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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第2部

    琥珀暁・錬杖伝 5

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    神様たちの話、第48話。
    モールの鋳造講座。

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    5.
     モールがエリザの助けを借りつつ魔術を村人たちに教えている間に、ラボの方でも、モールたちが魔杖を造るのに必要な原料を集めてくれていた。
    「青銅が拳4塊分、水晶が2塊分、後はあんたが指定した赤黒い鉱石2塊分、……こんなもんでいいか?」
    「ああ、私らが持ってるのと合わせりゃ、いい魔杖が造れるね」
     ニコニコと笑みを浮かべながらそう返したモールに、ラボはけげんな表情を浮かべる。
    「どうやって造るんだ? 青銅は延ばせるが、その黒いのはただただ脆くって、どう叩いてもボロボロ砕けるばかりだし、全然……」「延ばす? ……あー、なるほど。まだそーゆー加工の仕方なんだね」
     モールの言葉に、ラボは首を傾げる。
    「どう言う意味だ?」
    「ま、……私が説明下手だってのはここ最近で良く分かったから――説明するより見せた方が早いだろうね」

     モールはラボと、彼と共に青銅器を造っている仲間数名とを集め、青銅と赤黒い鉱物、薪、箱状に固めた上で穴を穿った砂塊、そして石塊2つを前にして、話を始めた。
    「今まであんたらがやってきたのは、この青銅をそのまま叩いて延ばして、棒状にしたり平らにしたりってやり方だって、ラボの親分から聞いたけどもね。
     私に言わせりゃ、そのやり方はめんどくさいし、思うようなものもできないんだよね」
    「なにぃ?」
     モールの言葉に、ラボをはじめとして、男たちが憤る。
    「だったらあんたのやり方を見せてくれよ!」
    「そのつもりで呼んだんだっつの。ま、見てな」
     モールは石の塊に向かって呪文を唱える。
    「そら、『フォックスアロー』」
     紫の光線が石を削り、すり鉢状にする。
    「おぉ……、石があんな簡単に」
    「なるほど、そうやって削って……」「違う違う、ココはまだ本題じゃないね。あくまで準備さ」
     納得しかけた一同をさえぎり、モールは青銅の塊を一つ、石の中に置く。
    「この鉱物はある程度熱を加えると、ドロリと溶けるのさ」
     モールは石の下も魔術で掘り、そこへ薪を投げ込み、別の呪文を唱える。
    「燃えろ、『ファイアボール』」
     薪に火が点き、石全体を熱し始める。
    「溶けるって……」「石がか?」
     疑い深そうに様子を伺っている一同に、モールがこう続ける。
    「勿論、ちょっとくらい熱いって程度じゃ溶けないね。だから火に空気をガンガン送り込んで、もっと熱くする。ほれ、『フィンチブリーズ』」
     石の下に風が送られ、ごうごうと勢い良く炎が燃え上がる。
     やがて石の中に収まっていた青銅は、ドロドロと溶け始めた。
    「うわ、マジだ」「溶けてる」「熱っ」
    「触るなよ? 火傷じゃ済まないからね」
     そうこうするうち、青銅はすっかり液体状になり、石の中でグツグツと煮立っていた。
    「で、同じように削って柄を付けた、こっちの石ですくい取って、この固めた砂の、穴の中に注いで、冷めるまで放っておけば……」
     しばらく時間を置いてから、モールは砂を崩す。
    「コレで青銅の棒が完成、ってワケさ。そっちの赤黒いヤツ――鉄鉱石だって、同じようにして溶かせるね」
    「へぇ~……」
     その後、何度かモールが実演を繰り返し、一同は新たな加工方法を学んだ。

    「あの重たいだけでどうしようも無かった赤いやつも、溶かせばこんな硬いのになるんだなぁ」
     モールが鋳造した鉄棒を眺めながら、ラボがうっとりした声を上げる。
    「加工の仕方さえつかめば、青銅よりよっぽど使い勝手のいい素材さ。ってワケで」
     モールはラボが持ったままの鉄棒をトンと指で叩き、ウインクする。
    「この棒、もうちょい形を整えて、綺麗に研いといてね。魔杖の柄の部分にしたいからね」
    「おう、お安い御用だ。水晶も磨いとくか?」
    「ああ。真ん丸にカットして、柄の先にくっつけてほしい」
    「分かった」
    「後、ソレからね……」
     その後もあれこれと注文を付けつつ、モールは魔杖の製作をラボに任せた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    注釈。
    青銅(銅と錫の合金)は自然界においても産出されることが多いそうです。
    また、融点が1,000℃以下と、鉄の合金(1,200~1,700℃)よりも融かしやすく、
    木炭を焚いた程度の炉でも容易に融かせたため、
    鉄の加工法が確立されるまでは、主な金属原料として使われていました。
    かつ、展延性(延ばしやすさ)に優れ加工しやすかったこと、
    そして仕上がった際にとても綺麗な赤~褐色を呈していたことから、
    古代史においては生活基盤、神事、祭事、その他あらゆる場面において活躍していた金属でした。

    一方で鉄鉱石(鉄の原料)も産出量は多かったものの、
    前述の通り青銅より融点が高く、また、展延性も劣っていたため、
    なかなか実用化には至りませんでした。
    とは言え、実用化された後の有用性は、言わずもがな。
    鉄器確立以後にどれだけ文明が進んだかは、数多の歴史書が伝えています。

    ゼロが魔術を広めたのと同じくらい、モールが伝えたこの鋳造法は、
    世界史的にものすごく重要なことです。双月世界史があったら、確実にテストに出るレベル。
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