「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・群獣伝 4
神様たちの話、第60話。
山の向こうへ。
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4.
ラボは一瞬、家の中にチラ、と視線を向け、苦い顔のまま話し始めた。
「今、中ではエリちゃんがバケモノ退治したるでーって息巻いてて、村の連中もそれを応援してる。正直、被害が大きくなり始めてる今、助けが来てくれたのには感謝してる。
だがバケモノ共の襲撃は、いつまで続くか分からん。もしかしたらずっと続くかも知れん。その間ずっと、エリちゃんやアンタをここに縛り付けるってのは、どうもな……、って思ってな」
「なるほどね。確かにソレは、私も懸念してた」
うなずきつつ、モールはもう一つ椅子を作り、ラボの横に座る。
「一番は、襲撃が短期間で終わり、私らが早々にお役御免になるコトだ。だけどもココ数年襲われっぱなしって聞いたし、都合よく襲撃が止んでくれるとは思えない。
だから二番めとしては、君らが今後も余裕で撃退できるだけの力を付けるコトだと思うね」
モールの言葉に、ラボは苦い顔をする。
「それも現実的とは言えんだろう。
今だって、俺たちは全力なんだからな。ソレで襲撃をギリギリ食い止めてるってのが現状だ。もう一段強いのが出たりなんかしたら、マジで対抗できなくなる」
「ああ、分かってるね。とは言え――理想論だってのは百も承知だけども――ソレが最上の策だってコトは、間違い無いだろ?」
「確かにな」
うなずいたまま、顔を挙げないラボに、モールはこう続けた。
「ともかく今度襲撃された時、私が状況を見定めようと思ってるね」
「……って言うと?」
「襲ってくるヤツらが、現状で最強に強いのか? ソレともまだ上のヤツが残ってるのか? ソコがハッキリしなきゃ、今後の対応もままならないからね。
前者なら、そんなに話は難しく無いね。私らが気張って倒しゃ、ソレで近い内に終わりが来る。だが後者だったら、悪い可能性が色々と出て来るね」
「例えば?」
顔を挙げたラボに、モールは杖をくい、くいと上に上げながら説明する。
「今より強いヤツが残ってる、……とすれば、ソイツを倒したら更に強いヤツが出て来るかも、って考えられるだろ」
「なるほど」
「更に言えば、もっともっと強いのがいるかも知れない。そう考えていくと、バケモノ全体の規模はかなり大きいかも知れない。
となったら、私とエリザがいても対応しきれないって可能性が出て来るね」
「むう……」
一層表情を曇らせたラボに、モールは更にこう続けた。
「だから後者である可能性が高そうだと判断した場合、私は応援を呼ぼうかと考えてるんだ」
「応援だって?」
「さっきもエリザがチラっと話してたけど、山の向こうにゃ別の平地があるんだ。聞くところによれば、ソコに私の親友がいる。ソイツに力を借りようと思ってるんだ」
「へえ……」
これを聞いて、ようやくラボの顔に、希望と安堵の色が浮かんだ。
と――。
「……!」
ラボが狼耳をピク、と動かし、立ち上がろうとする。
「うぐ、いてて、て……」
「どうしたね?」
モールが助けつつ、ラボを立たせる。
「鐘だ! 鐘の音が……」
言われてモールも、遠くでカンカンと、鐘が鳴っていることに気付く。
「……襲撃かね?」
「ああ、そうだ!」
鐘の音を聞き付けたらしく、家の中からぞろぞろと、村人が現れる。
「親分! 鐘が……」
「ああ、北の方だ!」
「俺たちが行きます! 親分はここにいて下さい!」
「……分かった! 頼んだぞ!」
「はいっ!」
村人たちが武器を手に、バタバタと北へ向かって走り出す。
と、その後ろを、エリザが魔杖を持って付いて行くのを見て、モールが声をかけた。
「エリザ!」
エリザは立ち止まり、苛立たしげにくるっと振り向く。
「何やの!?」
「私は周囲を見回る。他にいたらヤバいからね。だから君一人で、何とかしな」
「え……」
モールの言葉に、エリザは不安そうな表情を浮かべる。
「『できない』って? 私ゃそうは思わないね」
それを受けて、モールはニヤっと笑って返す。
「君ならできる。できないはずが無いね」
「……わ、かりました」
エリザは深くうなずき、表情をキッとこわばらせた。
「行ってきます!」
「ああ、頑張りな」
エリザはもう一度踵を返し、そのまま走り去った。
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山の向こうへ。
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ラボは一瞬、家の中にチラ、と視線を向け、苦い顔のまま話し始めた。
「今、中ではエリちゃんがバケモノ退治したるでーって息巻いてて、村の連中もそれを応援してる。正直、被害が大きくなり始めてる今、助けが来てくれたのには感謝してる。
だがバケモノ共の襲撃は、いつまで続くか分からん。もしかしたらずっと続くかも知れん。その間ずっと、エリちゃんやアンタをここに縛り付けるってのは、どうもな……、って思ってな」
「なるほどね。確かにソレは、私も懸念してた」
うなずきつつ、モールはもう一つ椅子を作り、ラボの横に座る。
「一番は、襲撃が短期間で終わり、私らが早々にお役御免になるコトだ。だけどもココ数年襲われっぱなしって聞いたし、都合よく襲撃が止んでくれるとは思えない。
だから二番めとしては、君らが今後も余裕で撃退できるだけの力を付けるコトだと思うね」
モールの言葉に、ラボは苦い顔をする。
「それも現実的とは言えんだろう。
今だって、俺たちは全力なんだからな。ソレで襲撃をギリギリ食い止めてるってのが現状だ。もう一段強いのが出たりなんかしたら、マジで対抗できなくなる」
「ああ、分かってるね。とは言え――理想論だってのは百も承知だけども――ソレが最上の策だってコトは、間違い無いだろ?」
「確かにな」
うなずいたまま、顔を挙げないラボに、モールはこう続けた。
「ともかく今度襲撃された時、私が状況を見定めようと思ってるね」
「……って言うと?」
「襲ってくるヤツらが、現状で最強に強いのか? ソレともまだ上のヤツが残ってるのか? ソコがハッキリしなきゃ、今後の対応もままならないからね。
前者なら、そんなに話は難しく無いね。私らが気張って倒しゃ、ソレで近い内に終わりが来る。だが後者だったら、悪い可能性が色々と出て来るね」
「例えば?」
顔を挙げたラボに、モールは杖をくい、くいと上に上げながら説明する。
「今より強いヤツが残ってる、……とすれば、ソイツを倒したら更に強いヤツが出て来るかも、って考えられるだろ」
「なるほど」
「更に言えば、もっともっと強いのがいるかも知れない。そう考えていくと、バケモノ全体の規模はかなり大きいかも知れない。
となったら、私とエリザがいても対応しきれないって可能性が出て来るね」
「むう……」
一層表情を曇らせたラボに、モールは更にこう続けた。
「だから後者である可能性が高そうだと判断した場合、私は応援を呼ぼうかと考えてるんだ」
「応援だって?」
「さっきもエリザがチラっと話してたけど、山の向こうにゃ別の平地があるんだ。聞くところによれば、ソコに私の親友がいる。ソイツに力を借りようと思ってるんだ」
「へえ……」
これを聞いて、ようやくラボの顔に、希望と安堵の色が浮かんだ。
と――。
「……!」
ラボが狼耳をピク、と動かし、立ち上がろうとする。
「うぐ、いてて、て……」
「どうしたね?」
モールが助けつつ、ラボを立たせる。
「鐘だ! 鐘の音が……」
言われてモールも、遠くでカンカンと、鐘が鳴っていることに気付く。
「……襲撃かね?」
「ああ、そうだ!」
鐘の音を聞き付けたらしく、家の中からぞろぞろと、村人が現れる。
「親分! 鐘が……」
「ああ、北の方だ!」
「俺たちが行きます! 親分はここにいて下さい!」
「……分かった! 頼んだぞ!」
「はいっ!」
村人たちが武器を手に、バタバタと北へ向かって走り出す。
と、その後ろを、エリザが魔杖を持って付いて行くのを見て、モールが声をかけた。
「エリザ!」
エリザは立ち止まり、苛立たしげにくるっと振り向く。
「何やの!?」
「私は周囲を見回る。他にいたらヤバいからね。だから君一人で、何とかしな」
「え……」
モールの言葉に、エリザは不安そうな表情を浮かべる。
「『できない』って? 私ゃそうは思わないね」
それを受けて、モールはニヤっと笑って返す。
「君ならできる。できないはずが無いね」
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