「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・錬杖伝 3
神様たちの話、第46話。
ブローアウト。
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3.
「ちょっと、エリザ?」
立ち上がり、声をかけてみるが、返事は無い。
「なんだよ、……ドコ行ったね?」
傍らに立てかけていた魔杖を手に取り、モールは呪文を唱える。
「照らしな、『ライトボール』」
辺りが光球で照らされ、薄ぼんやりとだが把握できる。
「足跡、……もある。こっちか」
足跡をたどって数分もするうち、モールは湖の淵に座り込んでいるエリザを、難なく発見できた。
「何してるね?」
「『何してる』やないで、もう……」
不満たらたらと言いたげな声色で、エリザが背を向けたまま答える。
「先生、よだれだらーっとたらしとったで。おかげでアタシの耳、ぐっちょぐっちょやわ」
「アハハ……、そうだったか。ゴメンねぇ」
「落ちたからええけどさー」
水面から顔を挙げ、エリザは狐耳をぷるぷると震わせ、モールの方を向いた。
と――その顔に、ぎょっとした表情が浮かぶ。
「……先生! 後ろ!」
その言葉に、モールも振り返る。
そこには数日前モールが仕留めたものと同型の、六つ目の巨大な狼が立っていた。
「マジか」
ぼそっとそうつぶやいたモールに応じるように、狼が「グルル……」とうなる。
「まあいいや。ブッ飛ばしてやるね」
「大丈夫かいな?」
自分の背中にぴとっと張り付いてきたエリザの頭を、モールはぽんぽんと優しく叩く。
「私を誰だと思ってるね?」
「……大まほーつかい!」
「ふっふっふ、そーゆーコトさね」
モールは魔杖を掲げ、呪文を唱える。
「撃ち抜いてやるね! 『フォックスアロー』!」
紫色の光線が9つ、魔杖の先から飛び、尾を引いて六目狼へと飛んで行く。
が――六目狼はその場でぐるりと回り、尻尾で光線を弾く。
「んなっ……!?」
その光景に、モールは唖然となる。
「こりゃ予想外だね。そもそもケモノが弾くなんて行動を執るなんて思ってなかったし、そもそもあんな物理的に、払って弾けるようなものじゃ無いんだけども。
となるとあの尻尾、魔術耐性があるってコトか。ミスリル化でもしてんのかねぇ、どう見ても生き物なのに」
「何ゴチャゴチャ言うてんねんな! 来よるで!」
狼を分析しかけたところで、エリザが服の裾を引っ張る。
「おっとと、そうそう。考えるのは後にしないとね。……しゃーない、もっと大技かましてやるしか無いね」
迫る狼に、モールはもう一度魔杖を向ける。
「コレならどーだ、『ジャガーノート』!」
魔杖の先から、今度はばぢっと電撃的な音が響く。
次の瞬間、六目狼の体中から、ほとんど白に近い、超高温の真っ青な炎が噴き上がった。
「ギャ……」
六目狼が叫び声を挙げかけたが、それも途中で途切れ、バチバチと獣脂が燃え盛る音へと変わる。
「うわあ」
背後にいたエリザが、恐ろしげな声を上げる。
「……やりすぎたかねぇ?」
思わずそうつぶやいたモールに、エリザも無言で、こくこくとうなずいた。
と――モールはどこからか、焦げた臭いが漂ってくることに気付いた。
「ん……?」
六目狼から臭ってくるのかと思ったが、脂のようなねばつく刺激臭ではない。もっと乾いた、木材のような臭いである。
「先生! 先生て!」
エリザが慌てた様子で、モールの服をまた引っ張ってくる。
「どしたね?」
「つえ! つえ! つえ、もえとる!」
「へ?」
そう言われて、モールは自分が握っていた魔杖に目を向ける。
「……ありゃりゃ」
エリザが言う通り、魔杖はバチバチと火花を上げながら、先端におごられた水晶ごと燃え上がっていた。
「いくらなんでも負荷が強すぎたか。元々ピーキーな呪文の組み方してたし、そりゃオーバーロードもするってもんだね」
モールは半ば炭化した魔杖をぽい、と捨て、エリザに向き直る。
「ま、ソレはソレとして、どーにか倒せたね」
「良かったけど、……つえ、無くなってしもたな」
「あー、うん。ま、造ろうとしてたトコだし、無きゃ無いでどーにでもなるしね」
「そうなん?」
「あった方が便利なのは確かだけどね。……さーて、寝直しだね」
モールはエリザの手を引き、自分たちが寝ていた場所へと戻った。
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「ちょっと、エリザ?」
立ち上がり、声をかけてみるが、返事は無い。
「なんだよ、……ドコ行ったね?」
傍らに立てかけていた魔杖を手に取り、モールは呪文を唱える。
「照らしな、『ライトボール』」
辺りが光球で照らされ、薄ぼんやりとだが把握できる。
「足跡、……もある。こっちか」
足跡をたどって数分もするうち、モールは湖の淵に座り込んでいるエリザを、難なく発見できた。
「何してるね?」
「『何してる』やないで、もう……」
不満たらたらと言いたげな声色で、エリザが背を向けたまま答える。
「先生、よだれだらーっとたらしとったで。おかげでアタシの耳、ぐっちょぐっちょやわ」
「アハハ……、そうだったか。ゴメンねぇ」
「落ちたからええけどさー」
水面から顔を挙げ、エリザは狐耳をぷるぷると震わせ、モールの方を向いた。
と――その顔に、ぎょっとした表情が浮かぶ。
「……先生! 後ろ!」
その言葉に、モールも振り返る。
そこには数日前モールが仕留めたものと同型の、六つ目の巨大な狼が立っていた。
「マジか」
ぼそっとそうつぶやいたモールに応じるように、狼が「グルル……」とうなる。
「まあいいや。ブッ飛ばしてやるね」
「大丈夫かいな?」
自分の背中にぴとっと張り付いてきたエリザの頭を、モールはぽんぽんと優しく叩く。
「私を誰だと思ってるね?」
「……大まほーつかい!」
「ふっふっふ、そーゆーコトさね」
モールは魔杖を掲げ、呪文を唱える。
「撃ち抜いてやるね! 『フォックスアロー』!」
紫色の光線が9つ、魔杖の先から飛び、尾を引いて六目狼へと飛んで行く。
が――六目狼はその場でぐるりと回り、尻尾で光線を弾く。
「んなっ……!?」
その光景に、モールは唖然となる。
「こりゃ予想外だね。そもそもケモノが弾くなんて行動を執るなんて思ってなかったし、そもそもあんな物理的に、払って弾けるようなものじゃ無いんだけども。
となるとあの尻尾、魔術耐性があるってコトか。ミスリル化でもしてんのかねぇ、どう見ても生き物なのに」
「何ゴチャゴチャ言うてんねんな! 来よるで!」
狼を分析しかけたところで、エリザが服の裾を引っ張る。
「おっとと、そうそう。考えるのは後にしないとね。……しゃーない、もっと大技かましてやるしか無いね」
迫る狼に、モールはもう一度魔杖を向ける。
「コレならどーだ、『ジャガーノート』!」
魔杖の先から、今度はばぢっと電撃的な音が響く。
次の瞬間、六目狼の体中から、ほとんど白に近い、超高温の真っ青な炎が噴き上がった。
「ギャ……」
六目狼が叫び声を挙げかけたが、それも途中で途切れ、バチバチと獣脂が燃え盛る音へと変わる。
「うわあ」
背後にいたエリザが、恐ろしげな声を上げる。
「……やりすぎたかねぇ?」
思わずそうつぶやいたモールに、エリザも無言で、こくこくとうなずいた。
と――モールはどこからか、焦げた臭いが漂ってくることに気付いた。
「ん……?」
六目狼から臭ってくるのかと思ったが、脂のようなねばつく刺激臭ではない。もっと乾いた、木材のような臭いである。
「先生! 先生て!」
エリザが慌てた様子で、モールの服をまた引っ張ってくる。
「どしたね?」
「つえ! つえ! つえ、もえとる!」
「へ?」
そう言われて、モールは自分が握っていた魔杖に目を向ける。
「……ありゃりゃ」
エリザが言う通り、魔杖はバチバチと火花を上げながら、先端におごられた水晶ごと燃え上がっていた。
「いくらなんでも負荷が強すぎたか。元々ピーキーな呪文の組み方してたし、そりゃオーバーロードもするってもんだね」
モールは半ば炭化した魔杖をぽい、と捨て、エリザに向き直る。
「ま、ソレはソレとして、どーにか倒せたね」
「良かったけど、……つえ、無くなってしもたな」
「あー、うん。ま、造ろうとしてたトコだし、無きゃ無いでどーにでもなるしね」
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モールはエリザの手を引き、自分たちが寝ていた場所へと戻った。
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