「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・群獣伝 3
神様たちの話、第59話。
襲撃の名残。
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3.
ラボの村に到着するまでに、エリザたちは何度もバケモノに遭遇したが、その都度協力し合い、または競い合って、それらバケモノをすべて撃退した。
「そうか……うん……そりゃあいい」
二人の武勇伝を聞いたラボは、床に就いたまま、力無い笑みを浮かべた。
その体はあちこちに傷が付き、さらには右脚の膝から下が断たれている。シーツは半ば赤く染まっており、覆い隠された部分にもひどい怪我が残っていることを、雄弁に語っていた。
「ラボさん……」
この悲惨な姿を目にし、エリザは涙ぐんでいた。
その顔を見たラボが、もう一度笑う。
「ああ、いや、エリちゃん、……はは、何てこと無いさ、こんなもん。杖があれば歩くのに不自由しないし」
「そんなん言うたかて……」
「大丈夫だって、エリちゃん。他のケガだって何日か寝てりゃ、そのうち治っちまうさ。
だからさ、……ああ、えーと、そうだ。ともかく二人とも、今日はウチで休んで行きな。山に登った話、詳しく聞かせてくれよ。どんなトコだったのか、俺もみんなも知りたがってるんだから、な」
話題を変え、明るく振る舞うラボに、エリザはそれ以上何も言えず、こくんとうなずくことしかできなかった。
とは言え、ラボを始めとする村の皆が「壁の山」について少なからず興味を抱いていたのは確かだったらしく、夕食時には、動ける村人のほとんどがラボの家に集まり、エリザたちの話に聞き入っていた。
「……ちゅうワケで、ずーっと修行ばっかりしとったんよ」
モールから遺跡と鳳凰についての話をしないよう、事前に釘を刺されていたため、それに関係する部分を省いての話ではあったが、それでも連日の襲撃で心身共に疲弊しきっていた村人たちには相当に不可思議で、心躍る話だったらしい。
「ってことはエリちゃん、かなり強くなったのか?」
「うん、すっごい術も色々使えるようになったで」
「いいねぇ。今度バケモノが来たら、追い返すのに協力してくれよ」
「ええで。ソレどころかな、仕留めたるで」
「はっは、そりゃ楽しみだ」
エリザを中心として、村人たちの輪ができてきたところで、モールはその輪から離れ、家の外に出た。
(やーれやれ、あのアホ弟子め。調子乗ってんじゃないっつの。君が考え無しに高威力の魔術ブッ放して、もしソレへの『免疫』がバケモノ共にできたらどうすんだってね。
そう、私が考えなきゃいけないのはソコだね。このまんま、襲ってくるバケモノを手当たり次第に叩きのめしてりゃ、襲撃は止まるのか? ソレとも私らの戦いぶりに対応して、より強力なバケモノが出現するのか? その点がハッキリしないまま無闇に戦うのは、非常に危険だからね。
もし事実が後者だったなら、いずれ最悪な状況に陥るコトは明白だ。そう、『大魔法使いとその一番弟子ですら敵わない超バケモノが出現』なんてコトになれば、もう誰も、バケモノを倒せなくなるね。
……確か鳳凰、ゼロが北にいるって言ってたっけね。話の感じからして、北にもバケモノが出てるらしいし、となりゃ世話焼きのゼロのコトだから、バケモノ退治に乗り出してるはずだ。その上で――アイツも私と同じくらい頭脳明晰なヤツだから――私が今考えてたように、『免疫』のコトも想定してないはずが無いね。
こっちの用事が一段落したら、ゼロに会いに行ってみるかね。私らが知らない何らかの事実を、アイツがつかんでるかも知れないし)
と、モールは背後に気配を感じ、振り向く。
「よお」
ラボが杖を手に、よたよたと近付いてきていた。
「大丈夫かね、ラボ? そんな体で歩いて」
「寝たきりの方が疲れる。仕事するなり何なり体動かしてる方が、気が休まるもんでな」
「職人気質だねぇ」
モールは近くに転がっていた石を魔杖でこつんと叩き、魔術で形を整える。
「ほれ、座りな」
「おう、済まんな。……よい、しょっと」
座り込んだところで、ラボが尋ねてくる。
「モール、アンタとエリちゃんが帰ってきてくれたことについては、本当に嬉しい。良く生きて帰ってきてくれたって、心から思ってる。
だけどずっとここにいるわけじゃないだろ?」
「そのつもりだね。……何が言いたいね?」
尋ね返したモールに、ラボは表情を曇らせた。
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襲撃の名残。
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ラボの村に到着するまでに、エリザたちは何度もバケモノに遭遇したが、その都度協力し合い、または競い合って、それらバケモノをすべて撃退した。
「そうか……うん……そりゃあいい」
二人の武勇伝を聞いたラボは、床に就いたまま、力無い笑みを浮かべた。
その体はあちこちに傷が付き、さらには右脚の膝から下が断たれている。シーツは半ば赤く染まっており、覆い隠された部分にもひどい怪我が残っていることを、雄弁に語っていた。
「ラボさん……」
この悲惨な姿を目にし、エリザは涙ぐんでいた。
その顔を見たラボが、もう一度笑う。
「ああ、いや、エリちゃん、……はは、何てこと無いさ、こんなもん。杖があれば歩くのに不自由しないし」
「そんなん言うたかて……」
「大丈夫だって、エリちゃん。他のケガだって何日か寝てりゃ、そのうち治っちまうさ。
だからさ、……ああ、えーと、そうだ。ともかく二人とも、今日はウチで休んで行きな。山に登った話、詳しく聞かせてくれよ。どんなトコだったのか、俺もみんなも知りたがってるんだから、な」
話題を変え、明るく振る舞うラボに、エリザはそれ以上何も言えず、こくんとうなずくことしかできなかった。
とは言え、ラボを始めとする村の皆が「壁の山」について少なからず興味を抱いていたのは確かだったらしく、夕食時には、動ける村人のほとんどがラボの家に集まり、エリザたちの話に聞き入っていた。
「……ちゅうワケで、ずーっと修行ばっかりしとったんよ」
モールから遺跡と鳳凰についての話をしないよう、事前に釘を刺されていたため、それに関係する部分を省いての話ではあったが、それでも連日の襲撃で心身共に疲弊しきっていた村人たちには相当に不可思議で、心躍る話だったらしい。
「ってことはエリちゃん、かなり強くなったのか?」
「うん、すっごい術も色々使えるようになったで」
「いいねぇ。今度バケモノが来たら、追い返すのに協力してくれよ」
「ええで。ソレどころかな、仕留めたるで」
「はっは、そりゃ楽しみだ」
エリザを中心として、村人たちの輪ができてきたところで、モールはその輪から離れ、家の外に出た。
(やーれやれ、あのアホ弟子め。調子乗ってんじゃないっつの。君が考え無しに高威力の魔術ブッ放して、もしソレへの『免疫』がバケモノ共にできたらどうすんだってね。
そう、私が考えなきゃいけないのはソコだね。このまんま、襲ってくるバケモノを手当たり次第に叩きのめしてりゃ、襲撃は止まるのか? ソレとも私らの戦いぶりに対応して、より強力なバケモノが出現するのか? その点がハッキリしないまま無闇に戦うのは、非常に危険だからね。
もし事実が後者だったなら、いずれ最悪な状況に陥るコトは明白だ。そう、『大魔法使いとその一番弟子ですら敵わない超バケモノが出現』なんてコトになれば、もう誰も、バケモノを倒せなくなるね。
……確か鳳凰、ゼロが北にいるって言ってたっけね。話の感じからして、北にもバケモノが出てるらしいし、となりゃ世話焼きのゼロのコトだから、バケモノ退治に乗り出してるはずだ。その上で――アイツも私と同じくらい頭脳明晰なヤツだから――私が今考えてたように、『免疫』のコトも想定してないはずが無いね。
こっちの用事が一段落したら、ゼロに会いに行ってみるかね。私らが知らない何らかの事実を、アイツがつかんでるかも知れないし)
と、モールは背後に気配を感じ、振り向く。
「よお」
ラボが杖を手に、よたよたと近付いてきていた。
「大丈夫かね、ラボ? そんな体で歩いて」
「寝たきりの方が疲れる。仕事するなり何なり体動かしてる方が、気が休まるもんでな」
「職人気質だねぇ」
モールは近くに転がっていた石を魔杖でこつんと叩き、魔術で形を整える。
「ほれ、座りな」
「おう、済まんな。……よい、しょっと」
座り込んだところで、ラボが尋ねてくる。
「モール、アンタとエリちゃんが帰ってきてくれたことについては、本当に嬉しい。良く生きて帰ってきてくれたって、心から思ってる。
だけどずっとここにいるわけじゃないだろ?」
「そのつもりだね。……何が言いたいね?」
尋ね返したモールに、ラボは表情を曇らせた。
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