「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・群獣伝 1
神様たちの話、第57話。
猛進と思索。
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1.
「邪魔すんなボケぇ!」
彼女の一喝とともに放たれた火球が、たてがみの一つ一つが蛇となった異形の牛に直撃し、そのまま腹に食い込む。
「グバッ……」
鳴き声とも体内での炸裂音ともとれる音が蛇頭牛の口から漏れ、続いて大量の血が、噴水のように飛び出してくる。
「……すっげ」
一切手を出さず眺めていたモールが、目を丸くして驚いている。
「君、マジで私より強くなったんじゃないね? ……や、手合わせなんぞしようなんて、コレっぽっちも思わないけどね」
「アタシは相手にでけへん、ってコト?」
エリザに魔杖を向けつつにらまれ、モールは苦い顔を返す。
「そうじゃなくて、……なんかさ、エリザ?」
「なんやの?」
「鳳凰と別れてから君さ、なんか私に対してトゲトゲしくないね?」
「そんなつもりありません」
「今だってそうだろ……」
モールは一層苦い顔をしつつ、腫れ物を扱うかのような口ぶりで尋ねてくる。
「もしかしてだけどもさ、やっぱ君、鳳凰が言ったあの話ね、何て言うか、……根に持ってたりなんかするワケ?」
「その話やめるって言うたんは先生やろ? 話するん? 今、ココで?」
「……だーかーらーさぁ」
モールは額に手を当て、うめくように答える。
「もうちょいね、じっくり話せるような時間を作りたいんだよ、私としてはね。でも今、そんなヒマを君は作りたいね?」
「……そらまあ、今は急いでラボさんトコに行きたいで」
エリザも口をとがらせつつ、話に応じる。
「でもアタシの気持ち分かってはる上で、どっちとも付かへんような態度取られてひょーひょーと会話されるんも、ソレはソレでイライラするねんや」
「じゃあどうしたらいいね?」
「そんなんアタシに聞かんといてもらえます?」
エリザはぷい、と背を向け、歩き出す。
「話を進めへんのやったら、もうしゃべらんといてもろてええ? 早よ行くで」
「……分かったよ。……まったくもう、この弟子と来たら」
一人でぐいぐいと進んでいくエリザを、モールは渋々と言った様子で追って行った。
何か話をしようとしてもほとんど邪険にされるため、山を降りるまでの間、モールは自分からしゃべろうとはせず、黙々と自分の考えをまとめていた。
(さっきの蛇頭牛、どう考えても山に登る前に出くわしたバケモノたちより、段違いに強いね。
ソレをあっけなく退けたエリザの腕については、無論、賞賛する以外の評価はまったく無いんだけども――そもそも、何であんなバケモノが出てきたね? 山に登る前にはあんなの、一度も遭遇しなかったってのにね。
何て言うかコレって、まるでテレビゲームのステージ攻略みたいに、強いのを倒したら次にもっと強いのが出てきた、……みたいな、ああ言うノリを感じるね。
とすると、ふもとで私が鉄器や青銅器の鋳造方法を教えたのが、そのノリの引き金になったのか? コレまで出現したバケモノが鉄器で駆逐されちゃったから、もっと強いのが出て来たってコトか?
微生物学や長期的な生物学の観点なら、ソレは有り得る話だ。古来より猛威を奮っていたウイルスが、ペニシリンみたいな抗生物質の出現で一掃された。でも生き残った一部のウイルスがペニシリンを克服して耐性を持ち、ふたたび脅威を奮い始める。ソコでメチシリンが新たにペニシリン耐性ウイルスを駆逐、そしたらメチシリン耐性ウイルスが出現、……なんて言ういたちごっこなんかは、あまりにも有名な話だしね。
でもこの場合、そんな話とはスケールが違いすぎる。数年単位で生物がソコまで進化・強化されるなんてコトは有り得ない! あまつさえ、魔術や鉄器に耐性を持つ生物だって? んなバカな、だね!
そう、自然淘汰と言う観点においては、ソレはまったくありえない話だ。とするならコレには、少なからず人為的な操作が加えられていると見ていいと、私は思うね。
もしソレが事実だとするならば――一体ドコのクソ野郎だ? 人を人だと扱わない、こんなえげつないコトを画策するようなのは)
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猛進と思索。
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1.
「邪魔すんなボケぇ!」
彼女の一喝とともに放たれた火球が、たてがみの一つ一つが蛇となった異形の牛に直撃し、そのまま腹に食い込む。
「グバッ……」
鳴き声とも体内での炸裂音ともとれる音が蛇頭牛の口から漏れ、続いて大量の血が、噴水のように飛び出してくる。
「……すっげ」
一切手を出さず眺めていたモールが、目を丸くして驚いている。
「君、マジで私より強くなったんじゃないね? ……や、手合わせなんぞしようなんて、コレっぽっちも思わないけどね」
「アタシは相手にでけへん、ってコト?」
エリザに魔杖を向けつつにらまれ、モールは苦い顔を返す。
「そうじゃなくて、……なんかさ、エリザ?」
「なんやの?」
「鳳凰と別れてから君さ、なんか私に対してトゲトゲしくないね?」
「そんなつもりありません」
「今だってそうだろ……」
モールは一層苦い顔をしつつ、腫れ物を扱うかのような口ぶりで尋ねてくる。
「もしかしてだけどもさ、やっぱ君、鳳凰が言ったあの話ね、何て言うか、……根に持ってたりなんかするワケ?」
「その話やめるって言うたんは先生やろ? 話するん? 今、ココで?」
「……だーかーらーさぁ」
モールは額に手を当て、うめくように答える。
「もうちょいね、じっくり話せるような時間を作りたいんだよ、私としてはね。でも今、そんなヒマを君は作りたいね?」
「……そらまあ、今は急いでラボさんトコに行きたいで」
エリザも口をとがらせつつ、話に応じる。
「でもアタシの気持ち分かってはる上で、どっちとも付かへんような態度取られてひょーひょーと会話されるんも、ソレはソレでイライラするねんや」
「じゃあどうしたらいいね?」
「そんなんアタシに聞かんといてもらえます?」
エリザはぷい、と背を向け、歩き出す。
「話を進めへんのやったら、もうしゃべらんといてもろてええ? 早よ行くで」
「……分かったよ。……まったくもう、この弟子と来たら」
一人でぐいぐいと進んでいくエリザを、モールは渋々と言った様子で追って行った。
何か話をしようとしてもほとんど邪険にされるため、山を降りるまでの間、モールは自分からしゃべろうとはせず、黙々と自分の考えをまとめていた。
(さっきの蛇頭牛、どう考えても山に登る前に出くわしたバケモノたちより、段違いに強いね。
ソレをあっけなく退けたエリザの腕については、無論、賞賛する以外の評価はまったく無いんだけども――そもそも、何であんなバケモノが出てきたね? 山に登る前にはあんなの、一度も遭遇しなかったってのにね。
何て言うかコレって、まるでテレビゲームのステージ攻略みたいに、強いのを倒したら次にもっと強いのが出てきた、……みたいな、ああ言うノリを感じるね。
とすると、ふもとで私が鉄器や青銅器の鋳造方法を教えたのが、そのノリの引き金になったのか? コレまで出現したバケモノが鉄器で駆逐されちゃったから、もっと強いのが出て来たってコトか?
微生物学や長期的な生物学の観点なら、ソレは有り得る話だ。古来より猛威を奮っていたウイルスが、ペニシリンみたいな抗生物質の出現で一掃された。でも生き残った一部のウイルスがペニシリンを克服して耐性を持ち、ふたたび脅威を奮い始める。ソコでメチシリンが新たにペニシリン耐性ウイルスを駆逐、そしたらメチシリン耐性ウイルスが出現、……なんて言ういたちごっこなんかは、あまりにも有名な話だしね。
でもこの場合、そんな話とはスケールが違いすぎる。数年単位で生物がソコまで進化・強化されるなんてコトは有り得ない! あまつさえ、魔術や鉄器に耐性を持つ生物だって? んなバカな、だね!
そう、自然淘汰と言う観点においては、ソレはまったくありえない話だ。とするならコレには、少なからず人為的な操作が加えられていると見ていいと、私は思うね。
もしソレが事実だとするならば――一体ドコのクソ野郎だ? 人を人だと扱わない、こんなえげつないコトを画策するようなのは)
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今日の旅岡さん

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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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NoTitle
>人を人とも扱わない野郎
えーと、わたしも詳しくは知りませんが、「黄輪」さんという人らしいと……(笑)
えーと、わたしも詳しくは知りませんが、「黄輪」さんという人らしいと……(笑)
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NoTitle
冗談はさておき……。
まあ、双月世界においてここまでひどいことをするようなのは、
あまりいません。
あの人くらいです。