「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・錬杖伝 1
神様たちの話、第44話。
放浪講義。
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1.
無理矢理に付いてきたエリザを、モールは当初ひどく邪険にしていたものの、彼女に魔術の才能があり、かつ、聡明であることに気付いたことと、何より気が合ったことから――共に旅を始めて3、4日も経つ頃には、モールは気さくに話しかけるようになっていた。
「昨日のは覚えた? 『ファイアボール』」
「はい」
にっこり笑って答えたエリザに、モールはちょん、と空に向かって人差し指を立てる。
「やってみ?」
「はーい」
言われるがまま、エリザは呪文を唱え、モールがやってみせたのと同じように、空中に人差し指を向ける。
「『ファイアボール』!」
次の瞬間、ぽん、と音を立てて、彼女の握りこぶし程度の火球が空に向かって飛んで行った。
「おー、上出来。……いやぁ、教えがいがあるね。今んトコ、全部使えてるしね」
「えへへ……」
と、エリザが照れ笑いを返したところで、モールは一転、神妙な顔をする。
「……」
「どないしたん?」
「いや、……君さ」
モールはエリザの手をつかみ、たしなめた。
「火傷してるね」
「……バレた?」
「バレないワケ無いね」
エリザの指先を治療しつつ、モールは彼女の術を考察する。
「呪文聞いた限りじゃ、保護構文はちゃんとしてたね。となると原因は、パワーオーバーか」
「ぱ……わ?」
「君の魔力が強すぎて、私が組んだ呪文じゃ制御しきれてないってコトさ。
とは言え、呪文を優しく書き直すなんてのもナンセンスだしねぇ。カンタンなコトしかやらないヤツは、いつまで経ってもカンタンなコトしかできないしね。
となると……」
モールは自分が持っていた魔杖をひょいと掲げ、こう続けた。
「ちゃんとした装備を整えるか」
「そうび?」
「君の魔力に見合うだけの武器と、後、コレからの旅を安全に過ごせるような服装だね。
ただ、服とかそう言うのはともかく、武器ってなるとねー」
モールは困ったような表情を浮かべ、魔杖を下ろす。
「魔力が活かせるような武器を造るのが、この世界じゃまず無理なんだよねぇ」
「どう言うコト?」
「設備も素材も無いってコトさ。実を言うとさ、私も今持ってるこの魔杖じゃ満足してないんだけどもね、かと言って納得行くレベルのモノを造りたくても造れないし。
ま、設備の不足については魔術やその他知識でカバーできなくは無いんだけども、素材ばっかりは実際に無きゃ、どうしようも無いね」
「ほな、どうするん?」
「どうにかするとすりゃ……」
そう言いながら、モールは懐から袋を取り出した。
「あちこち旅する途中で、集めるしか無いね」
「その袋って、もしかして……」
目を丸くするエリザに、モールはニヤニヤと笑って返す。
「そう、金さ。と言っても、君のお父さんからもらったとか盗んだとかじゃないね。君のお父さんが教えてくれた秘密の採取場で、私も採ってきたのさ。
そうだ、ココでいっこ教えておこうかね」
モールは袋の中の砂金をエリザに見せつつ、講義を始めた。
「金とか銀、あと銅なんだけどね。この種の金属は魔術、って言うか魔力との親和性が高いんだね」
「しんわせい?」
「平たく言や魔力を溜めやすいし、放出もしやすい素材ってコトだね。
だからその辺りの金属を素材に使えば、かなり質のいいモノができるね。……ま、この量じゃ杖一本ってワケにゃ行かないけども。せいぜいアクセントにするくらいだね。
そもそも金単体じゃ柔らかすぎるし、杖本体にゃ銀とか銅の方がいいけど」
「んー……? 杖いっこ造るのんに、結局何がいるん、先生?」
尋ねたエリザに、モールは腕を組みつつ、ぽつりぽつりと答える。
「そうだねぇ……、先端部分はやっぱり高純度の水晶がいいねぇ。柄の部分は最悪、ソコらの木材でも十分なんだけど、できるなら金属製にしたいね。頑丈だし。
つっても銀や銅そのまんまじゃ、やっぱり柔らかすぎて使い物にならない。錫(すず)とか亜鉛とか、亜銅(ニッケル)と混ぜて合金にしなきゃ、まともなモノにゃならないね」
そう聞いて、エリザは首を傾げる。
「すず……」
「どうしたね?」
「すずってぽろぽろした、白っぽい金属のコト?」
「まあ、金属なんて大体白か銀色だけどね。形は確か、君の言った感じだったと思う。
もしかして採れる場所知ってるとか?」
「知ってるっちゅうか、前にお父やんが村の外の人と話しとる時に、そんな感じの話聞いたなーって。その人からさっき言うた金属も見せてもろたし」
「へぇ? ドコの人って言ってた?」
そう問われ、エリザはもう一度首を傾げ、眉間にしわを寄せる。
「えーっと、うーん……、えーとな、……確か、西の方から来たって」
「西、ねぇ。君のいた村が東の端の方だったし、西ってだけじゃはっきりしないね。
ま、ある程度の目星は付くか。金属持ってきたってんなら、鉱山が近いだろうしね」
モールはきょろ、と辺りを見回し、山を指差した。
「道もあっちに続いてるし、あっちに向かってみるかね」
「はーい」
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無理矢理に付いてきたエリザを、モールは当初ひどく邪険にしていたものの、彼女に魔術の才能があり、かつ、聡明であることに気付いたことと、何より気が合ったことから――共に旅を始めて3、4日も経つ頃には、モールは気さくに話しかけるようになっていた。
「昨日のは覚えた? 『ファイアボール』」
「はい」
にっこり笑って答えたエリザに、モールはちょん、と空に向かって人差し指を立てる。
「やってみ?」
「はーい」
言われるがまま、エリザは呪文を唱え、モールがやってみせたのと同じように、空中に人差し指を向ける。
「『ファイアボール』!」
次の瞬間、ぽん、と音を立てて、彼女の握りこぶし程度の火球が空に向かって飛んで行った。
「おー、上出来。……いやぁ、教えがいがあるね。今んトコ、全部使えてるしね」
「えへへ……」
と、エリザが照れ笑いを返したところで、モールは一転、神妙な顔をする。
「……」
「どないしたん?」
「いや、……君さ」
モールはエリザの手をつかみ、たしなめた。
「火傷してるね」
「……バレた?」
「バレないワケ無いね」
エリザの指先を治療しつつ、モールは彼女の術を考察する。
「呪文聞いた限りじゃ、保護構文はちゃんとしてたね。となると原因は、パワーオーバーか」
「ぱ……わ?」
「君の魔力が強すぎて、私が組んだ呪文じゃ制御しきれてないってコトさ。
とは言え、呪文を優しく書き直すなんてのもナンセンスだしねぇ。カンタンなコトしかやらないヤツは、いつまで経ってもカンタンなコトしかできないしね。
となると……」
モールは自分が持っていた魔杖をひょいと掲げ、こう続けた。
「ちゃんとした装備を整えるか」
「そうび?」
「君の魔力に見合うだけの武器と、後、コレからの旅を安全に過ごせるような服装だね。
ただ、服とかそう言うのはともかく、武器ってなるとねー」
モールは困ったような表情を浮かべ、魔杖を下ろす。
「魔力が活かせるような武器を造るのが、この世界じゃまず無理なんだよねぇ」
「どう言うコト?」
「設備も素材も無いってコトさ。実を言うとさ、私も今持ってるこの魔杖じゃ満足してないんだけどもね、かと言って納得行くレベルのモノを造りたくても造れないし。
ま、設備の不足については魔術やその他知識でカバーできなくは無いんだけども、素材ばっかりは実際に無きゃ、どうしようも無いね」
「ほな、どうするん?」
「どうにかするとすりゃ……」
そう言いながら、モールは懐から袋を取り出した。
「あちこち旅する途中で、集めるしか無いね」
「その袋って、もしかして……」
目を丸くするエリザに、モールはニヤニヤと笑って返す。
「そう、金さ。と言っても、君のお父さんからもらったとか盗んだとかじゃないね。君のお父さんが教えてくれた秘密の採取場で、私も採ってきたのさ。
そうだ、ココでいっこ教えておこうかね」
モールは袋の中の砂金をエリザに見せつつ、講義を始めた。
「金とか銀、あと銅なんだけどね。この種の金属は魔術、って言うか魔力との親和性が高いんだね」
「しんわせい?」
「平たく言や魔力を溜めやすいし、放出もしやすい素材ってコトだね。
だからその辺りの金属を素材に使えば、かなり質のいいモノができるね。……ま、この量じゃ杖一本ってワケにゃ行かないけども。せいぜいアクセントにするくらいだね。
そもそも金単体じゃ柔らかすぎるし、杖本体にゃ銀とか銅の方がいいけど」
「んー……? 杖いっこ造るのんに、結局何がいるん、先生?」
尋ねたエリザに、モールは腕を組みつつ、ぽつりぽつりと答える。
「そうだねぇ……、先端部分はやっぱり高純度の水晶がいいねぇ。柄の部分は最悪、ソコらの木材でも十分なんだけど、できるなら金属製にしたいね。頑丈だし。
つっても銀や銅そのまんまじゃ、やっぱり柔らかすぎて使い物にならない。錫(すず)とか亜鉛とか、亜銅(ニッケル)と混ぜて合金にしなきゃ、まともなモノにゃならないね」
そう聞いて、エリザは首を傾げる。
「すず……」
「どうしたね?」
「すずってぽろぽろした、白っぽい金属のコト?」
「まあ、金属なんて大体白か銀色だけどね。形は確か、君の言った感じだったと思う。
もしかして採れる場所知ってるとか?」
「知ってるっちゅうか、前にお父やんが村の外の人と話しとる時に、そんな感じの話聞いたなーって。その人からさっき言うた金属も見せてもろたし」
「へぇ? ドコの人って言ってた?」
そう問われ、エリザはもう一度首を傾げ、眉間にしわを寄せる。
「えーっと、うーん……、えーとな、……確か、西の方から来たって」
「西、ねぇ。君のいた村が東の端の方だったし、西ってだけじゃはっきりしないね。
ま、ある程度の目星は付くか。金属持ってきたってんなら、鉱山が近いだろうしね」
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