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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第2部

    琥珀暁・鳳凰伝 7

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    神様たちの話、第56話。
    鳳凰との別れ。

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    7.
    「無事って、どう言うコトなん?」
     尋ねたエリザに、鳳凰はあっけらかんとした口調で答える。
    「この数年、めっちゃくちゃ襲われまくってるらしいよ。ほら、あの変な……、動物っぽいけど普通の動物じゃ絶対無い、アレ」
    「……バケモノ」
     思わずそう返したエリザに、鳳凰は「あー、そう言う感じ」とうなずく。
    「君、どの辺りを回ってたね?」
     今度はモールが尋ね、これにも鳳凰はさらりと答える。
    「結構ぐるっと。知ってる? 南東の方へずーっと行った辺りにも……」「そんなんどうでもええねん!」
     立ち上がり、怒鳴ったエリザに、モールがぺちっと頭を叩く。
    「落ち着けってね、エリザ」
    「……ええ、はい」
     モールに諭され、エリザが座り直したところで、依然として飄々とした態度のまま、鳳凰が尋ね返す。
    「あー、と。何を聞きたいの、二人は?」
    「この山の麓沿いに何個か村があったはずだけども、ソコも襲われたの?」
    「っぽいよ」
    「……先生」
     エリザはぎゅっと、モールの服の裾を引く。
    「その……、いっぺん、帰ってみいひん?」
    「君が帰りたいってんなら、いつでも帰るさ」
     モールはにこっと笑いかけ、エリザの頭を撫でる。
     その様子を眺めていた鳳凰が、くすっと笑う。
    「エリザのコトお気に入りなんだねぇ、モール」
    「そりゃあね」
    「恋人にはどうなの?」
     先刻のエリザの様子から思いを汲んでくれたのか、鳳凰がそんなことを聞く。
     しかしモールの反応は、エリザのそんな期待を、はっきりと裏切るようなものだった。
    「アホか。んなコト思うワケないじゃないね」
    「……っ」
     この返答にエリザは顔をひきつらせて絶句し、鳳凰は苦い顔をする。
    「あーあ、言い切っちゃったか」
    「なんだよ?」
     モールが鳳凰をにらみつけるが、鳳凰は意に介した様子もなく、けろっとした様子で返す。
    「あのさ、エリザはキミのコト好きなんだってさ」「ちょおっ!?」
     あまりにも単刀直入に暴露され、エリザは顔を真っ赤にする。
    「なんで言うねんアホおおおッ!」
    「言わなきゃ何にも変わんないよ? その上、相手はモールだし」
    「私だったら何だって言うのさ?」
     師弟に揃ってにらまれ、流石の鳳凰もたじろぐ。
    「あー、と、……この話は無かったコトにしとく? なんか続けたらこじれそうだし」
    「もうこじれとるわボケぇ!」
     次の瞬間、エリザは鳳凰のほおを、べちっと平手打ちしていた。
    「いたいよ」
    「うーっ、うーっ、……ひっく、ひっく」
     怒りをにじませていたエリザの目から、ボタボタと涙がこぼれる。
     それを見て、モールがぱん、ぱんと手を打った。
    「分かった、鳳凰の案に賛成。この話は無し。
     いずれちゃんと答えるから、今はともかく、私に告白だとかどう思ってるかだとか、そう言う話はやめよう。私にも、考えをまとめる時間がほしいしね。
     ね、エリザ。いいかね、ソレで?」
    「……う~……」
     外に飛び出し、何かを叫び回りたいような気持ちだったが、エリザはその爆発しそうな思いをぐっとこらえ、小さくうなずいた。
    「……分かった。とりあえず今考えるんは、南の話やな。
     明日にでもすぐ行こうな、先生?」
    「ああ、その話は大賛成だね。
     鳳凰はどうするね? 一緒に来る?」
    「ボクはパス」
     鳳凰は首を横に振り、薄い笑みを浮かべた。
    「この新世界で『何か目的を持って行動』って言うのは今、したくないんだ。もうしばらく、ボクは傍観者でいるつもりだから」
    「そうかい。んじゃ、勝手にしな」
     モールは悪態を付き、そしてこう続けた。
    「何でだろうね――何かコレでもう、キミと会うコトは無いなって気がするね」
    「ボクも同感だよ。少なくともあと1000年くらいは、再会の機会は無さそうだ」
    「……だのに、コレでお別れするっての?」
    「うん。コレで一旦、お別れだよ。でもいつか、また会おう」
    「ヘッ、ド変人め」
     そう言って、モールは手を差し出した。
    「約束しろ、鳳凰。絶対、いつか必ず、お互い生きてるうちに会おうってね」
    「いいよ。そんな約束、いくらでもするよ。キミが相手ならね」
     鳳凰も手を伸ばし、がっちりと握手した。



     翌日、エリザとモールは鳳凰に見送られながら、遺跡を後にした。

    琥珀暁・鳳凰伝 終
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