付いてって、ベンキョーしたいねん。
このまんま村にいとっても多分、お父やんのアトついで、お父やんみたいに村中から『どんくさいヤツ』って後ろ指さされるだけやん」
「んなっ……」
ヨブの顔に怒りの色が差すが、エリザは止まらない。
「アタシはそんなん、だれにも言わせへん。『エリザはすごいヤツやで』って言わせたるんや」
「……~っ」
ヨブは顔を真っ赤にし、ついにこう言い捨てて、背を向けてしまった。
「そんなら勝手にせえ! もうお前なんか知らん!」
「……」
そのまま歩き去っていくヨブを眺めつつ、モールがエリザの手を引く。
「ホントにおバカか、君。ちゃんと謝れって」
対するエリザは、キッとモールをにらみ返す。
「アタシがあやまるコトなんか何もない。周りから言われとるコト、そのまんま言うただけや」
「んなコト言ってるうちは、絶対連れてかないよ」
「せやったら勝手に付いてく」
「なら蹴っ飛ばす」
「ならけり返す」
「……」「……」
そのまま、二人でにらみ合い――。
「……この強情娘め」
モールは杖の先で、エリザの頭をがつんと殴った。
「あだっ……!」
「最後通牒だ。私に付いてって殴られまくるか、お父さんのトコに謝りに行くか、今選べ」
エリザの頭から、血がポタポタ流れている。
「じゃあね」
モールも踵を返し、そのまま村の外まで歩き去った。
村の外に出て、モールは振り返る。
「……とことんまでアホか、君は?」
そこには血と涙を流しながら付いて来る、エリザの姿があった。
「アホでもっ、なんでも、……グスっ、行くって決めたんや、……ひっく、死んでも付いてくで、……ひっく、モールさん」
「ああそうかい、分かったよ」
そう言ってモールは、魔杖を振り上げた。
「……っ」
それを見てエリザは頭を抱え、しゃがみ込む。
が――モールは魔杖の先をとん、とエリザの頭に置き、呪文を唱える。
「『キュア』」
「……え?」
「治療術の初歩だね。実演は今の一度きり。呪文は今日だけ教えてやる。後は自分で練習しろ。明日までにできなきゃ今度こそ帰れ。
分かったね?」
「……」
エリザはぽかんとした顔で立ち上がり、綺麗に傷が消えた自分の頭を撫で、それからうなずいた。
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