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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第2部

    琥珀暁・鳳凰伝 4

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    神様たちの話、第53話。
    遺跡の修行。

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    4.
     エリザが遠くから眺めていただけでは分からなかったが、確かにその窪地には、人が出入りできる程度の洞窟が、隠されているかのように存在した。
    「さてと」
     洞窟に入って間も無く、二人は岩壁に突き当たる。
     そこでモールが何か唱え、壁をトントンと叩くと、壁にすうっと、扉が現れた。
    「ココは秘密の場所だからね。後で扉の開け方は教えたげるけど、誰にも言わないようにね」
    「うん」
     扉を抜けて奥へ進み、遺跡のような場所へたどり着く。
    「ココが私とゼロ、鳳凰が暮らしてたトコさ。……残念ながら二人ともいないっぽいけどね」
     モールの言う通り、確かにあちこちに、人が生活していた痕跡が残っている。
    「ともかく今日のところは、ご飯食えて寝られるように、掃除からだね」
    「はーい」
     二人で遺跡の中を掃除し、洞窟周辺の野草や果物を採り、食事の準備をする。
    「……んー」
     その途中、モールが残念そうにうなった。
    「死んだかも分からんね、二人とも」
    「え?」
     ぎょっとするエリザに、モールは首を横に、短く振る。
    「少なくとも半年か一年か、この辺りで生活してた形跡が無いんだよね。通路にまで埃(ほこり)が溜まりまくってるし、野草は採り放題だったし。
     まあ、この辺りにいないだけで、私と同じようにどっかの村をぶらついてるって可能性も十分あるけども、少なくとも二人が、ココに帰って来た様子は無いんだよね」
    「……残念?」
     尋ねたエリザに、モールは寂しそうな笑みを返した。
    「まあ、ね」



     それからエリザたちは、遺跡で暮らし始めた。
     遺跡の中に残っていた本や、魔法陣が刻まれた板を使い、エリザは魔術の修行に明け暮れた。
     モールがにらんでいた通り、エリザの魔術に関する資質と学習意欲、そして知能は並外れており、この遺跡で何年も暮らすうち、彼女はすっかり、師のモールと遜色ない程の技術を身に着けていた。
     それだけに留まらず――。
    「先生、こんなん思い付いたんやけどな」
     エリザはモールから学んだ内容を応用・洗練し、自ら魔術を開発・研究するまでに至っていた。
    「ふむ、……ふむ、へぇ?」
     その研究内容は、最早モールが教える、導くと言う次元を超えており、それどころか彼も舌を巻く程の完成度に仕上がっていた。
    「こりゃ考え付かなかったね。なるほど、この方法なら昔やっちゃったみたく、杖を燃やさずに済むかも知れないね」
    「せやろ? あんなんポコポコ起きたら、めっちゃ危ないし」
    「ただ残念ながら、コレを実現させるにゃ設備が無いね。『麓』で実用化するにゃ、100年か200年はかかるだろうね。
     まったくエリザ、理論だけなら君はもう、3世紀は未来に行っちゃってるね。こりゃ長生きしないと世界の損失ってヤツさね」
    「ほめすぎやって、もぉ」
     顔を赤らめるエリザの頭を、モールは昔からそうしてきたように、ぽんぽんと優しく撫でた。
    「ほめすぎなもんか。えらいえらい」
    「……」
     が、エリザは何故か、不満そうな、そして残念そうな顔をしている。
    「どしたね? 子供扱いすんなって?」
    「……ちゃう」
     エリザはモールの手をひょい、と除け、ぷいっと背を向ける。
    「ちょっと、外行ってくる。おゆはんまでには戻るし」
    「あ、うん」

     遺跡の外に出たエリザは、モールに撫でられた頭を、自分でも撫でてみる。
    「……そらな、子供扱いすんなっちゅうのんは、思てへんコト無いけどな。でも、……せやないねん」
     ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、エリザは遺跡の周りをぐるっと回る。
    「アタシ、初めて会うた時より背ぇ高こなってるし、……そらまだちょこっとやけど……、ムネもふくらんできとるのに」
     自分の胸に手を当て、エリザは唇を尖らせる。
    「……先生、アタシのコト、いつまでもコドモやって思てるんかなぁ」
    「そう? 見た感じ、十分可愛いと思うけど」
     と、突然声をかけられる。
    「ふあっ!?」
     自分の独り言を師匠に聞かれたかと思い、エリザは顔を真っ赤にし、耳と尻尾を毛羽立たせて叫ぶ。
    「ちょ、ま、先生、今の聞いて、……ん?」
     が、そこにいたのはモールではなく、見たことの無いような奇妙な耳を持った青年だった。
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