「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・錬杖伝 6
神様たちの話、第49話。
二つの魔杖。
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6.
ラボの村に逗留してから2ヶ月以上が過ぎ、モールは様々な技術を村に広めた。
そして、その結果――。
「モール! おい、モール! 聞いてくれよ!」
「ど、どうしたね、ラボの親分?」
ラボが心底嬉しそうな顔で、モールに報告する。
「あの六目狼、すぐそこまで来てやがったんだが、アドロたちが魔術と鉄の槍で、真正面から倒しちまったってさ!」
「へぇ? そりゃすごいね」
「ああ、すごいことだ! 今まであいつらに追い回されたり引っ掻き回されたりで、度々村を移したり坑道に逃げ込んだりしてきたが、これからはもう、そんなことしなくていいってことだ!」
満面の笑みを浮かべているラボを見て、モールは彼を諭す。
「ん、まあ、……でもさ、ヤバいヤツってコトにゃ変わりないんだし、危なくなったら逃げなよ?」
「あ、ああ。……そうだな、浮かれすぎた。いや、しかし本当、あんたのおかげだ」
「いいって、そんなの。私だって色々ご飯もらったり、杖造ってもらったりしてるんだから、お互い様さね。
とは言え、もうそろそろ潮時かねぇ」
モールの言葉に、ラボは一転、悲しそうな顔をする。
「村を出るつもりなのか?」
「ああ。元々この村にゃ、杖を造るつもりで立ち寄っただけだしね。ソレにさ」
モールは窓の向こうに見える、壁のように高くそびえ立つ北の山々を指差し、こう続けた。
「私は色々見て回りたいのさ。あの山の向こうとか、ね」
モールとエリザは旅支度を整え、ふたたび旅路に就いた。
「連れてきちゃったけども、良かったね?」
「何言うてんの」
心配するモールに、エリザはフン、と鼻を鳴らして答える。
「アタシは先生に色々教わるために、いっしょに来とるんやで? そら、ラボさんトコの村はいごこち良かったけど」
「そのつもりなら問題無いね。村を出る前も言ったと思うけど、次の目的地はアレだしね」
北の山を指差したモールに、エリザは首を傾げる。
「あの山登るん?」
「そうだよ」
「あの向こう、何も無いって聞いたで」
「誰からさ?」
「ラボさんの村の人とか、アタシんトコとか。みんな『山の向こうは何もない、無の世界だ』みたいなコト言うてた」
「ふーん。でもさ、エリザ」
モールはニヤニヤ笑いながら、こう尋ねる。
「そいつらの中に、実際に『向こう』を見てきたヤツがいたのかねぇ?」
「……いーひんと思う。みんな『無い』『見てくるだけムダ』って思とるやろし」
「そんなもんさ。実際に見もしないで勝手な想像ばっかりして、ありもしないモノをうわさしてるってだけさね。
いいかい、エリザ? 君はそーゆーヤツにならないようにね。自分の目で見もしないで、自分の耳で聞きもしないで、勝手な思い込みで話を創るようなヤツにはね」
「うん」
エリザがこくんとうなずいたところで――彼女は、顔をこわばらせた。
「先生」
「ん?」
「向こう見て」
言われるがまま、モールは道の先を眺める。
「……ありゃ。何かいるね」
「バケモノっぽいやんな?」
「だねぇ。村の東によくいた六目狼じゃなく、でかいトカゲみたいなのだけども」
モールはうなずきつつ、造ったばかりの魔杖を構える。
「早速コイツの威力を試してみるとするかね」
数十秒も経たないうち、そのトカゲがモールたちのところへと走り寄ってくる。
モールはニヤッと笑い、呪文を唱えた。
「この杖、耐えてくれるかねぇ? ほれ、『ジャガーノート』!」
ばぢっと音が響き、六目狼の時と同様に、トカゲが白い炎を噴き出しながら炎上する。
「ココまでは良し。で、杖の方は……」
魔杖を確認するが、どこにも異常は見られない。
「完璧だね。ラボの親分、いい仕事してくれたね」
「さすがやね。ラボさんだけやなくて、先生もやけど。
……なあ、先生」
「ん?」
エリザはモールの杖の、先端におごられた水晶を指差す。
「中、なんか入っとるよな?」
「ああ、針状のルチル(金紅石)か何かが入ってるみたいだね。普通に透明な水晶よか、いいデザインだね。いい感じにカットしてくれたから、星みたいに光って見えるし」
「思てたんやけどソレ、何て言うか、しっぽみたいやない?」
そう言われ、モールはしげしげと水晶を眺める。
「言われてみりゃ、そうも見えるね。九尾の尻尾って感じ。……そうだ、いいコト思い付いたね」
「ええコト?」
尋ねたエリザに、モールはニヤニヤと笑いながら答えた。
「コイツの名前さ。名付けて『ナインテール』。いい名前だと思わないね?」
「『ナインテール』、……うん、ええ感じやね。
あ、ソレやったら」
エリザも自分の魔杖を取り出し、モールに見せる。
「アタシのつえも、何かええ名前付けてーや」
「おう。……うーん、君の方の水晶は、なんか花って言うか、……そう、蓮みたいな感じだね。放射状に伸びてるのがソレっぽい」
「はす?」
「水の上に咲く花さ。この辺は水場が多いから、もしかしたらドコかで見られるかも知れないね。
ってワケで君の魔杖の名前、私のと揃えて――『ロータステイル』ってのはどうかね?」
「うん、ええよ。……えへへ」
突然エリザが笑い出し、モールはぎょっとする。
「どうしたね、いきなり?」
「ううん、何やちょっとうれしいなーと思て」
「何がさ?」
「先生から初めて、モノもろたし」
「あー、そう言やそうか。かれこれ3ヶ月近く一緒にいたってのに、贈り物はコレが最初だったっけね。
ま、コレからも何かしら機会があれば、プレゼントしたげるさね」
モールの言葉に、エリザはさらに嬉しそうな笑みを浮かべた。
「楽しみにしとるで」
「ふっふっふ……」
二人はじゃれ合いながら、北の山へと進んで行った。
琥珀暁・錬杖伝 終
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二つの魔杖。
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6.
ラボの村に逗留してから2ヶ月以上が過ぎ、モールは様々な技術を村に広めた。
そして、その結果――。
「モール! おい、モール! 聞いてくれよ!」
「ど、どうしたね、ラボの親分?」
ラボが心底嬉しそうな顔で、モールに報告する。
「あの六目狼、すぐそこまで来てやがったんだが、アドロたちが魔術と鉄の槍で、真正面から倒しちまったってさ!」
「へぇ? そりゃすごいね」
「ああ、すごいことだ! 今まであいつらに追い回されたり引っ掻き回されたりで、度々村を移したり坑道に逃げ込んだりしてきたが、これからはもう、そんなことしなくていいってことだ!」
満面の笑みを浮かべているラボを見て、モールは彼を諭す。
「ん、まあ、……でもさ、ヤバいヤツってコトにゃ変わりないんだし、危なくなったら逃げなよ?」
「あ、ああ。……そうだな、浮かれすぎた。いや、しかし本当、あんたのおかげだ」
「いいって、そんなの。私だって色々ご飯もらったり、杖造ってもらったりしてるんだから、お互い様さね。
とは言え、もうそろそろ潮時かねぇ」
モールの言葉に、ラボは一転、悲しそうな顔をする。
「村を出るつもりなのか?」
「ああ。元々この村にゃ、杖を造るつもりで立ち寄っただけだしね。ソレにさ」
モールは窓の向こうに見える、壁のように高くそびえ立つ北の山々を指差し、こう続けた。
「私は色々見て回りたいのさ。あの山の向こうとか、ね」
モールとエリザは旅支度を整え、ふたたび旅路に就いた。
「連れてきちゃったけども、良かったね?」
「何言うてんの」
心配するモールに、エリザはフン、と鼻を鳴らして答える。
「アタシは先生に色々教わるために、いっしょに来とるんやで? そら、ラボさんトコの村はいごこち良かったけど」
「そのつもりなら問題無いね。村を出る前も言ったと思うけど、次の目的地はアレだしね」
北の山を指差したモールに、エリザは首を傾げる。
「あの山登るん?」
「そうだよ」
「あの向こう、何も無いって聞いたで」
「誰からさ?」
「ラボさんの村の人とか、アタシんトコとか。みんな『山の向こうは何もない、無の世界だ』みたいなコト言うてた」
「ふーん。でもさ、エリザ」
モールはニヤニヤ笑いながら、こう尋ねる。
「そいつらの中に、実際に『向こう』を見てきたヤツがいたのかねぇ?」
「……いーひんと思う。みんな『無い』『見てくるだけムダ』って思とるやろし」
「そんなもんさ。実際に見もしないで勝手な想像ばっかりして、ありもしないモノをうわさしてるってだけさね。
いいかい、エリザ? 君はそーゆーヤツにならないようにね。自分の目で見もしないで、自分の耳で聞きもしないで、勝手な思い込みで話を創るようなヤツにはね」
「うん」
エリザがこくんとうなずいたところで――彼女は、顔をこわばらせた。
「先生」
「ん?」
「向こう見て」
言われるがまま、モールは道の先を眺める。
「……ありゃ。何かいるね」
「バケモノっぽいやんな?」
「だねぇ。村の東によくいた六目狼じゃなく、でかいトカゲみたいなのだけども」
モールはうなずきつつ、造ったばかりの魔杖を構える。
「早速コイツの威力を試してみるとするかね」
数十秒も経たないうち、そのトカゲがモールたちのところへと走り寄ってくる。
モールはニヤッと笑い、呪文を唱えた。
「この杖、耐えてくれるかねぇ? ほれ、『ジャガーノート』!」
ばぢっと音が響き、六目狼の時と同様に、トカゲが白い炎を噴き出しながら炎上する。
「ココまでは良し。で、杖の方は……」
魔杖を確認するが、どこにも異常は見られない。
「完璧だね。ラボの親分、いい仕事してくれたね」
「さすがやね。ラボさんだけやなくて、先生もやけど。
……なあ、先生」
「ん?」
エリザはモールの杖の、先端におごられた水晶を指差す。
「中、なんか入っとるよな?」
「ああ、針状のルチル(金紅石)か何かが入ってるみたいだね。普通に透明な水晶よか、いいデザインだね。いい感じにカットしてくれたから、星みたいに光って見えるし」
「思てたんやけどソレ、何て言うか、しっぽみたいやない?」
そう言われ、モールはしげしげと水晶を眺める。
「言われてみりゃ、そうも見えるね。九尾の尻尾って感じ。……そうだ、いいコト思い付いたね」
「ええコト?」
尋ねたエリザに、モールはニヤニヤと笑いながら答えた。
「コイツの名前さ。名付けて『ナインテール』。いい名前だと思わないね?」
「『ナインテール』、……うん、ええ感じやね。
あ、ソレやったら」
エリザも自分の魔杖を取り出し、モールに見せる。
「アタシのつえも、何かええ名前付けてーや」
「おう。……うーん、君の方の水晶は、なんか花って言うか、……そう、蓮みたいな感じだね。放射状に伸びてるのがソレっぽい」
「はす?」
「水の上に咲く花さ。この辺は水場が多いから、もしかしたらドコかで見られるかも知れないね。
ってワケで君の魔杖の名前、私のと揃えて――『ロータステイル』ってのはどうかね?」
「うん、ええよ。……えへへ」
突然エリザが笑い出し、モールはぎょっとする。
「どうしたね、いきなり?」
「ううん、何やちょっとうれしいなーと思て」
「何がさ?」
「先生から初めて、モノもろたし」
「あー、そう言やそうか。かれこれ3ヶ月近く一緒にいたってのに、贈り物はコレが最初だったっけね。
ま、コレからも何かしら機会があれば、プレゼントしたげるさね」
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