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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
    双月千年世界 短編・掌編

    鴉の籠 5

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    引き続き(略

    籠作り。




    5.
     ある夜。ゼルーは家で一人、酒を呑んでいた。
    「ふう……」
     机には酒の瓶、グラス、大火を撃ち落とした時に使っていた魔杖、そしてネックレスが置いてある。ゼルーはネックレスを手に取り、ため息をつく。
    「早いもんだねぇ」
     そのネックレスは20年ほど前に、彼女の父から渡されたものだった。
     ベレッタの言っていた通り、彼女の一家は盗賊団をしていた。「砂霊」と名乗り、南海全域を仕事の場にし、大規模な盗みを働いていた。とは言え彼らは殺人や放火、強盗と言った重犯罪には手を付けず、盗みも富豪や王侯貴族相手にやっていた。
     南海には鉱産資源が多く、また鉱業の多くは国営産業となっていたため、王族は非常に裕福だった。だから彼らが盗みの相手にするのは、自然と王族が多くなった。だが、それが後に王族たちからの怒りを買い、討伐の対象にされたのだ。
    「……でも、時間かけた甲斐は十分あった」
     彼女の一家を皆殺しにしたその王国の3分の1が今、彼女の教団の支配下にある。彼女の両親を処刑し、彼女を含む子供たちを路頭に迷わせたその国が、あと数年もすれば彼女の思うままになるのだ。ゼルーはにやりと笑い、酒をあおった。
    「うふふふふふ……、楽しくってしょうがないやね。
     アタシを長年苦しめたあいつらが、今はヘコヘコへりくだってくる。アタシたち一家がどうやっても盗み出せなかった王宮の奥底にある金庫は、相手の方から中に入ってる金を持ってきてくれる。このままもっと時間をかけていけば、もしかしたらアタシは女王サマにさえなれるかも知れない。
     ……うふふふ、やったよ、アタシは」
     もう一度ネックレスを手に取り、ゼルーはそれにキスする。
    「見ててよ、父さん……。アタシはまるごと、国を盗んでやるから。
     ……でも、その前に一つだけ、やらなきゃいけないことがあるんだよ。だから、それまでちょっと待っててね」
     ゼルーはネックレスを首にかけ、杖を取って立ち上がった。



    「……と、コレがゼルー・トラインに関する経歴ね。
     どうやら克さんが言ってたアルって男は彼女が6歳の時、盗賊団が潰されて2、3年後あたりに接触し、御子に仕立て上げたらしいわ。魔術はドコで教わったのかよく分かんないわ。もしかしたら独学かも」
    「独学だとすると、相当な魔術センスがあるな。体系立てた学び方をしなければ、高位の魔術はまともに扱えないからな」
    「じゃあ克さんも、どこかの学校でお勉強してたの?」
    「まあ、学校には行っていないが師匠はいた。それに俺には独自の習得方法があるからな」
    「あら、克さんにも師匠いたのね。何て言うかそんなイメージ全然無いわぁ、アハハ」
     半ば談笑しつつ、大火はベレッタからゼルーについての調査結果を聞いていた。
    「得意とする術は風と、水属性。それから最近は、雷属性の術も習得しようとしてるとか」
    「雷、か」
     それを聞いた大火は、珍しく顔をしかめる。それを見たベレッタが興味深そうな視線を向けてくる。
    「雷が嫌いって聞いたけど、ホント?」
    「嫌いと言うのは的確では無いな。俺が日常的に使っている術と、相性が悪いのだ」
    「ふーん……? ま、あたしは魔術のコト、良く分かんないから深くは聞かないけど」
     そこへ、厨房で風見の手伝いをしていたベレッタの娘、虎獣人の五十鈴が口を挟んでくる。
    「相性と言えば克さん、確か火の魔術って風に弱いんでしょう? 何で南海で戦った時、わざわざ火の魔術で対抗したんですか?」
     どうやら五十鈴には魔術の心得があるらしい。その指摘に、大火はまた顔をしかめた。
    「俺は火の魔術を最も得意とするからな。それに相手は格下だと侮っていた。今思えば何とも愚かな戦術を選択したものだと、反省している」
     顔をしかめたままでぷい、と厨房から目をそらした大火を見て、ベレッタはクスクスと笑っている。
    「……何がおかしい」
    「いーえ、いえ。まあ、ゼルーは今現在、布教活動と雷の魔術習得に励んでいるらしいわ。なぜか秘密裏に、雷の術に関する文献を集めているそうよ」
    「何で雷の術なんでやしょうか? 風の魔術も、大火さんを退けるくらいの腕前なんでやしょう?」
     尋ねてきた風見に、ベレッタは腕を組みながら、自信なさげに予想を話す。
    「うーん、多分……、その、かっこいいから、じゃない? 雷を使う教祖サマとか、威厳ありそうな感じ、しない? んで、内緒で習得してるのは、信者のみんなに、いきなりお披露目しようと思ってるから、とか」
    「そんなもんですかね……?」
    「何かそれ、説得力が無いよーな」
     ベレッタの答えに、風見も五十鈴もけげんな顔をする。「違ったかなー……」と赤面したベレッタの代わりに、大火が予想する。
    「恐らく、だが。そろそろアルが邪魔になって来たのだろう」
    「え?」
    「どう言う関係が?」
    「詳しい説明は省くが、アルも雷の術が苦手なのだ。奴は傲慢不遜で小うるさい男だからな、高慢なゼルーは奴が気に入らんのだろう」
     大火の話を聞き、ベレッタはポン、と手を叩く。
    「あーあー、そう言えばそんな感じの話、聞いたコトあるわ。
     布教活動を始めた頃はアル――向こうではアリって名乗ってるらしいけど――最近じゃ、アルと別行動を取ったり、アルについて質問されても答えなかったりとか、あからさまに避けてる節があるらしいわね」
    「大概、あの手の者は傲慢な権力者に煙たがられる。……王を育てた参謀が王に嫌われるとは、滑稽な話だ」
    「それじゃ多分、アル暗殺のために雷の術を集めてるんですね。でも、雷の術ってかなり難しいんでしょう? 火とか風の術に比べて、まだ研究が進んでないとか」
     五十鈴の問いに、大火は小さくうなずいた。
    「ああ。単にそこいらの文献を集めたくらいでは、まず使いこなせん。詳しい者に話を聞かねば、実際に使用できるまでには至らないはずだ。
     ……ふむ」
     そこで大火はある策を思いついた。
    「ベレッタ、この店から世界に向けて、情報を発信することもできるか?」
     ベレッタは自分の胸をトン、と叩いて答える。
    「勿論よ。ウチは情報に関するコトなら何でもござれ、世界中につながりがあるんだからね」
    「それなら、こう言う情報を南海に向けて送ってほしい」
     大火はある「話」を橘一家に伝えた。
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